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第18章 ニホン観光をしながら生きていこう

幕間の物語168.元借金奴隷は考えても分からない

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 師匠の様子が変だ、と弟子たちに気付かれたのは、シズトとの結婚式後の頃からだった。
 だが、実際はもう少し前から変だった、とノエルは自分で気づいていた。
 理由は分かり切っていた。
 同じ配偶者だからと、他の者たちと歩調を無理して合わせようとしていたからだ。

「慣れない事はするもんじゃないっすね」

 ノエルは再度、ため息を吐いた。
 自室には既にエイロンやエルヴィスの姿はない。
 自分一人が使うには広すぎる部屋の寝具の上に寝転がりながらノエルはボーッと天井を眺めていた。
 昨夜シズトが作った魔道具は既に解析が終わってしまったのか、机の上に転がっている。
 それをチラッと見て、ノエルは再びため息を吐いた。

「お風呂場のマッサージチェアと似たような部分があったから、そこが振動させるための部分っすかね。ま、再現出来たところで大した使い道はないっすけど。……いや、ジューロならそこら辺何かしら思いつくかもしれないっすね……?」

 ノエルは研究で仕組みが分かればそれでいいと思うタイプの研究者だった。
 ジューロがそれを応用して何かしらを作っても、「すごいっすねー」とは思う物の興味はなかった。
 応用して作ったという事は元々ある物と大差ない魔法陣である事が多いからだ。
 ジューロが魔法陣同士を組み合わせて何かしらに発展させればまた話は違うのだが……今の所その様な話は出ていなかった。

「ノエル、そろそろ話し合いの時間ですよ」
「今行くっす。……はあ、面倒臭いっすねぇ」

 外から人族の少女モニカの声が聞こえると、ノエルはダラダラと起き上がって、室内履きのスリッパを履いて部屋から出た。
 階段を下りて二階の談話室に向かうと、既にほとんどの者たちが集まっていた。
 席を外しているのは今日のお世話係であるパメラと、ダンジョン探索に引率をするために出かけているラオとルウだ。
 今日の夜の警備を担当しているシンシーラ以外は寝間着姿だった。
 ノエルが空いていた席の一つに腰かけると、ゆったりとしたシンプルなデザインの寝間着を着たレヴィアが口を開いた。

「全員が集まったようですし、話し合いを始めるのですわ。まずは、ノエルから昨日の話を聞くのですわ」

 その場の全員の視線がノエルに向くと、ノエルは面倒臭いと思いつつも、昨夜の話を始めた。
 淡々と語られるノエルの話を、その場にいる全員が黙って聞いていた。
 ひとしきり話し終えたところで、満足した様子でレヴィアが頷いた。

「今日のパメラ次第ですけれど、全員平等に夜の営みができたようで良かったのですわ」
「まあ、そこら辺は問題ないと思うじゃん。パメラも流石にそれは忘れないと思うじゃん」
「初めては平等に最初の当番の夜に……という事はこの後は各自の自由って解釈で良かったっすよね?」
「そうなるのですわ。もちろん、今後についてはシズトと話し合って決めて欲しいですけれど、これ以上は強制しないのですわ」

 その言葉を聞いて、ホッとした様子のノエルは、アイテムバッグから魔道具を取り出すと観察を始めた。

「ジューンとノエルには無理をさせて申し訳なかったのですわ」
「大丈夫ですぅ。きっとぉ、ああ言われないと私は何もできませんでしたからぁ。……まあ、言われても自分からはあまりできなかったんですけどねぇ」
「それはそれで羨ましいのですわ。昨日作られた魔道具もちょっと興味があるのですわ」
「大したものじゃなかったっすよ。脱衣所のマッサージチェアーの簡易版みたいな印象っす。あのくらいの単純な物だったら量産できるかもしれないっす」

 そう言う意味じゃない、と思いつつも普段のノエルらしさが戻ってきたようだったので誰も突っ込まなかった。

「シズトも積極的になってきたみたいですし、良かったのですわー」
「今日で一巡するからだいぶ慣れたのもあるかもしれませんね」

 いつものメイド服ではなく、薄地の長袖長ズボンの寝間着を着たモニカが手元の紙にさらさらと記録を取りながら相槌を打った。
 彼女が書いているのは、今日欠席をしている三名に内容を伝えるための記録だ。
 レヴィアの隣に腰かけていたセシリアは、モニカの発言に肯定するようにゆっくりと頷く。

「ただ、一度したからとシズト様が消極的になる可能性もあります。各自の自由ですが、愛し合いたいと思うのであれば積極的に行った方が良いかもしれません」
「そうですねぇ。……まだ自信は少ししかありませんがぁ、次は頑張りますぅ」

 そう意気込むのはジューンだけではない。
 ホムラやユキは言うまでもない事だったが、ノエルと同じ元奴隷という立場だったシンシーラもやる気に満ち溢れている様子だ。
 静かに座ってボーッとしていたドーラや記録を取っているモニカは表情が動かないから分かりにくいが、自分のような者は少数派なんだろうな、とノエルは感じていた。

(らしくない事をもうしなくてもいいのは楽っすけど、流石にシズト様に求められたらした方が良いっすよね。それに子どもは……まあ、欲しい気もするっす。ああ、でも魔道具の研究に支障が出るっすかね? 流石にほったらかしは良くないっすし……面倒っすね。身籠ればこういう考えも何か変わるんすかねぇ)

 もう調べ終えた魔道具の魔法陣を何となく眺めながら、そんな事を思うノエルだった。
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