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第17章 結婚しながら生きていこう

317.事なかれ主義者は指輪について考えた

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 蔦や葉っぱの様な文様が刺繍で表現されている服に着替え終わり、お礼の挨拶をのんびりと考えていると、モニカが戻ってきて準備ができた事を伝えてきた。
 モニカは普段のメイド服ではなく、黒色のドレスを着ていた。いつも見慣れているメイド服ではないので違和感がすごい。
 ふんわりと広がった長いスカートは、モニカが歩く度に揺れる。
 背中は透けている素材で作られていて、ちょっと目のやり場に困りながら食堂までモニカと一緒に歩く。
 食堂の扉の前に着くと、扉が内側から開いた。

「これはまた……すごいね」
「王家の方々の料理をお出しする事になりましたので、外部から助っ人が来てこのような事になりました。中へどうぞ」

 モニカに促される形で食堂の中に足を踏み入れると、室内にいた人たちが拍手で出迎えてくれた。
 普段は大きな長机が置かれている食堂は、いくつかの円卓が置かれていて、その上には見た目が豪華な料理がたくさん並んでいた。誕生日ケーキらしきものもある。……ウエディングケーキか? と思うくらいでかい。
 少し前まで各々談笑をしていたのだろう。いくつかのグループに分かれてこちらを見ている。
 普段は給仕をしている狐人族のエミリーは、赤い瞳と同色の真っ赤なドレスを着ていた。尻尾が出せるようにと特注されたドレスのようだ。白いもふもふの尻尾が元気にぶんぶんと振られている。
 その近くにいた狼人族のシンシーラは、体のラインがよく分かるドレスを着ていた。女性らしく大きく膨らんだ胸、キュッと引き締まった腰回り、そこからまた丸みを帯びて膨らんでいるお尻。スカートのスリットから肉付きの良い太腿がチラチラと見えている。彼女の尻尾も元気いっぱいだ。料理に毛が入らないかちょっと心配だ。
 パメラは周囲の様子を気にした様子もなく、円卓の上に並べられた料理を食べていた。
 小柄な彼女だが、大胆に背中が大きく開いているのは黒い翼があるからだろう。
 モニカはその集団に合流するようだ。

「ほら、入り口でボケッと立ってないでこっち来い」
「ごめん、今行く」

 僕が扉をくぐって中に入ると、壁際に控えていたメイド服を着た女性たちが静かに扉を閉めた。
 ……みんな見た事がない人だ。

「お父様たちが来る際に、侍女を数人連れてきてもらったのですわー。料理は宮廷料理長が今日の料理大会の審査員をするため訪れていたからお願いしたのですわ」

 僕の様子を見てレヴィさんが説明してくれた。
 彼女は胸元が大きく開いた青いドレスを着ていた。とても大きな胸が今にも零れ落ちそうだ。
 レヴィさんの後ろに控えているセシリアさんも、メイド服ではなくドレスを着ていた。薄い青色のそのドレスは、全体的になんか透けている。スカートの裾の方や、胸元辺りとか……。
 僕の視線に気づいたのか、セシリアさんは嘆息した。

「シズト様しか殿方がいらっしゃらない予定だったのでこれにしていたんです。他のドレスにしても良かったのですが被ってしまう可能性もありましたから……」
「……どんまい」

 でも、男が僕だけでもそのドレスはちょっと大胆過ぎやしませんかね。
 視線をさらに後ろに向けると、ドーラさんがいた。
 小柄な彼女は、ドレスというよりワンピースという感じの服を着ていた。上から下まですとんと真っすぐなラインでくびれや締め付けがない。

「これが楽」
「楽なの大事だよね」

 とても分かる。
 僕も許されるならラオさんやルウさんのようにラフな格好のままがよかったよ。
 二人ともタンクトップにホットパンツといういつもと変わらない格好だ。

「ラオさんたちはドレス着ないの?」
「動きづれぇのは性に合わねぇ」
「袖を通してみたんだけど、やっぱりちょっと動き辛くて。ご飯食べる時に汚しちゃったらダメでしょ?」

 ラオさんはそっぽを向いていて、ルウさんは苦笑を浮かべている。
 二人ともスカート履いている所をほぼほぼ見た事ないな。それだと確かに動き辛そうだ。汚れたところで魔道具化しておけばすぐに落ちるんだけど……自分たちで決めたなら僕が言う事はないな。
 ノエルはジューンさんの陰に隠れていて、ジューンさんは「あらあら」とちょっと困った様子だ。
 そのノエルを無表情で見ているホムラはフリルがたくさんついた可愛らしいドレスを着ていた。普段から人形みたいな印象を抱くけど、服装のせいか、より人形っぽさを感じる。黒くて長い髪は誰かにやってもらったのか、複雑に結われていた。
 ホムラの近くにいたユキは僕と視線が合うと、ふっと微笑む。
 彼女は健康的に焼けた肌を惜しげもなく披露するためか、ドレスは露出が結構多い。
 胸元が大きく開いていて、皆の中でも大きい方の胸が存在を主張している。ウエストはキュッと細舞っていて、腰回りにまたボリュームがあるメリハリのあるドレスを着ていた。

「やっときたのね、ご主人様」
「今どういう状況なの」
「別に大した事じゃないわ、ご主人様。ノエルがホムラを避けているだけよ」
「どうして避けてるの、ノエル」
「なんか苦手だからっす!」

 苦手意識からかぁ。それはどうしようもないけど仲良くしてほしいなぁ。
 ノエルは全体的にくびれや締め付けがないタイプの白色のドレスを着ていた。金色の刺繍が施されていて蔦や葉っぱが表現されているのは僕やジューンさんが着ている服と若干似ているけど、裾の方にしかない。
 ノエルの盾にされているジューンさんが着ているドレスは胸の大きさをもう隠すつもりはないのか、体のラインが分かるタイプの物を着ていた。露出は少ないけど目のやり場に困るのは体型のせいだろう。レヴィさんほどじゃないけど十分大きい。
 真っ白なドレスの裾の方から上へ上へと伸びている金色の刺繍は胸元まである。この長さでエルフたちは地位を示しているのかもしれない。
 一通りみんなの所に回る事ができたので、次は部屋の端っこの方で談笑をしている人たちの方へ足を運ぶ。近衛兵に囲まれたドラゴニア王家の方々と、褐色肌の護衛が側についているガレオールの女王ランチェッタ様が僕の方を見ていた。
 ドラゴニア国王であるリヴァイさんはいつものラフな格好ではなく、豪華な服を着ていた。王冠を被ったらこれはもう王様だな、と一目で分かる気がする。今は王冠ないけど。
 ラグナさんも、ちょっと派手な装飾がついている服を着ている。特に目を引くのは、肩にたくさんついている勲章のような物だ。たくさんぶら下がっているからそれだけすごい人なんだろう。普段はそんな風に見えないけど。

「シズト殿、この度は押しかけてしまって申し訳ないな。リヴァイの奴がどうしても参加したいと言って困っていたのだ」
「それはお前だろうが、ラグナ」
「どっちもどっちな気がするんですけど……」

僕がそう言うと、「いやこいつの方が」とか何とか言い合いを始めてしまった。
放っておいてもいいかな、なんて思っていると灰色の髪の女性が会話に加わってきた。婚約者になる予定のランチェッタ様だ。今日も丸眼鏡をかけている。

「わたくしはまだ関係も浅いから、できれば参加したい程度だったけれど、許可して貰えてとても嬉しいわ。誕生日おめでとう」
「ありがとうございます」
「わたくしが押しかけた側なのよ? 非公式の場だから前と同じように話してもらえると嬉しいわ」

 ランチェッタ様は眉を八の字にして、ちょっと困った様に笑った。
 黒いドレスは袖がなく、胸元も谷間が見えるくらいには空いていて、真珠のようなネックレスに目が惹かれる。
 あまり失礼にならないように視線に気を付けつつランチェッタ様の応対をしていると、リヴァイさんとラグナさんの「お前が来たから迷惑に感じているんじゃないか?」「いーや、家族をぞろぞろ引き連れているお前の方が迷惑だな」みたいな言い合いを聞いていたパールさんが僕の方を見てきた。

「息子の誕生日を祝いたい、と思うのは至極当然の親の想いだと思うのだけれど、問題あったかしら?」
「いえ! 別に問題ないデス!」
「母上、顔」
「……難しいわね」

 ラグナさんに負けず劣らずな豪華な飾りがついているスーツのような物を着ているガントさんが、母親にボソッと耳打ちをした。それを聞いてさらに眉間に皺が寄ったパールさんちょっと怖いっす。
 眉間を解しているパールさんのドレス姿はいつも見ているものだったけど、普段とは違って淡い赤色の宝石の首飾りを身に着けていた。左手の薬指には、大きな青い宝石が台座に嵌められている指輪を嵌めていた。首飾りはおそらくパールさんの瞳に近い物を選び、指輪はリヴァイさんの瞳の色だろう。
 結婚指輪は送る側の瞳の色と同じ物、って決まりでもなあるのかな。
 ………ちょっと黒い宝石でも探してもらおうかな。
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