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第16章 片手間にいろいろしながら生きていこう

287.事なかれ主義者は予定を考える

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 奴隷たちを解放した翌朝、いつもの時間にいつものように目が覚める。
 ただ、最近はいつもとは異なって、前日の担当の人がお布団に一緒に入っている。
 今日はルウさんだから覚悟はしてたけど、案の定だった。
 もがけばもがくほどなぜか拘束が強くなる。不思議!

「シズトくん、動いちゃダメですよー」
「ん~~~~!!!」

 顔がおそらく胸に押し付けられている。っていうか息し辛い!
 柔らかいし良い匂いだけどそれどころじゃない!
 足も絡められて圧迫感がやばいけどそれが心地いい……じゃない!
 これは下もやばいけど上も物理的にやばい。
 顔を動かして何とか口の周りに空間を作る。

「ルウさん、苦しい!!」
「え? あ、ごめんね、シズトくん。お姉ちゃん、ちょっとやりすぎちゃったかしら」
「そう思うなら早く離して!」
「えー……もうちょっとだけいいでしょ?」
「は~な~し~て~~!」
「分かったわ。残念……」

 ルウさんの拘束が弱まった瞬間、転がりながら緊急離脱する。
 いろいろやばかったけど何とか無事に逃げられた。
 ルウさんをジトッと見ると、体を起こしたルウさんが僕の方を見ていて視線が合った。
 ルウさんの赤くて綺麗な長い髪には寝癖がついていて所々跳ねている。
 赤い目は普段は優し気なたれ目だけど、獲物を見る捕食者のような目をしている気がするのは気のせいだろうか。
 掛布団を羽織っていた彼女が、動いた。
 するりと掛布団が肩から落ちて、彼女の着ている服が露になる。
 暑がりなのはラオさんと一緒なんだろうけど、目のやり場に困るからもう少し露出の少ない服を着て欲しい。
 白い紐パンにラオさんと同じような袖なしの着丈の短い白の肌着が露になった。胸元が大きく開いているから、彼女が四つん這いで近づいてくると谷間がさらに強調される。

「シズトくん、落ち着いたかしら?」
「ルウさんのせいで落ち着かないから、服を着て部屋から出てって!」
「そう……分かったわ。それじゃあ、食堂で待ってるわ」

 そう言ってルウさんはベッドから出ると、ガウンを羽織って部屋から出て行った。
 ……ちょっとすっきりしてから部屋から出るべきだろうか。
 そんな事を考えながら、既にベッドの上に用意されていた服に着替えた。



 結局、着替える事以外は特に何もせず部屋の外に出ると、今日のお世話係のジューンさんが待っていてくれた。

「おはようございますぅ」

 ぺこりと彼女がお辞儀をすると、エルフらしからぬ二つの大きな物が揺れてそれに視線がいく。
 ルウさんの立派な物の記憶が鮮明だからいろいろとやばかったけど、ジューンさんは僕の少し後ろについて来ているので幸いばれていない気がする。
 上着の裾を引っ張って気づかれないようにしつつ歩いているとすぐに鎮まったので何とかなった。

「……ジューンさんって、今日エミリーと何か話した?」
「エミリーちゃんとですかぁ? そうですねぇ、今日のご飯についてのお話はしましたぁ。でもぉ、シズトくんの知りたい事はそういう事ではないですよねぇ」

 歩きながら後ろにいるジューンさんのチラッと見ると、彼女は考え込んでいる様子で、腕を組んで首を傾げながら視線を少し上に向けて歩いていた。
 大きな胸がさらに強調されていたのでサッと視線を前に戻す。

「昨日のドフリックちゃんの暴露の事はぁ、特に何も言ってませんでしたよぉ」
「そっか」

 結局あの後、「とりあえず保留で」と言ってしまい、エミリーとシンシーラについての話はそこで終わってしまった。
 僕の優柔不断な判断に二人は怒る様子もなく、その後は楽しそうに食事をしていた。
 ドフリックさんから知らされた文化的違いからくる問題に意識が向かいすぎていて、その後の事はよく覚えていない。
 眠る前の魔力を使い切る事も忘れてベッドの上で考え込んでいたら、「夜更かししちゃダメよ?」とルウさんに押し倒されて……さっき起きて、今に至る。
 考えても考えても答えが出ないので、時間に解決してもらう事を祈るしかない。
 階段を降り切って、一階の奥の方にある部屋の扉をジューンさんに開けてもらうと、いつもと変わらない光景がその場に広がっていた。

「他の皆は一緒に食べないの?」
「奴隷から解放されましたが、私たちは雇われの身ですので」

 出入口の近くに控えていたモニカにそう言われてしまえば強くは言えない。
 何事も強制は良くないもんね。
 エミリーに視線を向けたけど、彼女はいつもと変わらず給仕を淡々とこなしていた。
 僕と視線があっても、ボワッと尻尾が膨らんだだけでお皿を落とす事はない。
 準備が終わったので、いつもの皆と食事の前の挨拶を唱和すると、皆の予定を確認していく。

「アタシとルウはイザベラとボビーを連れてダンジョンの探索だな」
「イザベラさんたちと? どこのダンジョンに行くの?」
「以前ガレオールから魔物が大量に湧いている島を貰ったの覚えているのですわ? ダンジョンがあると聞いていたから、フェンリルに外の魔物は全部掃討してもらったのですわ」
「余裕がある時に調査に行きましょう、って話になってたけど、シズトくんの護衛はジュリウスがやってくれるそうだから、丁度いいかなって思って。次のお世話係の日までには戻るようにするわ!」
「気を付けてね」

 同居している皆にはもしもの時に使う『帰還の指輪』を渡している。
 ただ、それでも即死するような攻撃などを食らってしまったら意味がない。
 安全第一、いのちだいじに作戦で行ってもらいたい。
 ……一緒に冒険するならイザベラさんやボビーさんに『帰還の指輪』を貸し出しした方が良いかなぁ。
 ちょっと二人が出かける前に押し付……渡しておこう。使うかどうかは分かんないけど。

「私はガレオールに行くのですわー」
「その護衛」

 露出がほとんどない黒いドレスを着たレヴィさんと武装しているドーラさんはガレオールに行くのか。
 レヴィさんの後ろに控えているセシリアさんはレヴィさんについて行くだろうな、と思って彼女を見ると、タイミングよく頷いた。

「今日は外部審査員を募集しに行くのですわ。シズトの婚約者になるかもしれないランチェッタ女王陛下の好みを熟知している人を複数人選出してもらっているのですわ~」
「なるほど」

 今は文通しているだけだけど、このまま何事もなければ婚約者になる可能性が高いランチェッタ女王陛下が好きな味の料理を作れる人を雇うのは確かに大事……か?
 まだそうと決まったわけじゃないから気が早い気がするけど……手紙のやり取りをしていた時に料理大会の事を話題にしたから気になったのかな。
 ユキはドランにあるお店を、ホムラはファマリアで面会希望者と会って商談をするらしい。
 元奴隷たちは今まで通りの生活をするらしいから、特に変わり映えもないとの事だった。
 ノエルは相変わらず口に物を詰め込むと部屋を嵐のように出て行く。

「ジューンさんはどうするの?」
「私ですかぁ。今日はぁ、シズトくんのお世話係ですからぁ、ついて行こうかなぁって思いますぅ」
「分かった。じゃあ一緒にトネリコに行こうか」

 ジューンさんは僕の代理人という事で世界樹の根元に広がる森にも立ち入りを許可されている。
 特にやってもらう事はないけど、ついて来るならお喋りしながらのんびりお世話でもして………その後どうしようか?
 何かやりたい事あったかな、と考えながらゆっくりと朝ご飯を食べた。
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