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第16章 片手間にいろいろしながら生きていこう

297.事なかれ主義者は長風呂した

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 ドラゴニア王国のロイヤルファミリーを見送った後は特に出かける事はせず、ノエルの部屋にお邪魔して魔道具を作った。
 ノエルの弟子であるエルヴィスというドワーフの女の子もエイロンという人族の男の子も、どちらもゆっくりであれば比較的綺麗な魔法陣を描く事ができるようになっていた。
 特にエイロンはとてもうまくなっているように思う。ここ数カ月、最低限の食事をしつつひたすら練習をしていたんだとか。魔法陣を描けば、しっかりと発動するものが多いらしい。
 でも、どれだけ技術が伸びようと死んでしまったら意味がない。
 食べて寝ないとダメだよ、と言ったけど彼は「だ、大丈夫です!!」と何かに怯えたような感じで答えるとせっせと魔法陣の模写をしていた。
 まあ弟子の管理はノエルがきっとしてくれるはず。ちょっと心配だけど、時折様子を見に来よう。
 気持ちを切り替えて僕は机に向かった。
 魔力が切れるまで除塩杭やダイエット用品を作っていると、陽が暮れる前に魔力がほとんどなくなってしまった。
 だるさを感じつつも、ノエルの部屋を後にする。
 ノエルの部屋は階段のすぐ近くなので、そのまま食堂に向かうために階段を下りて行くんだけど……やっぱりエスカレーターやエレベーターが欲しい。っていうか、ぶっちゃけ短距離転移陣を設置したい。
 警備の面で懸念点があるから、と断念したけどだるい時に階段を歩かなきゃいけないのはめんどい。
 足を動かすのも面倒だと感じつつも、何とか一階に下り切ると、玄関からジューンさんが入ってきた。

「お帰り。どこに行ってたの?」
「アンジェラちゃんとリーヴィアちゃんと一緒にぃ、一般の部のご飯を食べに行きましたぁ。いろんな食べ物屋さんがあってぇ、面白かったですぅ」

 それは良かった。
 アンジェラとリーヴィアの外での様子をジューンさんから聞きながら食堂に入ると、まだ使用人以外誰もいなかった。
 いつもの席に着くと、壁際に控えていた人族の少女モニカが近くに来て手紙を差し出してきた。

「シズト様、ランチェッタ女王陛下からお手紙が届いておりました」
「ありがと」
「他の方々が揃うまでもうしばらくお時間がかかりますが、いかがなさいますか?」
「んー、返事は部屋でゆっくり書くから、飲み物頂戴」
「かしこまりました」

 モニカはぺこりと一礼をした後、「ノエルに声をかけてきます」と言って部屋から出て行った。
 声をかけたくらいで出てくるとは思えないな……さっきまで魔道具に夢中だったし。
 モニカの代わりに、狐人族の少女エミリーが紅茶を淹れてくれた。
 僕はそれを飲みながらランチェッタ女王陛下の手紙を読む。
 今日食べた物の事の話や、僕が書いた事に対する返事等と一緒に、ある程度仕事に余裕ができたからファマリアに訪れたいと書かれていた。

「んー……どうしよう?」
「どうされたんですかぁ?」
「ランチェッタ女王陛下から、ファマリアの案内をしてほしいって手紙が来たんだけど、正直僕もあんまり詳しくないし……。レヴィさんか、ホムラも一緒に連れてった方が良いかな?」

 僕がそう尋ねると、ジューンさんはしばし考えるように首を傾げて視線を上に向けた。
 彼女の緩く波打っている金色の髪が動きに合わせて揺れる。

「そうですねぇ……ランチェッタ女王陛下次第ですけどぉ、案内をしてほしいというのは建前でぇ、多分シズトちゃんと仲良くなりたいんじゃないでしょうかぁ。そう考えるとぉ、邪魔者はいない方が良いんじゃないかなぁと思いますぅ。護衛はジュリウスたちがそれとなくやってくれるでしょうしぃ、ランチェッタ女王陛下がお越しになった時かお手紙でぇ、他に案内役がいた方が良いか聞いてみたらいかがでしょうかぁ」

 ……なるほど。
 仲良くなるための文通だったけど、そろそろ仲を深めたいという事なのかな?
 でも、単純にファマリアっていう町に興味が湧いたって以前手紙で書かれていた気がするし……んー、分からん。
 明日はいきなりだし向こうも調整が難しいかもしれないから明後日以降であればいつでもいいと返事を書くついでに、どっちがいいか聞いてみよう。
 あとは、他にどんな事を書こうか考えながら紅茶を飲んでいると、考えがまとまる前に続々と皆が帰ってきて、食事の準備が整った。
 手紙を便箋の中にしまって、いつの間にか戻ってきていたモニカに一度預かってもらい、皆で夜ご飯を食べた。



 食後、部屋に戻る時に翼人のパメラがついてきた。
 普段はあまり着ないメイド服を着ている。エミリーたちが着ているメイド服と異なり、背中が大きく開いているのは彼女の背中から生えている黒い翼のためだろう。
 その翼を屋内なのにバサバサとはためかせながら飛んでいる。スカートから下着が見えても知らないぞ、と思いながら歩いていると、パメラが僕の周りをくるくると回り始めた。前を見て飛んで欲しい。

「シズト様、いつお風呂に入るデスか?」
「んー……手紙書く前に入っちゃうか」

 今日はパメラが世話係の日だ。
 彼女は既にお風呂に入る準備は終わっているそうだ。
 僕はお風呂に必要な物を部屋から持ち出して、脱衣所へと向かう。
 パメラは「先に行ってるデース!!」と言って廊下を飛んで行ってしまった。
 階段を下りていると階下から「屋内で飛ぶなって言ってるでしょ!!」とエミリーの大きな声が聞こえてきた。
 やっぱり危ないよね、と思いつつのんびり脱衣所へと向かう。
 脱衣所は一階の階段から一番遠い場所にある。
 やっぱり転移陣か何か設置したいな、と考えながら歩いていると脱衣所に着いた。
 中に入る前に「パメラ、入るよ」と声をかけたが、特に返事はなかった。
 脱衣所の扉を開けて中に入ったが、室内には誰もいない。
 一つの籠から衣類などがはみ出ているので、おそらく既に浴室に向かったのだろう。
 僕もさっさと服を脱いで腰にタオルを巻き、浴室へと向かった。
 扉を開けて中に入ると、広い浴室の端っこの方にある泡風呂に、もこもこと泡が山を作っていた。
 そこからニョキッと顔が出てくる。思った通りパメラだ。

「シズト様も遊ぶデス!」
「体洗ってからね」
「分かったデース!」

 泡の山から泡まみれのパメラが出てきて、一瞬ドキッとした。
 泡まみれの彼女は何も着ていないように見える。

「パメラ、念のために聞くけど、ちゃんと水着か何か着てる……よね?」
「着てるデスよ?」

 そう言いながら近づいてくる彼女から視線を逸らす。
 近づいて来てもやっぱり着ていないように見えるんだけど……本当に大丈夫なんだろうか。
 そんな心配をしていたけど、杞憂だった。僕の髪と背中を洗っている間に泡が流れ落ちて、着ていた水着が露になる。ただ……布面積が極端に少ないマイクロビキニ的な感じの物だった。

「ほら、ちゃんと着てるデスよ?」
「もう分かったから泡で遊んできて!」
「分かったデス! シズト様も早く来るデスよ」

 パメラは濡れた翼をバサバサとはためかせながら走って泡風呂に向かって行った。
 僕は体をゆっくりと洗った後、パメラの後を追った。
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