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第16章 片手間にいろいろしながら生きていこう

幕間の物語150.元訳アリ冒険者たちは一瞬で帰った

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 海洋国家ガレオールの首都から遠く離れた海にぽつんと浮かんでいる小島がある。
 上空から見ると、海岸線沿いに地面が隆起し、簡単に島の内側に入る事ができないようになっているその島の中心には、使われていなかったダンジョンがあった。
 辺鄙な場所にあり、尚且つダンジョンから魔物が氾濫したとしても大きな被害に遭う事がないだろうという判断の下、放置されていたダンジョンだ。いつそのダンジョンが生まれ、どのくらいの月日が経っているか誰にも分からない。
 ダンジョンは古ければ古いほど階層の数が多くなる傾向にある。そして、下れば下るほど魔物は強力になっているのが普通だ。
 初見殺しのようなダンジョンも中にはあるが、このダンジョンはいたって普通のダンジョンだろう、と調査に来ていた赤い髪の大柄な女性ラオは思っていた。
 彼女が拠点にしているドラゴニア王国の最南端にあるファマリアを出立してから一週間が過ぎていたが、今の所何も問題がなくダンジョンの調査を進める事ができていた。
 彼女の実力もあるが、同行者の影響が大きいだろう。
 一人はラオの妹であるルウだ。
 髪を短くしているラオとは異なり、長く伸ばしていてそれを後ろで一つ結びしていた。
 胸などの胴体部分の急所だけを守る防具を身に着けた彼女は優秀な斥候だった。
 呪いの影響で長い間眠りについていたが、今では体に影響は見受けられない。
 彼女の『とっておき』を使わなくとも、人よりも速く走る事ができるルウは、接敵しても問題ないとパーティメンバーに信頼されている事もあって、道中一人で先行していた。
 ラオの後ろに守られるようにして歩いていたのは銀色の髪の小柄な女性イザベラだ。
 人族の中では平均的か少し下くらいの身長だが、大柄な者たちばかりなので小さく見える。
 ダンジョン内という事もあり、最小限の魔法しか使っていなかったが、五十階層ほど進んでも難なく進める事ができているのは彼女の知識によるところが大きいだろう。
 魔物の弱点を熟知しており、尚且つダンジョン探索経験も豊富なため、迷路のように入り組んでいる洞窟のような階層ばかりだが、問題なく進む事ができていた。
 そして、最後の一人はボビーと呼ばれる大柄な男性だった。
 ダンジョン内では無駄話をしないようにしている彼だが、魔物と接敵すると魔物に向かって喋り、挑発をし続ける。
 そうしてボビーが注意を惹いて攻撃に耐えている間にイザベラが的確に魔法攻撃を当てたり、ラオやルウがとどめを刺したりしていた。
 そんな彼らは五十階層のフロアボスを倒し、開かれた扉の奥で小休止を取っていた。魔物が出て来ない唯一の安全地帯である。
 イザベラはガレオールの女王ランチェッタから入手していたダンジョンの情報が書き込まれた紙の束を確認していた。

「事前情報通り、五十階層までは普通の洞窟型のダンジョンね。出る魔物はFランクかEランクのゴブリンとかスライムくらいだし、初心者向けではあるけれど、帰るための転移陣がどこにもないのが痛いわね」
「あれば新人の生存率が上がるんだがなあ。まあ、そんな便利なものがあったらガレオールがポンと一個人に渡す事なんてしないだろう」

 イザベラの近くで胡坐をかいて座っていたボビーがダンジョン産の紙にこれまでの情報をまとめながらそういうと「まあ、そうよね」とイザベラも頷く。

「私たちは慣れているから別として、新人の冒険者の場合は一階層進むだけで二時間くらいはかかりそうね。一日で下りる事ができる階層は大体五階層ほどかしら。魔物が出にくい場所があれば良かったけど、それもなかったわよね?」
「見落としてなければないな。代わり映えのしない洞窟が五十階層まで続いていて、魔物のランクも跳ね上がる様子はない。落とし穴が二十一階層からあるが、気を付けていれば嵌る事はないだろう。モンスターが異常に湧くスポットも見つからんかったし、鉱石や薬草などもない。これは放置されても仕方ないな。坊主はどうするんだろうな」

 イザベラはシズトが転移陣を設置出来る事を知っていたが、ボビーに話す必要を感じなかったので口を噤んだ。
 その後、ひたすらお喋りを続けていたボビーだったが、ラオとルウがシートを広げて靴を脱ぎ、アイテムバッグから温かい食事を取り出している事に気付く。
 満面の笑みを浮かべて勢いよく立ち上がると、ずんずんと二人の元へと近づいて行った。

「いやー、あの坊主の加護はすごいな! ただでさえ便利なアイテムバッグを、繋げちまうんだから。いったいどうなってるんだ、その中は」
「アタシらが知るわけねぇだろ」
「でも、シズトくんも詳しくは分からないみたいだけど『付与で作れるならその魔法は存在するって事だから、その内加護がない人でも出来るかも』って言ってたわ」
「ドタウィッチの空間魔法が得意な教師は秘匿している可能性もあるわな」

 ラオは早速出来立てほやほやの具だくさんスープを鍋から器に盛りつけるとがつがつと食べ始めた。
 ボビーもいそいそと靴を脱いでシートの上に用意された器を取ると、盛り付けていく。
 イザベラはそれを何とも言えない表情で見ていたが、「段々慣れてきている自分が恐ろしいわ」と呟いて、結局靴を脱いで食べ始めた。
 ルウも食事をしようと思っていたが、ふとアイテムバッグの中に自分宛ての手紙がある事に気付き、それを取り出した。
 ラオはルウが手紙を読んで固まっているのを見て、不思議そうに首を傾げる。

「た、大変だわ! 急いで帰らないと!!」

 勢いよく立ち上がったルウは、専用の足の装備を身に着けようとしているが慌てているのかなかなか履く事ができないようだった。
 ラオはその様子を見てただ事ではないと判断し、空になった器を乱雑にアイテムバッグに突っ込む。

「シズトになんかあったのか!」

 ルウがこれほど慌てるという事はそういう事なのだろう。
 ラオはそう思っていたし、二人のただ事ではない雰囲気を察して食事を切り上げて片づけを手際よくしていたイザベラとボビーもそう思っていた。
 ただ、全然違った。

「シズトくんの、お誕生日が近いそうなの! お姉ちゃんなんだから、ちゃんと祝ってあげないとダメでしょ!」

 やっと足の装備を履き終えたルウが勢いよく立ち上がって三人に向けてそう言った。
 手に持っていた手紙を三人に見えるように突き出す。
 ラオたちは一瞬何を言われたのか分からなかったようで、きょとんとした後、手紙を覗き込み――盛大にため息を吐いた。
 ただ、ラオは淡々と片づけをしてダンジョンから引き上げる準備をし始めた。
 イザベラもボビーも特に異論は挟まない。
 最低限の探索を終えてダンジョンの評価もできたのもあったが、なにより二人の想いを知っていたからだ。
 調査をしながら進んでいたので時間はかかってしまったが、魔物の相手をしなければ半分くらいの時間で帰る事ができるだろう。
 そう思っていた二人だったが、実際はすぐにファマリアへと帰る事ができた。
 ルウがアイテムバッグから取り出した転移陣をダンジョンの入り口に設置しておいたものと繋げたからだ。

「いつの間に設置したのかしら」
「一人で先行していたからその時に設置でもしたんだろ。女ってのは恋をするとああなっちまうんだなぁ」
「あの子は例外でしょ。それより、この転移陣があるなら評価が変わるわね」
「そうだな。ただ、普通に魔物が湧く場所だから、使う場合は常に見張りを準備する必要があるだろうな」
「それに見合った見返りが五十階層以降にあるといいのだけれどね」

 二人は調査書に書いた内容を二重線で消し、若干修正すると、外に設置してあったファマリアへとつながる転移陣へ向かう。
 ラオとルウは既に転移してしまったようで、影も形もなかった。
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