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第15章 三本の世界樹を世話しながら生きていこう

幕間の物語130.婚約者たちは夜更かしした

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 ドラゴニア王国の南部に広がる不毛の大地に聳え立つ世界樹ファマリー。
 その周囲に広がるシズトの奴隷たちのための町ファマリアは、太陽が沈んだ後も魔道具によって明るく照らされている。
 ただ、ファマリアを囲う聖域の魔道具の外側は夜の闇が広がっていた。また、ファマリアの内側に広がる畑も、シズトの屋敷もそうだ。
 玄関に取り付けられた屋外灯は、近づいた者の魔力を感知して灯りがつくようになっていたが、今は訪問者が誰もいないためついていない。
 建物の中もほとんど灯りはついておらず、窓から差し込む月明かりが頼りだった。
 ただ、灯りがついている部屋もある。
 普段は使われていない二階にある談話室と呼ばれている部屋だ。
 そこにはシズトの世話係として、現在シズトの部屋にいるユキを除いたシズトの婚約者が勢揃いしていた。
 大きな円卓を囲むように座っている彼女たちはいずれも寝間着姿だった。シズトに見せるための寝間着ではなく、普段使用している物だ。
 胸元が開いているだけでシンプルなデザインの寝間着を着たレヴィは、円卓の席に着いている面々に視線を向ける。

「今日のシズトの様子の共有はこれで終わりですわ?」
「そうですね、モニカから報告された様子としては以上となります」

 レヴィアの近くに控えていたメイド服姿のセシリアが首肯した。
 書かれた手紙は流石に見るのはどうなのか、という意見もあったので手紙を書く手伝いをしていたモニカ以外見ていないが、報告がないという事は当たり障りのない物なのだろう、とその場の全員が理解していた。

「このまま順調に文通を続けたらおそらくガレオールの女王とも婚約する事になると思うのですわ」
「なし崩し的に一気に婚約者が増えちゃったものね、考え方が変わってもおかしくないわよね。お姉ちゃんとしては嬉しかったから良かったけど……」
「接し方に悩むな」

 ルウとラオが腕を組んで首を傾げる。
 冒険者として活動していた時、主に貴族の対応をしていたのはここにはいないイザベラという元仲間だ。
 二人はバカな男どもが無礼を働かないように抑える役割に徹していたため、貴族――特に王族との関わりの経験はほとんどないに等しかった。

「こればっかりは本人次第ですわね」
「ん。レヴィアみたいな王族、極稀」
「照れるのですわ~」
「褒められてませんよ、レヴィア様」

 こそっとセシリアがぼやいても気にした様子もなく頭をかいているレヴィアを他所に、エルフの女性ジューンが挙手をした。
 エルフ特有の金色の髪は緩く波打っていて腰まで伸びており、緑色の瞳は不安そうに揺らめいている。

「ランチェッタ女王陛下は第三夫人になるんですかぁ? 女王陛下を差し置いて第二夫人は恐れ多いですぅ」
「大丈夫ですわ。ジューンも名目上ユグドラシルの代表――つまり女王みたいなものですわ。気後れする必要ないのですわ~」
「レヴィちゃんは心配じゃないんですかぁ?」
「まあ、特に不安視はしてないのですわ。きっとシズトは平等に愛してくれると思うのですわー」

 レヴィアが迷いなくそう断言すると、円卓を囲んでいた面々は目を瞬かせ、それから各々納得した様子で言葉を漏らす。

「それはぁ、間違いないですねぇ。レヴィ様にした事はぁ、私にもしようとしてくれますしぃ」
「だな。そこら辺は心配してねぇよ」
「ん。シズトには問題がない」
「そうねぇ。ランチェッタ女王陛下がどういう人か、心配なだけだもの」
「その点はこれからシズトが手紙を通して探っていくつもりの様ですわ。もちろん、私からも釘は差しますけれど、シズトが動いてくれているのだから気にしなくていいのですわ。そんな事より、ホムラ! ちょっと聞きたい事があるのですわ!」

 話が一段落したところで、レヴィはそれまで静かに席に着いていた黒髪の少女ホムラに話の矛先を向けた。
 それまで人形のように身動き一つしなかった少女の紫色の瞳が、黒い前髪の隙間からレヴィアを捉える。

「なんでしょうか、レヴィア様」
「シズトと一夜を共にした感じを教えて欲しいのですわ!!」
「ん、詳しく」
「ど、どんな事をされたんですかぁ?」
「お、お姉ちゃんとしても聞いておきたいわ! ラオちゃんもそう思うでしょ!?」
「………」

 ラオは腕を組んで目を瞑っているが、聞き耳は立てているようだ。
 前のめりになっているレヴィアの後ろでは、そっと手のひらサイズの紙にメモを取ろうとしているセシリアの姿もあった。
 その場にいる全員が興味を示す中で、ホムラは視線を巡らせ、それから思い出そうとしているかのように視線を上に一瞬向け、口を開く。

「……特に、何も。シズト様はいつも通り倒れるようにお眠りになられました」

 疑わし気に向けられる視線を気にした様子もなく、無表情でホムラは答えた。
 それが真実かどうか、『加護無しの指輪』を嵌めていたためレヴィアにも分からなかった。

「ただ、添い寝をするためにマスターの腕や胸はお借りしましたが」

 キャーッと盛り上がる数名と、冷静な者たちが次々にホムラに質問をしていく。
 そうして、婚約者たちの話し合いは夜遅くまで続くのだった。
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