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第16章 片手間にいろいろしながら生きていこう

279.事なかれ主義者は微妙な気持ち

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 朝日が窓から差し込む中、パチッと目を覚ます。そうしてすぐに何かが僕の上に乗っている事に気付いた。
 視線を下に向けると、布団の中がこんもりと盛り上がっていて、布団の隙間から海のように透き通った青い目と目があった。
 金色の前髪の隙間から見える目はとても眠たそうだが、しっかり起きているようで、僕が起きたのを視認すると、もぞもぞっと動き始める。

「おはよう」
「……おはよう、ドーラさん。とりあえず退いてもらえるかな?」
「ん、分かった」

 小柄なドーラさんがずっと僕の上に乗って眠っていたのかは分からないけど、体に異常はない。ちょっと下の方が元気なだけだ。
 ドーラさんは上に乗っていたから気付いているはずだが、その事に触れる事無く、スルッと布団の隙間から出てきた。
 その際に彼女の華奢な肩が目に入る。雪のように真っ白な肌が露になっていた。
 肩は思いっきり出ているが、裸という事はなく、肌が透けて見えるほど薄いネグリジェを着ていた。
 小振りな可愛らしいお尻が透けて見えて、慌てて彼女のいない方に寝返りを打つと、ドーラさんの視線を背中に感じる。

「起きないの?」
「ドーラさんが部屋から出て行ったら起きようかな」
「ん、分かった」

 ぺたぺたと足音を立てながらドーラさんが出て行った。
 つい先ほど見たお尻を思い出しそうになるのをグッと堪えて僕もベッドから出る。
 ちゃんと服は着ているし、昨日も加護を使って魔力を使い切ってそのまま寝たから手を出していないはずだ。
 眠った後にドーラさんが入ってきたんだろうけど、心臓に悪いからできれば普通の寝間着を着て欲しいなぁ。
 そんな事を思いながら素早く着替える。
 今日からはパフォーマンスのためにトネリコの街にわざわざ顔を出すつもりはない。
 クーを乗せた馬車は未だにトネリコに止まっているはずだけど、ニホン連合国とやらに向けて進ませてもいいのかもしれない。
 ああ、でもやる事がある間は落ち着いて観光もできないか。
 ある程度世界樹トネリコが安定してきてから考えよう。今はまだ、魔力はあればあるだけ吸う感じみたいだし。
 世界樹ユグドラシルの時よりも手間がかかっているのは、ドライアドたちが言う『嫌な感じ』のせいなのかもしれない。
 ドライアドたちによると、世界樹トネリコを中心に、だんだんと嫌な感じが減ってきてはいるそうだが、まだ禁足地の森の中にも残っているそうだ。途中で投げ出すわけにも行かないし、クーたちにはのんびりしていてもらおう。
 着替え終わったタイミングで、部屋の扉が開く音がした。
 パーテーションの向こう側の通路を、ゆっくりと歩いて来る足音が聞こえる。

「シズト、着替え終わったか?」
「うん、ちょうど着替え終わったとこ」
「さっさと飯にしよーぜ」

 そう言ってパーテーションの向こう側からラオさんが姿を現した。
 今日から世界樹トネリコの足元に直接転移する事を昨夜の内に伝えておいたからか、武装をしていなかった。
 白のタンクトップに黒のホットパンツといういつもの部屋着だ。毎回思うけどいろいろ大きいから服がパツパツで目のやり場に困る。また息子が元気になる前に、ラオさんを追い越して先に進む。
 ラオさんはその後ろを黙ってついてきた。
 一階まで下りて食堂に入ると、皆勢揃いしていた。
 ドーラさんも既にいて、ダボッとした大きめの服をワンピースのように着ていた。……って、ソレ、僕の服じゃない?

「シズト、おはようですわ!」
「おはよう。……ねえ、ドーラさん。何で僕の上着着てるの?」
「楽」
「………」
「………」
「………そっすか」

 レヴィさんの挨拶に軽く返してドーラさんに問いかけてみたけど、脱ぐつもりはない事だけは伝わった。
 まあ、別に服に関しては何着もユキとホムラが買ってくるから別にいいんだけど、僕の服を朝に着てるとなんか誤解されそうな気がするんすけど……。
 ただ、そう考えているのは僕だけのようで皆はいつも通り座っていて、後から入ってきたラオさんも僕を追い越して自分の席に座った。
 ……とりあえず、ご飯食べるか。
 狐人族のエミリーが配膳してくれた料理に手を付ける。
 今朝採れた新鮮な野菜をふんだんに使ったサラダをもしゃもしゃと食べていると、食事をしていたレヴィさんが口に含んでいた物を飲み込んだ後、口を開いた。
 今日はトネリコにはついて来ないからいつもの普段着だ。……農作業用の服が普段着って王族としてどうなんだろう、とか今更な疑問を感じるけど、レヴィさんらしいからまあいいか。
 長袖長ズボンという露出が全くない服だけど、驚異的な大きさを誇る胸は隠しきれていない。

「料理大会の審査員が一人決まったのですわ」
「早いね。まだ大会をどんなふうにするか決めてないのに」
「そこは審査員を決めてから案を出し合って貰えばいいと思うのですわ~。一先ず、信用できる外部の人間を一人確保できてよかったのですわ」
「あの方ほど適任はいないでしょうからね」

 レヴィさんの後ろに控えていたセシリアさんが同意するように頷く。
 セシリアさんは今日もしっかりとメイド服を着こなしていた。彼女の薄い青色の目と僕の目が合う。

「レヴィア様の料理担当兼、レヴィア様にとって数少ない偏見を持たずに関わってくれる御仁です」
「彼に任せておけばだいたい大丈夫だと思うのですわ~」
「じゃあその人だけで審査するの?」
「いえ、私たちからも数名出す予定ですわ」
「全員じゃないんだ? 僕たちも普通に審査員だと思ってたんだけど……」
「お姉ちゃんたちはともかく、シズトくんが審査員だと皆緊張しちゃうんじゃないかしら?」

 魔力マシマシ飴を舐めながら僕をじっと見つめていたルウさんは、困った様に眉を下げながらも口元が笑っていた。
 そういう物なのか、と思いつつ楽しそうな事に参加できないのは残念に思う。ただ、審査員を任されたらそれはそれで困るんだけど。角が立たないように選ぶの絶対無理だろうし。
 まあ、なんにせよ、エミリーの負担を少しでも減らせたらいいなぁ。
 そんな事を考えながら、僕はたっぷりとジャムを塗ったトーストを齧るのだった。
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