535 / 1,094
第18章 ニホン観光をしながら生きていこう
幕間の物語176.大王は半信半疑だった
しおりを挟む
クレストラ大陸は細くて長い巨大な大陸だ。
シズトたちが暮らしているシグニール大陸よりも遥かに大きいが、その大陸のおよそ三分の一を治めているのがヤマトという名の国だった。
過去の勇者が建国したその国は、時折転移してくる神に愛されし勇者たちを取り込み、大陸の南の大部分を治めるほど巨大な国となった。
その国を治めているのは『大王』と呼ばれ、今代の大王は野心家でクレストラ大陸を統一しようと考えていた。
彼を支えるのは、数十人の側室に産ませた息子たちである。
幼少の頃から厳しく育てられた彼らは、才のある者は年齢に限らず抜擢され、軍を率いて隣接している国に攻め入っている。
娘たちは政略結婚の道具としてしか見られていなかった
親子として関わった事がほとんどないからか、それともそういう性格なのかは分からないが、親類縁者にも冷たく厳しいというのが今代の大王『ヤマト・タケル』という男だった。
タケルは、豪華絢爛な装飾がされた謁見の間で、玉座に座り、頬杖を突きながら目の前の人物を見下ろしていた。
元々は黒かった髪は全て白く染まり、顔には深い皺が刻まれている。
その目つきは鷹のように鋭く、跪いて報告をしている者をその眼力だけで射殺すのではないかと思うほどだった。
「……よく聞こえなかった。もう一度言ってみよ」
「は、ハッ! 都市国家フソーの南半分は制圧が終わりました。ですが、中心部分の禁足地と呼ばれし森は未だ世界樹の根元に辿り着く事すらできておりません。植物系の魔物の妨害や、謎の魔物からの襲撃により我が部隊に被害が広がっております」
「魔物如きに止められるとは何をやっておるのだ! 他国に先を越されたらどうするつもりだ! 雑草が邪魔なら焼き払え! 見通しが良くなればどこから襲撃されようが対処できるだろうが!」
「で、ですが万が一にも世界樹に燃え移りでもしたら……」
「その時はその時だ。でかい木などついでにすぎんわ!」
大国ヤマトは神に目を付けられない範囲で侵略を続けていたのだが、ここ数百年ほど、北に領土を広げる事ができていなかった。
どこかに侵略戦争を起こすと、都市国家フソーが敵側の援軍に入ってきたからだ。
フソーは大国ヤマトに食い込むような形で存在していて、無視する事ができない国だった。
百年ほど前に都市国家フソーに攻め込もうとしたが、その際には北にある国々が挙兵しヤマトに侵略したため、フソーを攻め落とす事ができなかった。
大国ヤマトの大王からしてみると、世界樹よりもあの土地を他の国にとられる事の方が厄介だった。
だからこそ、さっさと世界樹の問題を解決して実効支配できる地域を広げようと画策していたのだが、なかなか思うように進んでいなかった。
話にならんと報告に来た者を追い出して、大きくため息をつくと、部屋に控えていた者が手紙を持って近寄ってきた。
「…………ふん。シュウイチを行かせたが、死なんかったか」
「そのようです。『勇者の無礼はある程度は目を瞑る』という暗黙の了解のためでしょう。シュウイチ様を上回る実力者がいなかった可能性もありますが……」
「どちらにせよ、世界樹の使徒をこちらに呼び寄せる事は出来たのであればそれでよい」
「……その事なのですが……」
「なんだ」
「どうやら、シュウイチ様は世界樹の使徒と一緒ではないようです。固辞されてしまったようで、連れてくる事は諦めたのだとか」
「ふん。自らの力を過信して、先回りできると考えたんだろうな……」
「ご推察の通りかと存じます」
「世界樹の使徒の後ろにはガレオールとドラゴニアがあったな。……シュウイチよりも早く来航する可能性も考慮して各港町に伝達しておけ」
「かしこまりました」
大王からの伝達は、魔道具や翼竜便を使って各地方の有力者に迅速に届けられる。
シュウイチからの報告があった翌日には各港町に報せが届き、いつでも対応できるように準備をし始めていた。
ただ、その準備もすべて無駄だったと知るのは数日後の事である。
タケルがいつものように執務に励んでいると、都市国家フソーに駐留していた軍から伝令が届いた。
翼竜便としてではなく、竜騎士として派遣していたはずの者が大慌てで謁見の間に現れ、タケルは眉間の皺を深くした。
「た、大変です! 大王様!」
「どうしたというのだ、騒々しい」
「せ、世界樹の使徒様が入国されました!」
「なんだと? 港町から連絡は来ておらんが……それに、どうして貴様がここにおるのだ。フソーは海から遠く離れているではないか」
「世界樹の使徒様は海からやってきたわけではありません。世界樹の根元から現れました!」
言っている意味を理解できず、タケルが首を傾げても報告に来た騎士は話し続ける。
「それだけではありません。できるだけ早く話をしたい、との事で馬車で王都に向かうとの事でしたが、その馬車がまた奇妙で……。馬が牽いている様子もないのに勝手に走るだけでなく、その速度も尋常ではありません! 本日中には王都へ到着すると思われます!」
「……それが真であれば、準備する必要があるな」
タケルは、どの様な手段でこちらの大陸まで来たのかとか、尋常ではない速度の移動方法とか気になる事は多々あったが、一度脇に置いておいて今日の予定を確認し始めた。
重要度の低いものは後回しにして、隙間時間で世界樹の使徒についてシュウイチが集めた情報を読み返していると、昼過ぎには金色の自走する馬車のようなものが外門に到着したと報せがきた。
「まさか真であったとは……。まあ、よい。この後の予定は全て後回しだ。世界樹の使徒に使いの者を出せ。ここまで案内させろ」
部屋に控えていた者に命じると、タケルは玉座に深くもたれかかると、深く息を吐いた。
異なる大陸からやってきた世界樹の使徒を出迎えるための準備のために多くの者が城内を行き交っている。
それを魔力で感知しながらタケルは世界樹の使徒に対してどのように対応するべきか、考えるのだった。
シズトたちが暮らしているシグニール大陸よりも遥かに大きいが、その大陸のおよそ三分の一を治めているのがヤマトという名の国だった。
過去の勇者が建国したその国は、時折転移してくる神に愛されし勇者たちを取り込み、大陸の南の大部分を治めるほど巨大な国となった。
その国を治めているのは『大王』と呼ばれ、今代の大王は野心家でクレストラ大陸を統一しようと考えていた。
彼を支えるのは、数十人の側室に産ませた息子たちである。
幼少の頃から厳しく育てられた彼らは、才のある者は年齢に限らず抜擢され、軍を率いて隣接している国に攻め入っている。
娘たちは政略結婚の道具としてしか見られていなかった
親子として関わった事がほとんどないからか、それともそういう性格なのかは分からないが、親類縁者にも冷たく厳しいというのが今代の大王『ヤマト・タケル』という男だった。
タケルは、豪華絢爛な装飾がされた謁見の間で、玉座に座り、頬杖を突きながら目の前の人物を見下ろしていた。
元々は黒かった髪は全て白く染まり、顔には深い皺が刻まれている。
その目つきは鷹のように鋭く、跪いて報告をしている者をその眼力だけで射殺すのではないかと思うほどだった。
「……よく聞こえなかった。もう一度言ってみよ」
「は、ハッ! 都市国家フソーの南半分は制圧が終わりました。ですが、中心部分の禁足地と呼ばれし森は未だ世界樹の根元に辿り着く事すらできておりません。植物系の魔物の妨害や、謎の魔物からの襲撃により我が部隊に被害が広がっております」
「魔物如きに止められるとは何をやっておるのだ! 他国に先を越されたらどうするつもりだ! 雑草が邪魔なら焼き払え! 見通しが良くなればどこから襲撃されようが対処できるだろうが!」
「で、ですが万が一にも世界樹に燃え移りでもしたら……」
「その時はその時だ。でかい木などついでにすぎんわ!」
大国ヤマトは神に目を付けられない範囲で侵略を続けていたのだが、ここ数百年ほど、北に領土を広げる事ができていなかった。
どこかに侵略戦争を起こすと、都市国家フソーが敵側の援軍に入ってきたからだ。
フソーは大国ヤマトに食い込むような形で存在していて、無視する事ができない国だった。
百年ほど前に都市国家フソーに攻め込もうとしたが、その際には北にある国々が挙兵しヤマトに侵略したため、フソーを攻め落とす事ができなかった。
大国ヤマトの大王からしてみると、世界樹よりもあの土地を他の国にとられる事の方が厄介だった。
だからこそ、さっさと世界樹の問題を解決して実効支配できる地域を広げようと画策していたのだが、なかなか思うように進んでいなかった。
話にならんと報告に来た者を追い出して、大きくため息をつくと、部屋に控えていた者が手紙を持って近寄ってきた。
「…………ふん。シュウイチを行かせたが、死なんかったか」
「そのようです。『勇者の無礼はある程度は目を瞑る』という暗黙の了解のためでしょう。シュウイチ様を上回る実力者がいなかった可能性もありますが……」
「どちらにせよ、世界樹の使徒をこちらに呼び寄せる事は出来たのであればそれでよい」
「……その事なのですが……」
「なんだ」
「どうやら、シュウイチ様は世界樹の使徒と一緒ではないようです。固辞されてしまったようで、連れてくる事は諦めたのだとか」
「ふん。自らの力を過信して、先回りできると考えたんだろうな……」
「ご推察の通りかと存じます」
「世界樹の使徒の後ろにはガレオールとドラゴニアがあったな。……シュウイチよりも早く来航する可能性も考慮して各港町に伝達しておけ」
「かしこまりました」
大王からの伝達は、魔道具や翼竜便を使って各地方の有力者に迅速に届けられる。
シュウイチからの報告があった翌日には各港町に報せが届き、いつでも対応できるように準備をし始めていた。
ただ、その準備もすべて無駄だったと知るのは数日後の事である。
タケルがいつものように執務に励んでいると、都市国家フソーに駐留していた軍から伝令が届いた。
翼竜便としてではなく、竜騎士として派遣していたはずの者が大慌てで謁見の間に現れ、タケルは眉間の皺を深くした。
「た、大変です! 大王様!」
「どうしたというのだ、騒々しい」
「せ、世界樹の使徒様が入国されました!」
「なんだと? 港町から連絡は来ておらんが……それに、どうして貴様がここにおるのだ。フソーは海から遠く離れているではないか」
「世界樹の使徒様は海からやってきたわけではありません。世界樹の根元から現れました!」
言っている意味を理解できず、タケルが首を傾げても報告に来た騎士は話し続ける。
「それだけではありません。できるだけ早く話をしたい、との事で馬車で王都に向かうとの事でしたが、その馬車がまた奇妙で……。馬が牽いている様子もないのに勝手に走るだけでなく、その速度も尋常ではありません! 本日中には王都へ到着すると思われます!」
「……それが真であれば、準備する必要があるな」
タケルは、どの様な手段でこちらの大陸まで来たのかとか、尋常ではない速度の移動方法とか気になる事は多々あったが、一度脇に置いておいて今日の予定を確認し始めた。
重要度の低いものは後回しにして、隙間時間で世界樹の使徒についてシュウイチが集めた情報を読み返していると、昼過ぎには金色の自走する馬車のようなものが外門に到着したと報せがきた。
「まさか真であったとは……。まあ、よい。この後の予定は全て後回しだ。世界樹の使徒に使いの者を出せ。ここまで案内させろ」
部屋に控えていた者に命じると、タケルは玉座に深くもたれかかると、深く息を吐いた。
異なる大陸からやってきた世界樹の使徒を出迎えるための準備のために多くの者が城内を行き交っている。
それを魔力で感知しながらタケルは世界樹の使徒に対してどのように対応するべきか、考えるのだった。
68
お気に入りに追加
454
あなたにおすすめの小説

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。

こちらの異世界で頑張ります
kotaro
ファンタジー
原 雪は、初出勤で事故にあい死亡する。神様に第二の人生を授かり幼女の姿で
魔の森に降り立つ 其処で獣魔となるフェンリルと出合い後の保護者となる冒険者と出合う。
様々の事が起こり解決していく
異世界で俺だけレベルが上がらない! だけど努力したら最強になれるらしいです?
澤檸檬
ファンタジー
旧題 努力=結果
異世界の神の勝手によって異世界に転移することになった倉野。
実際に異世界で確認した常識と自分に与えられた能力が全く違うことに少しずつ気付く。
異世界の住人はレベルアップによってステータスが上がっていくようだったが、倉野にだけレベルが存在せず、行動を繰り返すことによってスキルを習得するシステムが採用されていた。
そのスキル習得システムと異世界の常識の差が倉野を最強の人間へと押し上げていく。
だが、倉野はその能力を活かして英雄になろうだとか、悪用しようだとかそういった上昇志向を見せるわけでもなく、第二の人生と割り切ってファンタジーな世界を旅することにした。
最強を隠して異世界を巡る倉野。各地での出会いと別れ、冒険と楽しみ。元居た世界にはない刺激が倉野の第二の人生を彩っていく。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!
仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。
しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。
そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。
一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった!
これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

やさしい異世界転移
みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公
神洞 優斗。
彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった!
元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……?
この時の優斗は気付いていなかったのだ。
己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。
この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

【完結】異世界転移で、俺だけ魔法が使えない!
林檎茶
ファンタジー
俺だけ魔法が使えないとか、なんの冗談だ?
俺、相沢ワタルは平凡で一般的な高校二年生である。
成績は中の下。友達も少なく、誇れるような特技も趣味もこれといってない。
そんなつまらない日常は突如として幕を閉じた。
ようやく終わった担任の長話。喧騒に満ちた教室、いつもより浮き足立った放課後。
明日から待ちに待った春休みだというのに突然教室内が不気味な紅色の魔法陣で満ちたかと思えば、俺は十人のクラスメイトたちと共に異世界に転移してしまったのだ。
俺たちを召喚したのはリオーネと名乗る怪しい男。
そいつから魔法の存在を知らされたクラスメイトたちは次々に魔法の根源となる『紋章』を顕現させるが、俺の紋章だけは何故か魔法を使えない紋章、通称『死人の紋章』だった。
魔法という超常的な力に歓喜し興奮するクラスメイトたち。そいつらを見て嫉妬の感情をひた隠す俺。
そんな中クラスメイトの一人が使える魔法が『転移魔法』だと知るや否やリオーネの態度は急変した。
リオーネから危険を感じた俺たちは転移魔法を使っての逃亡を試みたが、不運にも俺はただ一人迷宮の最下層へと転移してしまう。
その先で邂逅した存在に、俺がこの異世界でやらなければならないことを突きつけられる。
挫折し、絶望し、苦悩した挙句、俺はなんとしてでも──『魔王』を倒すと決意する。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる