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第19章 自衛しながら生きていこう

368.事なかれ主義者は置物と化した

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 ラオさんやルウさんが食べた物を少しずつもらいながら市場を回った後、僕たちは転移門の設置されている広場の近くに建てられた真新しい建物に入った。
 この数日の間に突貫工事で作られたこの建物は、今後は迎賓館として使われる予定の場所らしい。
 今日は転移門で繋がった四ヵ国の交渉人とここで会う予定だ。
 建物の一室に置いてあったふかふかの椅子に腰かけてのんびりと待っている間に今日の議題を思い出す。
 議題は大国ヤマトに対してどう対応していくのか、というものではなく、魔道具の依頼を直接聞く事になっているはずだ。
 話の流れ的にヤマトへどう対応するかとかも話すかもしれないけど、メインではない。
 事前にレヴィさんたちと話をしていたけど、対価としてアダマンタイト製の物を貰う予定だ。今後どれだけあっても困らない物だから、たくさん手に入れておきたい。
 他国と交渉をするために動いてもらっていたのが、ここ数日やっていた事の二つ目の事だった。
 宝物庫に飾られているであろう物を求めても、交渉の席に着く国はないんじゃないか、と思っていたけど四ヵ国とも「まずは話をしよう」と手紙が帰ってきた事には驚いた。

「断られるだろうなって思ってたけど、意外だね。アダマンタイト製の武具とか家具って珍しい物だと思ったんだけど」
「珍しいですわ。でも、観賞用としてしかほとんど使われていないからとりあえず話だけでも聞いてみよう、ってなったんだと思うのですわ。シズトも知っての通り、アダマンタイトはとても重たいですし、普通は加工する方法がないから他の物に活用する事は出来ないのですわ。それと比べたら、ダンジョン産と同じレベルの効力を発揮する魔道具を一定数手に入れる事ができる方が実用的だと思うのですわ」
「転移門を実際に設置したのも大きかったのでしょう。このレベルの転移の魔道具はダンジョン内で目撃情報があるくらいですから」
「ん。観賞用として多少残しておくかもしれない。でも、多くのアダマンタイトを手に入れるチャンス」

 レヴィさんの侍女であるセシリアさんと、護衛のためについてきたドーラさんが壁際に控えたまま話しに加わってきた。
 セシリアさんはいつも通りメイド服姿だ。長いスカートタイプのメイド服ってなんだかいいよね、なんて事を思いつつその隣に視線を向けると、ドーラさんは全身鎧を着てその場に立っていた。
 全く動かないから置物と勘違いされるかもしれない。
 ラオさんとルウさんは武装していないが、得物がなくてもある程度戦えるからと僕の後ろに立っている。

「んだよ」
「何か用かしら?」
「なんでもないよ」

 下から見上げるとやっぱり大きいな、と思いつつ視線を前に戻すと、部屋の扉がノックされた。
 レヴィさんが立ったので、僕も席を立って来訪者を出迎える体制を整える。
 扉の近くに控えていた近衛兵は僕たちの様子を確認した後、扉を開けた。
 部屋に入ってきたのは豪華な衣装に身を包んだ男女四人と彼らの護衛と思われる大柄な男性たちだ。

「遠路はるばるお越しいただきありがとうございますなのですわ。シグニール大陸にあるドラゴニア王国の第一王女レヴィア・フォン・ドラゴニアですわ。こちらが、私の伴侶であるオトナシ・シズトなのですわ」
「よ、よろしくお願いします」

 ぺこりと頭を下げると、来訪者たちも深く頭を下げた。
 レヴィさんに視線を送ると、頷かれたので「とりあえず座ってお話をしましょう」と四人に席に座るように進めつつ、自分も金色に輝く円卓の席に着く。……はい、アダマンタイト製です。
 ただ、アダマンタイト製の家具とは思われていないようだ。席に着くと円卓に対して興味を示す事なく僕に視線が集中した。

「えっと……ご存じの方もいらっしゃるかもしれませんが、僕……いや、私はこの世界とは異なる世界からやってきた転移者です。あ、戦闘系の加護は持っていませんから、勇者ではありません。勇者ではありませんが、元の世界の故郷では、勇者と同じく貴族とか王族はいなかったのでご無礼を働くかもしれません」
「異世界からこられた方々の態度については何も申し上げないのが暗黙の了解ですから」

 そう言ってくれたのは来訪者の中で唯一の女性だった。
 歳は三十から四十歳くらいだろうか。上品な淑女という感じの女性だ。

「ラグナクアから来ました、マグナ公爵家の当主レスティナ・マグナと申します。以後お見知りおきを」

 軽く自己紹介をしたレスティナ様の視線が、彼女の左隣の人に向かった。
 そこには、この世界ではあまり見る事がない肥満体型の男性が座っていた。
 身なりには気を使っているようで、清潔感があるから不快な感じはしない。額に浮かんだ汗を拭いながら浮かべる笑みは優しそうな印象を受けた。

「ファルニルのギュスタン・ド・アリーズです。父の都合がつかず、代理として参りました。代理ですので、話し合った内容は一度持ち帰らせていただくかと思います」
「ハッ。道楽息子として有名なギュスタン殿が来るとは、よほどファルニルは人手不足なのだな」

 鼻で笑ったのは先程まで僕を値踏みするようにじろじろと見ていた中年の男性だった。
 しっかりと鍛えているのか、体は引き締まっていてシュッとしている。
 狐の目のように細いからだろうか。どこか信用できないような感じがする。

「エクツァーのエンゲルト・ツー・ヴァルティッシュだ。さっさと話を済ませたいんだがいつまで無駄話をするつもりなんだ?」
「それは儂の挨拶が終わるまでじゃろう。勇者様の国には急いては事を仕損じる、ということわざがあるのを知らんのか? のう、シズト殿」
「え? あ、そうですね?」

 僕に同意を求めてきたのはこの中で最も貫禄のある老人だった。
 白髪と立派な白い髭が特徴的な彼の顔には深い皺があり、かなりの高齢だと思われる。

「サラディオ・ディ・サンペリエ。サンペリエの先代の国王じゃ。もう引退した身じゃが、面白そうじゃったから参加させてもらうぞい」
「あ、はい。よろしくお願い致します」
「そうかしこまらんでもよいぞ。エクツァーの者の物言いを聞いておったじゃろう? それに、儂もざっくばらんに話ができた方が気が楽じゃ。そうじゃろう、皆の者?」
「僕は代理ですので、皆様に合わせます」
「私もサラディオ様に同意致しますわ。エンゲルト様は……聞くまでもないわね?」

 不愉快そうにそっぽを向いているエクツァーの交渉人がちょっと心配だけど、他の三人は協力的な感じだ。
 レヴィさんの方をチラッと見ると頷かれたので、僕もサンペリエの先代国王様の提案に賛成した。
 ただ、交渉するのはレヴィさんだからあんまり関係なかったかもしれないけど。
 そんな事を思いつつ、話し合いの間、セシリアさんに用意してもらった紅茶を飲んで大人しく過ごした。
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