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第17章 結婚しながら生きていこう
幕間の物語158.用心棒の悩み事
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獣人の国アクスファースの首都スプリングフィルドの端っこの方に、魔道具店『サイレンス』がある。
農耕民族が管理している区画に建てられたその店と、その店の正面に仲良く並んでいる同じような3軒の教会以外は誰も使っていないような小屋が並んでいた。
ただ、それは冒険者クラン『サイレンス』ができるまでの事だった。
そのクランができてからは店の周囲の小屋は一気に取り壊され、新しく建物が建てられた。
農耕民族の土地ではあったが、事前に関係者が買い取っていた事もあり特に問題も起きていない。
魔道具店と教会を中心にどんどん新しい建物が建てられていくが、魔道具店の店主兼教会の管理人であるライデンという男は興味が全くないのか、日がな一日ロッキングチェアに揺られながらのんびり過ごしていた。
以前までは足繁く通っていた他の勢力からの刺客も最近は全く来ておらず平和そのものだった。
時折やってくる客や、魔力マシマシ飴を求めてなだれ込んでくる者たちの対処をしながら同じような日々を繰り返していたライデンだったが、ある日いつものように届いたシズトからの手紙を読んでいた際に、眉がピクッと動いた。
「どうしたの、親分」
「どうかされましたか?」
その変化に最初に気が付いたのは、ライデンの膝の上に乗ってうとうとと微睡んでいたアビゲイルという猫人族の女性と、ライデンにクランに関する報告書を渡そうとしていた狐人族の男デイモンドだった。
心配そうにしている二人を他所に、ライデンはただ一言「いつものやつら呼んで来い」と命じた。
そうして集められたのは、最初にライデンについて行くと決めた者たちだった。
大柄な熊人族の男ランショーが、全員集まった事を確認すると、ロッキングチェアに座って揺られていたライデンの前に歩み出て片膝をついた。
「親分、全員揃いました。何なりとご命令を」
その後ろでは同じように片膝をついて首を垂れている獣人たち。彼らの瞳は一様に野心に燃えている。今まで全く呼び出しをしてこなかったクランマスターが呼び出したという事は、他勢力との争いだろうと考えていたのだろう。
だが、実際にライデンが言った言葉はそんな事ではなかった。
ライデンは彼らをじろりと睥睨すると、「お前ら、しばらくこの周りに誰も近づけるな」と命じた。
一瞬、何を言われたか理解できなかった面々だったが、最初に思考を切り替えたデイモンドが頭を垂れたままライデンに「農耕民族もでしょうか?」と問いかけると、ライデンは鷹揚に頷いた。
「あと、お前らもな」
「私たちもですか!? どうしてですか!」
尻尾をぶわっと膨らませて驚いた様子の獣人たちだったが、その中で一番反応が大きかった猫人族のアビゲイルが勢いよく立ち上がって問いかけた。が、ライデンにジロリと睨まれると、尻尾を垂れさせて慌てて縮まるかのように膝をついて首を垂れる。
アビゲイルを庇うように狼人族の女コニーがおずおずと手を挙げて発言の許可を求めると、ライデンが視線をアビゲイルからコニーに移した。
「親分、アタイも納得いかねぇよ。そりゃ、親分は強いけどさ。ここら一帯誰もいない状況にした時に、国の奴らが親分を潰しに来たらどうするのさ。……あ、もしかして誘い込むことが目的とか?」
「そんな事なんでオイラがしなきゃいけないんだ? それに国の奴らが本腰で攻めて来たとしても、お前らがいてもどうしようもないだろ」
「そ、そうだけどさぁ。親分が戦いやすいように雑魚どもを引き付けるくらいはできると思うんだけど……」
「お前らに抑えられるくらいの雑魚だったら、オイラに傷一つつける事はできねぇだろうよ」
シュンッと尻尾と耳を垂れてそれ以上何も言わなくなったコニーの後に続いたのはデイモンドだった。
「周辺に集まってきている者たちを一度に移動させるにはそれ相応の理由が必要です。訳を教えていただければ迅速に移動させることも可能ですが……我々が知る必要のない事でしょうか」
彼がそう尋ねると、ライデンは眉根を寄せ、それから首を傾げた。
「別にそうとは言ってねぇだろ」
「……そう、ですか。では、どのような理由でしょうか?」
「この手紙を書いた御方がここにやってくるんだ。下手な手出しされて万が一の事があったらいけねぇだろ? だからおめぇらには誰も入って来ねぇようにしてほしい」
「周囲を固めている者たちを追い出すのはなぜですか?」
「万が一その御方に腕試しで突っかかるような事があったら面倒だからだ」
獣人の国アクスファースでは『強者に従う』事が当たり前だ。
無類の強さを示し、狩猟民族や遊牧民族からの干渉を跳ね除け、農耕民族からは土地を買い取ったライデンが従っているのはどんな人物なのだろう、と気になるのが獣人の性だった。
それを理解したライデンは、シズトが来ると手紙で知らされた時、面倒事が起きる事が簡単に想像できてしまった。
だからクランメンバーすら、しばらくの間寄せ付けないようにしようと考えたようだ。
シズトの事をよく知らない面々は不思議そうに首を傾げるが、強者に従う彼らは言われたとおりに荷物をまとめ、周囲の建物に住んでいる者たちに声をかけ出て行った。
その数日後、小柄な女の子を背負った黒髪の男の子が現われたが、建物が増えているのに人がいない事に関して特に疑問を持つ事無く、神様の像を直すと別の場所に転移してしまった。
戻ってくるかもしれない、としばらくその場にとどまっていたライデンだが、日が暮れるまで待っても戻って来なかったので、寝床としている三柱の教会の真ん中の建物に入って行く。
「いちいち指示するのは面倒だが、シズト様に危害が加わった方が面倒だしなぁ。オイラもちょっと本気出した方がいいかもしれんな。ただ、それを自衛と解釈できるか……分からんなぁ」
ライデンは部屋の大部分を占めている大きなベッドの上に寝転がりながら独白したが、彼のその呟きを聞いている者はその場にはいなかった。
農耕民族が管理している区画に建てられたその店と、その店の正面に仲良く並んでいる同じような3軒の教会以外は誰も使っていないような小屋が並んでいた。
ただ、それは冒険者クラン『サイレンス』ができるまでの事だった。
そのクランができてからは店の周囲の小屋は一気に取り壊され、新しく建物が建てられた。
農耕民族の土地ではあったが、事前に関係者が買い取っていた事もあり特に問題も起きていない。
魔道具店と教会を中心にどんどん新しい建物が建てられていくが、魔道具店の店主兼教会の管理人であるライデンという男は興味が全くないのか、日がな一日ロッキングチェアに揺られながらのんびり過ごしていた。
以前までは足繁く通っていた他の勢力からの刺客も最近は全く来ておらず平和そのものだった。
時折やってくる客や、魔力マシマシ飴を求めてなだれ込んでくる者たちの対処をしながら同じような日々を繰り返していたライデンだったが、ある日いつものように届いたシズトからの手紙を読んでいた際に、眉がピクッと動いた。
「どうしたの、親分」
「どうかされましたか?」
その変化に最初に気が付いたのは、ライデンの膝の上に乗ってうとうとと微睡んでいたアビゲイルという猫人族の女性と、ライデンにクランに関する報告書を渡そうとしていた狐人族の男デイモンドだった。
心配そうにしている二人を他所に、ライデンはただ一言「いつものやつら呼んで来い」と命じた。
そうして集められたのは、最初にライデンについて行くと決めた者たちだった。
大柄な熊人族の男ランショーが、全員集まった事を確認すると、ロッキングチェアに座って揺られていたライデンの前に歩み出て片膝をついた。
「親分、全員揃いました。何なりとご命令を」
その後ろでは同じように片膝をついて首を垂れている獣人たち。彼らの瞳は一様に野心に燃えている。今まで全く呼び出しをしてこなかったクランマスターが呼び出したという事は、他勢力との争いだろうと考えていたのだろう。
だが、実際にライデンが言った言葉はそんな事ではなかった。
ライデンは彼らをじろりと睥睨すると、「お前ら、しばらくこの周りに誰も近づけるな」と命じた。
一瞬、何を言われたか理解できなかった面々だったが、最初に思考を切り替えたデイモンドが頭を垂れたままライデンに「農耕民族もでしょうか?」と問いかけると、ライデンは鷹揚に頷いた。
「あと、お前らもな」
「私たちもですか!? どうしてですか!」
尻尾をぶわっと膨らませて驚いた様子の獣人たちだったが、その中で一番反応が大きかった猫人族のアビゲイルが勢いよく立ち上がって問いかけた。が、ライデンにジロリと睨まれると、尻尾を垂れさせて慌てて縮まるかのように膝をついて首を垂れる。
アビゲイルを庇うように狼人族の女コニーがおずおずと手を挙げて発言の許可を求めると、ライデンが視線をアビゲイルからコニーに移した。
「親分、アタイも納得いかねぇよ。そりゃ、親分は強いけどさ。ここら一帯誰もいない状況にした時に、国の奴らが親分を潰しに来たらどうするのさ。……あ、もしかして誘い込むことが目的とか?」
「そんな事なんでオイラがしなきゃいけないんだ? それに国の奴らが本腰で攻めて来たとしても、お前らがいてもどうしようもないだろ」
「そ、そうだけどさぁ。親分が戦いやすいように雑魚どもを引き付けるくらいはできると思うんだけど……」
「お前らに抑えられるくらいの雑魚だったら、オイラに傷一つつける事はできねぇだろうよ」
シュンッと尻尾と耳を垂れてそれ以上何も言わなくなったコニーの後に続いたのはデイモンドだった。
「周辺に集まってきている者たちを一度に移動させるにはそれ相応の理由が必要です。訳を教えていただければ迅速に移動させることも可能ですが……我々が知る必要のない事でしょうか」
彼がそう尋ねると、ライデンは眉根を寄せ、それから首を傾げた。
「別にそうとは言ってねぇだろ」
「……そう、ですか。では、どのような理由でしょうか?」
「この手紙を書いた御方がここにやってくるんだ。下手な手出しされて万が一の事があったらいけねぇだろ? だからおめぇらには誰も入って来ねぇようにしてほしい」
「周囲を固めている者たちを追い出すのはなぜですか?」
「万が一その御方に腕試しで突っかかるような事があったら面倒だからだ」
獣人の国アクスファースでは『強者に従う』事が当たり前だ。
無類の強さを示し、狩猟民族や遊牧民族からの干渉を跳ね除け、農耕民族からは土地を買い取ったライデンが従っているのはどんな人物なのだろう、と気になるのが獣人の性だった。
それを理解したライデンは、シズトが来ると手紙で知らされた時、面倒事が起きる事が簡単に想像できてしまった。
だからクランメンバーすら、しばらくの間寄せ付けないようにしようと考えたようだ。
シズトの事をよく知らない面々は不思議そうに首を傾げるが、強者に従う彼らは言われたとおりに荷物をまとめ、周囲の建物に住んでいる者たちに声をかけ出て行った。
その数日後、小柄な女の子を背負った黒髪の男の子が現われたが、建物が増えているのに人がいない事に関して特に疑問を持つ事無く、神様の像を直すと別の場所に転移してしまった。
戻ってくるかもしれない、としばらくその場にとどまっていたライデンだが、日が暮れるまで待っても戻って来なかったので、寝床としている三柱の教会の真ん中の建物に入って行く。
「いちいち指示するのは面倒だが、シズト様に危害が加わった方が面倒だしなぁ。オイラもちょっと本気出した方がいいかもしれんな。ただ、それを自衛と解釈できるか……分からんなぁ」
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