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第18章 ニホン観光をしながら生きていこう
幕間の物語169.ギルドマスターは話し込んだ
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ドラゴニア王国の最南端にあるファマリアという町に、冒険者ギルドがあった。
そのギルドの代表者はイザベラという女性だ。
イザベラは銀色の長い髪を後ろで束ね、若干吊り上がっている赤い目はきつい印象を与える。女性的な膨らみは乏しく、身長も人族の平均よりも少し低い彼女は、元々ドランというダンジョン都市のギルドマスターをしていた。
だが、ファマリアを作った少年シズトと以前から交流があったため、暫定的にギルドマスターになっていたのだが、ついこの間、正式にギルドマスターとして任命されていた。
ダンジョン都市ドランから小さな町へ、とだけ聞くと左遷されたような印象を受けるのだが、彼女も、彼女と一緒にファマリアの副ギルドマスターに任命されたクルスも気にしていなかった。
二人ともギルド内の地位や権力にさほど興味がなかったからだ。
そんな二人は、今日も日が暮れてからギルドマスターの執務室で会議をしていた。
ドランなどの大勢の冒険者が集まる街だとこの時間帯も忙しいのだが、ファマリアは日が暮れたら一気に暇になるからこの時間に会議をするのが恒例になっていた。
「連れてきた冒険者たちからの納品は相変わらずかしら?」
「そうですね。時折ランクの高い魔石がありますが、基本的にはゾンビやレイスなどのランクの低いアンデッド系の魔物の魔石ばかりです」
「ゾンビの魔石とはいえ、魔石の需要が高まっているから助かるわね」
「臭いがきついからどうしても値が下がってしまいますけど、それでも重要な収入源ですからね。あとは時折フェンリルの抜け毛を持ってくる子どもたちもいます。度胸があるというか、恐れ知らずというべきか……」
「推定Sランク以上の魔物の素材が、まさかブラッシングで手に入るとは思わないわよね」
「集めた毛玉でドライアドたちと一緒に遊んでいると報告を受けた時は耳を疑いましたし、現場を見ても目を疑いました」
クルスはため息を吐くと眉間を揉み込む。
そんなクルスに釣られて、イザベラも苦笑していた。
当初の予定ではアンデッドの魔石と魔道具だけがこの町に納品されるだろうと考えられていた。
だが、ある時を境にフェンリルの毛が納品されるようになったのは、冒険者ギルドとしては思わぬ収穫だった。
異世界転移者が作った町、というだけでもギルドを建てる意味はあったのだが、Sランクの魔物の素材が定期的に手に入るという価値が加わった事で、図らずもドラゴニア国内にある冒険者ギルドの中で重要性が増してしまっていた。
「その奴隷の子たちの様子はどうかしら? 言い争いは少なくなっているように見えるけど……?」
「そうですね、以前までは町の依頼の争奪戦がありましたが、最近は落ち着いています。ダンジョンの研修に出かけている子が多いからでしょう。ダンジョン探索の引率をしている冒険者たちからの報告では、順調に進めば今回の探索で十階層目に到達する子が出てくるかもしれないという事でした。ただ、離れ小島のダンジョンは三十階層まではゴブリン系の魔物しか出てきませんから、大した素材は手に入らないでしょうね」
「ギルドとしては残念だけど、ゴブリン相手だったら引率の冒険者たちで十分対処可能だろうし、シズトくんの奴隷たちに何もなければそれでいいわ。シズトくんからは護衛料として大量にお金をもらっているし、万が一の事がないように気を引き締めるように伝えておいて」
「もちろんです。……それにしても、引率がいるとはいえ負傷者がいまだに出ていないのは想定外ですね。負傷者が出ないのは良い事ですが、子どもたちが自分たちの力を過信しすぎなければいいのですが……」
「装備も持ち物も充実しているからゴブリン程度問題なく倒せてしまうのが問題ね」
「駆け出し冒険者とは思えないほどの充実っぷりですからね。シズトくんが惜しみなく買い漁ってくれたおかげで工房ギルドも商業ギルドも我々も潤っているのでそう言った面では有難いんですけど、今回のダンジョン探索の目的を考えると何とも言えないですね。まあ、装備が充実していなくとも二十階層までは余裕で行けたでしょうけど」
イザベラは一瞬怪訝な表情になったが、手元の資料を見て「ああ」と思い出したように呟いた。
「魔法が使える子がいるんだったわね」
「パーティ全員魔力量だけで見たらEランク冒険者以上ですからね。まだ登録したばかりだからとFランクにしておくのは勿体ないです。一部の子しか魔法を使えないようですけど、魔法を使えない子も最低限の身体強化はできるみたいですし……」
「研修所の影響ね」
「引退した冒険者たちが最低限の事を教えるだけかと思っていましたが、エルフたちが魔力の扱い方を丁寧に教えているからこのような事になっているのでしょうね。駆け出し冒険者の死傷者の数を減らすために、我々も養成所を設立するのを検討してもいいかもしれません」
「……難しい所ね。シズトくんは研修所に通っている奴隷たちにお小遣いを上げているようだけれど、仮に冒険者ギルドが同じような施設を作っても報酬としてお金を渡すのは採算が取れない可能性が高いわ。最低限の衣食住を提供するにしても、教える側を雇うには膨大なお金が必要になるわね、きっと。それに、養成所の子たち一人一人のために新品同様の武具を準備するのは無理ね。なにより、ここの子たちは奴隷だからシズトくんが通うようにと言ったから研修所に素直に通っているだけで、冒険者になるような子たちが大人しく養成所に通うとは思えないわ」
「一番の問題はやはりそこですよね」
「でも、浮浪児対策としては有効よね。もう少し成果が上がってから本部に打診してみましょう。話はこれで一通り終わったかしら?」
「そうですね。……魔道具の明かりのせいで時間を忘れてしまいますけど、もうこんな時間ですか」
「私はもう寝るわ。何かあったら連絡して頂戴」
「かしこまりました」
クルスに見送られ、イザベラは冒険者ギルドから出て、近くに建てられた新築の自宅へと帰っていく。
イザベラは思った以上に話し込んでしまったことを反省しつつ、家に帰ったらどの入浴魔石を使おうかと考えながら外灯に照らされた通りを歩くのだった。
そのギルドの代表者はイザベラという女性だ。
イザベラは銀色の長い髪を後ろで束ね、若干吊り上がっている赤い目はきつい印象を与える。女性的な膨らみは乏しく、身長も人族の平均よりも少し低い彼女は、元々ドランというダンジョン都市のギルドマスターをしていた。
だが、ファマリアを作った少年シズトと以前から交流があったため、暫定的にギルドマスターになっていたのだが、ついこの間、正式にギルドマスターとして任命されていた。
ダンジョン都市ドランから小さな町へ、とだけ聞くと左遷されたような印象を受けるのだが、彼女も、彼女と一緒にファマリアの副ギルドマスターに任命されたクルスも気にしていなかった。
二人ともギルド内の地位や権力にさほど興味がなかったからだ。
そんな二人は、今日も日が暮れてからギルドマスターの執務室で会議をしていた。
ドランなどの大勢の冒険者が集まる街だとこの時間帯も忙しいのだが、ファマリアは日が暮れたら一気に暇になるからこの時間に会議をするのが恒例になっていた。
「連れてきた冒険者たちからの納品は相変わらずかしら?」
「そうですね。時折ランクの高い魔石がありますが、基本的にはゾンビやレイスなどのランクの低いアンデッド系の魔物の魔石ばかりです」
「ゾンビの魔石とはいえ、魔石の需要が高まっているから助かるわね」
「臭いがきついからどうしても値が下がってしまいますけど、それでも重要な収入源ですからね。あとは時折フェンリルの抜け毛を持ってくる子どもたちもいます。度胸があるというか、恐れ知らずというべきか……」
「推定Sランク以上の魔物の素材が、まさかブラッシングで手に入るとは思わないわよね」
「集めた毛玉でドライアドたちと一緒に遊んでいると報告を受けた時は耳を疑いましたし、現場を見ても目を疑いました」
クルスはため息を吐くと眉間を揉み込む。
そんなクルスに釣られて、イザベラも苦笑していた。
当初の予定ではアンデッドの魔石と魔道具だけがこの町に納品されるだろうと考えられていた。
だが、ある時を境にフェンリルの毛が納品されるようになったのは、冒険者ギルドとしては思わぬ収穫だった。
異世界転移者が作った町、というだけでもギルドを建てる意味はあったのだが、Sランクの魔物の素材が定期的に手に入るという価値が加わった事で、図らずもドラゴニア国内にある冒険者ギルドの中で重要性が増してしまっていた。
「その奴隷の子たちの様子はどうかしら? 言い争いは少なくなっているように見えるけど……?」
「そうですね、以前までは町の依頼の争奪戦がありましたが、最近は落ち着いています。ダンジョンの研修に出かけている子が多いからでしょう。ダンジョン探索の引率をしている冒険者たちからの報告では、順調に進めば今回の探索で十階層目に到達する子が出てくるかもしれないという事でした。ただ、離れ小島のダンジョンは三十階層まではゴブリン系の魔物しか出てきませんから、大した素材は手に入らないでしょうね」
「ギルドとしては残念だけど、ゴブリン相手だったら引率の冒険者たちで十分対処可能だろうし、シズトくんの奴隷たちに何もなければそれでいいわ。シズトくんからは護衛料として大量にお金をもらっているし、万が一の事がないように気を引き締めるように伝えておいて」
「もちろんです。……それにしても、引率がいるとはいえ負傷者がいまだに出ていないのは想定外ですね。負傷者が出ないのは良い事ですが、子どもたちが自分たちの力を過信しすぎなければいいのですが……」
「装備も持ち物も充実しているからゴブリン程度問題なく倒せてしまうのが問題ね」
「駆け出し冒険者とは思えないほどの充実っぷりですからね。シズトくんが惜しみなく買い漁ってくれたおかげで工房ギルドも商業ギルドも我々も潤っているのでそう言った面では有難いんですけど、今回のダンジョン探索の目的を考えると何とも言えないですね。まあ、装備が充実していなくとも二十階層までは余裕で行けたでしょうけど」
イザベラは一瞬怪訝な表情になったが、手元の資料を見て「ああ」と思い出したように呟いた。
「魔法が使える子がいるんだったわね」
「パーティ全員魔力量だけで見たらEランク冒険者以上ですからね。まだ登録したばかりだからとFランクにしておくのは勿体ないです。一部の子しか魔法を使えないようですけど、魔法を使えない子も最低限の身体強化はできるみたいですし……」
「研修所の影響ね」
「引退した冒険者たちが最低限の事を教えるだけかと思っていましたが、エルフたちが魔力の扱い方を丁寧に教えているからこのような事になっているのでしょうね。駆け出し冒険者の死傷者の数を減らすために、我々も養成所を設立するのを検討してもいいかもしれません」
「……難しい所ね。シズトくんは研修所に通っている奴隷たちにお小遣いを上げているようだけれど、仮に冒険者ギルドが同じような施設を作っても報酬としてお金を渡すのは採算が取れない可能性が高いわ。最低限の衣食住を提供するにしても、教える側を雇うには膨大なお金が必要になるわね、きっと。それに、養成所の子たち一人一人のために新品同様の武具を準備するのは無理ね。なにより、ここの子たちは奴隷だからシズトくんが通うようにと言ったから研修所に素直に通っているだけで、冒険者になるような子たちが大人しく養成所に通うとは思えないわ」
「一番の問題はやはりそこですよね」
「でも、浮浪児対策としては有効よね。もう少し成果が上がってから本部に打診してみましょう。話はこれで一通り終わったかしら?」
「そうですね。……魔道具の明かりのせいで時間を忘れてしまいますけど、もうこんな時間ですか」
「私はもう寝るわ。何かあったら連絡して頂戴」
「かしこまりました」
クルスに見送られ、イザベラは冒険者ギルドから出て、近くに建てられた新築の自宅へと帰っていく。
イザベラは思った以上に話し込んでしまったことを反省しつつ、家に帰ったらどの入浴魔石を使おうかと考えながら外灯に照らされた通りを歩くのだった。
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