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第18章 ニホン観光をしながら生きていこう

幕間の物語173.賢者は無視して情報を集め続けた

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 シズトと同じタイミングで異世界転移してきた三人組は、現在獣人の国アクスファースにいた。
 都市国家トネリコからひたすら北上を続けていた彼らは砂漠を越え、首都を目指しつつ立ち寄った村や街の冒険者ギルドで依頼をこなしていた。
 今日もまた、新しい街に辿り着いた彼らは、まず冒険者ギルドへと向かう事にした。
 海洋国家ガレオールであればそれぞれ役割分担してギルドで依頼を探す者と宿を選ぶ者、それから冒険に必要な物を買う者に分かれていたのだが、アクスファースではそれをしていなかった。
 単独行動をしていると、多かれ少なかれトラブルに巻き込まれる可能性が高いからだ。
 髪を金色に染めている金田陽太は、放っておいたら騒ぎが大きくなるだろうから単独行動が禁止されている。
 色々な所で子種をばらまいて厄介な事になっている彼は、金銭的に困窮している事もあり、ここ最近はお店に行く事もせずに大人しくしていた。
 冒険で手に入った報酬も、散財する事なくコツコツと貯金をしているようだ。
 それを彼の仲間である黒川明が見て、理由を尋ねた事があった。

「首都に行ったら絶対一番評判のいい店に行くんだ」

 鼻の下を伸ばして「前世でいなかった種族は楽しむしかねぇだろ?」と明に同意を求めていたが、明は呆れた様子でため息を吐くだけだった。
 そんな明も、単独行動は避けていた。
 後衛職だが、ある程度身体強化の魔法を使う事はできる。
 ただ、獣人たちは身体能力を活かして接近戦を得意とする者が多い。
 一対一であればある程度はやり合えるという自信があったが、襲撃者が一人とは限らないため何が起こっても良いように陽太と一緒に行動していた。
 先頭を歩き、街の人ごみをかき分けて進んでいく陽太の後ろをついて歩きながら釘を刺す事を忘れない。

「貯金した物をどう使おうが自由ですが、寄ってくる女性に手を出して、トラブルに巻き込まれたり、変な病気とかになったりしないように気を付けてくださいね」
「病気に関しては姫花がいるからだいたい大丈夫だろ」
「姫花、キモイ理由で病気になった人を治したくないんですけどー」
「それに治せる病気とも限りませんしね」

 明の隣に歩いていた茶色の髪の少女は茶木姫花。
 明と同じ後衛職だが、攻撃魔法よりも支援魔法を得意としている。
 アクスファースでは『使われる側』になる事が多い支援魔法の使い手であり、一人行動は避けていた。
 外見的にも非力な少女なので絡まれやすい。
 ただ、実際は一対一であればある程度近接戦闘もできるように成長しつつあった。
 本来は後衛職として支援だけに専念すればいいのだが、前衛職が一人しかないため、ある程度どの役割もできるように明と鍛錬しているのだ。

「それにしても、この街には多種多様な獣人がいますね。トラブルに巻き込まれないように、ここも一泊だけに留めてさっさと首都へ向かいましょうか」
「それじゃあ、ギルドで常設依頼を確認しておけばいいのか」
「そうですね。難易度は出来るだけ低い物で行きましょう」
「まずはドラゴニアに行く事が目標だもんね」

 明たちが話をしながら歩いているうちに、冒険者ギルドへ辿り着いた。
 扉を開けてきょろきょろとあたりを物珍し気に見る事は意識的にしないようにして、慣れた様子で常設依頼が張り出されている依頼ボードへと向かう。
 三人並んで依頼ボードに視線を向けていると、その背中にいくつもの視線が集まっていた。
 視線の主たちはお互いがお互いを牽制していたのだが、熊人族の大男が立ちあがって、ずんずんと三人の元へと近づいて行く。

「……邪神の信奉者の討伐依頼、ですか。これはないですね」
「そうだねー。面倒そうだもん」
「なんでだよ。報酬が一番いいじゃねぇか」
「この依頼を受けたら腰を据えて取り組まなくちゃいけないからです。っていうか、楽できる低ランクでって話を忘れたんですか?」
「おい」
「俺は同意してません~」
「多数決で姫花たちの勝ちです~。この定期便の護衛でいいんじゃない?」
「おい! 聞こえてんだろ!」
「丁度首都に向かうようですけど、移動速度が落ちるのは微妙ですね。それに、行動が制限されますし」
「だったら適当に出てきた魔物を片っ端から倒すのかよ」
「そうですね。周辺に出る魔物の情報を仕入れる必要はありますけど、一日あれば十分でしょう」
「俺の、話を! 聞けって言ってんだろうがぁ」

 大男が得物である身の丈以上の大剣を魔法使いっぽい見た目の明めがけて振り下ろした。
 だが、それは明まで届く事はなかった。
 腰に差していた剣を抜き放った陽太が振り下ろされた大剣を正面から受け止めたからだ。

「ギャーギャーギャーギャーうるせぇなぁ。お呼びじゃねぇんだよ」

 陽太は大剣を弾き飛ばし、バランスを崩した大男の胴体に回し蹴りをすると、大男の体が後方へと吹き飛んでいった。
 明はそれをチラッと見てから依頼ボードへと視線を戻した。

「なんだったんだろうねー」
「どうせ『前衛職が一人しかいねぇなら俺がなってやるから、大人しく言う事を聞け』とかそんな感じですよ。陽太に簡単にやられるようじゃ、話になりませんね。そんな事より、周辺の魔物の確認をしますよ」
「あと、盗賊が出没してないかも確認しておいた方が良いんじゃない? 結構いい値段で引き取ってくれたじゃん」
「盗賊って言い方はやめろって言いましたよね」
「そうだっけ?」
「狩猟民族ですよ。間違っても彼らの前でその言葉は言わないように気を付けてくださいね」
「はいはい」
「陽太もですよ」
「わーってるよ」

 本当に分かっているのだろうか、と疑問に感じながらも二人を信じるしかないか、と明は考えるのをやめ、魔物の情報などを仕入れるために受付嬢の方へと足を向けるのだった。
 受付嬢と話している間も、ちょっかいをかけてくる獣人の冒険者はいたのだが、陽太は悉く彼らを蹴り飛ばしたのだった。

「弱い犬ほどよく吠えるっていうけど、獣人にも適用されんのかね」
「知らなーい」
「獣人は耳が良いんだから変な事口走らないでくださいよ。ほら、血の気の多い人たちがこっちに来てるじゃないですか。自分で何とかしてくださいね」
「わーったよ」

 結局、三人でまとまって行動してもトラブルには巻き込まれるんだよなぁ、と明はため息を吐くのだった。
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