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第16章 片手間にいろいろしながら生きていこう

302.事なかれ主義者はまた作り直した

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 久しぶりに再会した宿屋の看板猫娘ランは、幼馴染と一緒にファマリアで行われる大会に参加しに来たらしい。
 その幼馴染も獣人かなって思ったけど、普通に人族の男の子だった。
 近所に住む男の子で、昔から仲良く遊んでいたんだとか。

「ごめんねー。キース、人見知り激しいから初めての人だと不愛想なんだー」

 ランさん、ランさん。キースくんはたぶん人見知りとかじゃなくて、貴女と僕が仲良くしてるから不愛想なんだと思うんすよ。
 だって、調理をしている彼がジトッと僕を見てくるんですもん。
 大丈夫だよー、尻尾触ってみたいな、とか以前は思ってたけど、その枠はもう十分すぎるほど埋まってるので。
 それに大きくなったとはいえ、まだまだ中学生くらい? もう少し下? の見た目の女の子に手を出す事はないっすよー。
 あ、なんかそっぽ向かれた。

「ライルさんたちは来てないの?」
「来てないよー。お仕事があるからさー。だからランとキース二人でここに来たのー。ベスト10入りして新規出店の権利を得るのは無理だろうけどー、ここっていろんなところから人が集まってるから、少しでも猫の目の宿を宣伝できたらいいなーって思ってねー。お父さんたちはそんな事しなくても大丈夫って言うけどー、お得意様は多い方がいいよねー」
「ラン、仕事」
「えー、もうちょっとだけいいじゃんかー。そんなにお客さん来ないんだしー」

 ニコニコしながら尻尾をゆらゆらさせていたランを嗜めるように奥の少年が声を荒げた。
 ランは不服そうに頬を膨らませて抗議している。
 ただ、彼の言う通り買わないのにお邪魔するのも申し訳ないし、僕たちは別の所に行こう。

「え~、もうちょっとお喋りしよー。いろいろ困ってるからまた魔道具作ってよー」
「また今度ね」
「絶対だよー」
「ラン!」
「分かってるってばー。何でさっきからピリピリしてるのー?」

 それは他の男と楽しそうにお喋りしてるからじゃないっすかね。
 なんて事は口に出さずに退散する。
 ただ、邪魔しちゃって申し訳ないから、迷惑料代わりに周りで様子を窺っていた子たちに「ここのポトフ、前食べた時美味しかったから一度食べてみてね」と呼び込みを少しだけ手伝っておいた。
 結果はどうなるかは分からないけど、ラオさんとルウさんが帰ってきたら二人を連れて食べに来よう。



 その後、料理大会の屋台を一通り見て、円形闘技場から出た。
 最近完成したらしい時計台を見ると、予定よりだいぶ遅れてしまっている。
 予定していた場所はほとんど見る事できないだろうな。
 どれを削ればいいか少し考えてみたけれど、ランチェッタ様に聞いてしまった方が早い。

「何か見たいものある?」
「そうね……景色のいい場所はあるかしら?」
「んー、平地だからあんまりないかも。それに町の外は不毛の大地だし、町の中も世界樹を中心に徐々に緑は増えてるけどまだ全然だし……あ! 世界樹に登ったら眺めは良いかも?」
「流石に遠慮しておくわ」

 だよね。登るの大変そうだもんね。
 時計台は遠くから見た事があるくらいで、中に入る事ができるか知らないし……花畑でも即席で作ろうかな?
 首をひねって考えていると、ランチェッタ様が別の案を出してくれた。

「じゃあ……シズト殿が信仰している三柱の教会を見てみたいわ」
「そんなのでいいの? ガレオールの教会とそう大して…………変わってるね。めちゃくちゃ違うわ」

 一応観光ルートに入れていたから行く予定だったけど、よくよく考えたらここにあるファマ様とプロス様の教会は他の教会とだいぶ違う。
 エント様の教会は僕が担当しているので魔道具を設置するとかだいたい一緒だから案内しなくてもいいけど……一柱だけ案内しないときっと三柱の誰かに怒られるので、三つとも案内しよう。
 そうと決まれば一番近い南にあるファマ様の教会に向かう。
 手を繋ぎ、ランチェッタ様の気になる物について答えながら歩いているとあっという間に目的に着く。

「……普通の建物のように見えるけど、世界樹の素材をふんだんに使っているのね」
「やっぱり分かる人には分かるんだ」
「ええ、世界樹の小枝や葉っぱなら交易品として見た事があるわ。その時に感じた、素材が放つ独特な魔力というか……それを強く感じるもの」
「いったいこれだけ大きな建物を作るのにいくらのお金が必要になるんでしょうね……」

 ランチェッタ様とディアーヌさんが遠い目になった。
 大きいって他の教会よりはこぢんまりしてるんだけど……。
 以前来た時は広い敷地の中に建物以外何もなかったけど、今は植木鉢がたくさん並んで花を咲かせている。
 不毛の大地の土では植物は育たないけど、植木鉢で育ててしまえば問題はないらしい。
 植木鉢も水やりで使うじょうろも魔道具ではないので、僕が一切関わらなくても少量であれば作物は育てる事ができそうだ。
 町の子たちにも植木鉢栽培をさせてみようかな、と考え事をしていると教会からエルフたちがぞろぞろと出てきた。
 けど、僕たちに一礼しただけで近づいて来ない。それぞれが植木鉢の世話を始めた。
 ……いや、世話をしながらこっちの様子――というより僕をちらちら見てるな。
 ジュリウスの方をチラッと見ると、特に何も反応を示さないから、僕から何かする必要はなさそうだ。
 ……とりあえず、ランチェッタ様とディアーヌさんを連れて教会の中に入り、神様の像をパパッと成長した姿に作り替えた。作り終わってランチェッタ様達を見ると、内装を見てまた遠い目になっていた。
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