420 / 1,094
第16章 片手間にいろいろしながら生きていこう
幕間の物語137.没落令嬢は念のため確認した
しおりを挟む
ドラゴニア王国の最南端に広がる不毛の大地は、アンデッド系の魔物が地面の下から這い出てくる事で有名だ。
過去に大きな戦があり、その時に亡くなった多くの者たちの怨念が染みついてしまっているのではないか、とも言われているその土地に、世界樹ファマリーが聳え立っている。
日が沈んでしばらく経っているため、常夜灯が魔力を燃料に光り、世界樹の根元に広がる畑の一部分と、この土地の所有者が住む屋敷を照らしていた。
屋敷は二つに分かれていて、小さな方は既に明かりが消えている。だが、大きな建物からは明かりが漏れ出ていた。
二階にある談話室もそうだ。その場に集まっているのは、奴隷の証である首輪を身に着けた少女たち。
殆どが寝間着姿でリラックスした様子で椅子に腰かけていた。
ただ、仕事着であるメイド服を未だに着ているモニカは、背筋を伸ばして綺麗に椅子に座っている。
ショートヘアーの黒い髪の彼女は、その場に集まっている同僚に、淡々と今日あった出来事を話していた。
「――という訳で、ブライアン様と日程調整が出来次第、私は奴隷から解放される事になりました。無論、今まで通りこの屋敷で生活し、働く事も許可されました。また、お食事の後に再度確認した際、希望者がいる場合は同じタイミングで奴隷から解放しようとシズト様はお考えの様でした。ただまあ『希望者は』ですが。皆さんは希望されますか?」
首を傾げて尋ねるモニカだったが、答えは分かり切っていた。
茶色の髪にモフッとした尻尾が特徴的な狼人族のシンシーラが食い気味で答える。
「希望するに決まってるじゃん!」
「そうね。お客様がお越しになった時に、流石に奴隷だとちょっと困るから、それ以外選択しないわ」
白い尻尾が元気よくピンとしている狐人族のエミリーがシンシーラの後に続く。
その様子を見てニヤニヤし始めるパメラ。
「エミリーは他にも理由があるはずデス!」
「それはあなたたちもそうでしょ!」
「ボクは違うっす!」
「口では否定するけど、ここに集まっているじゃない」
「来いって言われたから来ただけっす」
机を囲んではいるものの、持ってきた魔道具の魔法陣を眺めていたハーフエルフのノエルが抗議をするが、他の者たちは気にした様子もない。
モニカは念のため、ノエルの意思を確認しようと口を開いた。
「結局、あなたは奴隷から解放されたいのですか?」
「ボクっすか? そうっすね~。今までの生活が続くんだったら、それもありかもしれないっすね。ただ、もう二度と王様とかの相手をしたくないっすし、しっかり確認してからっすね」
「そうですか。基本的な貴族対応は私で十分ですが、魔道具についてはあなたの知識に頼らざるを得ない状況ですから、難しいのではないかと思いますが……いっその事、ノエルよりも魔道具に精通している人物を雇い、その方に頼むのもありかもしれません」
「ノエルよりも魔道具に詳しい人なんて、ドタウィッチにある学院の研究者くらいじゃん?」
「そうですね。直接そこからスカウトする事もありかもしれません。あそこに通われているのは殆どが王族か貴族ですから、その対応はお手の物でしょう」
モニカは一度話を止めてパメラに視線を向ける。
黒い翼が背中から生えている翼人の彼女は、今日は夜警という事で魔物の皮で作られた鎧を着ていた。
彼女はお菓子を頬張り続けていたのだが、モニカの視線に気づいて顔をあげる。
「パメラも奴隷から解放されたいのでしょうか?」
「んー、よく分かんないデス! でも、シズト様ともっと仲良くなってたくさん遊びたいデス!」
「分かりました。では、条件付きの者もいますが、私を含めた五人を奴隷から解放してもらうようシズト様にお伝えしておきます」
「別館に住んでいる人たちはいいじゃん?」
「あちらの方々にも確認をさせていただきましたが、アンディーとシルヴェラ夫妻は『正規の手順で解放されたい』そうです。シズト様から与えられる報酬をコツコツ貯めて行けば、自力で条件を満たす事も可能でしょう。また、ジュリーンやダーリアは『働いていればその内返せる』との事です。彼女たちの金額を考えると、当分先ですが……長命種である彼女たちにとってはその程度の認識なのでしょう」
「ジュリーンとダーリアらしいと言えばらしいわね。それよりも、アンディーとシルヴェラは、アンジェラの事もあるし、解放を望むと思ったけど違うのね」
「シズト様のおかげで病気がちだったアンジェラはすっかり元気になってますから、急いで解放される必要性を感じなくなったのでしょう。奴隷としてしっかりと働いて恩を返したい、という気持ちもあるかもしれません」
モニカは聞きたい事は聞いたので席を立った。
「とにもかくにも、シズト様に報告しておきます。また解放日が決まりましたらご報告させていただきます」
モニカはぺこりと一礼して一足先に談話室から出る。
そして、自室に戻るために長い廊下を歩きながら、奴隷から解放された後の事を考え、小さな声で呟いた。
「私も、貴族には戻りたくないと伝えておくべきだったかもしれません」
過去に大きな戦があり、その時に亡くなった多くの者たちの怨念が染みついてしまっているのではないか、とも言われているその土地に、世界樹ファマリーが聳え立っている。
日が沈んでしばらく経っているため、常夜灯が魔力を燃料に光り、世界樹の根元に広がる畑の一部分と、この土地の所有者が住む屋敷を照らしていた。
屋敷は二つに分かれていて、小さな方は既に明かりが消えている。だが、大きな建物からは明かりが漏れ出ていた。
二階にある談話室もそうだ。その場に集まっているのは、奴隷の証である首輪を身に着けた少女たち。
殆どが寝間着姿でリラックスした様子で椅子に腰かけていた。
ただ、仕事着であるメイド服を未だに着ているモニカは、背筋を伸ばして綺麗に椅子に座っている。
ショートヘアーの黒い髪の彼女は、その場に集まっている同僚に、淡々と今日あった出来事を話していた。
「――という訳で、ブライアン様と日程調整が出来次第、私は奴隷から解放される事になりました。無論、今まで通りこの屋敷で生活し、働く事も許可されました。また、お食事の後に再度確認した際、希望者がいる場合は同じタイミングで奴隷から解放しようとシズト様はお考えの様でした。ただまあ『希望者は』ですが。皆さんは希望されますか?」
首を傾げて尋ねるモニカだったが、答えは分かり切っていた。
茶色の髪にモフッとした尻尾が特徴的な狼人族のシンシーラが食い気味で答える。
「希望するに決まってるじゃん!」
「そうね。お客様がお越しになった時に、流石に奴隷だとちょっと困るから、それ以外選択しないわ」
白い尻尾が元気よくピンとしている狐人族のエミリーがシンシーラの後に続く。
その様子を見てニヤニヤし始めるパメラ。
「エミリーは他にも理由があるはずデス!」
「それはあなたたちもそうでしょ!」
「ボクは違うっす!」
「口では否定するけど、ここに集まっているじゃない」
「来いって言われたから来ただけっす」
机を囲んではいるものの、持ってきた魔道具の魔法陣を眺めていたハーフエルフのノエルが抗議をするが、他の者たちは気にした様子もない。
モニカは念のため、ノエルの意思を確認しようと口を開いた。
「結局、あなたは奴隷から解放されたいのですか?」
「ボクっすか? そうっすね~。今までの生活が続くんだったら、それもありかもしれないっすね。ただ、もう二度と王様とかの相手をしたくないっすし、しっかり確認してからっすね」
「そうですか。基本的な貴族対応は私で十分ですが、魔道具についてはあなたの知識に頼らざるを得ない状況ですから、難しいのではないかと思いますが……いっその事、ノエルよりも魔道具に精通している人物を雇い、その方に頼むのもありかもしれません」
「ノエルよりも魔道具に詳しい人なんて、ドタウィッチにある学院の研究者くらいじゃん?」
「そうですね。直接そこからスカウトする事もありかもしれません。あそこに通われているのは殆どが王族か貴族ですから、その対応はお手の物でしょう」
モニカは一度話を止めてパメラに視線を向ける。
黒い翼が背中から生えている翼人の彼女は、今日は夜警という事で魔物の皮で作られた鎧を着ていた。
彼女はお菓子を頬張り続けていたのだが、モニカの視線に気づいて顔をあげる。
「パメラも奴隷から解放されたいのでしょうか?」
「んー、よく分かんないデス! でも、シズト様ともっと仲良くなってたくさん遊びたいデス!」
「分かりました。では、条件付きの者もいますが、私を含めた五人を奴隷から解放してもらうようシズト様にお伝えしておきます」
「別館に住んでいる人たちはいいじゃん?」
「あちらの方々にも確認をさせていただきましたが、アンディーとシルヴェラ夫妻は『正規の手順で解放されたい』そうです。シズト様から与えられる報酬をコツコツ貯めて行けば、自力で条件を満たす事も可能でしょう。また、ジュリーンやダーリアは『働いていればその内返せる』との事です。彼女たちの金額を考えると、当分先ですが……長命種である彼女たちにとってはその程度の認識なのでしょう」
「ジュリーンとダーリアらしいと言えばらしいわね。それよりも、アンディーとシルヴェラは、アンジェラの事もあるし、解放を望むと思ったけど違うのね」
「シズト様のおかげで病気がちだったアンジェラはすっかり元気になってますから、急いで解放される必要性を感じなくなったのでしょう。奴隷としてしっかりと働いて恩を返したい、という気持ちもあるかもしれません」
モニカは聞きたい事は聞いたので席を立った。
「とにもかくにも、シズト様に報告しておきます。また解放日が決まりましたらご報告させていただきます」
モニカはぺこりと一礼して一足先に談話室から出る。
そして、自室に戻るために長い廊下を歩きながら、奴隷から解放された後の事を考え、小さな声で呟いた。
「私も、貴族には戻りたくないと伝えておくべきだったかもしれません」
71
お気に入りに追加
454
あなたにおすすめの小説

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。

こちらの異世界で頑張ります
kotaro
ファンタジー
原 雪は、初出勤で事故にあい死亡する。神様に第二の人生を授かり幼女の姿で
魔の森に降り立つ 其処で獣魔となるフェンリルと出合い後の保護者となる冒険者と出合う。
様々の事が起こり解決していく

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!
仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。
しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。
そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。
一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった!
これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

『転生したら「村」だった件 〜最強の移動要塞で世界を救います〜』
ソコニ
ファンタジー
29歳の過労死サラリーマン・御影要が目覚めたのは、なんと「村」として転生した姿だった。
誰もいない村の守護者となった要は、偶然迷い込んできた少年リオを最初の住民として迎え入れ、徐々に「村」としての力を開花させていく。【村レベル:1】【住民数:0】【スキル:基本生活機能】から始まった異世界生活。

ダンジョンで有名モデルを助けたら公式配信に映っていたようでバズってしまいました。
夜兎ましろ
ファンタジー
高校を卒業したばかりの少年――夜見ユウは今まで鍛えてきた自分がダンジョンでも通用するのかを知るために、はじめてのダンジョンへと向かう。もし、上手くいけば冒険者にもなれるかもしれないと考えたからだ。
ダンジョンに足を踏み入れたユウはとある女性が魔物に襲われそうになっているところに遭遇し、魔法などを使って女性を助けたのだが、偶然にもその瞬間がダンジョンの公式配信に映ってしまっており、ユウはバズってしまうことになる。
バズってしまったならしょうがないと思い、ユウは配信活動をはじめることにするのだが、何故か助けた女性と共に配信を始めることになるのだった。

異世界転生~目指せ!内乱を防いで、みんな幸せ♪
紅子
ファンタジー
いつの間にかこの国の王子に転生していた俺。物語の世界にいるなんて、想定外だ。このままでは、この国は近い未来に内乱の末、乗っ取られてしまう。俺、まだ4歳。誰がこんな途方もない話を信じてくれるだろうか?既に物語と差異が発生しちゃってるし。俺自身もバグり始めてる。
4歳から始まる俺の奮闘記?物語に逆らって、みんな幸せを目指してみよう♪
毎日00:00に更新します。
完結済み
R15は、念のため。
自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

やさしい異世界転移
みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公
神洞 優斗。
彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった!
元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……?
この時の優斗は気付いていなかったのだ。
己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。
この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる