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第16章 片手間にいろいろしながら生きていこう

290.事なかれ主義者はちょっと心配

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 昼食後はパメラに誘われて、アンジェラや小さい方のドライアドたちも含めて一緒に遊んだ。
 魔力を温存するためにかくれんぼをしたけど、どこに隠れてもすぐに見つかってしまう。

「シズトさま、まりょくかくさないとすぐみつかっちゃうよ?」
「……アンジェラ、探知もできるの?」
「うん、できるよ?」
「毎日かくれんぼしてたらできるようになってたデス。ドライアドもパメラも魔力隠すから関係ないデスけど」

 この世界の子どもってすごいんだな。身体強化の延長線みたいなものだから簡単だとアンジェラとパメラが喋っているけど、その簡単な事が僕には難しい。
 未だに魔力探知とか魔道具に頼ってるよ。魔道具頼りだからできないのかな?
 うーん……と、考え込んでいるとアンジェラが「みんなが教えてくれてできるようになったの」と教えてくれた。
 どうやら、別館に住んでいるエルフのジュリーンや、ダークエルフのダーリアだけではなく、ラオさんやルウさん等が暇つぶしでアンジェラに魔力の扱い方や戦い方を教えているらしい。

「さいきんは、ゆみをおしえてもらってるの。うまくあたったらやったーってなるの」
「弓って結構力いるんじゃないの?」
「身体強化で何とでもなるデスよ? それこそ魔物の素材をたくさん使った強弓でもない限り、問題ないデス」

 身体強化ができない人は筋トレをするしかないんすね、分かります。
 僕が興味を持った事を察したのか、アンジェラがいつも練習をしている場所に案内してくれた。
 的がかけられているのでよく分かる。……的が人型で傷だらけなのは触れないでおこう。
 立てかけられていた道具を取ると、アンジェラは的からだいぶ離れて矢を番える。
 ピンク髪の幼女はキリッとした目つきで的に狙いを定めているようだ。
 狙いが定まったのか、彼女が矢を放つ。まっすぐに放たれた矢は、見事に的の頭部を貫いた。

「つぎはシズトさまのばん!」
「え?」
「ぎゅってひっぱって、えいってするといいよ!」
「ちょっと何言ってるか分かんない……」
「ぎゅぎゅってうでにまりょくをあつめるとかんたんだよー」
「そもそも魔力を意識的に集められないんだよなぁ……」
「暇デース! 別の遊びしたいデス!」
「だめだよ、パメラちゃん。シズトさまがしたいことをさきにするの。ほら、シズトさま、しゅうちゅうして!」

 アンジェラに注意されて慌てて矢を番える。身体強化なんて使えないから物理で頑張るしかない。
 ゆっくり狙えるほど筋力はなかったけど、できるだけ頑張って狙って矢を放った。でも、やはり的から外れてしまった。
 んー……弓使いには成れなさそうだ。残念ではないけど。
 魔道具化して矢を必中させる魔道具を作ろうかなと考えたけど、魔力がもったいないのでせっせと自分の力で的に当てようと努力した。
 結局、的に当てる事はできなかったけど、やった事がなかったので結構楽しかった。
 お礼にアンジェラの頭を撫でていると、嬉しそうに彼女は微笑んだ。



 日が暮れる頃にはレヴィさんとセシリアさん、ドーラさんが帰ってきた。
 既に帰ってきていたホムラとユキと一緒に食堂で待っていると、最初に現れたのはドーラさんだった。インナー姿でちょっと目のやり場に困る。いつもの定位置に座るとボーッとし始めた。
 遅れてやってきたレヴィさんはちゃんと部屋着、というかいつもの農作業用の服に着替えてやってきた。ドレスが窮屈だったらしい。セシリアさんに椅子を引かれてそこに座った。
 セシリアさんはレヴィさんの近くでそのまま控えている。
 まだエミリーの手伝いをしに行ったジューンさんと、部屋に引き籠っているノエルがやってきていない。
 ホムラが席を立ってノエルを迎えに行ったところで、レヴィさんが口を開いた。

「審査員、ある程度集める事ができたのですわ」
「ありがと」
「お礼を言われる事は何もしてないのですわー。審査員をつけて催し物みたいにしてみたかっただけですから気にしなくていいのですわ」
「ああ、大会の準備と言えばファマリアの町にあるそれぞれのギルドとの話し合いも終わったわ、ご主人様。お望みの通り、極力お金を使うようにしたけれど、そんなに使えなかったわ」

 僕の方を見て口元を綻ばせていたユキが思い出したかのように言ってきた。
 意図的にお金を使うように言ったはずだけど、それでもそんなに使えなかったって所持金額がやばいのか、大した金額を請求されなかったのかどっちなんだろう……と、考えているとレヴィさんが答えそうだから思考を切り替える。

「町の子たちはどんな感じ?」
「着々と準備を進めている、と言った所かしら、ご主人様。料理の経験が豊富な者たちをユグドラシルから招き、研修所の講師として働いてもらって希望者に随時教えていってるわ。ただ、どうしても経験の差は出てしまっているわね。今までそういう経験がなかった小さい子たちは予選として出した課題をクリアできるかどうか微妙なラインだと思うわ」
「そっか……予選はどんな事をするの?」
「予選は基本的な調理の知識と技術を確認するために、筆記と実技を行うのですわ。実技では研修所の試験官に加えて、ドラゴニアとガレオールから一名ずつ審査員が追加される予定ですわ」
「筆記と実技両方って大変そうだね」
「どちらかで優秀な成績を修めた者はもう片方がダメだったとしても通過させるつもりよ、ご主人様」

 なるほど、そうなると片方だけ猛勉強する子とか出てきそうだ。
 そう考えていたら、加護無しの指輪を首飾りにしたままだったレヴィさんが、指輪を嵌めながら「試験の選考基準については伝えてないからそういう事をする子は出て来ないと思うのですわ」と僕の考えを訂正した。
 着々と大会の準備は進んでいるけど、蚊帳の外感がすごい。
 こういう催し物って、文化祭と一緒で準備する間が楽しそうだからやってみたかったけど、ギルドのお偉いさんや王侯貴族と商談しなくちゃいけないと考えたら蚊帳の外でもいいような気もする。
 んー、何とも言えない、と首をひねっていると、ノエルがホムラに引き摺られながら部屋に入ってきた。
 ジューンさんとエミリーもその後にワゴンを押して入ってきて、夕食の準備がすぐに整った。
 ラオさんとルウさんがいないからジューンさんとノエルが席を詰め、皆が席に着いたところでいつもの食事前の挨拶を唱和した。
 早食いをする二人がいない食卓で、食事をしながら思う。
 二人は今、どうしているのかな、と。 
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