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第16章 片手間にいろいろしながら生きていこう

307.事なかれ主義者はとても見られている

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 ランチェッタ様に教会を案内した翌日、目を覚ますとセシリアさんとレヴィさんがすぐ隣で横になっていた。
 既に二人とも起きていて、僕の寝顔を見ていたようだ。僕の体をさわさわと触りながら。
 掛布団を巻き込んで二人から距離を取ると、二人はクスッと笑って部屋から出て行った。
 ランチェッタ様は都合が悪くなってしまったとの事で、今日から案内は無くなった。
 特にやる事もないので、ユグドラシルのお世話をしたら魔道具でも作って過ごそう。
 そうと決まれば服もラフな物でいいだろう。虫とかいたら嫌だから長袖長ズボンは外せないが、長袖は生地の薄い物を選んだ。
 着替えを済ませて食堂に向かおうと部屋から出ると、ちょうどドーラさんがノックをしようとしていたところのようで扉の前にいた。全身鎧を身に着けている事から、今日はレヴィさんの護衛か何かをする予定なのだろう。

「……その恰好で足元見えるの?」
「ん、問題ない。魔力放出で分かる」

 ソナーみたいだ、等と思いながら階段を下り、一階の食堂の扉を開くと、全員揃っていた。ラオさんとルウさんはまだ戻ってきていないみたいだ。
 モニカが引いてくれた椅子に座り、食事前の挨拶を済ませるとエミリーが並べてくれた食事をさっそく食べた。
 食事をしながら皆の予定を確認すると、レヴィさんたちはファマリアに来ているリヴァイさんたちと会うらしい。

「農作業をしたかったのに、この格好じゃセシリアが許してくれないのですわー」
「当たり前です」
「シズトのおかげで魔力を流せば汚れてもすぐに綺麗になるのですわ?」
「そういう問題じゃありません」

 不貞腐れながらも、素直にセシリアさんの言う事を聞いているレヴィさんはドレス姿だった。
 畑に関する事なのに言う事を素直に聞いているので彼女自身、ダメだろうな、とは思っているようだ。
 ドーラさんはその護衛だから武装しているのだろう。
 黙々と食事をしている彼女は僕の視線に気づくと、こくりと頷いた。
 ホムラとユキは、それぞれドランとガレオールにあるお店の店番をするらしい。

「信頼できそうな者か知識奴隷を購入し、店を任せようと考えています、マスター。何か問題はありますか?」
「そこら辺はホムラたちに任せてるからやりやすいようにやってくれていいよ」
「かしこまりました、マスター」

 無表情のまま淡々と現状を報告してくれたホムラが目礼する。
 それに続いて、口元に微笑を浮かべながら僕を見ていたユキがガレオールの状況を話し始めた。

「ガレオールは既に奴隷たちだけである程度の業務を回す事ができているわ、ご主人様。ドランよりも客が多いからトラブルも時折起きるわね。ただ、防衛用の魔道具の出番はないわね。それでも、今は問題がなくても今後どうなるか分からないわ。誰かに任せるとしたら、ある程度戦闘ができる者が望ましいわね」

 人が多ければそれだけ問題のある客も増えるのだろう。
 お店の子たちの安全を考えるのであれば、相当な実力者に任せたいけど、客の割合としては商人が多いので力があるだけではダメらしい。
 壁際に控えていたジュリウスに視線を向けると、こくりと頷かれたので、選定は彼に任せる事にした。
 ジューンさんは町の子たちに料理を教えに行くらしい。
 予選通過した子たちは、最低限の料理のスキルはあるけれど、知識はまだまだ不足しているんだとか。
 ユグドラシルから増員された者たちがいるけれど、料理の知識はジューンさんが一番なんだとか。

「シズトくんが好きな味を頑張って教えてきますぅ」
「お願いしますー」

 別に僕としては美味しければ何でもいいんだけどね。
 そんな事を思いながら、コーンスープを飲み干した。



 朝食後、世界樹ユグドラシルのお世話をするためにファマリーの根元から転移すると、木の根元に何かいた。
 僕が現われた事に気付いたのか、伏せていた頭を持ち上げて、鋭い視線で僕を見てくる。
 流石にやばいかも、と思っていると先に転移していたジュリウスが間に入った。

「……ご安心ください、シズト様。敵意は感じられません」
「あれって、グリフォン?」
「そうですね、色が異なりますが特徴はグリフォンと一致します」

 鷹の翼と上半身に、ライオンのような下半身をもつ伝説上の生物は、こっちの世界では普通に魔物としているらしい。
 ただ、木の根元で僕たちをじっと見ているグリフォンは、全身が白い毛に覆われていて赤い瞳だった。
 グリフォンの周りには小さなドライアドたちがわらわらといたが、僕に気付いたのかこっちに寄ってきた。

「にんげんさん、こんにちは~」
「こんちはー」
「きゅうりあげるー」
「お花も!」
「とってきてあげる~」

 集まってきたと思ったら渡す物を用意していなかった事に気づいたのか、散り散りになってどこかへと行ってしまった。
 残されたのは僕とジュリウス、それからこちらをじっと見ているグリフォン。

「フェンリルがいなくなった事によって、魔物たちの間の競争に打ち勝ったグリフォンが住み着いたのでしょう」
「大丈夫? 危なくない?」
「シズト様をお守りするだけであれば問題ありません。シズト様がお帰りになられたら、私一人で対応すればあるいは駆除ができるかもしれません。周囲の者たちでは止める事ができなかったようなので、あるいは刺し違える事になるかもしれませんが。それに、世界樹もただでは済まないでしょう。シズト様がお望みであれば駆除を試みますが、いかがなさいますか?」
「……駆除しても別の魔物がいつの間にかやってきたりしない?」
「やってくるでしょうね、世界樹から漏れ出る魔力に惹かれて。S級以上の魔物となると、周囲で警戒している番人たちでは厳しいでしょう。ファマリアの護衛に回している者たちであればあるいは止める事はできるかもしれません」
「……じゃあ、とりあえず向こうが何もしてこなかったら放置で」

 ただ、念のため今日は世界樹の幹に触れずに加護を使おう。
 そう思っていたけど、戻ってきたドライアドたちに止められた。

「ユグちゃんがおいで、っていってるー」
「おいでおいでー」
「ちょ、まって。グリフォンがこっち見てるんですけど!」
「こわいのー?」
「どうして~?」
「守ってくれるよー」
「怖くないよー」
「ユグちゃんが近くに来てだって!」
「はやく~」
「足痛いの?」
「運んであげる~」

 ドライアドたちの押しはいつも以上に強い。
 こっちの気持ちが理解できないようで、絡みついてきた髪にひょいッと持ち上げられて、運ばれる。
 めちゃくちゃ焦ったけど、結果的には何も問題は起きなかった。
 僕の様子を見ていたグリフォンが、気を利かせたのか分からないけど、木の根元から離れて僕から距離を取り、離れたところにちょこんと座ったからだ。
 今日はグリフォンの視線を背中に感じながら【生育】を使った。
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