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第15章 三本の世界樹を世話しながら生きていこう
幕間の物語135.深淵に潜みし者は玩具を手に入れる
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闇が全てを覆っている空間で、話し声が響く。
一人はずいぶんと取り乱しているようで、甲高い声で喚いていた。
真っ暗闇のため姿は見えないが、声で女だという事は分かる。
『どうして私がこんな目に合わないといけないのよ!』
「そう言われてもねぇ。ちゃんと事前に説明されてるはずでしょ? ちゃんと聞いていなかった君が悪いよ」
『聞いてないわよ! こんな……こんな醜い姿になるなんて……。穢れ一つなかった私の体が……』
「どうせ都合の良い事だけ覚えてたとかそんな感じじゃないの? それに、本当に聞いていなかったとしても、そうなってしまった以上、僕にはどうしようもないよ。きちんと説明せずに力を与えた仲介者を呪えば?」
『もうとっくにやったわよ! 上手くいかなくて余計に悪化したのよ!!』
「容姿も名前も、偽りだったのかもねぇ。君の場合は、呪う対象についてしっかり知っていないと上手くいかないし。まあ、仲介する彼らが対策をしないわけがないよね」
女性の甲高い声が響く中、暗闇の中から声が返ってくる。
心底どうでもよさそうな口調のその声にさらに腹を立てた女性は金切り声をあげたが、突如としてその声が途切れて消えた。
「まったく、呪いが返ってきたくらいで煩いねぇ。これだからヒト種は嫌いなんだ。都合のいい時は利用するだけ利用して、都合が悪くなれば他人のせいにする。相手をするだけ無駄だね」
暗闇の中から響く声は、話し相手がその場にいなくなってしまっても話し続ける。
基本的に話す相手がいない声の主は、独白が癖になっていた。
「そもそも、何のリスクも負わずに人を傷つけようとする事が間違いなんだよ。温室育ちの軟弱エルフにはちょっと荷が重すぎたんじゃないかなぁ。でもまあ、良い感じに加護を使い続けてくれたから、しばらく生かしておいてあげようかな? どうせ別の大陸でも呪いを振りまいてくれるでしょ。それよりも問題なのは――」
ふっと暗闇の中から一人の少年の姿が浮かび上がる。
黒い髪に黒い瞳が特徴的な気弱そうな少年だ。裾から上の方へと蔦のように伸びている金色の刺繍が施された白いローブに身を包んでいる。
人族の中では中肉中背のその少年の名前はシズト。異世界からの転移に巻き込まれてやってきた者だ。
「力押ししか能がない勇者だったら問題なかったのに、まさかよりにもよって『生育』の加護持ちとはねぇ。タイミングが悪いというかなんというか……。まあ、エルフを見放した神からしたら、当然のタイミングではあるか。もっと早くその加護を持っている事が分かっていれば、すぐにでも殺させたのに……まさか王城じゃなくて平原に降り立つとはねぇ。……もしかしてそれを見越しての事かな? 戦闘系以外の加護持ちは、勇者じゃないから歓迎されないし、あり得そうだなぁ。加護を与えた神が入れ知恵でもしたのか……」
ため息とともに、映し出されていたシズトの像が消える。
無音の闇の中、ぼりぼりと何かを掻きむしる音が、かすかに聞こえる。
「獣人もエルフも、良い感じに煽る事ができていたのに残念だな。もっと格差が広がればお互いを妬みあって面白い事になったかもしれないのに。別に仲介者共がやった事だから痛くも痒くもないけどさぁ……鬱陶しいよねぇ。でも、流石に生半可な力じゃ意味ないしなぁ。もう護衛で固められちゃってるみたいだし、仲介者の誰かを向かわせても駒が無駄に減るだけか。遠くからやろうにも純粋な戦闘系の加護じゃないから、視認する時にはもう向こうの探知に引っかかっちゃうだろうし。はるか遠くから呪わせようとしても、異世界から来た奴らは本名を隠すから無理だしなぁ。そう考えたらやっぱり見るだけでいい奴らを集めて数で攻めるのもありだけど……あの転移者に辿り着く前に護衛と相打ちになって終わりかな。…………せっかくできた外とのつながりを無駄遣いはできないか。どうせ人族だからすぐ死ぬだろうし」
口に出して自分の考えをまとめていた声の主は「それに、出ようと思えばいつでも出られるし」と独り言ちる。
ただ、タイミングは今じゃない、と自分の先程の発言は放り捨てる。
「またいい感じに恨みを抱えていそうな奴らを探させるしかないかー。それまでは……そうだなぁ。暇つぶしにあの口煩いエルフの体でも借りて別の大陸探検するのもありかな? ふふふ、いい暇つぶしになりそうだ」
金切り声を上げていた女はエルフだった。見た目だけは十分いいし、楽しく遊べるはずだ。
暗闇の中、しばらくの間楽しそうな笑い声だけが響いた。
一人はずいぶんと取り乱しているようで、甲高い声で喚いていた。
真っ暗闇のため姿は見えないが、声で女だという事は分かる。
『どうして私がこんな目に合わないといけないのよ!』
「そう言われてもねぇ。ちゃんと事前に説明されてるはずでしょ? ちゃんと聞いていなかった君が悪いよ」
『聞いてないわよ! こんな……こんな醜い姿になるなんて……。穢れ一つなかった私の体が……』
「どうせ都合の良い事だけ覚えてたとかそんな感じじゃないの? それに、本当に聞いていなかったとしても、そうなってしまった以上、僕にはどうしようもないよ。きちんと説明せずに力を与えた仲介者を呪えば?」
『もうとっくにやったわよ! 上手くいかなくて余計に悪化したのよ!!』
「容姿も名前も、偽りだったのかもねぇ。君の場合は、呪う対象についてしっかり知っていないと上手くいかないし。まあ、仲介する彼らが対策をしないわけがないよね」
女性の甲高い声が響く中、暗闇の中から声が返ってくる。
心底どうでもよさそうな口調のその声にさらに腹を立てた女性は金切り声をあげたが、突如としてその声が途切れて消えた。
「まったく、呪いが返ってきたくらいで煩いねぇ。これだからヒト種は嫌いなんだ。都合のいい時は利用するだけ利用して、都合が悪くなれば他人のせいにする。相手をするだけ無駄だね」
暗闇の中から響く声は、話し相手がその場にいなくなってしまっても話し続ける。
基本的に話す相手がいない声の主は、独白が癖になっていた。
「そもそも、何のリスクも負わずに人を傷つけようとする事が間違いなんだよ。温室育ちの軟弱エルフにはちょっと荷が重すぎたんじゃないかなぁ。でもまあ、良い感じに加護を使い続けてくれたから、しばらく生かしておいてあげようかな? どうせ別の大陸でも呪いを振りまいてくれるでしょ。それよりも問題なのは――」
ふっと暗闇の中から一人の少年の姿が浮かび上がる。
黒い髪に黒い瞳が特徴的な気弱そうな少年だ。裾から上の方へと蔦のように伸びている金色の刺繍が施された白いローブに身を包んでいる。
人族の中では中肉中背のその少年の名前はシズト。異世界からの転移に巻き込まれてやってきた者だ。
「力押ししか能がない勇者だったら問題なかったのに、まさかよりにもよって『生育』の加護持ちとはねぇ。タイミングが悪いというかなんというか……。まあ、エルフを見放した神からしたら、当然のタイミングではあるか。もっと早くその加護を持っている事が分かっていれば、すぐにでも殺させたのに……まさか王城じゃなくて平原に降り立つとはねぇ。……もしかしてそれを見越しての事かな? 戦闘系以外の加護持ちは、勇者じゃないから歓迎されないし、あり得そうだなぁ。加護を与えた神が入れ知恵でもしたのか……」
ため息とともに、映し出されていたシズトの像が消える。
無音の闇の中、ぼりぼりと何かを掻きむしる音が、かすかに聞こえる。
「獣人もエルフも、良い感じに煽る事ができていたのに残念だな。もっと格差が広がればお互いを妬みあって面白い事になったかもしれないのに。別に仲介者共がやった事だから痛くも痒くもないけどさぁ……鬱陶しいよねぇ。でも、流石に生半可な力じゃ意味ないしなぁ。もう護衛で固められちゃってるみたいだし、仲介者の誰かを向かわせても駒が無駄に減るだけか。遠くからやろうにも純粋な戦闘系の加護じゃないから、視認する時にはもう向こうの探知に引っかかっちゃうだろうし。はるか遠くから呪わせようとしても、異世界から来た奴らは本名を隠すから無理だしなぁ。そう考えたらやっぱり見るだけでいい奴らを集めて数で攻めるのもありだけど……あの転移者に辿り着く前に護衛と相打ちになって終わりかな。…………せっかくできた外とのつながりを無駄遣いはできないか。どうせ人族だからすぐ死ぬだろうし」
口に出して自分の考えをまとめていた声の主は「それに、出ようと思えばいつでも出られるし」と独り言ちる。
ただ、タイミングは今じゃない、と自分の先程の発言は放り捨てる。
「またいい感じに恨みを抱えていそうな奴らを探させるしかないかー。それまでは……そうだなぁ。暇つぶしにあの口煩いエルフの体でも借りて別の大陸探検するのもありかな? ふふふ、いい暇つぶしになりそうだ」
金切り声を上げていた女はエルフだった。見た目だけは十分いいし、楽しく遊べるはずだ。
暗闇の中、しばらくの間楽しそうな笑い声だけが響いた。
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