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第18章 ニホン観光をしながら生きていこう

362.事なかれ主義者は防衛設備を考えた

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 映像はしっかり撮れていたので、レヴィさんに魔道具を持って森の外へと向かってもらった。レヴィさんの護衛としてジュリウスとドーラさんについて行ってもらった。
 ジュリウスは「戻ってきたらまた話をしましょう」と言ってきたけど、僕はにっこり笑って返事をしなかった。
 ジュリウスとしては絶対に裏切らないという意思表示なんだろうけど、それは十分すぎるほど伝わってるから奴隷契約を再び結ぶつもりはない。
 絶対に譲らないぞ、と気持ちを固めていると、ノッシノッシとクーを肩車したまま歩いてきたライデンが話しかけてきた。

「シズト様は今から何すんだ?」
「ちょっと防衛用の魔道具の案を考えようかなぁって。クー、危ないからいきなり背後に転移して抱き着いて来るのやめてね。……お菊ちゃーん」

 しがみ付いてきたクーをライデンが差し出してきたおんぶ紐で固定しながら呼びかけるが返事がない。
 もう一度「お菊ちゃーん。手が空いていたらこっち来て!」と呼びかけると、木々の向こう側から姿を現した小柄な幼女が、頭の上に咲かせた菊の花を揺らして走ってきた。

「人間さん、何の用ですか?」
「ちょっとここら辺の地形について知りたいんだけど、時間ある?」
「大丈夫ですよ。人間さんたちが来てるけど、南の方は全く入って来なくなりましたからあの子たちだけでも十分でしょう」
「ああ、たぶん僕たちがヤマトに向かったからかな。でもまたすぐ入ってくるようになると思うよ」
「そうなんですか?」
「たぶんね。だからこそ、ちょっと入ってくる人を少なくする事ができないかなって思って、罠を仕掛けようと思うんだけど、森の中に変な物を置かない方が良いかな?」

 魔道具での防衛が難しいようであれば、最終手段を使ってもいいけど、できればそれは避けたい。
 お菊ちゃんは「んー」と首を傾げて考えている。頭の上に咲いた菊の花がゆらゆらと揺れていた。

「物によるとしか言えないですけど、確認して問題なかったら置いてもいいですよ」
「オッケー。じゃあまずは森の中の地形について教えてもらおうかな。外だとメモ取り辛いから、中に行こ」
「分かりました」

 お菊ちゃんと一緒に今までの世界樹の使徒たちが使っていた建物の中に入る。
 今は使われていない一室に入ると、木で作られた机が一つと椅子がいくつかあった。
 その他にも家具が色々あるけど、今回用があるのは丸机だ。
 椅子に座って懐から取り出したのは、ただのダンジョン産の紙だ。
 お菊ちゃんには世界樹フソーの周りの森がどうなっているのかざっくりと描いてもらおうと思うけど、筆を握った事がないであろうお菊ちゃんのために魔道具をアイテムバッグの中から取り出す。

「なんでもひつ~」
「なんですか、それ?」

 椅子の上に立って広げられていた真っ白の紙を見ていたドライアドが僕を真っすぐに見てくる。

「説明しよう。この筆に魔力を流すと、頭の中に思い描いた事を忠実に描く事ができるのだ! お菊ちゃんにはまずこの周辺の地図を書いてもらおうと思います」

 本当は僕が魔道具でマッピングできればいいんだけど、ちょっと作りたい物があるので魔力は温存したい。
 お菊ちゃんに『何でも筆』を持って貰って、世界樹フソーの周辺の地形を思い浮かべながら筆に魔力を流してもらうと、彼女の細い腕が勝手に動き、さらさらと地形を描いていく。

「やっぱり森は円形に広がってるんだね」
「そうですよ。フソーちゃんを中心に、世界樹の魔力が溢れて結果的に植物が育ちやすくなるんです」
「魔力があった方が植物って育ちやすいの?」
「そうですよ。人間さんたちがくれたたい肥に魔力が混ざっているのも、それを知ってたからだと思ってましたけど、違いましたか?」

 全然違いますね。
 魔道具を作る時に植物が育ちやすい肥料をイメージして作ったからそれが原因だろうか。
 その他の農作業用の魔道具も植物を育てるイメージで作ってるから何か関係があるかも?
 ああ、でも単純に魔道具で作られた物には魔力が入っちゃう可能性もあり得るか……?
 そこら辺はドーラさんを中心に畑で実験をしていたと思うけど後で伝えてみよう。

「ところどころなんか変な印ついてるけど……このどくろみたいなマークは何?」
「トレントや幻惑キノコなどの魔物が暮らしている所です。人間さんは食べられちゃうから近づかない方が良いですよ」
「……レヴィさんたち大丈夫かな」
「大丈夫です。私たちがついていってますから」

 ちょっと心配だけど、お菊ちゃんが言う事を信じるしかない。
 それに、何かあってもジュリウスがいるし、だいたい大丈夫でしょ。

「こっちの水滴みたいなマークは?」
「そこは水が湧いている場所です。大きな池くらいの場所もあれば、小さな水たまりみたいな所もあります」
「なるほど……ちなみにここの水を飲んでる子たちはいるの?」
「ドライアド以外もみんな使ってると思いますよ」
「そっか」

 そうなると水自体に細工はしない方がよさそうだ。
 こういう所で水の補給とかするだろうから罠を設置するのはありだとは思うんだけど……警備用のゴーレムを置くだけにしとこうかな。
 首をひねって考えていると、背中でジッとしていたクーが僕の肩越しに地図を覗き込んできた。

「お兄ちゃん、ホムンクルスはフソーに置かないの~?」
「んー、それもちょっと検討中だけど……」
「アイテムバッグの肥やしになるぐれぇなら、ここで防衛させた方が良いんじゃねぇか?」
「まあ、確かにそうかも……?」

 だいぶ前にホムラと一緒に作ったホムンクルスはあと数人いたはずだ。
 ホムラに渡されるがまま作ったからよく覚えてないけど確かAランクかBランクの魔石で作っていた気がするから戦力的にはちょっと心配だけど。
 こっちの大陸でSランク以上の魔石が市場に出回っていないかちょっと確認してもらおうかな。
 ただ、ホムンクルスたちを起動させるためには魔力が必要だから、仮に起動させるとしても明日以降だ。
 今するべき事は魔力を使わずに計画を立てる事くらいだろう。
 だから、その後もクーとライデンにも一緒に考えてもらい、日が暮れるまで防衛方法を考えるのだった。
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