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第15章 三本の世界樹を世話しながら生きていこう

幕間の物語136.王族たちの不毛な争い

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 シズトたちが転移した大陸の北に位置するドラゴニア王国には大小さまざまなダンジョンが無数にあった。
 ドラゴニアはたくさんあるダンジョンから取れる魔物の素材や珍しい鉱石等により栄えているだけではなく、ダンジョンから漏れ出る魔力によって年中気候が安定しているのではないか、と考えられている。
 一定周期でダンジョンから魔物が溢れるスタンピードの被害を抑えるために膨大な軍事費が必要だが、軍事訓練としてダンジョンを利用でき、尚且つ安価に魔物の素材を国の物とする事ができるため、ここ十数年は黒字状態が続いていた。
 そんな豊かな国の王であるリヴァイ・フォン・ドラゴニアは、夜も遅い時間に、王城の執務室で向かいに座っている人物とにらみ合っていた。
 一歩も譲らないという確固たる意志を秘めたその青い瞳は鋭く相手を睨みつけている。
 金色の髪は肩にかかる前にくるくると外側にカールしていた。
 筋骨隆々で尚且つ背も高い体型のため威圧感があるが、目の前の人物は臆した様子もない。
 彼の目の前で優雅に座っている女性はパール・フォン・ドラゴニア。この国の王妃だ。
 淡く赤い目で、夫であるリヴァイに視線を向けている。
 瞳と同色の髪は、ツインテールにされているがテール部分はドリルのように巻かれていて、彼女はその毛先を指で弄んでいた。

「どうしても譲る気はないのか?」
「あるわけないでしょう。義理の息子になる予定のシズト様と仲良くなれるせっかくの機会ですもの、存分に活用させていただくわ。むしろあなたこそ譲る気はないのかしら? 可愛い妻の頼みなのよ?」
「それとこれとは話が別だ。レヴィが城を出てから関わる機会が減っているんだ。この機会を逃す手はないだろ」
「どちらでもよいのではないですか?」
「良くない!」
「良くないわ」

 二人の様子を近くで立って見守っていた青年が、二人に一喝されてキュッと目を瞑る。
 彼はガント・フォン・ドラゴニア。彼の目の前で睨み合っている夫婦の一人目の子どもだ。
 母親譲りの淡く赤い髪は、動きやすいように短く刈り上げられている。トレードマークの太い眉が困ったように垂れ下がる。
 ガントは、どうしてこんな事になったのか、と現実逃避気味に少し前の事を思い出していた。



 彼の両親が睨み合う事になったのは、夕食の時に彼らの娘であり、ガントの一人目の妹であるレヴィア・フォン・ドラゴニアが突然帰ってきた事が原因だった。
 彼女は部屋に入って開口一番に「大会を開くのですわ!」と叫んだ。
 以前とは比べられない程元気になったレヴィアを、両親は温かい目で見守っていたが、彼女のその次の言葉で目の色が変わった。

「何の大会を開くのかしら?」
「以前のように戦う力を競わせるのか?」

 扇子で口元を隠してパールがレヴィアに尋ねる。その後に続いて、ニコニコしながらレヴィアを見ていたリヴァイも付け加えるように聞いた。その様子を見ながらガントは黙々と夕食を食べていた。

「違うのですわ! 料理大会なのですわ! シズトの屋敷でシズトや一緒に働く仲間のために料理を作れる人材を発掘するのですわ!」
「なるほど。だが、国中から集めるとしたら余計な紐がついた者が屋敷の中に入り込む事にならんか?」
「そうならないように、奴隷たちから選抜するだけにする予定ですわ! 奴隷たちによる奴隷たちのための料理大会なのですわ~。つきましては、審査員を一人募集するのですわ! そのために、料理長を借りたいのですけれど、いいですわ?」
「いや、それはできんな」
「そうね、させられないわね」
「どうしてですわ!?」

 小鳥のように可愛らしく首を傾げて尋ねたレヴィアは、お願いすれば貸してもらえると思っていたらしく、驚いた様子で目を丸くしていた。

「彼は多忙だ。後進の育成をしつつ我々の食事を作り、近衛兵たちの食事にも気を使わなければならない人材だ。だからこそ彼はできんだろう」
「私から頼めばやってくれると思うのですわ!」

 望むがまま料理をたくさん作ってくれた柔和な顔立ちの恰幅の良い男性をレヴィアは脳内で思い描く。
 どう考えてもお願いしたら了承してくれる所しか想像できなかったのは、引きこもりだった彼女を甘やかしてくれた内の一人だったからだろうか。
 だが、そんな思いをパールも首を横に振って否定した。

「何より、王族である貴方や、エルフたちの国の王にいつなってもおかしくないシズト様がこれから毎日食べる料理を作る子を見繕う大会なのでしょう? それならばそれ相応の地位の者が審査するべきじゃないかしら」
「そうですわ?」
「そうよ」

 心に一切の迷いなくそう言い切るパールに「そういうものですわ?」と首を傾げるレヴィア。
 その場に居合わせたガントは、その場で二人が行く事が決まると思っていたのだが、レヴィアはそうしなかった。

「じゃあ、それ相応の人を選んでおいて欲しいのですわ。人数は一人で十分なのですわ」
「一人だけか?」
「あまり量を作らせるのも大変だと思うのですわ。そこら辺は、なってから慣れれば問題ないって言ってたのですわ」
「……どうしても一人だけなの?」
「そうですわね。こちらでも審査員は用意しておくのですわ。ですから、一人で十分なのですわ。決まったらまた教えて欲しいのですわ! そろそろお風呂の時間だから帰るのですわ~~~」

 そう言って帰って行ったレヴィアを、その時のガントは特に何も思わず見送った。
 ただ、こうなるのであればしっかりと決めてから帰って行って欲しかったガントだった。
 結局、夜通し話し合っても決まる事はなく「そもそもそういう場では毒見が必須なので、向こうの負担を考えたら料理長に向かわせるのがいいでしょう」と宰相が翌朝指摘し、結局宮廷料理長が向かう事になるのだった。
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