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第15章 三本の世界樹を世話しながら生きていこう

幕間の物語132.没落令嬢は酸っぱいのが好き

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 奴隷たちによる話し合いはまだ続いていた。
 パメラは窓の外に飛び出して行ってしまったが、それ以外の面々は、アダマンタイト製のちゃぶ台を囲んでいる。
 ちゃぶ台の上には真っ白なテーブルクロスが敷かれていた。そのテーブルクロスの端の方には魔法陣が刻まれている。汚れ防止の物のようだ。
 物が散乱していた部屋の片づけを終えたモニカは、ノエルが作業をしていた机の引き出しを開け、中からティーセットを取り出した。シズトが魔道具化したティーポットに水を入れた後に魔力を流すと、一瞬にして中の水が紅茶に変わる。
 紅茶と共に、お茶菓子としてクッキーを並べながら、奴隷が甘い物を思う存分食べてもいいのはここぐらいかもしれない、なんて事を思う。
 勇者の中にも奴隷は奴隷として扱う者もいれば、むしろ普通の奴隷の方が良い扱いをされているのではと思ってしまうくらい酷い扱いの奴隷もいる。
 そういった事を踏まえて考えると、自分たちは当たりを引いたのだな、と淡々と作業をしながら心の中で呟いた。

「ありがとうございますぅ」
「ジューン様がお作りになられた物ですので、お礼を言われるほどの事ではありません」
「運んでいただきましたしぃ、机の上に並べていただいたのでぇ」
「……そうですか」

 のほほんとした様子で奴隷たちを見守っていたジューンがそういうのであればまあいいか、と思い机の上に並べ終えたモニカは空いていた場所に座った。

「それでは、頂きましょう」

 モニカの後に「頂きます」と全員が唱和してフォークを手に取った。そこへ、窓の外からバサバサと羽ばたきながらアンジェラを抱えたパメラがやってきた。

「パメラたちの分はどこデスか?」
「アイテムバッグの中に入っているから自分たちで取りなさいよ」
「分かったデス!」

 窓の縁に降り立ったパメラは、アンジェラを抱えたままノエルの作業机の引き出しの所まで駆け寄った。
 パメラに抱えられたアンジェラが引き出しを開け、中から目的のクッキーを取り出す。
 二人分にしては大量に盛られているその皿を大切そうに運びながら、つまみ食いをし始めるパメラと一緒にアンジェラは扉から出て行った。

「どっちがお姉さんか分からないじゃん」
「まったくね」

 シンシーラとエミリーが苦笑する。
 モニカはむしろ平民の子どものアンジェラが年齢にそぐわない行動をしていると判断していたが、言う必要のない事だったので黙ってクッキーを齧る。
 クッキーを食べる事ができるだけでも贅沢なのに、甘いジャムを塗るのは奴隷じゃなかったとしても贅沢をし過ぎだろう。
 元貴族令嬢であったモニカは、実家が貧乏だった事もあり、こういう物を食べる機会がなかった。奴隷になってからの方が良い生活を送っていると感じていた。
 神妙な面持ちでドライアドたちから押し付けられた果物で作ったジャムをたくさん塗ったクッキーを咀嚼しているモニカに、エミリーが視線を向けた。

「話を戻すけれど、ノエルがダメなら誰を前例にするの?」
「そうですね………やはり私が良いのかもしれませんね。ドランにある屋敷に来訪した方々のお相手をさせていただいておりますし、最近はまとめ役も兼任しています。替えはいくらでもいるでしょうが、新しく他の勢力の者たちを引き入れる事はシズト様が許しても、他の方々が望まれないでしょう」

 モニカはティーカップを持ち上げて一口紅茶を飲むと、話を続けた。

「それに、自分で言うのもアレですが、私のような奴隷は小国が乱立していて争いが絶えない西の方の地域でない限り、そんな簡単に手に入らないでしょうから」
「それは間違いないじゃん。それにいたとしても、相当値が張るじゃん」
「そうでしょうね。まあ、今のシズト様の財力であれば買い漁る事も可能でしょうが」

 とりあえず話にキリがついたと判断して、レモンを使って作ったジャムをたくさんつけて食べるモニカ。
 そんなモニカを見ながらニヤッと笑うエミリー。

「それにしても、とうとうモニカも正直になったのね」
「……何の事でしょう?」
「すっとぼけても無駄よ! 私たちにシズト様に好意があるか聞いて回っていたのに、自分は『傍にいた方が報告がしやすいから』って理由でシズト様に同居の許可を貰っていたじゃない! ノエルは照れ隠しも含まれてたけど――」
「照れ隠しじゃないっす!」

 ノエルが作業の手を止めて抗議した。だが、その抗議をエミリーはスルーして話を続ける。

「――モニカはいつも顔色一つ変えないから好きなのか分からなかったのよ。でも、この話し合いに加わっているって事はそういう事でしょう?」
「この話し合いに加わっているのは、その方がシズト様から何かアドバイスを求められた際に返答をしやすいからです」
「ほんとにそう思ってるじゃん? これっぽっちも好意はないって言いきれるじゃん?」
「そうですね……悪くはないと思ってはいますよ。シズト様からお求めになられたら拒否しない程度には。一応私も元貴族令嬢ですので、人並み程度には勇者等には憧れも感じます。加護を授からなかったので猶更。ただ、私もノエルと似てはいますが、シズト様と婚約した場合、貴族に戻る可能性がある事を考慮すると面倒だなという気持ちがあるのも事実なんです。自由に恋をして、自由に過ごしたいな、と。……そういった点で見るとシズト様にも似ているのかもしれません」

 話をしながら塗っていたレモンのジャムがいつの間にか盛りだくさんになってしまった事を反省しつつも、モニカは大きな口を開けてそのクッキーを口の中に入れた。

「そうですねぇ。そこら辺はぁ、奴隷から解放されてからゆっくりと考えて行けばいいと思いますぅ。ただぁ、モニカちゃんもぉ、シズトちゃんもぉどっちも短い命だからぁ早めに決めた方が良いかもしれません」
「エルフからしてみると、そうでしょうね」

 ジューンからのアドバイスに対し、モニカはクスッと笑って紅茶を飲み干した。
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