上 下
435 / 642
第16章 片手間にいろいろしながら生きていこう

292.事なかれ主義者はウィンドウショッピングをした

しおりを挟む
 ドレスを着たレヴィさんは王都の方でちょっとやる事があるらしい。武装したドーラさんとメイド服姿のままのセシリアさんを連れて出かけてしまった。
 ノエルは相変わらずご飯を食べ終わったら部屋に引き籠り、魔道具を作りつつ後進の育成を頑張っているようだ。
 ホムラは面会希望者の相手をしに行き、ユキはドランにある魔道具店『サイレンス』の店番をしに行った。
 残された僕は、トネリコのお世話をサクッと終わらせてジューンさんと一緒に町へ向かう。
 ジューンさんは麦わら帽子を被り、真っ白なワンピースを着ていた。腰が紐のような物でギュッと絞られているので、エルフらしからぬ胸がより強調されていた。
 白くて綺麗な手で僕の手を握りしめ、並んで一緒に歩く。
 屋敷から出るとドライアドたちと一緒に小さな子どもたちが働いている。
 気にしないように仕事を続けて欲しい事は以前伝えたけど、気になるものは気になるよね、分かる。
 チラチラと視線を向けられている事に気付きながらもその事は指摘せず、視線を浴びながら畑と畑の間の道を進む。
 そうしていると、わらわらとドライアドたちが集まってきた。いつも以上に集まってきているのはなぜだろう?
 不思議に思いつつも、進行方向を塞がれてしまったので退いてもらおうと口を開いたら、小さなドライアドたちが先に話し始めた。

「人間さん! 今日の朝、何食べたの!」
「私たちの食べたの?」
「たくさん~?」
「いつも通り食べたよ」
「レモン!」
「も、ちゃんとパンに塗って食べました」

 足元にしがみ付いてきていたレモンちゃんの頭を撫でる。
 小さなドライアドたちは僕の答えを聞くと、不思議そうに首を傾げ、僕から少し離れて何やら話している。
 その様子を見ていたジューンさんがそっと僕の耳元に口を寄せてきた。

「どうやらぁ、トネリコの子たちから物を貰った事を気にしているみたいですぅ」
「トネリコの子って、向こうの?」
「そうみたいですねぇ。ここの子たちの方が先に渡しているのに、どうして向こうのを先に食べていたのか気にしているみたいですぅ」

 どうしてもなにも、すぐに腐りそうだったし。
 ただ、ドライアドたちにはそれは通じないだろう。
 自分たちで採取した果物や野菜はもりもり自分で食べてるし。
 あの小さい体のどこにそんなスペースがあるのか不思議なくらい食べるのは知っている。
 どう説明したものか、と考えていると、ドライアドたちの密談は終わった様で、一人が代表して目の前にやってきた。

「人間さん、あっちの子たちと私たちのどっちが美味しかった」
「もちろん、ここでもらったお野菜とか美味しかったよ?」

 嘘ではない。
 世界樹が関係しているのかそれともドライアドたちの魔法の影響か、めちゃくちゃ美味しいし。
 それを聞いてジーッと僕の目を見ていた無数の瞳が、僕から逸らされた。
 どうやら許されたらしい。
 ……でも、許してくれたのなら足元に纏わりついて歩くの邪魔するの、止めて欲しいなぁ。
 いつも以上にたくさんの収穫物を渡されるので、それをアイテムバッグに入れながら町へと向かった。



 ドライアドたちは基本的に畑と町の境界線から超える事はないので、町に入ってしまえばこっちのものだ。
 纏わりついていた子たちも、町に足を踏み入れると、髪の毛の拘束がなくなり、とことこと畑に戻っていった。何かしらのこだわりがあるのかもしれない。
 畑の方を見るとドライアドたちがジーッとこちらを見ている。

「帰ってきたらまた捕まりそうだなぁ」
「そうですねぇ。レヴィちゃんが帰ってくるまで、町で時間を潰しましょうかぁ?」
「そうだね、そうしよう」

 レヴィさんは農作業を通して、青バラちゃんと同じくらい小さいドライアドたちの扱いが上手い。
 僕もジューンさんも駄目だったけど、レヴィさんならあるいはいい感じに宥めてくれるかもしれない、なんて淡い希望を持ちながらその場を離れた。
 町の子たちが寝泊まりしている建物が密集している所を歩いているけど、周りの子たちはチラチラと見てくるだけで何もしてこない。以前、僕を見かけても気にしないで、と伝えておいたからそのおかげだろう。
 町の子たち向けに路上で商売をしていた商人たちも、僕の髪の色と手を繋いで歩いているジューンさんを見ると何やら獲物を狙う捕食者のような鋭い眼差しになったけど、じっと見てくるだけで何もしてこない。
 下手な事をすれば通行人たちに紛れている僕の護衛が黙っていない事を知っているからだろう。
 時々何やら周囲が騒がしくなるけど、そちらを見た時には既に静かになっていて、ジュリウスが僕に向けて頭を下げているだけだ。……深く考えないようにしよう。
 きょろきょろと町の中を見て回っていると、商業ギルドが管理しているマーケットに辿り着いた。
 そこでは町の子たち向けにいろんな物を持ち込んで売る行商人たちがいるんだけど、以前見た時とは異なり料理に必要な道具が並んでいた。それを真剣な表情で見比べている子たちがたくさんいる。

「料理大会に向けて練習している子たちに売ろうと考えたんでしょうねぇ」
「ふーん。僕が作っちゃえば早いんだけど、それだとお金が消費できないもんね。町の子たちにはどんどん使ってもらわないと」
「それにぃ、シズトちゃんが作った物だとぉ、恐れ多くて使えないって子が出てくるかもしれませんねぇ」
「それはないんじゃないかなぁ。量産品になるだろうし」

 屋敷とかだとそういう事はなかったし。
 僕がそう言うと、ジューンさんは微笑んでいるだけで何も言わなかった。
 ……気軽に生活用品を作って渡さないようにしようかな。
 そんな事を思いつつも、のんびりとジューンさんと手を繋いで露天商を見て回った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結・BL】偽装カップルですが、カップルチャンネルやっています【幼馴染×幼馴染】

彩華
BL
水野圭、21歳。ごくごく普通の大学生活を送る一方で、俗にいう「配信者」としての肩書を持っていた。だがそれは、自分が望んだものでは無く。そもそも、配信者といっても、何を配信しているのか? 圭の投稿は、いわゆる「カップルチャンネル」と言われる恋人で運営しているもので。 「どう? 俺の自慢の彼氏なんだ♡」 なんてことを言っているのは、圭自身。勿論、圭自身も男性だ。それで彼氏がいて、圭は彼女側。だが、それも配信の時だけ。圭たちが配信する番組は、表だっての恋人同士に過ぎず。偽装結婚ならぬ、偽装恋人関係だった。 始まりはいつも突然。久しぶりに再会した幼馴染が、ふとした拍子に言ったのだ。 「なぁ、圭。俺とさ、ネットで番組配信しない?」 「は?」 「あ、ジャンルはカップルチャンネルね。俺と圭は、恋人同士って設定で宜しく」 「は??」 どういうことだ? と理解が追い付かないまま、圭は幼馴染と偽装恋人関係のカップルチャンネルを始めることになり────。 ********* お気軽にコメント頂けると嬉しいです

俺が乳首痴漢におとされるまで

ねこみ
BL
※この作品は痴漢行為を推奨するためのものではありません。痴漢は立派な犯罪です。こういった行為をすればすぐバレますし捕まります。以上を注意して読みたいかただけお願いします。 <あらすじ> 通勤電車時間に何度もしつこく乳首を責められ、どんどん快感の波へと飲まれていくサラリーマンの物語。 完結にしていますが、痴漢の正体や主人公との関係などここでは記載していません。なのでその部分は中途半端なまま終わります。今の所続編を考えていないので完結にしています。

【完結】彼の瞳に映るのは  

たろ
恋愛
 今夜も彼はわたしをエスコートして夜会へと参加する。  優しく見つめる彼の瞳にはわたしが映っているのに、何故かわたしの心は何も感じない。  そしてファーストダンスを踊ると彼はそっとわたしのそばからいなくなる。  わたしはまた一人で佇む。彼は守るべき存在の元へと行ってしまう。 ★ 短編から長編へ変更しました。

【完結】天使がゴーレムになって戻って来ました〜虐げてきた家族とは決別し、私は幸せになります〜

仲村 嘉高
恋愛
家族に虐げられてきたフローラ。 婚約者を姉に奪われた時、本当の母は既に亡くなっており、母だと思っていたのは後妻であり、姉だと思っていたのは異母姉だと知らされた。 失意の中、離れの部屋にこもって泣いていると、にわかに庭が騒がしくなり……?

あの日、さようならと言って微笑んだ彼女を僕は一生忘れることはないだろう

まるまる⭐️
恋愛
僕に向かって微笑みながら「さようなら」と告げた彼女は、そのままゆっくりと自身の体重を後ろへと移動し、バルコニーから落ちていった‥ ***** 僕と彼女は幼い頃からの婚約者だった。 僕は彼女がずっと、僕を支えるために努力してくれていたのを知っていたのに‥

【R18】××に薬を塗ってもらうだけのはずだったのに♡

ちまこ。
BL
⚠︎隠語、あへおほ下品注意です

彼女をイケメンに取られた俺が異世界帰り

あおアンドあお
ファンタジー
俺...光野朔夜(こうのさくや)には、大好きな彼女がいた。 しかし親の都合で遠くへと転校してしまった。 だが今は遠くの人と通信が出来る手段は多々ある。 その通信手段を使い、彼女と毎日連絡を取り合っていた。 ―――そんな恋愛関係が続くこと、数ヶ月。 いつものように朝食を食べていると、母が母友から聞いたという話を 俺に教えてきた。 ―――それは俺の彼女...海川恵美(うみかわめぐみ)の浮気情報だった。 「――――は!?」 俺は思わず、嘘だろうという声が口から洩れてしまう。 あいつが浮気してをいたなんて信じたくなかった。 だが残念ながら、母友の集まりで流れる情報はガセがない事で 有名だった。 恵美の浮気にショックを受けた俺は、未練が残らないようにと、 あいつとの連絡手段の全て絶ち切った。 恵美の浮気を聞かされ、一体どれだけの月日が流れただろうか? 時が経てば、少しずつあいつの事を忘れていくものだと思っていた。 ―――だが、現実は厳しかった。 幾ら時が過ぎろうとも、未だに恵美の裏切りを忘れる事なんて 出来ずにいた。 ......そんな日々が幾ばくか過ぎ去った、とある日。 ―――――俺はトラックに跳ねられてしまった。 今度こそ良い人生を願いつつ、薄れゆく意識と共にまぶたを閉じていく。 ......が、その瞬間、 突如と聞こえてくる大きな声にて、俺の消え入った意識は無理やり 引き戻されてしまう。 俺は目を開け、声の聞こえた方向を見ると、そこには美しい女性が 立っていた。 その女性にここはどこだと訊ねてみると、ニコッとした微笑みで こう告げてくる。 ―――ここは天国に近い場所、天界です。 そしてその女性は俺の顔を見て、続け様にこう言った。 ―――ようこそ、天界に勇者様。 ...と。 どうやら俺は、この女性...女神メリアーナの管轄する異世界に蔓延る 魔族の王、魔王を打ち倒す勇者として選ばれたらしい。 んなもん、無理無理と最初は断った。 だが、俺はふと考える。 「勇者となって使命に没頭すれば、恵美の事を忘れられるのでは!?」 そう思った俺は、女神様の嘆願を快く受諾する。 こうして俺は魔王の討伐の為、異世界へと旅立って行く。 ―――それから、五年と数ヶ月後が流れた。 幾度の艱難辛苦を乗り越えた俺は、女神様の願いであった魔王の討伐に 見事成功し、女神様からの恩恵...『勇者』の力を保持したまま元の世界へと 帰還するのだった。 ※小説家になろう様とツギクル様でも掲載中です。

許してもらえるだなんて本気で思っているのですか?

風見ゆうみ
恋愛
ネイロス伯爵家の次女であるわたしは、幼い頃から変わった子だと言われ続け、家族だけじゃなく、周りの貴族から馬鹿にされ続けてきた。 そんなわたしを公爵である伯父はとても可愛がってくれていた。 ある日、伯父がお医者様から余命を宣告される。 それを聞いたわたしの家族は、子供のいない伯父の財産が父に入ると考えて豪遊し始める。 わたしの婚約者も伯父の遺産を当てにして、姉に乗り換え、姉は姉で伯父が選んでくれた自分の婚約者をわたしに押し付けてきた。 伯父が亡くなったあと、遺言書が公開され、そこには「遺留分以外の財産全てをリウ・ネイロスに、家督はリウ・ネイロスの婚約者に譲る」と書かれていた。 そのことを知った家族たちはわたしのご機嫌伺いを始める。 え……、許してもらえるだなんて本気で思ってるんですか? ※独特の異世界の世界観であり、設定はゆるゆるで、ご都合主義です。 ※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。教えていただけますと有り難いです。

処理中です...