上 下
501 / 643
第18章 ニホン観光をしながら生きていこう

336.事なかれ主義者は手紙が気になる

しおりを挟む
 カガワから戻り、世界樹トネリコの世話を済ませてもまだ日が暮れるまで時間があった。
 暇だったのでエミリーに頼まれた通り厨房の扉の前で立っている。
 お手伝いの子たちはこの時間、別館の方で料理の練習をしているらしい。今は厨房にはエミリーしかいない。
 尻尾をフリフリと嬉しそうに振っているエミリーに、出入り口付近から話しかける。

「ねえ、エミリー。ほんとにここに立ってるだけでいいの?」
「はい、大丈夫です。もうそろそろ来ると思うので扉を閉めていてもらえますか?」
「分かった」

 今回の僕の役目は、忍び込んでおやつを盗っていく子たちに声をかける役目だ。
 扉から飛び出てすぐ近くの窓から飛び去って行くのがいつもの逃走ルートらしいから、ここにいれば盗人に声をかけるのはできるだろうとの事だった。
 事が起きるまで暇だったのでのんびりと魔道具の事を考えていると、厨房の中が騒がしくなった。

「パメラ! リーヴィア! 今日という今日は許さないわよ!」
「すぐに逃げるわよ!」
「分かったデース!」

 扉が勢いよく開かれた。
 パメラとリーヴィアが抱えて運んでいる饅頭が入った袋は、彼女たちの分にしては多い。
 うん、現行犯ですね。
 パメラは僕を見ても気にせず、楽しそうに窓の外へと羽ばたいていったけど、リーヴィアは僕を視界に捉えると石のように固まってしまった。

「ちょっと、話そうか」
「………はぃ」

 今にも消えてしまいそうなか細い声で返事をしたリーヴィアはエルフの幼女だ。
 まだ数十年しか生きていないらしい。
 僕からしてみれば普通に年上なんだけど、エルフからしてみるとまだまだ子どもなんだとか。
 だからおやつを盗み食いくらいするだろうし悪戯もするだろう。
 ただ、彼女の今後のためにもダメな事はダメだとしっかり伝える必要があるはずだ。
 そう自分を納得させようとしてみたけど……どうやって叱ればいいんだろう。
 下を向いて固まってしまっているリーヴィアをどうしたものか、と考えている間に、リーヴィアを心配して戻ってきたパメラはエミリーに捕まり叱られていた。
 パメラはどれだけ叱っても明日になると忘れてしまうらしいけど、繰り返し伝える事が大事なはずだとエミリーは熱弁していたな。
 あそこまで声を荒げて怒るのは無理だけど……。
 チラッとリーヴィアに視線を向けると、小さな体がビクッと反応した。

「……おやつ、足りなかったかな?」

 リーヴィアはブンブンと音が鳴りそうな程首を振った。
 丁寧に結われたツインテールが振り回されている。

「そっかー。じゃあ、今度から盗み食いはやめてくれるかな? ほら、エミリーはいつも、皆の量を考えて作ってくれてると思うんだよね。リーヴィアたちが盗っちゃった分、他の誰かの分が少なくなっちゃうでしょ? 特に今日のお饅頭はあんまりたくさん買ってきてないからそうなっちゃうんだよね。僕はもう食べたから僕の分から減らせばいいんだけど……」
「ダメですよ」

 パメラを叱っていたエミリーがきっぱりと僕の意見をきっぱりと否定した。
 そっか、ダメか。いい案だと思ったんだけどな。ぶっちゃけお腹いっぱいだから、和菓子が気に入った人がいたらあげようかなとか考えてたし。

「とりあえず、戻そうか」

 こくりと頷いたリーヴィアは、大人しく僕についてきた。
 両手いっぱいに抱えた袋を厨房の机の上に置いてもらい、しょんぼりと大人しくしているリーヴィアの頭を優しく撫でる。手を伸ばした時にビクッと彼女が体を震わせたけど、気にしない。
 彼女の視線に合わせるようにしゃがんで、顔を覗き込む。

「今度からおやつが欲しい時はエミリーにおねだりしよっか。口ではいろいろ言うかもだけど、なんだかんだ甘いところあるからきっとたくさんもらえるよ」
「………うん」

 とりあえず、こんなもんでいいかなぁ。
 そんな事を思いながらしょんぼりしているリーヴィアの頭を撫で続けた。



 リーヴィアを叱った(?)後、余った魔力で魔道具をせっせと作った。
 トネリコやユグドラシルのお世話をする時はだいぶ魔力が余るから、そこそこの依頼をこなす事ができる。
 ちょっと今日は散財しちゃったし、真面目にコツコツ頑張った。
 魔力がほとんどなくなるまで続けた後は、夕食の時間までランチェッタ様とライデンからの手紙に返事を書いていた。
 ランチェッタ様にもニホン連合のお土産を送った方が良いかな……?
 ……まだ婚約をしている段階でもないからやめといた方が良いかな。
 結局、手紙だけをそれぞれの速達箱に入れた。
 手紙と言えば……カガワの国の王様から貰った手紙はまだジュリウスが持っている。
 食後、のんびりしている時に皆の前で確認しようと考えているのもあるけど、念のためジュリウスが先に確認するためだ。
 魔法などの何かしらの仕掛けはされていない、というジュリウスの見立てだったけど、念には念を入れて先に確認するそうだ。
 何ともないといいんだけど。
 そんな事を思いながら、甚兵衛姿でベッドの上をゴロゴロとしていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

異世界の約束:追放者の再興〜外れギフト【光】を授り侯爵家を追い出されたけど本当はチート持ちなので幸せに生きて見返してやります!〜

KeyBow
ファンタジー
 主人公の井野口 孝志は交通事故により死亡し、異世界へ転生した。  そこは剣と魔法の王道的なファンタジー世界。  転生した先は侯爵家の子息。  妾の子として家督相続とは無縁のはずだったが、兄の全てが事故により死亡し嫡男に。  女神により魔王討伐を受ける者は記憶を持ったまま転生させる事が出来ると言われ、主人公はゲームで遊んだ世界に転生した。  ゲームと言ってもその世界を模したゲームで、手を打たなければこうなる【if】の世界だった。  理不尽な死を迎えるモブ以下のヒロインを救いたく、転生した先で14歳の時にギフトを得られる信託の儀の後に追放されるが、その時に備えストーリーを変えてしまう。  メイヤと言うゲームでは犯され、絶望から自殺した少女をそのルートから外す事を幼少期より決めていた。  しかしそう簡単な話ではない。  女神の意図とは違う生き様と、ゲームで救えなかった少女を救う。  2人で逃げて何処かで畑でも耕しながら生きようとしていたが、計画が狂い何故か闘技場でハッスルする未来が待ち受けているとは物語がスタートした時はまだ知らない・・・  多くの者と出会い、誤解されたり頼られたり、理不尽な目に遭ったりと、平穏な生活を求める主人公の思いとは裏腹に波乱万丈な未来が待ち受けている。  しかし、主人公補正からかメインストリートから逃げられない予感。  信託の儀の後に侯爵家から追放されるところから物語はスタートする。  いつしか追放した侯爵家にザマアをし、経済的にも見返し謝罪させる事を当面の目標とする事へと、物語の早々に変化していく。  孤児達と出会い自活と脱却を手伝ったりお人好しだ。  また、貴族ではあるが、多くの貴族が好んでするが自分は奴隷を性的に抱かないとのポリシーが行動に規制を掛ける。  果たして幸せを掴む事が出来るのか?魔王討伐から逃げられるのか?・・・

器用貧乏の意味を異世界人は知らないようで、家を追い出されちゃいました。

武雅
ファンタジー
この世界では8歳になると教会で女神からギフトを授かる。 人口約1000人程の田舎の村、そこでそこそこ裕福な家の3男として生まれたファインは8歳の誕生に教会でギフトを授かるも、授かったギフトは【器用貧乏】 前例の無いギフトに困惑する司祭や両親は貧乏と言う言葉が入っていることから、将来貧乏になったり、周りも貧乏にすると思い込み成人とみなされる15歳になったら家を、村を出て行くようファインに伝える。 そんな時、前世では本間勝彦と名乗り、上司と飲み入った帰り、駅の階段で足を滑らし転げ落ちて死亡した記憶がよみがえる。 そして15歳まであと7年、異世界で生きていくために冒険者となると決め、修行を続けやがて冒険者になる為村を出る。 様々な人と出会い、冒険し、転生した世界を器用貧乏なのに器用貧乏にならない様生きていく。 村を出て冒険者となったその先は…。 ※しばらくの間(2021年6月末頃まで)毎日投稿いたします。 よろしくお願いいたします。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第二章シャーカ王国編

このステータスプレート壊れてないですか?~壊れ数値の万能スキルで自由気ままな異世界生活~

夢幻の翼
ファンタジー
 典型的な社畜・ブラックバイトに翻弄される人生を送っていたラノベ好きの男が銀行強盗から女性行員を庇って撃たれた。  男は夢にまで見た異世界転生を果たしたが、ラノベのテンプレである神様からのお告げも貰えない状態に戸惑う。  それでも気を取り直して強く生きようと決めた矢先の事、国の方針により『ステータスプレート』を作成した際に数値異常となり改ざん容疑で捕縛され奴隷へ落とされる事になる。運の悪い男だったがチート能力により移送中に脱走し隣国へと逃れた。  一時は途方にくれた少年だったが神父に言われた『冒険者はステータスに関係なく出来る唯一の職業である』を胸に冒険者を目指す事にした。  持ち前の運の悪さもチート能力で回避し、自分の思う生き方を実現させる社畜転生者と自らも助けられ、少年に思いを寄せる美少女との恋愛、襲い来る盗賊の殲滅、新たな商売の開拓と現実では出来なかった夢を異世界で実現させる自由気ままな異世界生活が始まります。

落ちこぼれの無能だと貴族家から追放された俺が、外れスキル【キメラ作成】を極めて英雄になるまで

狐火いりす@商業作家
ファンタジー
「貴様のような落ちこぼれの無能は必要ない」  神からスキルを授かる『祝福の儀』。ハイリッヒ侯爵家の長男であるクロムが授かったのは、【キメラ作成】のスキルただ一つだけだった。  弟がエキストラスキルの【剣聖】を授かったことで、無能の烙印を捺されたクロムは家から追い出される。  失意の中、偶然立ち寄った村では盗賊に襲われてしまう。  しかし、それをきっかけにクロムは知ることとなった。  外れスキルだと思っていた【キメラ作成】に、規格外の力が秘められていることを。  もう一度強くなると決意したクロムは、【キメラ作成】を使って仲間を生み出していく……のだが。  狼っ娘にドラゴン少女、悪魔メイド、未来兵器少女。出来上がったのはなぜかみんな美少女で──。  これは、落ちこぼれの無能だと蔑まれて追放されたクロムが、頼れる仲間と共に誰もが認める英雄にまで登り詰めるお話。

クラス転移したからクラスの奴に復讐します

wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。 ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。 だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。 クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。 まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。 閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。 追伸、 雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。 気になった方は是非読んでみてください。

異世界召喚された俺は余分な子でした

KeyBow
ファンタジー
異世界召喚を行うも本来の人数よりも1人多かった。召喚時にエラーが発生し余分な1人とは召喚に巻き込まれたおっさんだ。そして何故か若返った!また、理由が分からぬまま冤罪で捕らえられ、余分な異分子として処刑の為に危険な場所への放逐を実行される。果たしてその流刑された所から生きて出られるか?己の身に起こったエラーに苦しむ事になる。 サブタイトル 〜異世界召喚されたおっさんにはエラーがあり処刑の為放逐された!しかし真の勇者だった〜

処理中です...