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第14章 海洋国家を観光しながら生きていこう

262.事なかれ主義者は答えが出せなかった

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 ガレオールの首都ルズウィックにある王城から魔道具店はそこそこ近いので馬車はすぐに目的地に着くだろう。
 レヴィさんは僕の左手を両手で弄り続けていた。時折持ち上げて僕の手の平を鼻先まで近づけたりジッと近くで見たりしている。着くまでそうしているつもりなのかな。

「レヴィさん、何してるの?」
「暇つぶしですわー」
「そう……」

 やめないんすね。
 レヴィさんは視線をこちらに向ける事無く、僕の左手をじっと見ている。

「さっきの話の続きなんだけど、やっぱり婚約者って今後も増えるの?」
「ランチェッタ女王陛下の申し出を拒んだ場合は、今後も女性が統治している国々では求婚される可能性は高いですわ。今回はいろいろ便利な魔道具を作ったからガレオール側も見過ごせなかったという感じだと思うのですけれど、ニホン連合の国々を通る際には無理矢理既成事実を作ろうとしてくる場所もあるかもしれないのですわ。他の国もその傾向は多少あるのですけれど、特にあそこは勇者の血を求める統治者が多いのですわ」
「その点で考えると、ランチェッタ女王陛下が仰る通り、後ろ盾がさらに増えるから下手な事をする者たちはさらに減るでしょうね」

 セシリアさんが温かい目でレヴィさんを見ていたけど、レヴィさんの発言の後にさらっとランチェッタ女王陛下と結婚することのメリットを付け加えた。
 でも、そういう理由でするっていうのはどうなんだろう。
 そこら辺が前世の一般市民だった僕とこの世界の王侯貴族の考え方の違いなんだろうけど……。
 レヴィさんは僕の手の平の匂いを嗅ぐのをやめ、また自身の膝の上まで持ってくるともみ込み始めた。

「どうしても大陸南部のニホン連合の国々にはドラゴニアの影響力が弱まってしまうのですわ。ドラゴニアと比べると、ガレオールの方が影響力はありそうですわね。ただ、さっきも言った通り私はシズトの味方なのですわ。シズトの決定に従うのですわー」

 馬車が停まって扉が開く。
 レヴィさんがやっと手を離してセシリアさんの後について降りていった。
 僕も馬車から下りると馬車は走り去っていく。
 今日も護衛に囲まれながら繁盛している店に入ると、出入り口付近にいた案内係の少女たちが慌てた様子で頭を下げた。

「どうぞ、そのままお上がりください!」
「ご自由にお過ごしください!」
「お仕事頑張ってね」
「ありがとうございます!」
「頑張ります!!」

 周囲の客の注目を集めているけど、彼らの視線を無視してさっさと階段を上って三階に設置してある転移陣へと向かう。
 ファマリーに戻り、屋敷の自室でいつも着ない立派な服を脱ぐとやっと一息つけた。
 パーテーションの向こう側にはジュリウスが控えているけど、近くには誰もいないのを良い事にゴロゴロと大きなベッドを転がった。
 それからしばらくして転がるのにも飽き、天井をぼーっと見ながら今日の事を振り返る。

「はぁ……。ねぇ、ジュリウス」
「なんでしょうか」

 ジュリウスがパーテーションの向こう側から返事をしてきた。
 どうやらのんびりしている僕を気遣ってくれているようだ。

「ジュリウスはガレオールの女王様と婚約する事についてどう思う?」
「シズト様がお望みとあらば喜ばしい事かと」
「いや、望んでいるかと言われると微妙なんだけど……」
「…………何かしらの圧力をかけられたのですか?」
「いや、そういう訳でもないんだけど……」
「そうですか。圧力をかけられている場合であれば対応を考えたのですが、そうではなかったのですね」

 ……おっと、これはちょっと受け答え間違えるとやばいやつかもしれない?
 むくっと体を起こしてジュリウスが立っているであろう方をじっと見る。

「…………例えばの話なんだけどさ」
「はい、なんでしょう?」
「レヴィさんが言ってたんだけど、無理矢理既成事実を作るために僕が罠に嵌められたら……ジュリウスはどうする?」
「さて、どうしましょうか。シズト様がそれで幸せであるのならば、見守るかもしれません」
「幸せじゃなかったら?」
「その場合は、たとえシズト様に嫌われたとしても、罠に嵌めた者どもに一矢報いるかもしれませんね」

 ……既成事実を作られるのは避けるべきだな、これ。
 既成事実を作られないようにするなら、もう他国に観光しない方が無難な気もしてきた。

「シズト様はシズト様の御心のままに行動すればよろしいかと。お望みとあらば観光する前にそのような企てをしようとしている者たちがいないか探らせましょうか?」
「……もしかして、読心の魔道具使ってる?」
「いえ、シズト様をお近くで観察しているうちに考えそうな事はだいたい把握できるようになってきました」
「そっすか……」

 ぼふっとまたベッドに寝転がって目を瞑る。
 どうしようかと考えていると、ジュリウスがパーテーションの向こう側から姿を現して僕の方へと近づいてきた。

「シズト様、ジュリーニから手紙が届きました。どうやら都市国家トネリコに着いたようです」
「そっかー……トネリコに行ったらそれどころじゃなくなるだろうし、ラオさんたちにも相談してみようかなぁ。とりあえずジュリーニにはまだもう少しそっちに行かないって伝えておいて」
「かしこまりました。シズト様のお望みのままに」

 ジュリウスは頭を下げてそう答えると、部屋から出て行った。
 ……いい加減ラオさんたちも何とかしなきゃだよなぁ。
 その後、ベッドの上でごろごろしながら考えてみたけれど、答えは出ずにいつの間にか眠っていた。
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