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第18章 ニホン観光をしながら生きていこう

幕間の物語177.賢者たちは前衛が欲しい

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 シグニール大陸に転移した勇者三人組は、獣人の国アクスファースの首都スプリングフィルドを発った後、襲ってくる狩猟民族を捕まえて農耕民族に突き出したり、常設依頼をこなすために魔物を倒したりそこら辺に生えていた草の中に紛れ込んでいた珍しい物を集めたりしていた。
 そうして東へ進んでいくうちに、だんだん標高が高くなり、国境を越える頃には一面銀世界の雪山の中にいた。
 事前に適温コートを手に入れる事ができて本当に良かった、と思いつつ、雪に足を取られないように気を付けながら進んでいると、彼らの正面から巨大な何かが姿を現した。
 魔物か、と警戒を強めつつも明は周囲の警戒を怠らない。
 陽太は自分の得物である剣に手をかけて前方を睨みつけている。
 姫花は魔力探知で上空に敵がいないか様子を見ていた。
 視界が悪く、どんな相手かもわかっていないため、普通であれば一時撤退する事を視野に入れるべきなのだが、三人ともそれをしなかったのにはある理由があった。

「……なあ、あれって雪だるま、だよな?」
「そうだね。めちゃくちゃ大きい雪だるまだね」
「跳ねて動いているけど雪だるまですね」

 姿を現した巨大な雪だるまに対して疑問を感じつつも三人共警戒を解く事はなかった。
 だが、流石に雪だるまの後ろに行商人たちが操るソリのような物を見て、雪だるまが安全な物だと理解したのだろう。三人共武器を収めた。

「すみません、少しお話をお伺いしてもよろしいでしょうか」
「悪いけど『除雪雪だるま』に置いていかれるわけにはいかねぇんだわ」

 御者席に座った人族の男は、着膨れするくらい服を着込んでいた。
 彼が吐く息は白く、彼が被っている帽子の上には雪が積もっている。
 彼の馬車のような見た目のそりを引くのは魔物の血を混ぜたワイルドトナカイと呼ばれる動物だ。吹雪の中でも突き進むことができると言われる種だが、ワイルドトナカイが無事でも御者席の男は命を落とす可能性もあった。
 だからこそ、除雪雪だるまから離れる訳にはいかないのだ。
 明はその様子を見て事情を汲み取り、除雪雪だるまと呼ばれた巨大な雪だるまの後を追いながらそりに並走する。

「これなら問題ありませんか?」
「……まあ、いいけどよ。そんな事をしてまで何が聞きたいんだよ」
「目の前を歩くアレについてお聞きしたいのですが」
「来た方向からして、アクスファースからの新参者か。向こうにはまだ情報が流れてないのか? これは『除雪ゆきだるま』っていって、この国の在り方を変えると言われている魔道具の内の一つだ。丁度お前みたいな黒い髪の子どもがこれを作ったらしいぜ。ああやって跳ねて進むたびに進行方向にあった雪を蓄えて、一定数が集まったら……ああ、丁度そのタイミングか。ほら、あんな感じで雪だるまとかいうのを量産するんだよ」

 除雪雪だるまは唐突に跳ねるのをやめると、その胴体付近からいくつもの雪玉がポコポコと放出された。
 その雪玉は放物線を描き明たちがやってきた方に飛んでいくと、吹雪の中に消えていく。
 だが、近くに落ちてきた雪玉は、除雪されてできた道の脇に整然と並び、その上に少し小さな雪玉が落ちてきて雪だるまができていく。

「ウェルズブラの端の方だからここら辺にはこの除雪雪だるま一体しかねぇけど、それでも俺のような行商人からしてみると有難い事だね。国境の向こう側まで行って欲しいんだけど、トラブルになる可能性もあるから国内だけなのが残念だよ」
「そうなんですね。教えてくださりありがとうございます」

 吹雪で見通しが悪く転移魔法が使えず、除雪されていない場所は歩き辛い事もあり、明たちは除雪雪だるまについて行く事にするのだった。



 ドワーフの町は、鍛冶をする時に発生する熱を活用して雪が溶けやすい作りになっていた。
 だが、それでも地上部分にいるのは男しかいない。
 町に着く度に町娘を見てニヤニヤしている陽太だったが、ずんぐりむっくりな者しかおらず、つまらなさそうだった。

「小さな町で問題を起こすのだけはやめてくださいよ」
「わーってるよ」
「早く休みたーい」
「穴倉に宿屋などが集まっているらしいので、町の中央に行きましょう」

 穴倉の中に続いている階段を下りて、中を進んでいくと、だんだんと女性が増えていく。
 陽太の機嫌がみるみる回復していくのを見て、姫花は「あれでもいけるなんてキモイ」と言い、明は「問題を起こしたら絵面的に事案ですよね」と返していた。
 二人の会話は聞こえているはずだが、陽太は気にせず穴倉の中を散策する。
 だが、なかなかお目当ての店が見つからないようだ。

「陽太、いい加減宿を決めましょう。もう日が沈んで夕食の時間過ぎてますよ」
「もうそこら辺にあるテキトーなお店でいーじゃん。どうせ寝具は自分たちが用意したやつ使うんだしさー」
「うっせー! 飯や寝床よりも大事な事があんだろ! ったく、町が小さすぎんのか? どうしてアッチ系の店がねーんだよ。いつもだったら『いい子いるよー』って、向こうの方から声掛けてくんのに!」
「あっち系とかそっち系とか分かりたくはないですけど、種族特有の価値観じゃないですか? 今までの国は勇者ってだけで女性の方から寄ってくる場合もありましたけど、ここではそうじゃないってだけじゃないですか? ドワーフの女性は男性のようにずんぐりむっくり筋肉質な男が好きって話もありましたし」
「仮に陽太がタイプの男だったとしても姫花はやだなー」

 その後、陽太が血眼になって隅々まで穴倉を探索し続けると、大人向けの隠れたお店を見つける事は出来た。
 ただ、見つける事ができただけで、陽太が利用する事は出来なかった。

「自国民向けの施設だったら仕方ないですね」
「はぁ、もう姫花おなかぺこぺこなんですけど~」
「こーなったら奴隷でも買うしか……」
「女ドワーフの奴隷は数が少なくて伝手がないと情報すら手に入りませんし、なによりその見た目から陽太のように変態が値を吊り上げて高くなりがちですから無理ですよ。そんな無駄な事のために共有資金からお金を出す事はありませんからね」
「同じ奴隷を買うなら前衛の戦闘奴隷の方が良いんじゃない?」
「しっかりと見極めないと厄介な事になるんですよねぇ」
「でも前衛が一枚はちょっときついって明も言ってたでしょ?」
「女! 女にしようぜ!」
「きついですけど、僕たちについて来れるほどの技量を持つ戦闘奴隷はやっぱり高いですから無理ですよ」
「まあ、そうだよねぇ……」

 はあ、と二人揃ってため息を吐く姫花と明は、道行く女ドワーフに声をかけようとした変質者を引き摺って目星をつけていた宿屋に向かうのだった。
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