上 下
509 / 643
第18章 ニホン観光をしながら生きていこう

342.事なかれ主義者は根負けした

しおりを挟む
 昼食後、リーヴィアたち……というかパメラにねだられて一階にある遊戯室でポーカーをした。
 結果は…………まあ、お察しの通りだ。
 黒い翼をバサバサと動かし、駄々を捏ねているパメラがそこにはいた。

「まだ終わってないデス!!」
「いや、もう賭けるポテチないじゃん」

 今日のおやつはポテトチップスだった。「これならたくさん賭けられるデス!」と意気揚々と勝負を挑んできたパメラだったけど、肝心な所で負けてしまったので無一文だ。
 オールインしなければそれ相応に勝てるのに「たくさん賭けないと楽しくないデス!」と言ってやめようとしない。

「前は服も賭けれたデス!!」
「そういうの無しの賭場なんで」

 っていうか、そういう事だけなんで覚えてるんだろうね。
 失敗した事をしっかり覚えているとか?
 いや、失敗した事を覚えているのなら、毎回オールインして負けているから覚えているはずか。
 んー……謎だ。

「じゃあお小遣いを賭けるデス!」
「ダメだよ、パメラちゃん。お金はダメってお兄ちゃんが言ってたでしょ」
「うん、そうだね。ここの賭場は現金対応してないからね」

 パメラに注意したのはピンク色の髪の毛がトレードマークの幼女アンジェラだ。
 最近、別館の管理のお手伝いをし始めた彼女はメイド服を着ている。
 彼女の前にはポテチの山ができていた。
 大勝負の時に毎回勝っているので運がとてもいいんだろう。その運の良さをパメラに分けてあげて欲しい。

「じゃあ体で支払うデス!!」
「それも駄目ね。他の参加者が同じものを賭ける事ができないじゃない」

 同じ卓に参加していたロリエルフのリーヴィアが呆れた様子でパメラを見ている。
 彼女のポテチの量は、ポーカーを始めた時から大きく変わってない。大きく負ける事もないが大きく勝つ事もなかった。

「……私は別にいいけど……」

 意味深な事を呟きながらこちらをチラッと見てきたアンジェラをスルーする。
 反応したらややこしい事になりそうなので。
 子どもは子ども同士で恋愛してください。『イエス! ロリータ、ノー! タッチ』のつもりでやっているので。
 ……ドーラさんやパメラは見た目が幼いだけなので良しとしている。

「ほらほら、賭け事はこの辺でお開きね。お菓子食べながら新しい遊びでもやろっか」
「お菓子ないデス!」
「自業自得よ。今日は何をするの?」
「今日は、麻雀をします!」

 ニホン連合にあったので。一度やってみたかったんだよね。
 ニホン連合には過去の勇者が伝えた遊びがいくつも残っているようだ。
 カガワで雀荘を見かけて麻雀の事を思い出し、暇を持て余していたジュリーニにやり方など調べてもらっておいたのだ。
 ただ、細かい計算とかは伝わっていなかったらしい。
 役一覧表とざっくりとした点数だけ入手できたので、後は自作した。
 麻雀牌も、点数棒も、全自動……じゃなくて全魔動雀卓も一通り作る事ができた。
 全魔動雀卓に魔力を流すと、机の上にジャラジャラと不規則に置かれていた麻雀牌が全て裏向きになり、勝手に動き出す。
 不規則に動き回っていた麻雀牌だったが、それぞれ十七枚ずつの列を八つ作ると、そのうち四つが浮き上がって残りの四つの上に乗っかった。
 麻雀牌が定位置に移動したところでサイコロを振って親を決め、自分だったからもう一度サイコロを振った。
 それぞれ自分の手持ちの麻雀牌と、ドラを決めたところでルールと役一覧表が書かれた紙を見ながらゲームを始める。
 僕たちが覚束ない手つきでやっている中、リーヴィアは慣れた手つきで迷いなく牌を切っていく。

「やった事あるの?」
「読めばわかるでしょ?」

 当然でしょ? と言った感じで言われても、一度読んだだけじゃ無理っす。
 正面に座っているパメラも僕も、三つずつのセットが分かるように手持ちの牌同士をちょっと開けてる。アンジェラも……って、なんかすごいばらばらだな。
 役一覧が書かれた紙と見比べながら真剣な眼差しで考えている様子だけど、結構牌を引いているのにばらばら過ぎる。
 やっぱりサポートが必要だったかなぁ。
 なんて思っていたら、熟考していたパメラが捨てた真っ白な牌を見て「それ!!」とアンジェラが大きな声を出した。
 一組だけ二個セットがあったからポンだろうか? と思っていたらアンジェラが全部をみんなに見せるように倒した。

「コクシムソー……だよね?」

 ………アンジェラ先輩、ぱねぇっすわ。
 一瞬で持ち点がゼロになってしまったパメラは、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていた。



 その後、仕切り直して遊んだけど一位にはなれなかった。
 運が強いアンジェラと、記憶力がすごくいいリーヴィアのどちらかが一位になっていた。
 アンジェラは仕方ないとして、リーヴィアは混ぜられる前の牌の位置をすべて記憶して、どこに何があるのか覚えていたらしい。
 全魔動雀卓を改良しなきゃ、と思って食後自室でせっせと新しい机を作っていると、今日のお世話係のノエルが僕の肩を叩いた。
 振り向くと、少し頬を紅潮させたノエルがボソボソと喋る。

「……そろそろ、魔力が切れるんじゃないっすか?」
「そうかな。……ノエルはもう魔道具は良いの?」
「大体見たっす」

 彼女が先程までいたベッドの近くには魔道具が散乱していた。
 どうやら一通り見て満足したようだ。

「……とりあえず、片付けようか」
「分かったっす」

 僕も作業を切り上げて、ノエルと一緒に魔道具を片付けた。
 その途中、ふとノエルが思い出したように声をあげた。

「そういえば、勇者様たちの世界では夜に使う魔道具があるらしいっすね。シズト様も知ってるっすか?」
「……まあ、人並みには知ってるよ。僕たちの世界には魔法がないから、魔道具じゃないけど」
「どういう感じの物っすか? 魔道具で再現出来るっすか?」

 ……うん、閃いてしまったから作れるんじゃないかなぁ。実物を見た事がないから本当にそれ通りなのか分からないけど。
 ただ、黙っておいた方が良い気がする。

「………作れるんすね?」
「ソンナコトナイヨ」
「今すぐ作るっす!」
「作れないから無理ですー。っていうか、魔力切れるから無理ですぅ」
「その顔は嘘をついている顔な気がするっす! 魔道具の研究のために作るっす!」
「ちょっと何言ってるか分かんないですぅ」
「作らないなら今日は寝かせないっすよ!」
「魔道具使って寝るからいいですぅ、って安眠カバーを取るのは卑怯じゃないっすか!」
「シズト様が魔道具を作らないから悪いっす!」

 ノエルが安眠カバーの魔法陣に触れないように裏返して、枕をお尻の下敷きにした。
 そうすれば僕が取れないと思ったのか! お尻くらいもう触れるわ!
 って思って近づいたら彼女の思うツボだった。
 身体強化を使ったノエルに僕が押し倒された。

「作るって言うまで寝かせないっすよ」

 顔を真っ赤にしたノエルが明かりを消した。
 その日は今までで一番長い夜だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結・BL】偽装カップルですが、カップルチャンネルやっています【幼馴染×幼馴染】

彩華
BL
水野圭、21歳。ごくごく普通の大学生活を送る一方で、俗にいう「配信者」としての肩書を持っていた。だがそれは、自分が望んだものでは無く。そもそも、配信者といっても、何を配信しているのか? 圭の投稿は、いわゆる「カップルチャンネル」と言われる恋人で運営しているもので。 「どう? 俺の自慢の彼氏なんだ♡」 なんてことを言っているのは、圭自身。勿論、圭自身も男性だ。それで彼氏がいて、圭は彼女側。だが、それも配信の時だけ。圭たちが配信する番組は、表だっての恋人同士に過ぎず。偽装結婚ならぬ、偽装恋人関係だった。 始まりはいつも突然。久しぶりに再会した幼馴染が、ふとした拍子に言ったのだ。 「なぁ、圭。俺とさ、ネットで番組配信しない?」 「は?」 「あ、ジャンルはカップルチャンネルね。俺と圭は、恋人同士って設定で宜しく」 「は??」 どういうことだ? と理解が追い付かないまま、圭は幼馴染と偽装恋人関係のカップルチャンネルを始めることになり────。 ********* お気軽にコメント頂けると嬉しいです

俺が乳首痴漢におとされるまで

ねこみ
BL
※この作品は痴漢行為を推奨するためのものではありません。痴漢は立派な犯罪です。こういった行為をすればすぐバレますし捕まります。以上を注意して読みたいかただけお願いします。 <あらすじ> 通勤電車時間に何度もしつこく乳首を責められ、どんどん快感の波へと飲まれていくサラリーマンの物語。 完結にしていますが、痴漢の正体や主人公との関係などここでは記載していません。なのでその部分は中途半端なまま終わります。今の所続編を考えていないので完結にしています。

【完結】彼の瞳に映るのは  

たろ
恋愛
 今夜も彼はわたしをエスコートして夜会へと参加する。  優しく見つめる彼の瞳にはわたしが映っているのに、何故かわたしの心は何も感じない。  そしてファーストダンスを踊ると彼はそっとわたしのそばからいなくなる。  わたしはまた一人で佇む。彼は守るべき存在の元へと行ってしまう。 ★ 短編から長編へ変更しました。

【完結】天使がゴーレムになって戻って来ました〜虐げてきた家族とは決別し、私は幸せになります〜

仲村 嘉高
恋愛
家族に虐げられてきたフローラ。 婚約者を姉に奪われた時、本当の母は既に亡くなっており、母だと思っていたのは後妻であり、姉だと思っていたのは異母姉だと知らされた。 失意の中、離れの部屋にこもって泣いていると、にわかに庭が騒がしくなり……?

あの日、さようならと言って微笑んだ彼女を僕は一生忘れることはないだろう

まるまる⭐️
恋愛
僕に向かって微笑みながら「さようなら」と告げた彼女は、そのままゆっくりと自身の体重を後ろへと移動し、バルコニーから落ちていった‥ ***** 僕と彼女は幼い頃からの婚約者だった。 僕は彼女がずっと、僕を支えるために努力してくれていたのを知っていたのに‥

【R18】××に薬を塗ってもらうだけのはずだったのに♡

ちまこ。
BL
⚠︎隠語、あへおほ下品注意です

彼女をイケメンに取られた俺が異世界帰り

あおアンドあお
ファンタジー
俺...光野朔夜(こうのさくや)には、大好きな彼女がいた。 しかし親の都合で遠くへと転校してしまった。 だが今は遠くの人と通信が出来る手段は多々ある。 その通信手段を使い、彼女と毎日連絡を取り合っていた。 ―――そんな恋愛関係が続くこと、数ヶ月。 いつものように朝食を食べていると、母が母友から聞いたという話を 俺に教えてきた。 ―――それは俺の彼女...海川恵美(うみかわめぐみ)の浮気情報だった。 「――――は!?」 俺は思わず、嘘だろうという声が口から洩れてしまう。 あいつが浮気してをいたなんて信じたくなかった。 だが残念ながら、母友の集まりで流れる情報はガセがない事で 有名だった。 恵美の浮気にショックを受けた俺は、未練が残らないようにと、 あいつとの連絡手段の全て絶ち切った。 恵美の浮気を聞かされ、一体どれだけの月日が流れただろうか? 時が経てば、少しずつあいつの事を忘れていくものだと思っていた。 ―――だが、現実は厳しかった。 幾ら時が過ぎろうとも、未だに恵美の裏切りを忘れる事なんて 出来ずにいた。 ......そんな日々が幾ばくか過ぎ去った、とある日。 ―――――俺はトラックに跳ねられてしまった。 今度こそ良い人生を願いつつ、薄れゆく意識と共にまぶたを閉じていく。 ......が、その瞬間、 突如と聞こえてくる大きな声にて、俺の消え入った意識は無理やり 引き戻されてしまう。 俺は目を開け、声の聞こえた方向を見ると、そこには美しい女性が 立っていた。 その女性にここはどこだと訊ねてみると、ニコッとした微笑みで こう告げてくる。 ―――ここは天国に近い場所、天界です。 そしてその女性は俺の顔を見て、続け様にこう言った。 ―――ようこそ、天界に勇者様。 ...と。 どうやら俺は、この女性...女神メリアーナの管轄する異世界に蔓延る 魔族の王、魔王を打ち倒す勇者として選ばれたらしい。 んなもん、無理無理と最初は断った。 だが、俺はふと考える。 「勇者となって使命に没頭すれば、恵美の事を忘れられるのでは!?」 そう思った俺は、女神様の嘆願を快く受諾する。 こうして俺は魔王の討伐の為、異世界へと旅立って行く。 ―――それから、五年と数ヶ月後が流れた。 幾度の艱難辛苦を乗り越えた俺は、女神様の願いであった魔王の討伐に 見事成功し、女神様からの恩恵...『勇者』の力を保持したまま元の世界へと 帰還するのだった。 ※小説家になろう様とツギクル様でも掲載中です。

許してもらえるだなんて本気で思っているのですか?

風見ゆうみ
恋愛
ネイロス伯爵家の次女であるわたしは、幼い頃から変わった子だと言われ続け、家族だけじゃなく、周りの貴族から馬鹿にされ続けてきた。 そんなわたしを公爵である伯父はとても可愛がってくれていた。 ある日、伯父がお医者様から余命を宣告される。 それを聞いたわたしの家族は、子供のいない伯父の財産が父に入ると考えて豪遊し始める。 わたしの婚約者も伯父の遺産を当てにして、姉に乗り換え、姉は姉で伯父が選んでくれた自分の婚約者をわたしに押し付けてきた。 伯父が亡くなったあと、遺言書が公開され、そこには「遺留分以外の財産全てをリウ・ネイロスに、家督はリウ・ネイロスの婚約者に譲る」と書かれていた。 そのことを知った家族たちはわたしのご機嫌伺いを始める。 え……、許してもらえるだなんて本気で思ってるんですか? ※独特の異世界の世界観であり、設定はゆるゆるで、ご都合主義です。 ※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。教えていただけますと有り難いです。

処理中です...