上 下
522 / 1,023
第18章 ニホン観光をしながら生きていこう

幕間の物語171.異大陸のドライアドたちは密輸した

しおりを挟む
 シズトたちが転移した大陸シグニールから海を渡って西へ向かうと南北に長いクレストラ大陸がある。
 その大陸には、シグニール大陸とは異なり世界樹はたった一本しかなかった。
 遥か昔からその世界樹を守り育ててきたエルフたちだったが、他の大陸が見つかって世界樹の素材が独占販売できなくなるまで随分と強気な外交を続けてきていた。
 世界樹の素材が独占できなくなると、多少は他国に配慮するようになったが、長い年月で形成された傲慢な性格は変わらなかった。
 他の大陸からの世界樹の素材は、商船が海の魔物や海賊に襲われる事もあり、安定的な供給もできなかったのも変わらなかった理由の一つだろう。
 生育の神ファマがエルフたちの所業に我慢できなくなり、彼らに託した加護を剥奪した後も、エルフの国の上層部は変わらなかった。
 世界樹に異変が起こると流石にこのままではまずいのではないか、と一部のエルフは思うようになったのだが、少数派だった。
 遥か昔から供給量を制限して蓄え続けた世界樹の素材のストックがあったからだ。
 それまでと変わらず、エルフたちの国の上層部は強気な外交を続けていたのだが、シグニール大陸から世界樹の真実が伝わると「傲慢なエルフに鉄槌を!」と立ち上がった近隣諸国の連合軍によって滅ぼされてしまった。
 クレストラ大陸唯一の世界樹がある都市国家フソウは既に滅び、そこに住んでいたエルフたちは殺されるか奴隷にされた。
 世界樹フソウ周辺は現在様々な国が分割して統治しているのだが、そんな事は世界樹の根元に住む者たちにとってはどうでもいい事だった。

「今日もいっぱい畑荒らし来た!」
「捕まえた?」
「捕まえたよー。ぐるぐる巻きにしたの」
「とっても強い人間さんたちはフクちゃんが後ろからズバッとしてたよー」
「殺しちゃってよかったの~?」
「フソーちゃんを切ろうとしてた人たちだから仕方ないんだよ」
「フソーちゃんは大丈夫だったの?」
「ぐっすりすやすやなの~」

 世界樹の根元に広がる森の中に、小さな人影が多数あった。
 頭に色とりどりの一輪の花を咲かせた彼女たちはドライアド。
 世界樹フソウの根元で暮らしている精霊に近い存在の者たちだった。
 肌の色は真っ白でも褐色でもなく、日本人である勇者たちのように若干黄色っぽい。
 元々ドライアドは小柄な種族だが、まとめ役であるドライアドは一回り大きい事が多かった。だが、クレストラ大陸のドライアドたちは全員小さかった。
 まとめ役がいないという訳ではなく、単純にまとめ役も含めて小柄だった。

「最近エルフさんも来なくなっちゃったね」
「フソーちゃんをほっといて、どこかにいっちゃったエルフさんも帰って来ないねー」
「あのエルフさん、もうフソーちゃんにとっていらない人だったから別にいいんじゃないかな」
「人間さんたちの話だと、海を越えてず~っと東の方に行ったところに、フソーちゃんを育てられる人間さんがいるんだって」
「そうなんだー」
「海の向こうはちょっと難しいなぁ」
「フクちゃんにお願いして連れてきてもらう?」
「フクちゃんがいなくなっちゃったら強い人間さんが来た時に、フソーちゃんが切られちゃうんじゃない?」
「そうだね~。私たちも捕まっちゃうかも~」
「人間さんの船に、『道』を繋げちゃったらどう?」
「人間さんに協力してもらわないと、枯れちゃうんじゃないかなぁ」
「数日で別の大陸に着くわけじゃないらしいよー」
「……水があんまりいらない子だったら行ける??」
「紛れ込ませちゃう?」
「やるだけやってみる??」
「植木鉢取ってくる~」

 わらわらと散っていくドライアドたちを見送るのは、他のドライアドたちよりも大きな花を咲かせたドライアドたちだ。

「……でも、道を繋げたとしても、船が向こうに着いたか分からないよね」
「そうだねー。それに、向こうに行けても、育てられる人に会うのは難しいよね」
「会えたとしても、人間さんが道を通るのは危ないもんね」
「落っこちたら戻って来れないもんねー」
「でも~、とりあえずやらせてみてもいいんじゃないかなぁ」
「紛れ込ませる方法はどうするの?」
「フクちゃん、こっそり動くの得意だからお任せしちゃう?」
「そうだねー。フクちゃんさがそ~」
「フクちゃん隠れるの上手だから見つけられるかなぁ~」

 そう言うと残っていたドライアドたちも散り散りに分かれていった。



 そんな感じのドライアドたちの話があってから数日後、大国ヤマトから海洋国家ガレオールに向けて出発した船の積み荷の中に、植木鉢に入った多肉植物などしばらく水やりをしなくても問題ない植物がいくつか置かれていた。
 一番最初に気付いたのは、ガレオールに向かっていた大国ヤマトの勇者である大和修一だったが、彼はきれいに並べられている植物を見て、誰かが珍しい植物を売りに行こうとしているんだろう、と思って放っておいた。
 その様子を船員が見ていたため、勇者の私物だと勘違いし、植物たちは無事にガレオールまで処分される事なく運ばれたのだった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

異世界転生してしまったがさすがにこれはおかしい

増月ヒラナ
ファンタジー
不慮の事故により死んだ主人公 神田玲。 目覚めたら見知らぬ光景が広がっていた 3歳になるころ、母に催促されステータスを確認したところ いくらなんでもこれはおかしいだろ!

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

異世界のんびりワークライフ ~生産チートを貰ったので好き勝手生きることにします~

樋川カイト
ファンタジー
友人の借金を押し付けられて馬車馬のように働いていた青年、三上彰。 無理がたたって過労死してしまった彼は、神を自称する男から自分の不幸の理由を知らされる。 そのお詫びにとチートスキルとともに異世界へと転生させられた彰は、そこで出会った人々と交流しながら日々を過ごすこととなる。 そんな彼に訪れるのは平和な未来か、はたまた更なる困難か。 色々と吹っ切れてしまった彼にとってその全てはただ人生の彩りになる、のかも知れない……。 ※この作品はカクヨム様でも掲載しています。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

異世界でタロと一緒に冒険者生活を始めました

ももがぶ
ファンタジー
俺「佐々木光太」二十六歳はある日気付けばタロに導かれ異世界へ来てしまった。 会社から帰宅してタロと一緒に散歩していたハズが気が付けば異世界で魔法をぶっ放していた。 タロは喋るし、俺は十二歳になりましたと言われるし、これからどうなるんだろう。

転生チートは家族のために~ユニークスキルで、快適な異世界生活を送りたい!~

りーさん
ファンタジー
 ある日、異世界に転生したルイ。  前世では、両親が共働きの鍵っ子だったため、寂しい思いをしていたが、今世は優しい家族に囲まれた。  そんな家族と異世界でも楽しく過ごすために、ユニークスキルをいろいろと便利に使っていたら、様々なトラブルに巻き込まれていく。 「家族といたいからほっといてよ!」 ※スキルを本格的に使い出すのは二章からです。

処理中です...