514 / 1,094
第18章 ニホン観光をしながら生きていこう
345.事なかれ主義者は遊びを見守った
しおりを挟む
手漕ぎの小さな舟に乗ってのんびりと神社……じゃなかった教会に向かった。
人工的に作られた小さな島に、光の神様の教会があった。見た目は神社だけど、教会って名乗ってるから教会なんだと思う。
賽銭箱にお金を入れてお祈りを済ませたらとっとと街へ戻る。
小さな島には教会関係の建物しかないし、長居してトラブルに巻き込まれたくない。
船着き場に着くと、背負っていたクーが話しかけてきた。
「次は何するの、おにーさん」
「土産でも買うじゃん?」
「そうですね。広島って言ったらもみじ饅頭のイメージだけど、ありますかね?」
周囲を警戒していたジュリウスに尋ねると、彼は懐から取り出した数枚の紙をパラパラと見てから頷いた。
「もみじ饅頭と呼ばれている菓子はあるらしい」
「それじゃあそこに行きましょう。アイテムバッグがあるから、手荷物にもならないですし」
そのアイテムバッグを持っているのは使用人としてついて来ているシンシーラだ。
メイド服に似合うバッグのデザインにしてもらった方が良いかなぁ。
「入らないほどの大きさの物があれば、最後に買って帰るじゃん」
「別にあーしがいるから大きさなんて気にしなくていいよ、おにーさん」
自分を忘れるな、とクーが僕の首に回した手をキュッと締めてくる。
ホムンクルスのクーは、転移魔法について考えながら作っていたのが原因なのか、転移魔法を自在に扱える。
確かに彼女がいるならアイテムバッグも要らなかったかもしれない。
……クーは僕以外のために移動系の魔法を使ってくれないから、やっぱりいるかな? 全部僕の物って言えばやってくれるかな……?
もみじ饅頭などのお土産を買い求めたり、食事をしたりした後は街を散策した。
所々ある公園のような広場には滑り台やブランコがあるが、誰も遊んでいない。
小高い丘の上にある大きなお城の近くには遠くからでも分かる長い滑り台が見えるけど、使っている人は全くいなかった。
「遊具があるのに遊ばないなんて……飽きてるんですかね?」
「知らなーい」
「単純に余裕がないだけじゃん」
「ファマリアが特殊なだけで、他の街や村では小さな者ですら生きるために働いている。遊んでいる暇なんてないのだろうな」
「冒険者登録は一定の年齢になってからだけど、町の手伝いくらいはギルド側も認めているじゃん。ドランやその周辺では魔道具のおかげでたくさん貯金をする事ができるくらい稼いでいる子どももいるらしいけど、魔道具も何もなければ日銭を稼ぐくらいしかできないのが普通じゃん」
「親がいない子たちは分かりますけど、親がいる子たちも遊ぶ暇がないんですか?」
「遊んでいたら殻潰しっていって追い出されるじゃん」
「だいたい家業の手伝いをする事が多いらしい。長男以外は独立するためにも冒険者ギルドで町の依頼をこなしたり、大商人の所で働いたりだな」
そういうものなのか。
滑り台とか諸々作ったのはおそらく過去の勇者たちなんだろう。
どの遊具も丁寧に管理されているのかピカピカだ。
それがなんだかとてももったいない気がして、遊具を見かける度に少しだけ遊んだ。
お城の近くのローラー滑り台は、他の滑り台と違ってとても長く、スピードが出過ぎてちょっと怖かった。
日が暮れる前にファマリーの根元に戻ってきた。
ドライアドたちにじろじろと見られたけど、変装用の魔道具を止めたら纏わりつかれた。
「人気者じゃん」
「シンシーラ、笑ってないで下ろすの手伝ってよ」
「しょうがないじゃん」
尻尾を振りながら手早くドライアドたちを下ろしていくシンシーラと、それに対抗するように後から後から登ろうとするドライアドたち。
……遊び道具があればこんな事にはならないのでは?
そう思って屋敷と畑の間に、滑り台やらブランコ、雲梯、ジャングルジムを作ってみた。
先程まで遊んでいたから見た眼だけはしっかり真似る事ができた。
ドライアドたちは僕に纏わりついたまま興味深そうに見ていたけど、何をするものか分からないのか見ているだけだ。
目論見が外れたなぁ、と思いながらせっせと肩の上に登ろうとしてくるドライアドを下ろしていると、黒い翼をはばたかせて飛んできたパメラがジャングルジムのてっぺんにとまった。
「なんか変なものがあるデース!」
「シズトさま、これなーに?」
「これも魔道具かしら?」
パメラの後を追ってきたアンジェラと、リーヴィアが不思議そうに遊具を見ている。
「あれは魔道具じゃなくてただの遊具だよ。……でも、魔道具にしてもいいかも……?」
魔道具にするのならどんなのが良いんだろう?
んー、と首を傾げていると、いつの間にかドライアドたちが周りからいなくなっていて、ジャングルジムのてっぺんにいたパメラを目指していた。
最後まで頭にしがみ付いていたレモンちゃんを下ろしてホッと一息ついていると、シンシーラがにやにやしている。
どうしたの? と尋ねようとする前に、シンシーラは後ろに回って背中に飛びついてきた。
ドライアドたちよりもはるかに大きく重たいけど、なんとか踏みとどまれた。
背中に当たる大きな膨らみを意識から逸らして後ろを振り返ると、すぐそこにシンシーラの顔があった。
「いきなり何? 危ないじゃん!」
「ドライアドたちやクー様がご執心の背中がどんな感じか知りたくなっただけじゃん」
「せめて飛びつく前に声かけて欲しいんだけど」
「声かけたら断るじゃん?」
……まあ、そうっすね。
今もシンシーラは彼女自身の力だけで背中にくっついている。
「でもほら、私がくっついているからドライアドたちはシズト様に纏わりついて来ないじゃん?」
「……ほんとだね」
空気を読んでいるのか分からないけど、後からやってきたドライアドたちは僕をジッと見るだけで登ろうとして来ない。
ドライアドたちの習性はよく分からんなぁ、なんて思いながら、シンシーラに言われて仕方なく彼女の柔らかい太腿を両手で支えた。
その後は、アンジェラたちの遊びを見守りつつ遊び方を教えているといつの間にか夕暮れ時になっていた。
人工的に作られた小さな島に、光の神様の教会があった。見た目は神社だけど、教会って名乗ってるから教会なんだと思う。
賽銭箱にお金を入れてお祈りを済ませたらとっとと街へ戻る。
小さな島には教会関係の建物しかないし、長居してトラブルに巻き込まれたくない。
船着き場に着くと、背負っていたクーが話しかけてきた。
「次は何するの、おにーさん」
「土産でも買うじゃん?」
「そうですね。広島って言ったらもみじ饅頭のイメージだけど、ありますかね?」
周囲を警戒していたジュリウスに尋ねると、彼は懐から取り出した数枚の紙をパラパラと見てから頷いた。
「もみじ饅頭と呼ばれている菓子はあるらしい」
「それじゃあそこに行きましょう。アイテムバッグがあるから、手荷物にもならないですし」
そのアイテムバッグを持っているのは使用人としてついて来ているシンシーラだ。
メイド服に似合うバッグのデザインにしてもらった方が良いかなぁ。
「入らないほどの大きさの物があれば、最後に買って帰るじゃん」
「別にあーしがいるから大きさなんて気にしなくていいよ、おにーさん」
自分を忘れるな、とクーが僕の首に回した手をキュッと締めてくる。
ホムンクルスのクーは、転移魔法について考えながら作っていたのが原因なのか、転移魔法を自在に扱える。
確かに彼女がいるならアイテムバッグも要らなかったかもしれない。
……クーは僕以外のために移動系の魔法を使ってくれないから、やっぱりいるかな? 全部僕の物って言えばやってくれるかな……?
もみじ饅頭などのお土産を買い求めたり、食事をしたりした後は街を散策した。
所々ある公園のような広場には滑り台やブランコがあるが、誰も遊んでいない。
小高い丘の上にある大きなお城の近くには遠くからでも分かる長い滑り台が見えるけど、使っている人は全くいなかった。
「遊具があるのに遊ばないなんて……飽きてるんですかね?」
「知らなーい」
「単純に余裕がないだけじゃん」
「ファマリアが特殊なだけで、他の街や村では小さな者ですら生きるために働いている。遊んでいる暇なんてないのだろうな」
「冒険者登録は一定の年齢になってからだけど、町の手伝いくらいはギルド側も認めているじゃん。ドランやその周辺では魔道具のおかげでたくさん貯金をする事ができるくらい稼いでいる子どももいるらしいけど、魔道具も何もなければ日銭を稼ぐくらいしかできないのが普通じゃん」
「親がいない子たちは分かりますけど、親がいる子たちも遊ぶ暇がないんですか?」
「遊んでいたら殻潰しっていって追い出されるじゃん」
「だいたい家業の手伝いをする事が多いらしい。長男以外は独立するためにも冒険者ギルドで町の依頼をこなしたり、大商人の所で働いたりだな」
そういうものなのか。
滑り台とか諸々作ったのはおそらく過去の勇者たちなんだろう。
どの遊具も丁寧に管理されているのかピカピカだ。
それがなんだかとてももったいない気がして、遊具を見かける度に少しだけ遊んだ。
お城の近くのローラー滑り台は、他の滑り台と違ってとても長く、スピードが出過ぎてちょっと怖かった。
日が暮れる前にファマリーの根元に戻ってきた。
ドライアドたちにじろじろと見られたけど、変装用の魔道具を止めたら纏わりつかれた。
「人気者じゃん」
「シンシーラ、笑ってないで下ろすの手伝ってよ」
「しょうがないじゃん」
尻尾を振りながら手早くドライアドたちを下ろしていくシンシーラと、それに対抗するように後から後から登ろうとするドライアドたち。
……遊び道具があればこんな事にはならないのでは?
そう思って屋敷と畑の間に、滑り台やらブランコ、雲梯、ジャングルジムを作ってみた。
先程まで遊んでいたから見た眼だけはしっかり真似る事ができた。
ドライアドたちは僕に纏わりついたまま興味深そうに見ていたけど、何をするものか分からないのか見ているだけだ。
目論見が外れたなぁ、と思いながらせっせと肩の上に登ろうとしてくるドライアドを下ろしていると、黒い翼をはばたかせて飛んできたパメラがジャングルジムのてっぺんにとまった。
「なんか変なものがあるデース!」
「シズトさま、これなーに?」
「これも魔道具かしら?」
パメラの後を追ってきたアンジェラと、リーヴィアが不思議そうに遊具を見ている。
「あれは魔道具じゃなくてただの遊具だよ。……でも、魔道具にしてもいいかも……?」
魔道具にするのならどんなのが良いんだろう?
んー、と首を傾げていると、いつの間にかドライアドたちが周りからいなくなっていて、ジャングルジムのてっぺんにいたパメラを目指していた。
最後まで頭にしがみ付いていたレモンちゃんを下ろしてホッと一息ついていると、シンシーラがにやにやしている。
どうしたの? と尋ねようとする前に、シンシーラは後ろに回って背中に飛びついてきた。
ドライアドたちよりもはるかに大きく重たいけど、なんとか踏みとどまれた。
背中に当たる大きな膨らみを意識から逸らして後ろを振り返ると、すぐそこにシンシーラの顔があった。
「いきなり何? 危ないじゃん!」
「ドライアドたちやクー様がご執心の背中がどんな感じか知りたくなっただけじゃん」
「せめて飛びつく前に声かけて欲しいんだけど」
「声かけたら断るじゃん?」
……まあ、そうっすね。
今もシンシーラは彼女自身の力だけで背中にくっついている。
「でもほら、私がくっついているからドライアドたちはシズト様に纏わりついて来ないじゃん?」
「……ほんとだね」
空気を読んでいるのか分からないけど、後からやってきたドライアドたちは僕をジッと見るだけで登ろうとして来ない。
ドライアドたちの習性はよく分からんなぁ、なんて思いながら、シンシーラに言われて仕方なく彼女の柔らかい太腿を両手で支えた。
その後は、アンジェラたちの遊びを見守りつつ遊び方を教えているといつの間にか夕暮れ時になっていた。
68
お気に入りに追加
454
あなたにおすすめの小説

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。

こちらの異世界で頑張ります
kotaro
ファンタジー
原 雪は、初出勤で事故にあい死亡する。神様に第二の人生を授かり幼女の姿で
魔の森に降り立つ 其処で獣魔となるフェンリルと出合い後の保護者となる冒険者と出合う。
様々の事が起こり解決していく
異世界で俺だけレベルが上がらない! だけど努力したら最強になれるらしいです?
澤檸檬
ファンタジー
旧題 努力=結果
異世界の神の勝手によって異世界に転移することになった倉野。
実際に異世界で確認した常識と自分に与えられた能力が全く違うことに少しずつ気付く。
異世界の住人はレベルアップによってステータスが上がっていくようだったが、倉野にだけレベルが存在せず、行動を繰り返すことによってスキルを習得するシステムが採用されていた。
そのスキル習得システムと異世界の常識の差が倉野を最強の人間へと押し上げていく。
だが、倉野はその能力を活かして英雄になろうだとか、悪用しようだとかそういった上昇志向を見せるわけでもなく、第二の人生と割り切ってファンタジーな世界を旅することにした。
最強を隠して異世界を巡る倉野。各地での出会いと別れ、冒険と楽しみ。元居た世界にはない刺激が倉野の第二の人生を彩っていく。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!
仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。
しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。
そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。
一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった!
これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

異世界でタロと一緒に冒険者生活を始めました
ももがぶ
ファンタジー
俺「佐々木光太」二十六歳はある日気付けばタロに導かれ異世界へ来てしまった。
会社から帰宅してタロと一緒に散歩していたハズが気が付けば異世界で魔法をぶっ放していた。
タロは喋るし、俺は十二歳になりましたと言われるし、これからどうなるんだろう。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる