上 下
475 / 1,033
第17章 結婚しながら生きていこう

幕間の物語156.お嫁さんたちは話し合った

しおりを挟む
 そう。そうなのだ。つい先程、彼がツラツラと語った通り、俺は繰り返してしまったのだ。あの俺達にとって記念すべき晩でのポンコツムーブを。

 バアルさんに話しかけられても、頭の中はお花が咲き乱れていて上の空。あーんしてもらえれば食べこぼし、お返しをすれば彼のお髭や口元をソースでべっとり汚す。毎日お風呂をご一緒させてもらっているくせに、彫刻みたいにカッコいい彼の裸を見た瞬間、腰を抜かしてひっくり返りそうになる。

 という、まるで再現VTRか? ってくらいに全く同じ反応とやらかしをしてしまったのだ。因みにその日もバアルさんから心配されて、なおかつ誤解は解けている。単純に俺が浮かれまくっていただけだって。

 つまりはだ。バアルさんからしたら丸わかりなのだ。今回も俺が浮かれてしまっているって。久々に彼からたっぷり可愛がってもらえるってことで、彼と愛し合えることで、頭がいっぱいになっているんだって。

 なんだか、夫婦になれたからって変わらないな……やっぱり俺ばっかりだ……ドキドキしてるの……

「……仕方ないでしょう? バアルさんのこと、大好きなんですから……まぁ、バアルさんは俺よりずっと大人だから……余裕、なんでしょうけど……」

 子供っぽい寂しさが滲み出てしまったからだ。言わなくてもいいことを。

 マズいと思う頃には、優しく手を退かされていた。大きな手のひらから後頭部を掴まれて、分厚い胸板に押しつけるように抱き寄せられて。今彼が、どんな顔をしているのか分からない。でも、きっとイヤな想いを。

「聞こえておりますか?」

「え……?」

「私めの心音が」

「あ……はい、聞こえて……いますけど……」

「では、どのように聞こえておりますか?」

 どのようにって……そんなの……

 普通ですけど、とは言えなかった。だって、明らかに早かったのだ。目を閉じて、耳を押しつけて、集中して聞いてみても変わらない。

 忙しなく、ドッ、ドッ、ドッと駆けている命の音は、抱き締めてくれる身体から伝わってくる熱は、もしかしたら俺よりも。

「……ごめんなさい……俺ばっかりって、思っちゃって……余裕だなんて、勝手に決めつけちゃって……」

「ふふ、分かって頂けたのであれば」

 一度ぎゅっと強く抱き寄せられてから、再び対面した彼はますますご機嫌そう。風を切るように羽をはためかせ、目尻のシワを深くしている。

 それは何よりなのだけれど。優しい視線が、漂う空気が、擽ったくて仕方がない。思わず顔を背けたくなったけれども見逃してくれるハズもなく。

「アオイは周りの方をよく見れて、思いやりに長けている御方ですのに……ことご自身に関しては、よく鈍くなってしまわれますよね? そういうところも好ましく思っておりますが」

 捕まってしまった。細長い指に顎を掴まれて、額をくっつけられて、鮮やかな緑の瞳に捉えられてしまった。

「もっと貴方様には、分かって頂く必要があるようですね……私めが、どれほどまでに貴方様に焦がれて止まないのかを……」

「あ……バアルさ……」

 絡んだ視線は熱を帯びていて、柔らかな微笑みは艶めいていた。お手柔らかにと、お願いする間もなく奪われていた。言葉も、吐息も、混じって分からなくなっていた。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

14歳までレベル1..なので1ルークなんて言われていました。だけど何でかスキルが自由に得られるので製作系スキルで楽して暮らしたいと思います

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕はルーク 普通の人は15歳までに3~5レベルになるはずなのに僕は14歳で1のまま、なので村の同い年のジグとザグにはいじめられてました。 だけど15歳の恩恵の儀で自分のスキルカードを得て人生が一転していきました。 洗濯しか取り柄のなかった僕が何とか楽して暮らしていきます。 ------ この子のおかげで作家デビューできました ありがとうルーク、いつか日の目を見れればいいのですが

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……

karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

元34才独身営業マンの転生日記 〜もらい物のチートスキルと鍛え抜いた処世術が大いに役立ちそうです〜

ちゃぶ台
ファンタジー
彼女いない歴=年齢=34年の近藤涼介は、プライベートでは超奥手だが、ビジネスの世界では無類の強さを発揮するスーパーセールスマンだった。 社内の人間からも取引先の人間からも一目置かれる彼だったが、不運な事故に巻き込まれあっけなく死亡してしまう。 せめて「男」になって死にたかった…… そんなあまりに不憫な近藤に神様らしき男が手を差し伸べ、近藤は異世界にて人生をやり直すことになった! もらい物のチートスキルと持ち前のビジネスセンスで仲間を増やし、今度こそ彼女を作って幸せな人生を送ることを目指した一人の男の挑戦の日々を綴ったお話です!

処理中です...