【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~

みやま たつむ

文字の大きさ
上 下
530 / 1,094
第18章 ニホン観光をしながら生きていこう

355.事なかれ主義者は急いで食べた

しおりを挟む
 ガレオールにドライアドが現われ、仲裁をした二日後の朝。
 朝食を食べているとジュリウスから大国ヤマトからの使者がトネリコに到着したと報告を受けた。
 ドレス姿のレヴィさんが意外そうに呟く。

「思った以上に早かったですわね」
「どうやら最低限の護衛だけを引き連れてトネリコまで急いでやってきたようです」
「はー……流石、高ランク冒険者だねぇ」

 先日、ダンジョン探索から帰ってきたラオさんとルウさんにSランク冒険者についてちょっと話を聞いたけど、生半可な強さでなれるものではないと言われた。
 歴代のSランク冒険者の殆どが加護を持ち、その加護を十全に扱ってやっと至れる境地なんだとか。
 たった一人でもSランクの魔物とも退治できるぐらいの力量を持つそうだし、ぶっちゃけ強引にこられたら抵抗できないだろう。

「昨日話した通り、アタシらはこっちで待機でよかったよな」
「そうだね」
「……やっぱり、お姉ちゃんだけでも一緒に行った方が良いと思うの! 速さだけなら自信があるし、万が一の事があっても身代わりになれるはずだわ!」
「身代わりはやめて欲しいから連れて行けないなぁ」

 ラオさんはそれほどだけど、ルウさんは僕を守るためだったら平気で命を捨てそうで怖い。
 以前、「命を救ってもらったから、当然の事よ?」なんて言ってたけど、冗談だと思いたい。

「でも、丁度良かったのですわ。今、ドレスですし、会談する準備は整っているのですわ」
「それは身内に会うためのドレスです。お召し替えをして頂く事になります」
「めんどいのですわ~」

 そうなのかな。着るの簡単なんじゃ? なんて思うのはワンピースのようなデザインだからだろうか。
 今日は元々、ドラゴニア王国の王城に顔を出して、国王様たちの手が空いていたら子どもたちの住環境について相談しようと思っていたのだ。
 だが、それも残念ながらまた今度になりそうだけど。

「大丈夫なのですわ。この町がモデルケースになってるから、言わずとも貧民対策として『あぱーと』? をどんどん増産しているのですわ」

 加護無しの指輪を既に外して首飾りにしているレヴィさんが僕の心を読んで安心させるように言ってくれた。
 どうやら、ファマリーにやってくる人たちは世界樹の素材や魔道具を求めるだけでなく、街の様子などを見て取り入れる事ができそうな事は取り入れようとしているらしい。
 電車や浮遊台車を真似る事は出来ないが、建物は真似る事ができそうだと早速ドランやドラゴニア王都では建築が始まっているんだとか。
 ファマリーの子たちは全員奴隷だから言う事聞いて大人しく使っているけど、浮浪児たちを集めても上手くいかないかもしれない、という話もあったが「その時はその時だ」とリヴァイさんたちは言い切った。
 アパート建設に対して、良い点はあっても悪い点がないからか、やってダメならまた次考えればいい、と考えているようだ。
 その行動力、見習わないと、と思いつつ食事を進めていると窓の外に花がひょこっと現れた。
 しばらく口の中をもぐもぐと動かしながらそちらを見ていると、ニュッとドライアドが背伸びをして中の様子を見てきたけど、きちんと収穫物を食べている事に満足したのか頷くとどこかに行ってしまった。
 その一部始終を一緒に見ていたラオさんが、思い出した様子で口を開いた。

「……そういえば、ガレオールのドライアド密入国に関してはどうなったんだ? 昨日は出かけてた間の事をサクッと聞いたけど、そこら辺の詳しい話はしてなかったよな?」
「え? あー……世界樹のお世話は今は無理って言ったら、とりあえず精霊の道の向こう側に帰って行ったよ。残ったのは数名だけど、彼女たちはランチェッタ様に提案されて実験農場の畑のお手伝いをしているらしい」
「よっぽどの事がなければ豊作になりそうですわね」
「だね。ただ、指示をしっかり出さないと大変な事になるから気を抜けないみたいだよ。古株の子がいれば、ある程度の統制が取れるんだろうけど……まだ元気にならないみたい」

 安全地帯を探す必要はあったが、あまり人間に見られないようにするため、夜に街中を歩き回って迷ってしまい消耗してしまったらしい。
 植物と精霊の間の存在みたいな事を以前聞いた事があるから、その子に【生育】を使えば回復するのではないか、とも思ったけど試すのはやめといた。
 弱っている子に実験して逆に悪化したら大変だし、ちょっとの間休んでいればすぐに元気になるとの事だったので大人しく待とう。
 ……ドライアドたちの感覚で『ちょっと』や『すぐ』ってどのくらいか不安はあるけど。

「ごちそうさまでしたっす~」

 話に興味がなさそうだったノエルは食事を終えて食堂から出て行った。
 昨日、住環境整える方法は何かないかといろいろと魔道具を試作したので、早くノルマを終わらせて試作品を調べるつもりなのだろう。緑色の目が爛々と輝いているように見えた。

「あんまり待たせるわけにも行かないし、さっさと食べるか」
「シズトが会う前にジューンと私がヤマトの使者に会うのですわ!」
「ついでに誓文も交わしてもらおうかなぁ、と思いますぅ」
「誓文に関しては既にトネリコの番人たちの監視のもと書いてもらいましたので問題ありません」
「そうなのですわ? でも、とりあえず真意を探るためにも先に会って話をしておくのですわー」

 レヴィさんは何か裏がないか念のため確認をするようだ。
 ジューンさんは僕の代理人という立場なのでそこに同席するらしい。
 ランチェッタ様から使者の事を聞いていたのでちょっと不安だけれど、レヴィさんは一度言い出したらなかなか曲げないから好きにしてもらう事にした。
 ただ、その前に渡しておきたいものがある。

「それじゃあ、使者の相手はお願いね。……ただ、食後、渡したい物があるから待っててもらっていいかな?」
「いいですわ~」
「分かりましたぁ」
「他の皆にも渡したい物があるから、待っててね」
「何かしら~。お姉ちゃん、楽しみ!」
「土産物とかじゃねぇか? まあ、今日は特に予定がねぇから別にいいけどよ」
「私たちも残った方が良いのかしら、ご主人様」
「そうだね、残っておいてもらえると嬉しいかな」

 ホムラとユキはお店の開店時間もあるし、さっさと物を渡さないと!
 エミリーが一生懸命作ってくれたのに申し訳ないけど、ご飯をゆっくり味わう事はしないで、せっせと口の中に詰め込んだ。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

こちらの異世界で頑張ります

kotaro
ファンタジー
原 雪は、初出勤で事故にあい死亡する。神様に第二の人生を授かり幼女の姿で 魔の森に降り立つ 其処で獣魔となるフェンリルと出合い後の保護者となる冒険者と出合う。 様々の事が起こり解決していく

異世界で俺だけレベルが上がらない! だけど努力したら最強になれるらしいです?

澤檸檬
ファンタジー
旧題 努力=結果  異世界の神の勝手によって異世界に転移することになった倉野。  実際に異世界で確認した常識と自分に与えられた能力が全く違うことに少しずつ気付く。  異世界の住人はレベルアップによってステータスが上がっていくようだったが、倉野にだけレベルが存在せず、行動を繰り返すことによってスキルを習得するシステムが採用されていた。  そのスキル習得システムと異世界の常識の差が倉野を最強の人間へと押し上げていく。  だが、倉野はその能力を活かして英雄になろうだとか、悪用しようだとかそういった上昇志向を見せるわけでもなく、第二の人生と割り切ってファンタジーな世界を旅することにした。  最強を隠して異世界を巡る倉野。各地での出会いと別れ、冒険と楽しみ。元居た世界にはない刺激が倉野の第二の人生を彩っていく。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

【完結】異世界転移で、俺だけ魔法が使えない!

林檎茶
ファンタジー
 俺だけ魔法が使えないとか、なんの冗談だ?  俺、相沢ワタルは平凡で一般的な高校二年生である。  成績は中の下。友達も少なく、誇れるような特技も趣味もこれといってない。  そんなつまらない日常は突如として幕を閉じた。  ようやく終わった担任の長話。喧騒に満ちた教室、いつもより浮き足立った放課後。  明日から待ちに待った春休みだというのに突然教室内が不気味な紅色の魔法陣で満ちたかと思えば、俺は十人のクラスメイトたちと共に異世界に転移してしまったのだ。  俺たちを召喚したのはリオーネと名乗る怪しい男。  そいつから魔法の存在を知らされたクラスメイトたちは次々に魔法の根源となる『紋章』を顕現させるが、俺の紋章だけは何故か魔法を使えない紋章、通称『死人の紋章』だった。  魔法という超常的な力に歓喜し興奮するクラスメイトたち。そいつらを見て嫉妬の感情をひた隠す俺。  そんな中クラスメイトの一人が使える魔法が『転移魔法』だと知るや否やリオーネの態度は急変した。  リオーネから危険を感じた俺たちは転移魔法を使っての逃亡を試みたが、不運にも俺はただ一人迷宮の最下層へと転移してしまう。  その先で邂逅した存在に、俺がこの異世界でやらなければならないことを突きつけられる。  挫折し、絶望し、苦悩した挙句、俺はなんとしてでも──『魔王』を倒すと決意する。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

処理中です...