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第14章 海洋国家を観光しながら生きていこう

幕間の物語126.ちびっこ神様ズは宴会中!

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 シズトたちに加護を与えた神々の住まう世界の片隅に、生育の神ファマと加工の神プロス、付与の神エントがこっそり使っていた秘密基地があった。
 だが、最近その秘密基地は秘密ではなくなってきている。
 秘密基地の近くにとても大きな雪だるまが朝も夜も関係なく目立っているからだ。
 その雪だるまの周囲には常に雪が積もっていて、小さな神々の遊びの場になっている。
 神々にとっては刹那の間、ファマたちは雪だるま作りに熱中していたのだが、最近は一日に一体作る程度に落ち着いていた。
 今日も黒髪のおかっぱ頭の少女がコロコロと雪玉を転がしていた。
 手慣れた様子で余分な物を擦り落とし、せっせと作った雪だるまがこれまでの作品の列に加わる。
 横一列に整然と並べられた真ん丸の雪玉を元に作られた雪だるまだったが、あるところを境に少し大きくなっていた。

「これで、だいじょうぶかな……?」

 エントは自分と同じくらいの背丈の雪だるまを前に首を傾げる。
 それから納得したのか一つ頷くと、秘密基地へと向かう。
 建物の入り口が少し低くなったな、と感じつつも頭をぶつける事無く中に入る。
 廊下を進むと、広間の床に縦にも横にも若干大きくなってふっくらとしたファマと、別の理由でお腹がポッコリと膨らんでいるプロスが寝転がっていた。

「お、お帰りなんだなー。い、今休憩している所なんだな」
「ちょっと食べすぎちゃったねー」
「え、エントも何か食べるんだな?」
「いーっぱいあるよー?」
「自分で取るから大丈夫だよ……?」

 コロコロと転がって縦長の箱の方へと移動していたプロスを止め、エントはその箱の前に行き、中に手を突っ込んだ。
 中身が何も見えない真っ暗な箱の中を腰をかがめさせて探るエント。
 中から取り出したのはリトルクラーケンのゲソ焼き。
 ホカホカと湯気がたっているそれを取り出した彼女は、近くの小さな椅子に腰かけると、お箸を使って上手に皿から口に運ぶ。

「や、やっぱりちょっと小さくなってきたんだな」
「そうだねー。ドーンと大きいの作っちゃう?」
「それもいいかも……? 別々にしちゃう……?」
「な、悩みどころなんだなー」
「一緒のがたのしーもんねー」

 エントの足元にゴロゴロと転がってきたプロスが足元から彼女を見上げる。
 ファマもゴロンゴロンと転がって……プロスに追突した。

「もー、重い!!」
「ご、ごめんなんだなー。ま、まだ体の感覚に慣れないんだなー」
「それ、ちょっとわかるかも……? 雪だるまが思った通りの大きさにならないんだよ……?」
「でもでも、ちょっと見ただけでも分かるほどの変化だよね! ちっちゃな子たちがプロスたちがもらったご飯を貰いに来てるし!」
「ちょ、ちょっとだけ上の立場になったんだなぁ」
「ちょーど一緒に大きくなったのも、何か意味があるのかなぁ」
「これからも一緒にいなさいって事かも……?」
「そ、そうかもしれないんだなぁ」
「ならやっぱりドーンとおっきなお家つくろーよ! 秘密基地じゃなくなっちゃうけど!」
「それは、今更なんじゃないかなぁ……?」

 今日も窓から中をのぞいている小さな神々がいる。
 先程から徐々に増えているようだった。
 エントの視線を追ってその様子に気付いたプロスとファマはガバッと起き上がって姿勢よく床に座った。

「これ食べ終わったら、ちっちゃい子たちと一緒に下界の様子でも見ようか」
「さんせー!」
「そ、そうするんだなぁ」

 今までは秘密基地の中で見ていた彼らだったが、秘密基地は彼らの領域のため他の神々が立ち入る事は容易ではない。
 そのため、遠目から一生懸命下界の様子を覗き込んでいた小さな神々だったが、その様子を可哀想だと感じたファマたち三人は秘密基地の前で下界の様子を見るようになっていた。
 昔自分たちがそうしてもらったように、今度は自分たちがする番だから、と。



 そうして意気揚々と秘密基地の目の前で地面に座り、水晶を通して下界の様子を見るファマたちだったが、シズトがたまたまルズウィックのビッグマーケットに訪れている所を目撃してしまった。
 シズトがせっせと転移陣を設置しているその大きな空間には付与の神エントの像しかなかった。

「エントだけの像がある!」
「ほ、ほんとなんだな!」
「二人のもどこかにあるのかな……?」

 水晶を通してビッグマーケットの周りをぐるりと見たがどこにも他の神の像は見当たらない。
 しばしの間無言になる三柱を気にした様子もなく小さな神々が水晶の中を覗き込んでいる。

「エントしか像がない!!」
「ほ、ほんとなんだな!!」
「二人のはどこにもないね……?」

 もう一度確認するようにぐるりと一周させたがどこにも見当たらない。
 そうして二度確認した後、三柱は跳び上がった。

「や、やったんだなー!」
「プロスたちは髭もじゃと耳長の人たちが毎日お祈りしてくれるけど、これでエントも一緒だね!」
「これがあったからちょっとだけ大きくなれたのかな……?」
「き、きっとそうなんだなぁ! きょ、今日はちょっとずつ食べようと残していた分の料理も全部一気に食べちゃうんだなぁ!」
「皆も一緒に食べていーよー!」

 プロスがそう言うと水晶をジッと覗いていた小さな神たちもはしゃぎ始める。その騒ぎを聞きつけたのか、雪で遊んでいた小さな神たちもわらわらと集まってきた。
 大勢で分けてしまうと、その分一人が食べられる量が減ってしまうのだが、そんな事を三柱は気にした様子もなくはしゃいでいる。
 お供え物を保管していた箱からたくさんの料理を取り出してみんなで仲良くちょっとずつ食べて幸せを分かち合った三柱は、小さな神々が解散した後、秘密基地の前で空になってしまった皿を見て呟く。

「な、なくなっちゃったんだなぁ」
「しょーがないよ。ちっちゃな子にあげないのは可哀想だもん」
「私たちも分けてもらってたもんね……?」
「そ、そうなんだな。し、仕方ないんだな」
「食べ終わったの、片付けよっか……?」

 三柱は片づけを始めよう、と立ち上がりかけたその時、水晶に映っていたシズトがたくさんの人間を使って料理を集め始めた。

「……な、何をしてるんだな?」
「なんかすっごい急いでるねー」
「お腹空いてるのかな……?」

 先程まで騒いでいた三柱は先程までシズトが何を話していたのか分からないため、どうしてシズトが慌てているのかも分からなかった。
 ファマが水晶に魔力を込めて音も拾うようにしたが、指示を出し終えたシズトはガレオールに新たに建てられた教会に向かうだけで特に理由を話さない。
 だが、三柱はこの後すぐに理由を理解した。
 そうして三柱だけでは食べきれないほど大量の供物を得て、今度は満足するまで海の幸をふんだんに使った美味しい料理を食べ続けるのだった。
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