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第15章 三本の世界樹を世話しながら生きていこう

269.事なかれ主義者は念のために帰った

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 目的地に着いたのか、馬車が停まった。
 我先にと青バラちゃんが馬車から飛び出し、その後にゆったりとセシリアさんとレヴィさんが降り、ジューンさんが後に続いた。

「おにぃちゃ~ん、おんぶ~」
「はいはい」

 僕は寝ぼけているクーを背負うと、最後に馬車を降りた。
 馬車から下りると、前方には世界樹を囲うように生えている木々が生い茂っていた。一応木のトンネルのような道があるが、ここから先はユグドラシルの時のように、世界樹の使徒と番人以外は基本的に入っちゃいけないらしい。
 青バラちゃんが木々に何か話しかけている様子を見ていたら、レヴィさんに袖を引っ張られた。
 振り向くと、たくさんの人がこちらを見ているのが目に映る。
 その人の群れから何だか見覚えのある仮面をつけた一団が近づいてきた。
 近くに控えていたジュリウスがそっと「この国の番人たちです」と耳打ちをしてきた。
 世界樹の番人は仮面をつける決まりが共通なんだろうか。
 なんて事を考えていたら、僕の前で流れるように全員土下座した。止める暇もなかった。

「お初にお目にかかります! 世界樹の番人……いえ、世界樹トネリコの番人のリリアーヌと申します!!」

 声がでかい。
 一番近くで土下座をしているベリーショートの髪の……たぶん声からして女性のエルフは、地面に額をつけながら喋っている。

「我々の願いを聞き届けていただき、恐悦至極でございます!!」
「えっと、どういたしまして? 挨拶はもういいからとりあえず、声小さくしてほしいなぁ。後土下座もやめて」

 ほらほら、立って立って。
 促したら仮面をつけてくれた人が皆立ってくれた。
 出来れば後ろの方で平伏しているエルフたちも立たせて欲しいなぁ。

「人間さん人間さん! たいへんなの~!」
「グエッ!」

 視界の端で地面に生えている草と何やらお喋りをしていた青バラちゃんが急に突っ込んできた。
 リアル腹にダイレクトアタックはちょっときついっす……。
 お腹をさすっていると、青バラちゃんの髪の毛が手に絡みついてきて、体全体で引っ張ってくる。

「早く奥に行くの~~~!」
「ちょ、ちょっと待って……」
「行くの~~~~」

 挨拶もそこそこに、青バラちゃんに引っ張られて並木道を歩く。
 護衛としてジュリウスがすぐ後ろについて来ていた。他の番人たちは木々の上を移動しているようだ。時々枝が揺れている。
 青バラちゃんに引っ張られながらしばらくの間小走りでついて行くと、いきなり開けた土地に出た。
 目の前に聳え立つのはとても大きな木。間違いなく、世界樹トネリコだろう。
 ユグドラシルや、ファマリーと異なり、樹皮がちょっと黒っぽい。雲の上まで届いていそうな世界樹だが、やっぱり枝に葉が一つもついておらず、枯れているように見える。
 青バラちゃんが世界樹の上の方を見上げて指を差す。

「大変なの! すぐに助けてあげて!!」
「はいはい、今から世界樹のお世話するからちょっと待っててね~」
「……ちょっと違うけど、それでもいいから早く!」

 ちょっと違うって何が違うんだろう?
 指を差された方を見るけれど、世界樹が聳え立っているだけ……いや、世界樹の枝に何か……人がいる、ような気がする。
 小さいからよく見えないんだけど……ドライアドかな?

「シズト様。一先ず、生育の加護を使ってはいかがでしょうか?」
「うん、そうだね。青バラちゃんもそれでいいって言ってるし」
「早くなんとかして、人間さん!」
「分かった。分かったから、巻きつかないで!」



 世界樹トネリコに向けて【生育】を使うと、ごっそりと魔力が持っていかれた。
 急な魔力消費による虚脱感というか……なんかよく分からないだるさがあるけど、倒れないようにその場に踏みとどまる。
 それと、青バラちゃんが「助けて欲しい」と言っていたのは、青バラちゃんも含めたドライアドたちの事だったようだ。
 生育の加護を使ってしばらくして、世界樹の上の方からするするするっとたくさんのドライアドたちが降りてきた。
 青バラちゃんたちと違って褐色肌なのは、違う種族だからなのだそうだ。ただ、それ以外の違いはほとんどない。頭の上に花を咲かせているのも、見た目が幼い女の子である事も、髪の毛を自在に操って足元に纏わりついてくる事も。

「なんかヤな感じだった!」
「皆で避難した!」
「上の方安全!」

 褐色のドライアドたちがわらわらと集まってきて訴えてくるけど、ちょっと休憩のために寝転がりたいんですけど……。
 そんな事を考えていると、褐色肌のドライアドたちの中でも一際大きなドライアドが近づいてきた。
 頭の上に咲いているのは……なんだろう? よく分からないけど綺麗な白い花だ。

「人間さんありがとー。おかげでヤな感じがこの周りだけなくなったの!」
「よく分からないけど、気にしないでいいよ。どうせ世界樹に加護を使う事は決まってた事だし。それよりも、そのヤな感じってなんなの?」
「よく分からないのー」
「……あ、そうだ! 人間さんがユグちゃんに加護を使った後に遭ったヤな奴と同じ感じがしたの」

 褐色肌の小さなドライアドたちの相手をしていた青バラちゃんが思い出したように言う。
 …………それって、結構面倒な相手がいるという事なのでは?
 慌ててジュリウスを見たけれど、彼は僕を安心させるように落ち着いた様子でゆっくりと頷いた。

「少なくとも、我々の感知には引っかかっていないのですが、我々には感じられない何かをドライアドたちは感じ取っているようですね。念のため、クー様の力で屋敷にお戻りになられた方が良いかもしれません」
「レヴィさんたちは?」
「シズト様がお帰りになった後、私が伝達します。私はクー様には転移していただけないと思いますので」
「……そうだね、わかった。じゃあ、クー。屋敷まで転移してもらっていい?」
「んー。何ともないから大丈夫だと思うんだけど、お兄ちゃんがそういうならやってあげるー」

 いつの間にか起きていたクーが、ギュッと僕の首に回した腕を締め付けると、一瞬にして景色が変わる。
 いつもの見慣れた自室にそのまま直で転移したようだ。
 ……みんなが戻ってくるか心配だから、とりあえず外で待っていようかな。
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