432 / 1,094
第16章 片手間にいろいろしながら生きていこう
幕間の物語141.元引きこもり王女はたくさん話した
しおりを挟む
ドラゴニア王国の最南端に新しくできたファマリアの町の中心には、世界樹ファマリーが聳え立っている。
ファマリーの周囲には、畑が広がっていて『不毛の大地』という名前からかけ離れた印象を見る者に与えるだろう。
その畑の中にぽつんと立っているのが、不毛の大地の所有者である異世界転移者シズトの屋敷だ。
夜も更けて、ファマリアの町は静まり返っていたが、シズトの屋敷の窓から漏れ出る光があった。
その部屋は、普段談話室として使われている部屋だったが、今は部屋の中央に設置された円卓を囲んで女性たちが黙って座っていた。
その内の一人であるレヴィアは、眠たそうに目を擦っている。既に露出の少ない肌触りの良さそうな寝間着に着替えた彼女は、時計を見た。
魔道具化されたそれは寸分の狂いなく時を刻んでいる。
「……まだ来ないですわね」
「ノエルが駄々を捏ねているのかもしれません」
「ん、私もそう思う」
メイド服姿のセシリアが、珍しく主人の後ろには立たずに、主人と同じ円卓を囲んでいた。
姿勢よく座った彼女と対照的に、ドーラはだらけた様子で椅子に座り、円卓にぴたっと頬を付けていた。
ドーラの隣に座っているユキは退屈そうに欠伸をした。だが、突然何かに気付いたのか、魔法使い然としたローブではなく、薄手の寝間着を着た彼女は扉に視線を向けた。
それからしばらくして、数人分の足音が近づいて来ている事に他の者たちも気づいた。
扉が開くと、最初に中に入ってきたのはノエルを引き摺ってきたホムラだ。
彼女は同じホムンクルスであるユキ同様、薄手の寝間着を着ていた。
彼女は両手でノエルの両足首を持って引き摺ってきたようだ。ノエルはもう抵抗するだけ無駄だと悟ったのか、連行される前に何とか確保した魔道具をジッと見ていた。
引き摺られて運ぶノエルを呆れた様子で見ながら入ってきたのは、いまだにメイド服姿のままのエミリーと、武装したシンシーラだ。
背中が大きく開いた翼人用の寝間着を着たパメラはどうでもよさそうに追い越してすぐに席に着いた。
モニカは最後に入ってきて扉を閉め、円卓の席に着く。
「ジューンは今日、シズトの当番ですわね。全員集まったようだから、話を始めようと思うのですわ」
「あのー、レヴィア様。だいたいお話の内容については察しがついているんですけど、私たちがいても大丈夫なんですか?」
エミリーがそう尋ねると、レヴィアは鷹揚に頷く。
「問題ないのですわ。むしろ、あなたたちが今日の議題の中心なのですわ」
「どんな事を話すつもりじゃん?」
「遊びの話デスか?」
「違うのですわ。話というのはシズトのお世話係の当番の事ですわ。あなたたちが加わる意思があるのかの確認と、今後についての相談をしようと思うのですわ」
「加わるに決まってるじゃん」
若干食い気味にシンシーラが答えた。勢いよく立ち上がった事で椅子が倒れる。
それを気にした様子もなく手を挙げたエミリーも「私も加わりたいです」と答えた。真っ白でモフモフな尻尾はパタパタと振られている。
「分かったのですわ。……それで、残りの三人はどうするのですわ?」
「魔道具の研究で忙しいっすけど、まあ、そのくらいの務めくらい果たしてもいいっす」
「別に果たさなくてもいいですわ。やりたがる人はそれこそ山のようにいるのですわ」
「…………え?」
「はぁ。ノエル、照れ隠しで思ってもいない事を言うからそう返されるんですよ」
「て、照れ隠しじゃないっす!」
頬を赤く染めて主張するノエルに、モニカが冷ややかな視線を向けた。淡々と彼女は確認をする。
「じゃあ、当番をさせていただかなくて大丈夫なんですね。シズト様との仲を深める最も効果的な物だと思いますが」
「そ、そうは言ってないっす! ボクはいつも夜になると無理やり眠らされてるから、そのくらいの時間なら作れなくもないと思うっす」
「そうですか。だ、そうですよ、レヴィア様」
「分かったのですわ。……そういうモニカはどうするのですわ?」
「私も、加わらせて頂けたらと思います」
「気にしていた事に関しては私の方で手を打っておくから気にしなくていいのですわ」
「ありがとうございます」
「……パメラはどうするのですわ?」
レヴィアが視線を向けると、それまで魔力マシマシ飴をひたすら舐めていたパメラはハッと顔をあげた。
「楽しければ何でもやりたいデス!」
「……まあ、いいですわ。一人でも欠けていたらシズトがそれを理由に断るかもしれなかったですし、モニカとノエルが加わってくれて良かったですわ。それじゃあ今後の事についてですけれど、当面の問題は一週間に一度回ってくるか来ないかくらいの頻度だった世話係が、さらに頻度が下がってしまう事ですわね」
「私たちのように二人で行うという事も一つの方法ではありますが……」
「平民であれば、どうせならシズトを独り占めにしたい、と思うのは当然ですわね」
「普通に元貴族でもそう思いますよ」
「そうですわ? まあ、いいですわ。この件については、また全員がいる時に確認を取ってみるのですわ。とりあえず、明日以降に関してなのですけれど、モニカを主体に順番を決めておいて欲しいのですわ。一先ず一人ずつで構わないのですわ」
「かしこまりました」
ぺこりと頭を下げるモニカを見て、レヴィアは満足した様子で頷いた。
話し合う事は話し終えたのだが、その後も部屋の明かりはついたまま。
中ではシズトについての話が延々とされ続けるのだった。
ファマリーの周囲には、畑が広がっていて『不毛の大地』という名前からかけ離れた印象を見る者に与えるだろう。
その畑の中にぽつんと立っているのが、不毛の大地の所有者である異世界転移者シズトの屋敷だ。
夜も更けて、ファマリアの町は静まり返っていたが、シズトの屋敷の窓から漏れ出る光があった。
その部屋は、普段談話室として使われている部屋だったが、今は部屋の中央に設置された円卓を囲んで女性たちが黙って座っていた。
その内の一人であるレヴィアは、眠たそうに目を擦っている。既に露出の少ない肌触りの良さそうな寝間着に着替えた彼女は、時計を見た。
魔道具化されたそれは寸分の狂いなく時を刻んでいる。
「……まだ来ないですわね」
「ノエルが駄々を捏ねているのかもしれません」
「ん、私もそう思う」
メイド服姿のセシリアが、珍しく主人の後ろには立たずに、主人と同じ円卓を囲んでいた。
姿勢よく座った彼女と対照的に、ドーラはだらけた様子で椅子に座り、円卓にぴたっと頬を付けていた。
ドーラの隣に座っているユキは退屈そうに欠伸をした。だが、突然何かに気付いたのか、魔法使い然としたローブではなく、薄手の寝間着を着た彼女は扉に視線を向けた。
それからしばらくして、数人分の足音が近づいて来ている事に他の者たちも気づいた。
扉が開くと、最初に中に入ってきたのはノエルを引き摺ってきたホムラだ。
彼女は同じホムンクルスであるユキ同様、薄手の寝間着を着ていた。
彼女は両手でノエルの両足首を持って引き摺ってきたようだ。ノエルはもう抵抗するだけ無駄だと悟ったのか、連行される前に何とか確保した魔道具をジッと見ていた。
引き摺られて運ぶノエルを呆れた様子で見ながら入ってきたのは、いまだにメイド服姿のままのエミリーと、武装したシンシーラだ。
背中が大きく開いた翼人用の寝間着を着たパメラはどうでもよさそうに追い越してすぐに席に着いた。
モニカは最後に入ってきて扉を閉め、円卓の席に着く。
「ジューンは今日、シズトの当番ですわね。全員集まったようだから、話を始めようと思うのですわ」
「あのー、レヴィア様。だいたいお話の内容については察しがついているんですけど、私たちがいても大丈夫なんですか?」
エミリーがそう尋ねると、レヴィアは鷹揚に頷く。
「問題ないのですわ。むしろ、あなたたちが今日の議題の中心なのですわ」
「どんな事を話すつもりじゃん?」
「遊びの話デスか?」
「違うのですわ。話というのはシズトのお世話係の当番の事ですわ。あなたたちが加わる意思があるのかの確認と、今後についての相談をしようと思うのですわ」
「加わるに決まってるじゃん」
若干食い気味にシンシーラが答えた。勢いよく立ち上がった事で椅子が倒れる。
それを気にした様子もなく手を挙げたエミリーも「私も加わりたいです」と答えた。真っ白でモフモフな尻尾はパタパタと振られている。
「分かったのですわ。……それで、残りの三人はどうするのですわ?」
「魔道具の研究で忙しいっすけど、まあ、そのくらいの務めくらい果たしてもいいっす」
「別に果たさなくてもいいですわ。やりたがる人はそれこそ山のようにいるのですわ」
「…………え?」
「はぁ。ノエル、照れ隠しで思ってもいない事を言うからそう返されるんですよ」
「て、照れ隠しじゃないっす!」
頬を赤く染めて主張するノエルに、モニカが冷ややかな視線を向けた。淡々と彼女は確認をする。
「じゃあ、当番をさせていただかなくて大丈夫なんですね。シズト様との仲を深める最も効果的な物だと思いますが」
「そ、そうは言ってないっす! ボクはいつも夜になると無理やり眠らされてるから、そのくらいの時間なら作れなくもないと思うっす」
「そうですか。だ、そうですよ、レヴィア様」
「分かったのですわ。……そういうモニカはどうするのですわ?」
「私も、加わらせて頂けたらと思います」
「気にしていた事に関しては私の方で手を打っておくから気にしなくていいのですわ」
「ありがとうございます」
「……パメラはどうするのですわ?」
レヴィアが視線を向けると、それまで魔力マシマシ飴をひたすら舐めていたパメラはハッと顔をあげた。
「楽しければ何でもやりたいデス!」
「……まあ、いいですわ。一人でも欠けていたらシズトがそれを理由に断るかもしれなかったですし、モニカとノエルが加わってくれて良かったですわ。それじゃあ今後の事についてですけれど、当面の問題は一週間に一度回ってくるか来ないかくらいの頻度だった世話係が、さらに頻度が下がってしまう事ですわね」
「私たちのように二人で行うという事も一つの方法ではありますが……」
「平民であれば、どうせならシズトを独り占めにしたい、と思うのは当然ですわね」
「普通に元貴族でもそう思いますよ」
「そうですわ? まあ、いいですわ。この件については、また全員がいる時に確認を取ってみるのですわ。とりあえず、明日以降に関してなのですけれど、モニカを主体に順番を決めておいて欲しいのですわ。一先ず一人ずつで構わないのですわ」
「かしこまりました」
ぺこりと頭を下げるモニカを見て、レヴィアは満足した様子で頷いた。
話し合う事は話し終えたのだが、その後も部屋の明かりはついたまま。
中ではシズトについての話が延々とされ続けるのだった。
70
お気に入りに追加
454
あなたにおすすめの小説

こちらの異世界で頑張ります
kotaro
ファンタジー
原 雪は、初出勤で事故にあい死亡する。神様に第二の人生を授かり幼女の姿で
魔の森に降り立つ 其処で獣魔となるフェンリルと出合い後の保護者となる冒険者と出合う。
様々の事が起こり解決していく

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。

『転生したら「村」だった件 〜最強の移動要塞で世界を救います〜』
ソコニ
ファンタジー
29歳の過労死サラリーマン・御影要が目覚めたのは、なんと「村」として転生した姿だった。
誰もいない村の守護者となった要は、偶然迷い込んできた少年リオを最初の住民として迎え入れ、徐々に「村」としての力を開花させていく。【村レベル:1】【住民数:0】【スキル:基本生活機能】から始まった異世界生活。

【完結】異世界転移で、俺だけ魔法が使えない!
林檎茶
ファンタジー
俺だけ魔法が使えないとか、なんの冗談だ?
俺、相沢ワタルは平凡で一般的な高校二年生である。
成績は中の下。友達も少なく、誇れるような特技も趣味もこれといってない。
そんなつまらない日常は突如として幕を閉じた。
ようやく終わった担任の長話。喧騒に満ちた教室、いつもより浮き足立った放課後。
明日から待ちに待った春休みだというのに突然教室内が不気味な紅色の魔法陣で満ちたかと思えば、俺は十人のクラスメイトたちと共に異世界に転移してしまったのだ。
俺たちを召喚したのはリオーネと名乗る怪しい男。
そいつから魔法の存在を知らされたクラスメイトたちは次々に魔法の根源となる『紋章』を顕現させるが、俺の紋章だけは何故か魔法を使えない紋章、通称『死人の紋章』だった。
魔法という超常的な力に歓喜し興奮するクラスメイトたち。そいつらを見て嫉妬の感情をひた隠す俺。
そんな中クラスメイトの一人が使える魔法が『転移魔法』だと知るや否やリオーネの態度は急変した。
リオーネから危険を感じた俺たちは転移魔法を使っての逃亡を試みたが、不運にも俺はただ一人迷宮の最下層へと転移してしまう。
その先で邂逅した存在に、俺がこの異世界でやらなければならないことを突きつけられる。
挫折し、絶望し、苦悩した挙句、俺はなんとしてでも──『魔王』を倒すと決意する。
異世界で俺だけレベルが上がらない! だけど努力したら最強になれるらしいです?
澤檸檬
ファンタジー
旧題 努力=結果
異世界の神の勝手によって異世界に転移することになった倉野。
実際に異世界で確認した常識と自分に与えられた能力が全く違うことに少しずつ気付く。
異世界の住人はレベルアップによってステータスが上がっていくようだったが、倉野にだけレベルが存在せず、行動を繰り返すことによってスキルを習得するシステムが採用されていた。
そのスキル習得システムと異世界の常識の差が倉野を最強の人間へと押し上げていく。
だが、倉野はその能力を活かして英雄になろうだとか、悪用しようだとかそういった上昇志向を見せるわけでもなく、第二の人生と割り切ってファンタジーな世界を旅することにした。
最強を隠して異世界を巡る倉野。各地での出会いと別れ、冒険と楽しみ。元居た世界にはない刺激が倉野の第二の人生を彩っていく。

やさしい異世界転移
みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公
神洞 優斗。
彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった!
元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……?
この時の優斗は気付いていなかったのだ。
己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。
この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

家族で突然異世界転移!?パパは家族を守るのに必死です。
3匹の子猫
ファンタジー
社智也とその家族はある日気がつけば家ごと見知らぬ場所に転移されていた。
そこは俺の持ちうる知識からおそらく異世界だ!確かに若い頃は異世界転移や転生を願ったことはあったけど、それは守るべき家族を持った今ではない!!
こんな世界でまだ幼い子供たちを守りながら生き残るのは酷だろ…だが、俺は家族を必ず守り抜いてみせる!!
感想やご意見楽しみにしております!
尚、作中の登場人物、国名はあくまでもフィクションです。実在する国とは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる