【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~

みやま たつむ

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第17章 結婚しながら生きていこう

幕間の物語160.魔女と門番とお喋りパペット

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 ドラゴニア王国の最南端にあるダンジョン都市ドランには、異世界転移者が営んでいる魔道具店がある。
 ダンジョン産の物資を買い集めようと訪れた商人や、ダンジョン探索で一儲けした冒険者は、自分たちが欲する物を求めてやってくる。
 店に陳列されていない特別な魔道具は高級品でおいそれと一般人が買える物ではないのだが、この店にやってくる者たちにとっては比較的手が届く価格帯だった。
 また、大金を持っていなくとも利用する者たちもいる。
 街の通りで以前まで生活していた子どもたちや、ドランに住んでいる住人たちだった。
 子どもたちの目的は『なくならない飴』と呼ばれている魔道具だ。
 街で手に入れた情報を話せば、その価値に応じて魔道具が貰えるから毎日のように子どもたちは通っていた。
 様々な味が用意されている事もあり、それをコンプリートしようとしている世間話好きの女性たちもいる。
 また、飴が目的ではない住人たちが求めるのは、異世界転移者が作り出した魔道具ではなく、その妻やその弟子たちが作った魔道具だ。
 転移者ほどではないが、ある程度の効果は見込めるその魔道具は、店に乱雑に積まれていた。
 この店の売れ筋の品物は『入浴魔石』と呼ばれている魔道具だ。
 魔石タイプのそれの影響で、ドランでは空前の入浴ブームがやってきていた。
 公衆浴場に行かずとも、入浴魔石と人が入れるくらいの大きさの何かがあればどこでも風呂に入る事ができるからと自宅で風呂に入る人が増えていた。
 その他にも、主に女性に人気なのが沸騰魔石だ。
 沸騰する程の効果はないが、水に入れるだけで人肌くらいのお湯が出来上がるという事で料理に使われたり、洗い物に使われたりしていた。
 店の中は今日もそれらを求めてやってくる客たちでいっぱいだ。
 その様子をカウンターの向こう側に座り、頬杖をついてボーッと見ているのがこの店を任されている女性――ユキだった。
 とんがり帽子を目深に被り、短い白い髪の毛先を弄りながら黄色の瞳で気だるそうに来店者たちを見ていた。ドランではあまり見ない褐色の肌の彼女だったが、もう見慣れたのかじろじろと彼女の様子を見る者はいない。

「そろそろ、人を雇った方が良いかねぇ」

 警備などは既に自身以外の者たちに任せているユキだったが、店は未だに一人で回していた。
 一番忙しい午前中も十分対応できる範囲の状況だったからだ。
 シズトに直接関わりのある事ではないためやる気がいまひとつでないユキは、頬杖を突きながら商品の会計などをして過ごしていた。
 昼頃には客足はだんだんと遠のいていく。
 飴を求めてやってきた子どもたちは浮遊台車を使った配達の仕事に向かい、住人たちもそれぞれ仕事があるため昼時は来ない事が多い。
 やってくる客と言えば、貴族の関係者や、その日仕事をしていない冒険者や非番の軍人などだった。
 日がだいぶ傾いた頃にやってきた男もそうだった。
 大柄な彼は玄関の扉を頭を下げて中に入ってくると、背筋を伸ばした。
 頭は天井すれすれで、今にもぶら下げている照明にぶつかりそうだ。
 大男はキビキビと歩きながらカウンターに頬杖をついて様子を見ていたユキの元へと一直線に向かってきた。
 カウンターの前で足を止めると、口を開く。が、言葉が発せられる事はない。
 口を開いては閉じて、閉じては開いてを繰り返していた大男は、冷や汗をかいていた。先程までまっすぐユキを見ていた目も落ち着きなくさまよっている。
 ユキはそんな大男の様子を見て、ため息を吐いた。

「口下手な門番さんが、こんな所にいったい何の用だい?」
「お、お、俺は………」

 なかなか言葉が出て来ない彼の前に、ユキがスッと紙とペンを差し出すと、彼はそのペンを取って紙に字を書き始める。

「なるほどねぇ。人に対して思うように喋れないから、相手に意見を伝える魔道具が欲しい、と」

 こくこくと頷く大男を見上げて、ユキはしばし考えた。

「まあ、色々あるけどねぇ。伝えたい相手は特定の人物なのかい? それとも、周囲の不特定多数かい? そうかい、不特定多数なのかい。で、あれば……アレが良いね」

 ユキが机の上に置いていた木製の小さなワンドを振ると、彼女の後ろにあった大きな棚の引き出しの一つが勝手に開いた。
 そこから出てきたのはハンドパペットと呼ばれる、手に嵌めて動かす人形だった。
 可愛らしい黒猫をモチーフに作られたそれを興味深そうに見ている大男のために、ユキは黒猫のハンドパペットを右手に着ける。

「何か伝えたい事があれば、魔力を込めながら心の中で念じるのさ。すると」
『こんなふうに人形が喋るのさ』

 ユキとは異なる声が黒猫から発せられた。
 子どものような高くて可愛らしい声を発する黒猫のハンドパペットを手から外すと「試しに使ってごらんよ」と言って大男に差し出す。
 ハンドパペットは大きめに作られていたが、大男が着けるとサイズがギリギリのようだ。
 だが、魔道具としてしっかり使う事ができるようだ。

『これはいくらなんだ?』
「そうだねぇ、ざっとこのくらいだろうか」

 通常の魔道具よりも割高な値段だったが、大男は空いていた右手で金貨が入った袋を取り出すと、カウンターの上に置く。
 ユキはそこから十数枚金貨を取り出すと「確かに頂いたよ」と言って袋を大男に返した。
 大男はハンドパペットが気に入ったのか、それを着けたまま店から出て行った。
 翌日、子どもたちが「おっかない顔の門番が変な人形を手に着けて仕事してる」と伝えてきたが、ユキは既に知っている事だったから一日分の飴しか渡さなかった。
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