【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~

みやま たつむ

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第18章 ニホン観光をしながら生きていこう

幕間の物語180.異大陸の勇者は全然思い通りにいかない

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 転移した直後から大国ヤマトに囲われた大和修一は、異世界にやってきてから望めば手に入る生活をしていた。
 女を求めれば自由に相手が手に入り、欲しい物も何でも買う事ができた。
 最初の一年は宛がわれるままに女を抱き、贅沢な暮らしを続けていたのだが、その生活に飽きると、自身に宿った加護を用いて冒険をし始めた。
 大国ヤマトがそれを許したのは、もう十分すぎるほど彼から種を得る事ができたからだ。
 それでもある程度手綱を握っておきたいと考えたヤマトが用意した仲間と共に、修一は加護任せに戦っていたのだが、それでも十分活躍する事ができ、一気にランクを駆け上がっていった。
 修一の実力に合うクエストを仲間がしっかりと吟味し、大国ヤマトが必要な物を買い揃えるための金を用意し、御用商人たちが欲する物をすべて持ってきた。
 不自由する事なく、楽しく冒険を続けた彼がSランクになるのに時間がかかったのはその性格によるものが大きい。
 目上の者に対しては猫を被る、という事が身に着くまでBランク止まりだった彼だったが、つい最近Sランクに昇格した。
 それもあって、慢心していたのだろう。
 珍しく大王から直接指示された任務の相手をろくに調べる事もせず、綺麗な女を見かけては口説いて行く様はまさに『英雄色を好む』と言った所だろうか。
 ガレオールで目標の人物が所有している船の動向を見ながら、こちらの大陸で出会った魅力的な女性たちをどうやって手に入れようかと考えていたところに、ある知らせが届いた。

「……今、なんつった?」
『だから、もう既に世界樹の使徒が大王様の下に現われ、会談が終わったと言ったのだ』
「んなわけねぇだろ。だって、あいつらの船はまだ港に停泊中だぞ!? 人違いとかじゃねぇのか?」
『世界樹同士で繋がる何かがあるのか、もしくは今代の世界樹の使徒の力なのかは分からんが、お前が渡した手紙を持ってやってきたのだ。人違いな訳がないだろうが。実際、会談中にその場から忽然と姿を消したから、おそらく転移系の魔法を操れる者がいるのだろうよ』
「大陸間の転移なんてできる訳ないだろ!? クレストラ大陸の端から端まで一気に転移する事すらできねぇんだから」

 修一は現実を受け入れる事ができないようだった。
 いつも女性の体をじろじろ見てへらへらしていた彼だったが、今は不快そうに顔を歪めている。
 だが、彼がそんな態度を取ったとしても、事実は変わらない。既に世界樹の使徒と大国ヤマトの大王との会談が終わって数日が経っていた。

『もうそこにいる必要はない。今すぐにでも戻って来い』
「そんなすぐに戻れるかよ! そっちの言っている事が間違いかもしれねぇだろ?」
『そうか。重要な任務を失敗しただけではなく、戦争が始まるというのにも関わらず戻らぬ、とお前は言うのだな』
「戦争?」
『ああ。大王様は都市国家フソーを手に入れるために戦争をお考えだ。今回の任務は最重要案件だったが、それを失敗したお前が戻った際にどうなるか、分からないわけではなかろう? 少しでも挽回したいと思うのであれば、自ら参戦して武勲をあげるしかないだろうが』
「…………相手は世界樹の使徒なんだろ?」
『そうだな』
「同郷の者を殺せってのかよ」
『何を今更……同郷だろうが、なんだろうが切り伏せるしかないだろう。欲しい物を手に入れるためならばな。とにかく、戦争に参加したいのであれば、今すぐにでも帰ってこい。失敗したお前の事なんぞ、大王様は待ってくれないであろうからな』

 彼の目の前に置かれている水晶玉が放っていた光が消えた。
 ダンジョン産の魔道具で、対となる物と交信する事ができる代物だったが、起動するのに多大な魔力を必要とするものだ。
 そうと分かっていても「まだ話は終わってねぇぞ!」と修一は魔道具を起動させようとしたが、彼がどれだけ魔道具に魔力を込めても起動する事はなかった。
 苛立たし気に机を叩いた彼を周囲の者は遠巻きに見ていたのだが、この船の船長がずっとそうしている訳にも行かない、と物に当たっている彼に話しかけた。

「いかがなさいますか、シュウイチ様。ヤマトに向けて出港しますか? いつでも出港できるように準備は既に終わっておりますが……」
「…………向こうの大陸と何らかの方法で繋がってるんだったら、あのガキに会った方が手っ取り早いんじゃねぇか?」
「大人しく使わせてくれるとは思えませんが……」
「んなもん、同郷の立場を利用すれば使わせてくれるだろ」

 修一は不敵な笑みを浮かべて自信満々にそう言ったが、シズトに会う事すらできなかった。
 修一は加護を使ってトネリコまで飛んでいったが、声の大きな女エルフに止められてしまったのだ。
 次善策として世界樹の根元に何かあるだろうとアタリを付けていた彼は、世界樹の根元に広がる森に侵入したのだが、どれだけまっすぐ空を飛んでも世界樹の根元に辿り着く事ができなかった。
 地上から侵入者を迎撃するための精霊魔法が飛んできた事も理由の一つだったが、いきなり発生した霧の影響もあった。
 風魔法で吹き飛ばそうとしたがその霧も魔法で作られた物なのだろう。
 全く晴れる事はなく、まっすぐに進んだつもりでもいつの間にか方向転換していて、世界樹を囲う街に出てしまう。
 手こずっている間に世界樹の番人だけではなく、他のエルフたちやドライアドたちにも気づかれ、森の中に入る事もままならなくなるとガレオールへと逃げ帰るしかなかった。

「都市国家トネリコから抗議が来てますが……」
「ほっとけそんなもん。それよりもさっさと出港するぞ! 全開で行くから、しっかりついて来いって魚人共に言っておけ!」

 苛立たし気に吐き捨てた彼は広げられた帆に魔法で風を送り、他の帆船よりも何倍もの速さで海を進むのだった。
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