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第18章 ニホン観光をしながら生きていこう

350.事なかれ主義者はめんどくさい

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 昼食後は談話室へ移動して、しばらくの間シンシーラとエミリーの尻尾にモフモフと攻撃されながらのんびり過ごした。
 モフモフを堪能……じゃなかった。食後の休憩を終えてノエルの部屋に戻ると、ノルマを一気に終わらせたノエルが魔道具を見ていた。
 僕は試作品の起動実験をするのは禁じられているので、ノエルに代わりに使ってもらう事にした。
 彼女の手には、ひとまず『クリーンアイロン』と名付けた魔道具が握られている。見た目は鉄製のアイロンだ。

「どう? 真似する事できそう?」
「んー……微妙っすね。……これって、汚れを落とす事が目的なんすよね?」
「そうだね」
「熱を持たせる意味ってあるんすか?」
「さあ?」
「さあって……」
「だって、アイロンってそういうものでしょ?」

 僕と一緒に見学をしていたエミリーに視線を向けると、彼女は首を傾げた。

「熱した金属の熱と重みで布を伸ばす時に熱は必要だと思いますが、汚れを落とすだけなのであれば熱も不要ですし、大きさもそこまで大きくなくていいのではないでしょうか」
「……なるほど?」
「魔道具は簡略化されればされるほど魔法陣がシンプルになるっす。これはたぶん綺麗にする魔法と、熱を発する魔法あたりが付与されていると思うんすよ。だから、触れた物の汚れを落とす力を付与すればいいんじゃないっすか?」
「それだと同じ魔法を付与している服の魔道具で十分なんじゃないかな。ほら、町の子たちが来てるアレ」
「レヴィア様のドレスにも付与されているアレですね。ただ、アレはその服しか綺麗にならないので、綺麗にする魔道具があるのは良い事だと思いますよ。小さければ持ち運びもできて、外で服が汚れてしまってもすぐに対処できますし、なにより既存の服から買い替えなくて済みます」
「なるほど?」
「欲を言うのであれば、ポケットに収まるサイズだと便利だと思います」
「魔石を使うタイプか、自身の魔力を使うタイプかどっちが良いと思う?」
「気楽に使うのであれば、魔石タイプはやめた方がよろしいかと。魔石の価格が上がり続けているようですので」

 ホムラとユキがどんどん購入しているからですね、分かります。
 どれだけ買い貯めているのか分からないけど、そろそろ止めた方が良いかなぁ。でも、入浴魔石や沸騰魔石とか量産するためには大量の魔石いるから仕方ない、か?
 ……まあ、そこらへんは二人が良い感じにしてくれるでしょ、きっと。
 僕が悩んでも仕方ないし、魔道具の形をどんな感じにするか考えよう。
 ペットの毛を取るようなコロコロ(?)みたいな感じにしてもいいけど、ポケットに収まる感じにするなら手のひらサイズの板みたいな形状が良いかな。
 ……版画かなんかで紙をごしごし擦ったアレみたいな感じにするか。バレンだったかな、そんな感じの名前のアレ。
 破れたり、折れたりして使えなくなると困るので、とりあえず鉄製にしておこう。
 指を通して手の平に装備する感じにすれば使いやすいかも?

「【加工】! からの【付与】!」

 簡単な形であれば、加工でサクッと作れるし、付与も余計なイメージを捨てて汚れを綺麗にする事だけを考えたからか、アイロンよりはシンプルな魔法陣になった気がする。たぶん。
 ノエルが試しに手に装着して、わざと汚した服の汚れを擦ると、綺麗になっていた。

「……魔法陣、さっきよりは読み取りやすいっすね。試しに真似してみるっす」

 ノエルは綺麗にし終わった服をポイッと投げ捨てると、作業机で解析を始めた。
 ああなると話しかけてもしばらく反応がないしどうしようかな。
 そう思ってエミリーに視線を向けると、彼女は分かってます、と言った感じで頷くと白いもこもこの尻尾を差し出してきた。

「違う、そうじゃない」
「違いましたか? お暇なのかな、と思ったのですが……」
「いや、暇だけど……他に日々の生活が楽になる魔道具を考えようかなって」
「であれば、一緒に考えましょう。不便さは殆どありませんが、屋敷の手入れや炊事や洗濯などを行っていますから、何かお力になれるかもしれません」
「ありがと……って、それでも尻尾は押し付けるんかーい!」

 尻尾でぺしぺしと体を叩いて来るエミリーには抗えず、結局尻尾をモフモフしながら日々の生活について聞き取りをした。
 ……すぐ隣でイチャイチャしていても、ノエルは集中しているのか特に何も言ってこなかった。



 夕食の準備があるからと、ある程度話をしたらエミリーは部屋を出て行った。
 ノエルは試作品づくりに没頭していたので、一人であーでもないこーでもないと考えてみたけれど、一人で考えるには限界がある。
 考えるのが面倒になってきて、家事をしてくれるゴーレムかホムンクルスを一家に一体普及させればそれでいいんじゃね? なんて考えたけど、ホムンクルスやゴーレムは普通の魔道具と違って桁違いに高いらしい。
 製法もしっかり確立しておらず、希少性が高いからとかなんとかノエルが言っていた。
 一般家庭に普及させるには問題がありそうだ。
 考えが煮詰まってきたので、食事前にノエルの部屋をお暇する事にして、自室に戻る。
 速達箱の中に手紙がないか確認して、特になければ食堂でのんびり皆を待ってよう。
 まあ、ライデンもランチェッタ様も毎日欠かさず手紙くれるから、届いてないなんて事はないよねー。知ってた。
 それぞれの速達箱から手紙を取り出して、内容を確認する。
 まずは獣人の国で魔道具の店の店主を任せているホムンクルスのライデンからの手紙からだ。
 最近水の魔道具の需要が高まっているとの事だったので、暇だったら増産してほしい、との事だ。

「んー、水か。生活用水とかは井戸から汲んでいる所もあるらしいし、廉価版が作る事ができるなら水の魔道具を量産してもらうのもありかな。難しいみたいだけど、ノエルに相談してみるか」

 手紙の返事をさらさらと書いて、ライデン宛の速達箱に入れておく。
 次はランチェッタ様からの手紙だ。
 ライデンからの手紙は上質な紙を使った封筒に入れられたシンプルな物だったけど、ランチェッタ様のは、いつもなら見ただけで女王様からの手紙だ、と感じるくらい豪華な物だった。心なしか、いい香りもする気がする……はずなんだけど、今日は香りも見た目も普通だ。
 封蝋を見て、ランチェッタ様からの手紙である事を確認し、もう一度くんくんと匂いを嗅いでみるけど、やっぱり何も香ってこない。
 忙しい中手紙を書いてくれてるのかな、なんて思いつつ封を切って手紙を読む。
 その内容が内容だったので、思わず天を仰ぐ。

「………レヴィさんたちに相談するか」

 何も考えたくない。
 でも、返事は書かなくちゃいけない。
 僕は一先ずランチェッタ様の手紙の返事を書いて、速達箱に入れるのだった。
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