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第16章 片手間にいろいろしながら生きていこう

幕間の物語151.賢者は褒美をもらった

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 都市国家トネリコは、周辺諸国から大勢の者たちがやってくる国だ。
 その者たちの目的は世界樹の素材であったり、一目世界樹を見てみようと観光目的だったり、勇者のために作られた『旅館』と呼ばれている宿に泊まって疲れを癒したりと様々だ。
 明はシズトに会うためにトネリコまでやってきたのだが、他の二人にとってシズトと会う事はついでだった。
 シズトと会って話をした後、明は姫花に連れ回されて買い物に付き添う事になった。
 一人で行動されて面倒事を起こされるよりはましだろうと判断した明だったが、普段よりも絡まれる事が少なかった。
 疑問に思った明が周囲を魔力探知で索敵すると、複数の実力者が自分たちにつかず離れずついて来ている事に気付く。
 ただ接触してくる事はなく、陽太が用意した宿に戻ると一定の距離を保ったまま動かなかった事からトネリコの治安維持を司っている『世界樹の番人』と呼ばれる者たちがシズトの知り合いという事で護衛しているのだろう、と結論付けた。
 夕食後、陽太は外に出かけてそのまま朝まで帰ってくる事はなかった。近くの歓楽街を渡り歩き楽しんできたようだ。
 色々な香水の匂いがついた陽太を顔を顰めて明と姫花が出迎えると「宿と一体型じゃないからいいだろ?」とあっけらかんと彼は言う。
 以前、そういう宿に泊まった際にひと悶着あった事を覚えていた陽太としては、宿選びで譲歩したつもりだったのだろう。

「お金はどのくらい余っているんですか?」
「宵越しの金は持たない!!」
「姫花、こういう男とは絶対無理」

 陽太は食事をせず、「眠いから寝る」と言って客室へと向かって行った。
 離れていく陽太を見送った後、明は正面で食事を再開している姫花の方を向く。

「ああいう男ばかりではない、と言いたいですけれど異世界ですからね。価値観や文化的背景も違いますから君が望むような条件の人を探すのは難しいかもしれません。お金持ちの人はたいてい複数人娶りますからね。どれか条件を諦めたらいいんじゃないですか?」
「お金持ちじゃないと色々買えないでしょ!」
「自分で稼いでるからいいじゃないですか」
「自分で買うのと、人に買ってもらうのは違うの!」

 そういう事を言っているからなかなかお相手が見つからないんだ、と明は思うものの生半可な力しか持たない者が姫花とくっついたとしても幸せにはなれないだろうとも思っていた。
 武力、もしくは財力で愛している者と別れさせられ、囚われの身になる可能性も十分あり得ると知っているからだ。
 ニホン連合では加護持ちを集めようとする権力者たちが多かった。
 木造の日本家屋のような建物がたくさん並んでいるその風景は、どこか日本を感じる事ができて好きだったが、明は「安住の地ではないな」と判断して留まる事をしなかったのはそれが理由だった。

「いい人が見つかるといいですね」
「明も手伝ってよ」
「僕は僕でやる事があるので嫌です」
「安住の地を探すだけでしょ? そのついでにいい人見つけてよ」
「その後の責任が持てないのでお断りします」

 食事が終わったら一度冒険者ギルドによって依頼を見てみよう、と考えていた明だったが、先程まで一定の距離に保っていた者たちが一カ所に集まり、自分たちの方へと向かっている事に気付く。
 手早くご飯とみそ汁を胃袋に流し込んだところで、近づいて来ていた気配が宿の前で止まった。

「どうしたの、明。なんかあった?」
「……さあ、どうなんでしょう」

 姫花の方を見ずに受け答えする明の様子に、ただ事ではないかもしれない、と姫花も楽しみに取っておいた出汁巻き卵を一口で食べた。
 冒険者として活動している中で、二人とも早く食べる事は身に付きつつあるようだ。

(近づいてくるのは……四人ですか)

 魔力を隠そうともしていないその集団から四人が離れて宿に入ってくる。
 警戒している二人の前に姿を現したのは、知っている人物だった。
 一人は金色の髪を縦巻きロールにしている女性レヴィアだ。青色の目でまっすぐに二人を見ていて、口元は綻んでいた。以前会った時とは違って、今日は動きやすそうなパンツスタイルだった。
 その後ろにはメイドが控えている。作業しやすいようにと短く切り揃えられた薄い青色の髪と同色の切れ長な目で周囲を警戒している。
 残りの二人は護衛だろう。背丈は大きくないが頑丈そうな金属製の全身鎧を身に纏った人物と、目つきがとても悪いエルフがいた。
 その目つきの鋭いエルフは、宿の中を見回していたが、明と視線があうとずんずんと近づいてきた。

「昨日ぶりだな、勇者殿! 本日はシズト様の婚約者であるレヴィア様が、勇者殿に会いたいとの事で連れて参った! 今、時間はあるか?」

 とても大きな声が宿の中に響く。
 耳を塞いで嫌そうな顔をしている姫花を窘めてから明は返事をした。
 レヴィアの素性を知っているからこそ、断る事は出来なかった。

(面倒事じゃなければいいのですが)
「大丈夫ですわ。あなたにとって良い報せを持ってきたのですわ」
「!? ……失礼しました」
「別に気にしなくていいのですわ。ドラゴニアでは気にせず、表面上は親しくしようと見せかけておいて、心の内では汚く罵ってくる方々もいたのですわ。それと比べたら可愛いものですし、失礼な事をしているのは私の方ですわ」

 申し訳なさそうな表情でそういうレヴィアだったが、『加護無しの指輪』を指に嵌める事はするつもりがないようだ。
 その魔道具の存在を知らない明は、レヴィアの加護が常時発動型の物だと判断していたため特に文句は言わなかった。

「本日はどの様なご用件でしょうか?」
「昨日のお礼をしに来たのですわ」
「お礼、ですか? 私は王女殿下には何もしておりませんが……」
「分からないなら分からないでいいのですわー。これ、あげるのですわ」

 レヴィアが差し出したのは真っ白な上質な封筒だった。
 明がそれを丁重に受け取ると、レヴィアは「やる事があるから失礼するのですわー」と言って去ってしまった。

「……なんだったの、それ?」
「さあ……この封蝋、おそらくドラゴニア王家の物だと思いますが……」

 自室に戻って中を確認しよう、と席を立って泊っている部屋に戻る明。
 明宛の手紙だった事もあり、姫花は直接それを見る事はなかったが、部屋から出てきた明が開口一番「ドラゴニアに行きます」と言ったので何となく察した。
 姫花としては良い男が見つかればどこでもよかったので、特に異論はなかったので、明と一緒について行く事にした。

「……陽太はどうするの?」
「……置いていくと僕たちの評判まで下がりそうなので、連れて行きましょう」

 問題を起こすならせめて目の届く場所でやらかしてほしい。
 そんな事を思いながら、寝ている陽太を魔法で浮かして宿を出るのだった。
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