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第18章 ニホン観光をしながら生きていこう
341.事なかれ主義者は作るか悩んだ
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食後、ジューンさんと一緒に世界樹トネリコまで転移し、そこから別行動となった。
ジューンさんはニホン連合からの使者の対応をするそうだ。
褐色肌の小さなドライアドちゃんたちに囲まれながら、トネリコに生育の加護を使ってサクッとお世話を終わらせた。
その他に特に用もなかったからさっさと退散する。
「人間さんおかえりなさーい」
「おかえり~」
ファマリーに戻ると出迎えてくれたのは肌が白い方のドライアドたちだ。
少し前は向こうのドライアドたちの事を意識している様だったけど、最近は全く気にした様子もない。
ばったり出くわしてもいつも通りニコニコしながら収穫物を渡してくるだけだ。
屋敷へと戻る途中で、ドライアドから貰ったリンゴのような見た目の甘い果実を頬張っていると、ドライアドたちの中でも小さい方のレモンちゃんに見つかってしまった。今日も彼女が丹精込めて育てたレモンを抱え、小さな足を懸命に動かして駆けてくる。
「レモン!」
「レモンは丸かじりできないから」
「デキル!」
喋った!? いや、今までレモンって喋ってたけど……え?
ジッとレモンちゃんを見たけど再び『レモン』以外の言葉を発する事はなく、レモンを丸かじりして口がキュッとなっていた。多分お手本のつもりで見せてくれてるんだろう。
レモン齧ったら、そうなるよね。分かる。分かるけど、無言でレモンを差し出されても僕には無理っす。
そう思ったけど、つぶらな瞳で見つめられると決心が揺らぐ。歩きながら果物を齧っていた僕が悪いっすね。
薄切りにしたものならいけるかな、と思って黙ってついて来ていたジュリウスに切ってもらった。
「すっぱ!!」
「レモーン!!」
キャッキャッと喜ぶレモンちゃんに申し訳ないから頑張って食べたけど、絶対口がさっきのレモンちゃんとおんなじ感じになってる。
「レモンだから当たり前だけどすっぱい! やっぱり丸かじりは無理だよ」
「レモーン……」
レモンちゃんの頭の上に咲いた白い花がしょんぼりと元気なく垂れたけれど、少ししたら回復した。
どうやら分かってくれたようだ。良かったよかった。
………でも、とりあえずこの残りのレモンをエミリーに何とかしてもらわないと。
「……レモンを使った何かって、はちみつ漬けくらいしか思いつかないけどできるんかな」
僕は作り方知らないけど、エミリーなら知ってるかな?
とりあえずエミリーに聞いてみようと厨房へ足を向けると既に先客がいた。
黒い翼が特長の翼人パメラだ。僕やモニカと同じように黒い髪に黒い瞳だけど、日本人の血は入っていないらしい。
パメラはこの厨房の責任者である狐人族のエミリーの後をひょこひょことついて回っている。
追いかけまわされているエミリーは、パメラをあしらいつつ部下の子たちに指示を出してお昼ご飯の準備をさせているようだ。
「おやつまだデスか?」
「まだよ」
「いつおやつデスか?」
「お昼ご飯を食べた後よ」
「じゃあ今からお昼ご飯を食べるデスよ!」
「まだ準備終わってないわよ」
「小腹が空いたからおやつを先にしてもいいと思うデス」
「良いわけないでしょ! あ、シズト様。レモンのはちみつ漬けですか?」
「そうだけど……よく分かったね?」
「獣人の耳はとってもいいんですよ」
「屋敷の外の音も聞こえるんだ」
「聞き耳を立ててたから知ってるだけデスよ」
「うっさいわね! そんな事ないわよ!」
エミリーは尻尾がぼふっと膨らみ、白い頬を真っ赤に染めてパメラを睨むが、パメラはにやにやとしている。
「ほんとデスか? シズト様がこっちに戻ってきてからあからさまに耳がピクピクと動いて、尻尾がパタパタと振られてたデスよ~? 周りの子たちもみーんな見てたと思うデス」
「余計な事を覚えてなくていいわよ!」
真っ赤に染まった顔のエミリーと視線が合うと、彼女の尻尾がパタパタと動き始める。
まだパメラが何か言おうとしていたけど、話が進まないので彼女の口の中にスライスしたレモンを入れ、口をキュッとさせておく。
「ジュリウスが切っちゃった後のレモンだけど大丈夫かな? アイテムバッグの中には今日貰ったレモンがまだあるから、足りなかったらそっちも使って」
「かしこまりました。ちょっとパメラ、アンタ暇ならハニービー系の魔物の蜜が売ってないか探してきなさい。なかったら、最悪他の魔物の蜜でもいいけど……」
「良いデスよ! 行ってくるデス!」
厨房から走り去ろうとしたパメラをむんずと捕まえたエミリーは、さらさらとメモに必要な物を書きこむと「どうせ忘れるだろうからこれを持っていきなさい」と渡した。
それを受け取って解放されたパメラは窓から飛び立っていった。
「……ほんと、どうしてどうでもいい事だけ覚えているんでしょうね」
「謎だね」
エミリーと二人で小さくなっていくパメラを見上げながら首を傾げるのだった。
記憶力向上するような魔道具を作るべきだろうか。
……その使い方すら忘れそうな気がするのは僕だけだろうか。
ジューンさんはニホン連合からの使者の対応をするそうだ。
褐色肌の小さなドライアドちゃんたちに囲まれながら、トネリコに生育の加護を使ってサクッとお世話を終わらせた。
その他に特に用もなかったからさっさと退散する。
「人間さんおかえりなさーい」
「おかえり~」
ファマリーに戻ると出迎えてくれたのは肌が白い方のドライアドたちだ。
少し前は向こうのドライアドたちの事を意識している様だったけど、最近は全く気にした様子もない。
ばったり出くわしてもいつも通りニコニコしながら収穫物を渡してくるだけだ。
屋敷へと戻る途中で、ドライアドから貰ったリンゴのような見た目の甘い果実を頬張っていると、ドライアドたちの中でも小さい方のレモンちゃんに見つかってしまった。今日も彼女が丹精込めて育てたレモンを抱え、小さな足を懸命に動かして駆けてくる。
「レモン!」
「レモンは丸かじりできないから」
「デキル!」
喋った!? いや、今までレモンって喋ってたけど……え?
ジッとレモンちゃんを見たけど再び『レモン』以外の言葉を発する事はなく、レモンを丸かじりして口がキュッとなっていた。多分お手本のつもりで見せてくれてるんだろう。
レモン齧ったら、そうなるよね。分かる。分かるけど、無言でレモンを差し出されても僕には無理っす。
そう思ったけど、つぶらな瞳で見つめられると決心が揺らぐ。歩きながら果物を齧っていた僕が悪いっすね。
薄切りにしたものならいけるかな、と思って黙ってついて来ていたジュリウスに切ってもらった。
「すっぱ!!」
「レモーン!!」
キャッキャッと喜ぶレモンちゃんに申し訳ないから頑張って食べたけど、絶対口がさっきのレモンちゃんとおんなじ感じになってる。
「レモンだから当たり前だけどすっぱい! やっぱり丸かじりは無理だよ」
「レモーン……」
レモンちゃんの頭の上に咲いた白い花がしょんぼりと元気なく垂れたけれど、少ししたら回復した。
どうやら分かってくれたようだ。良かったよかった。
………でも、とりあえずこの残りのレモンをエミリーに何とかしてもらわないと。
「……レモンを使った何かって、はちみつ漬けくらいしか思いつかないけどできるんかな」
僕は作り方知らないけど、エミリーなら知ってるかな?
とりあえずエミリーに聞いてみようと厨房へ足を向けると既に先客がいた。
黒い翼が特長の翼人パメラだ。僕やモニカと同じように黒い髪に黒い瞳だけど、日本人の血は入っていないらしい。
パメラはこの厨房の責任者である狐人族のエミリーの後をひょこひょことついて回っている。
追いかけまわされているエミリーは、パメラをあしらいつつ部下の子たちに指示を出してお昼ご飯の準備をさせているようだ。
「おやつまだデスか?」
「まだよ」
「いつおやつデスか?」
「お昼ご飯を食べた後よ」
「じゃあ今からお昼ご飯を食べるデスよ!」
「まだ準備終わってないわよ」
「小腹が空いたからおやつを先にしてもいいと思うデス」
「良いわけないでしょ! あ、シズト様。レモンのはちみつ漬けですか?」
「そうだけど……よく分かったね?」
「獣人の耳はとってもいいんですよ」
「屋敷の外の音も聞こえるんだ」
「聞き耳を立ててたから知ってるだけデスよ」
「うっさいわね! そんな事ないわよ!」
エミリーは尻尾がぼふっと膨らみ、白い頬を真っ赤に染めてパメラを睨むが、パメラはにやにやとしている。
「ほんとデスか? シズト様がこっちに戻ってきてからあからさまに耳がピクピクと動いて、尻尾がパタパタと振られてたデスよ~? 周りの子たちもみーんな見てたと思うデス」
「余計な事を覚えてなくていいわよ!」
真っ赤に染まった顔のエミリーと視線が合うと、彼女の尻尾がパタパタと動き始める。
まだパメラが何か言おうとしていたけど、話が進まないので彼女の口の中にスライスしたレモンを入れ、口をキュッとさせておく。
「ジュリウスが切っちゃった後のレモンだけど大丈夫かな? アイテムバッグの中には今日貰ったレモンがまだあるから、足りなかったらそっちも使って」
「かしこまりました。ちょっとパメラ、アンタ暇ならハニービー系の魔物の蜜が売ってないか探してきなさい。なかったら、最悪他の魔物の蜜でもいいけど……」
「良いデスよ! 行ってくるデス!」
厨房から走り去ろうとしたパメラをむんずと捕まえたエミリーは、さらさらとメモに必要な物を書きこむと「どうせ忘れるだろうからこれを持っていきなさい」と渡した。
それを受け取って解放されたパメラは窓から飛び立っていった。
「……ほんと、どうしてどうでもいい事だけ覚えているんでしょうね」
「謎だね」
エミリーと二人で小さくなっていくパメラを見上げながら首を傾げるのだった。
記憶力向上するような魔道具を作るべきだろうか。
……その使い方すら忘れそうな気がするのは僕だけだろうか。
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