上 下
506 / 1,023
第18章 ニホン観光をしながら生きていこう

339.事なかれ主義者は対談した

しおりを挟む
 僕の前には日本人離れした大柄な男性がいた。ニホン連合の一番端っこにある国の一つ『カガワ』の国主、香川真琴様だ。髪や瞳、肌の色で日本人……というかアジア人っぽいとは思うけど、平均身長を軽く超えている。
 武器は預かっているという事だったけど、鍛え抜かれたその体一つあれば僕なんて一瞬で倒す事はできそう。
 護衛なんて必要ない、という事だったけど納得した。

「初めまして。音無静人です。立ち話も何ですし、お座りください」

 広い部屋とはいえ、ラオさんと同じくらいの身長の人が正面にいると圧迫感がやばいので座ってもらった。
 僕は空いていた席に座る。彼の正面だった。
 ジューンさんも僕の隣に腰かけたので、レヴィさんとジューンさんに挟まれる形となった。
 僕の背後では、ジュリウスとドーラさんが控えている。セシリアさんは、僕とジューンさんの前にお茶が入った湯呑を置いてくれた。来訪者に合わせて今日はニホン連合産の緑茶だった。お茶菓子も和菓子っぽい。

「貴重なお時間を取って頂きありがとうございます。ニホン連合諸国を代表して、まずは感謝を」
「お気になさらないでください。僕もお話をできたらと考えておりましたから」

 思ってもいない事を言うけど、レヴィさんみたいに読心の加護を持っていないだろうし、魔道具関係も預かっているから別にいいだろう。
 真琴様は深々と下げていた頭を上げて、話し始めた。

「今回お時間を取ってもらったのは他でもない。我々の祖である『香川真琴』の故郷がどのようになっているのかをお聞かせいただければと思います」
「……香川真琴?」

 目の前にいる真琴様をジッと見ると、彼は何かに気付いた様子で顔の前で手を振った。

「私ではなく、初代香川真琴です。ニホン連合のどこの国でも、国主の名前は初代国主の名前を引き継いでいるのです。後から来た勇者様たちに少しでも親近感を持って貰えたら、という事らしいです。初代様は私とは似ても似つかぬ優しげな女性だったと伝え聞いております」
「へー……そうなんですね」
「私が質問をする前に、まずはシズト様の気になる事にお答えいたしましょう」

 真琴様は「さあ、何でも聞いてください」という感じで姿勢よく座って僕の方を見る。
 いきなり聞かれてもそうポンポン出て来ないよ。名前の謎は解けちゃったし。
 でも何も質問をしないというのも失礼な気がするから首をひねって考える。

「そうですね………。あ、ニホン連合の方々は全員漢字の読み書きができるのですか?」

 僕の問いかけに真琴様はゆっくりと首を横に振った。

「国主候補の者たちは、いつ勇者様が訪れてもいいように読み書きに限らず、一通りの事は学びます。候補でなくとも、貴族階級の者であれば、上流階級の者と接点を持つために学ぶ者も数多くいますが、完璧に身に着けた者は数少ないです。それだけの能力があれば城勤めできます」

 なるほど。じゃあ僕はニホン連合だったらお城で働く事ができる、と。働く気はないけど。
 ……他になんか聞きたい事あるかな。
 首をひねって考えてみるけど、別に城下町に行った時に気になった物はなかった気がする。
 ……いや、アレは気になったな。

「うどん屋さんばかりだったのはやっぱり『香川』だからですか?」
「そうですね。初代様が亡くなってしばらく経った後に訪れた勇者様が『香川なのにうどんがないのはおかしい!』といって広めた事がきっかけだったそうです。小麦粉の供給を自国で賄う事ができるように稲作ではなく畑作が多いのもそれが理由ですね。その影響もあって主食は白米ではなくうどんとなってます。カガワのうどんが有名になってからは勇者様が訪れる度にうどんを求めていらっしゃる事も多いですね。今代の勇者様も訪れたんですよ。残念ながら、急ぎの旅との事で、お話はできませんでしたが」

 過去の勇者の影響でした。
 まあ、香川といえばうどんってイメージあるからね。
 前世で行った事がないからイメージだけだけど、確かにカガワって言う名前を聞いたらうどんを期待する気持ちもわかる。
 勇者が訪れる度に改善されていったうどんは、前世のうどんと遜色ないくらいの物になっているかもしれない。

「シズト様も是非訪れた際にはうどんを食べてご意見をお聞かせいただければと思います」

 意見を聞かれても別に思う所はなかったんですけど……なんて答えたら隠れて訪れた事がばれてしまうので黙っておこう。
 その後、前世の日本についての話をする事になったけど、割と知っている内容ばかりだったみたい。
 スマホは流石に知らなかったみたいだけど、結構な頻度で勇者が来てるのかな。
 それとも、前の世界とこっちの世界では時間の流れが違う、とか?
 んー……分からん。考えても意味がない気もするからいいや。
 真琴様が満足するまで話をしていると、夕暮れ時になってしまっていた。
 今日はトネリコの勇者向けの高級旅館に泊まっていくらしい。

「それでは、失礼いたします。カガワを訪れた際には是非王城へお越しください。きっと驚かれると思いますよ」

 和風のお城だからですね、分かります。
 でももうクーたちは出発しちゃってるから行く事は無いかな。
 なんて事は言わずに、ニコニコしながら真琴様を見送った。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

異世界転生してしまったがさすがにこれはおかしい

増月ヒラナ
ファンタジー
不慮の事故により死んだ主人公 神田玲。 目覚めたら見知らぬ光景が広がっていた 3歳になるころ、母に催促されステータスを確認したところ いくらなんでもこれはおかしいだろ!

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

異世界のんびりワークライフ ~生産チートを貰ったので好き勝手生きることにします~

樋川カイト
ファンタジー
友人の借金を押し付けられて馬車馬のように働いていた青年、三上彰。 無理がたたって過労死してしまった彼は、神を自称する男から自分の不幸の理由を知らされる。 そのお詫びにとチートスキルとともに異世界へと転生させられた彰は、そこで出会った人々と交流しながら日々を過ごすこととなる。 そんな彼に訪れるのは平和な未来か、はたまた更なる困難か。 色々と吹っ切れてしまった彼にとってその全てはただ人生の彩りになる、のかも知れない……。 ※この作品はカクヨム様でも掲載しています。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

異世界でタロと一緒に冒険者生活を始めました

ももがぶ
ファンタジー
俺「佐々木光太」二十六歳はある日気付けばタロに導かれ異世界へ来てしまった。 会社から帰宅してタロと一緒に散歩していたハズが気が付けば異世界で魔法をぶっ放していた。 タロは喋るし、俺は十二歳になりましたと言われるし、これからどうなるんだろう。

処理中です...