上 下
417 / 1,023
第16章 片手間にいろいろしながら生きていこう

280.事なかれ主義者は指摘しない

しおりを挟む
 レヴィさんたちは料理大会の打ち合わせのために屋敷に残り、僕はジュリウスと二人で世界樹トネリコの根元に転移していた。
 設置しておいた転移陣の上に転移し終えると、すぐにトネリコの上の方からするするとドライアドたちが降りてくる。
 肌が褐色のドライアドに混ざって、一人だけ真っ白な肌のドライアドが混じっていた。

「青バラちゃん、おはよー。今日もここにいたんだ」
「ここの子たちが大変そうだからお手伝いしてあげてるの」
「ホムラに頼まれてたアルバイトは大丈夫なの?」
「お手伝いさんを雇ったから私がいなくても大丈夫!」

 なるほど、現地採用して人手を増やしたわけですね。
 誓文書を用いれば、監督者がいなくても下手な事は出来ないだろうし、良いんじゃないかな。
 今後店を作る時は基本的にそうしようかなぁ。
 そうするとお店がオープンしてから安定するまでの流れを経験している人に最初の間はお願いしたいんだけど……まあ、そこら辺はホムラやユキに考えてもらおう。

「パパッと終わらせて、話し合いの場に同席しようかな。魔力が余ってたら神様たちの像をちょっと修正したいんだけど」
「職人に作らせますか? アダマンタイト製ではないですが……」
「作ってもらう分にはいいけど、祠や教会にはしっかりした物を置いてあげたいから自分でやるよ。ただ問題があるとしたらアクスファースに作った物かな。結局行かなくちゃいけないだろうし、ついでにライデンの様子を見に行くのもありか。元気にしてるといいんだけど」

 毎日届く報告書を見ていると、特に問題は起きていないようだから気にしなくてもいいんだろうけど、ホムラやユキ、クーと違ってほとんど関わりがないからちょっとやらかしてないか心配だ。人の事言えないけど……。
 生育の加護をパパッと使ってごっそりと魔力を持っていかれたけど、何とか踏ん張って自分の足で転移陣まで移動すると、そのまま転移した。
 世界樹の根元付近に転移すると、丁度農作業中だったようだ。
 わらわらと動き回るドライアドたちの中に、頭に花が咲いていない子どもがちらほらといた。その代わりに首にごつい首輪が着けられている。
 一生懸命作業をしていた彼女らだったが、僕が転移してきたのに驚いたのか作業の手が止まっていた。
 だが、すぐに何かに気付いた様子で慌てて道具を放り出してその場に跪こうとした。

「えっと、そのまま続けてていいよ」
「シズト様はこの様に仰せだ。しっかりと職務を果たすように」
「はい!!」

 短い返事と共に、首輪をつけた子どもたちがせっせと農作業をしていく。
 数人は魔動耕耘機を使って、畑ではない所を耕し、奴隷たちの農地を広げていた。耕せば耕すほど奴隷たちが自由に使える土地が増えるという事で、皆率先して取り組んでいた。その様子をドライアドたちが後から追ってあーでもないこーでもないと話をしていた。
 他にも水やりをするための魔動散水機という魔道具に燃料であるくず魔石を入れていく幼い子たちもいる。魔石を入れるために畑の中を元気よく駆け回る子どもたちを見ていると、ついついクスッと笑ってしまった。
 ドライアドたちもその様子を見て鬼ごっこをしていると勘違いしたのか、走り始める。一人が走り始めると近くにいたドライアドたちもそれにつられて走り始めた。
 それをボケーッと眺めていたら、ジュリウスが話しかけてきた。

「いかがなさいますか、シズト様。こちらでのんびりして頂いても構いませんが、話し合いの場に同席しますか?」
「んー……とりあえず話し合いの場に同席かなぁ」

 こういう時、議事録を取るための魔道具があったらいいのに。
 ……思いついたけど、今作ったところで利用する機会はそんなにないと思うし、作らなくていいや。
 そんな事を考えながら、ジュリウスの後について話し合いが行われている食堂へと向かった。


 食堂にはホムラとユキを除いた婚約者たちしかいなかった。
 ホムラとユキは既に魔道具店の留守番をしに行ったのだろう。
 お茶とかお菓子とか準備するためにいつも残っているエミリーすらいない。その代わりにセシリアさんがせっせとお茶の用意をしていた。
 食卓では、何やらドーラさんが話をしていたみたいで皆ドーラさんに注目していたけど、僕が入ってきた瞬間にスンッと何事もなかったかのような雰囲気を取り繕っていた。
 なんだろう、今日の朝の事でも話していたのかな。
 ちょっと元気が有り余っている事とか言われてないかな、大丈夫だよね。

「お、お帰りなのですわ!」
「ただいま。大会の話し合いは終わったの?」
「まだなのですわ」
「今からぁ、誰を審査員にするかぁ、話し合おうと思ってましたぁ」

 別の話をしていたから話が進んでいないんですね、分かります。
 でもそんな事を言うと藪蛇になりそうだったので、話し合いに加わるために黙って座る。
 後片付けが終わったのか、ジューンさんも皆と一緒に食卓の席に座っていた。
 今日はユグドラシルの使徒の代理人としての業務がないからか、手編みのセーターのような服を着ていて、下はロングスカートを履いている。
 魔道具化をすればどんなに厚着をしても、薄着をしても適温になるからみんな季節感を気にせず、好きな服を着ている事が多い。
 これも『適温』の魔道具の影響か、と思っていると、ジューンさんが手をポンッと合わせた。

「それではぁ、誰を審査員にするかぁ、話し合いましょうかぁ」
「私とジューンは候補から外れるのですわ」
「まあ、立場を考えればそりゃそうだろうな」
「そうなると、私かラオちゃん、ドーラちゃん、セシリアちゃんのいずれかかしら?」
「私も辞退させていただきます。恐らく当日はレヴィア様のお守りで忙しいでしょうから」

 ため息交じりにそんな事を言うセシリアさんの言葉を否定せずにレヴィさんは黙っている。
 ルウさんは何とも言えない様子で曖昧に笑うと、思い出したように話を続ける。

「ここにいないホムラちゃん、ユキちゃんでもいいけど……」
「料理とは関係ない別の基準で決めるんじゃねぇか?」

 僕もそう思います。
 特にホムラは僕への忠誠心というか、想いを基準に選定しそうだ。
 僕の事を考えて色々してくれているんだろうけど、時々暴走するから今回の審査員の候補からは外した方が良いと思う。
 黙ってうんうん頷きながら見守っていると、ドーラさんが口を開いた。

「護衛がある。パス」
「確かにレヴィアの護衛は必要だわな。でもアタシらの中だったらドーラが一番舌が肥えてるんじゃねぇか?」

 うん、紅茶の魔道具を作った時にひたすら飲まされたから、味に関してこだわりはありそうだよね。
 でもドーラさんは首を縦に振らない。

「エミリーの下で働く人を決める大会。作る時、味はエミリーが確かめる。問題ない」
「なるほどな。だったらエミリーをとりあえず審査員に入れるか」
「元々そうするつもりですわー。使用人からはエミリーとモニカを出そうと思っているのですわ」
「モニカちゃんもぉ、元々はお嬢様でしたからぁ、そういう事を判断する舌は持っていますよねぇ」
「作るのは全然ですが」

 セシリアさんがため息交じりに言う。
 モニカ料理できないんだ。
 確かに作っている所は見た事ないし、元貴族令嬢だったらそういうのは使用人に任せるだろうから、不思議じゃないか。
 何でも淡々とこなすから、勝手に何でもできると思ってた。

「そうなると私かラオちゃんだけどぉ」
「あー、アタシはパスするわ。食えりゃ何でもいいし。まだイザベラと一緒に飯に行ってるルウの方が良いんじゃね?」
「そうかしら? ちょっと自信ないけど………シズトくんのためだったら、お姉ちゃん頑張るわ!」

 と、いう事でサクッと審査員を誰にするか決まってしまった。
 ……やっぱり、僕が世界樹のお世話をしている間に終わったんじゃないかなぁ。
 そんな事を思いながら、セシリアさんが淹れてくれた紅茶を口に含んだ。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

異世界転生してしまったがさすがにこれはおかしい

増月ヒラナ
ファンタジー
不慮の事故により死んだ主人公 神田玲。 目覚めたら見知らぬ光景が広がっていた 3歳になるころ、母に催促されステータスを確認したところ いくらなんでもこれはおかしいだろ!

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

異世界のんびりワークライフ ~生産チートを貰ったので好き勝手生きることにします~

樋川カイト
ファンタジー
友人の借金を押し付けられて馬車馬のように働いていた青年、三上彰。 無理がたたって過労死してしまった彼は、神を自称する男から自分の不幸の理由を知らされる。 そのお詫びにとチートスキルとともに異世界へと転生させられた彰は、そこで出会った人々と交流しながら日々を過ごすこととなる。 そんな彼に訪れるのは平和な未来か、はたまた更なる困難か。 色々と吹っ切れてしまった彼にとってその全てはただ人生の彩りになる、のかも知れない……。 ※この作品はカクヨム様でも掲載しています。

異世界でタロと一緒に冒険者生活を始めました

ももがぶ
ファンタジー
俺「佐々木光太」二十六歳はある日気付けばタロに導かれ異世界へ来てしまった。 会社から帰宅してタロと一緒に散歩していたハズが気が付けば異世界で魔法をぶっ放していた。 タロは喋るし、俺は十二歳になりましたと言われるし、これからどうなるんだろう。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

処理中です...