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第17章 結婚しながら生きていこう

321.事なかれ主義者は告げ口した

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 獣人の国アクスファースは元々日照りの影響で水不足が深刻化していたらしい。
 ただ、都市国家トネリコに向かう道中、通り過ぎた村にそれぞれ魔道具を設置したおかげか、多少は緩和しているとの事だった。
 問題はその水の魔道具を奪おうとした輩がいた事だけど、流石に村の外に設置した水が湧く魔道具は持って行かなかったようだ。最近は水を入れる容器を大量に持ってきては水を汲んでいくらしい。仲良くやっているようで何より。
 それはそうと、いい加減あの魔道具にも名前を付けた方が良いよなぁ。
 平和の泉とかなんとか言われてたけど、泉ってサイズじゃないし。
 ……まあ、魔法の水槽とかでいいか。プールって程大きくないし。
 クーのおかげで一通り村を回って神様の像を直す事ができた。
 あんまり長居すると、狩猟民族や遊牧民族の人たちに捕まったり、農耕民族の人たちにハニートラップをしかけられたりしそうだったから、像の微修正が終わるとその度にクーがすぐさま転移してくれて助かった。

「ほら、あーしがいるだけでよかったでしょ!」
「そうだね、クーのおかげで何もなかったよ」

 おんぶしてるから頭を撫でる事は出来ないけど、クーは褒められてご満悦なようだ。
 あんまりクーをかまってあげる事ができていなかったから、昼食の時間はクーと二人でお昼ご飯を食べた。
 どこか分からない平原に転移したクーと一緒に食べるお弁当は、なんだか小学生くらいにした遠足を思い出して懐かしくなった。
 世界樹の根元だとドライアドたちが寄ってきて賑やかになるからあんまりできないけど、たまには外でのんびりご飯を食べるのも悪くない。
 お昼ご飯を食べ終わった後に作業を再開し、神様の像をすべて直してもまだ日が暮れていなかったが、とりあえず都市国家トネリコの旅館に戻った。
 僕たちの魔力に気が付いたのか、旅館の中からすぐにジュリウスが出てくる。

「おかえりなさいませ」
「ただいま」
「この後はいかがお過ごしでしょうか」
「屋敷に戻って、余った魔力で魔道具作りかな。アクスファースから依頼は来てないけど、通った村にしか水の魔道具設置してないから、水不足はまだまだあるみたいだし」
「左様ですか。では私もご一緒します」

 クーと僕を結び付けていた布を解き、彼女を背中から下ろす。
 クーには明日、ニホン連合に出発するようにお願いした。
 過去の勇者たちが作った国……同郷の人間として、気にならないわけがない。
 ただ、話を聞く限り、このままの格好だと面倒事に巻き込まれる可能性が高いから、変装用の魔道具も準備しておかないと。
 以前、陽太たち対策で作った魔道具がアイテムバッグの中の肥やしになってると思うし、それを使おうか、それとも新しく作るか……悩む。
 まあ、とりあえず帰ってから考えよう。
 一瞬でファマリーの根元に移動すると、外ではアンジェラとパメラ、それからリーヴィアが追いかけっこをしていた。黒い翼をバサバサと動かして飛んで逃げるパメラを二人で追いかけているようだ。
 アンジェラがパメラを捕まえようとジャンプするたびに、彼女のピンク色の髪が風に靡いてボサボサになっている。っていうかジャンプ力すご!
 僕が驚いていると、近くにいたジュリウスがそれを見て「身体強化ですね」と教えてくれた。
 僕が使えない魔法ですね、分かります。
 まあ、身体強化させる魔道具を作ればできなくはないんだけど。
 それこそ、バトル漫画とかに出てくる戦闘用スーツみたいな感じの作ればいい感じになるんじゃないかなぁ。
 ……戦闘なんてするつもり毛頭ないから、運動用スーツになりそうだけど。
 リーヴィアも小さな体を魔法で操って飛んで移動している。風の精霊に力を借りているんだとか。

「パメラ、待ちなさい! 今日という今日は許さないんだから! アンジェラ! もっと本気出しなさいよ!」
「もうあきらめようよー。エミリーさんにいったらもらえるよ?」
「疑われるから嫌よ!」
「ひごろのおこないのせいだとおもうなぁ」

 どうやらパメラが何かやらかしたようだ。
 よくよく目を凝らしてみれば、飛び回っている彼女の両手は、何かを抱えているようにも見える。
 時間的にお菓子か何かを独り占めしようとしているのだろう。
 僕が口出ししてもあれだから、とりあえず屋敷にいるはずのエミリーに伝えるだけにしておこう。
 厨房に向かうと、狐人族のエミリーが新人たちに指示を出していた。
 広かった厨房が、人数が増えたからか若干狭くなったような気もするけど、誤差だろう。
 話しかけるタイミングをどうしようかと考えていたら、エミリーが僕の方を振り向いた。

「お待たせしました、シズト様。おやつをご所望ですか?」
「いや、違うけど……やっぱり獣人ってすごいね。僕がいるって見なくても分かったんだ」
「人族より五感が鋭いですから。ご用件はなんでしょうか?」
「外でパメラがおやつか何かを独り占めしようとしているみたいでさ。その内アンジェラとリーヴィアが来て追加を貰いに来るかもしれないから、先に言っておこうかなって」
「大丈夫ですよ、シズト様。状況はしっかり聞こえておりますから。いつものリーヴィアの悪巧みではない事は承知しております」
「いつも悪巧みしてるんだ……」
「ええ、まあ。まだ許容範囲だからお伝えしてませんでしたが、度が過ぎるようでしたらシズト様から注意をして頂ければと存じます」
「うーん、僕から言ってやめるかなぁ」

 ちょっと疑問だけど、エミリーだけではなく、話を聞いていたジュリウスも「やめるでしょう」と口を揃えて言ったので、頼まれたら注意してみよう。
 伝える事は伝えたので、ノエルの部屋に行って魔道具作りでもしよう。
 ……お邪魔するわけだし、ちょっと手土産を用意しようかな。

「すぐに準備しますので少々お待ちください」
「お手数おかけします」

 エミリーがおやつの準備を終えるまで、厨房の様子を眺めながら待っていたけど……なんか新しく入った子たちが直立不動だからあんまり顔出さない方が良いかなぁ。
 ちょっと居心地の悪さを感じながら、尻尾をフリフリしながらおやつの準備をしているエミリーの背中をジッと見て過ごした。
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