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第14章 海洋国家を観光しながら生きていこう

257.事なかれ主義者は転移陣を設置していった

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 島の別荘に必要な魔道具を作ったり、世界樹ファマリーのお世話をしたり、神様への供物を捧げるためにガレオールの首都ルズウィックに訪問したりしているとあっという間に一週間が経った。
 だけど、まだクーを乗せた馬車は都市国家トネリコに到着していないらしい。
 世界樹トネリコの状況次第だけど、しばらくそれにも魔力を使わなくちゃいけなくなるだろう。

「ファマリーも早くユグドラシルくらい魔力が必要じゃなくなればいいのに」
「まだまだ伸びてるみたいですわー」

 生育の加護を使って魔力を分け与え、世界樹を見上げながら呟いた言葉をレヴィさんが拾った。
 彼女の手には『世界樹観察日記』と書かれたノートと虫眼鏡みたいな形の魔道具『植物測定器』が握られている。
 ノートを見せてもらうと確かにちょっとずつ伸びてるようだ。ただ、参考として書かれていたユグドラシルの高さにはまだ到達していない。このペースだとあと何年かかるんだろう……。

「記録もお祈りも終えたのですわ! ガレオールに向かうのですわ?」
「そうだね。まずはルズウィックに転移陣をまとめて設置しちゃおうかな。島を回るのは大変だけど、まあエンター号に手を加えれば何とかなるでしょ」

 ドライアドたちに設置をお願いしようと思ったんだけど、同種のドライアドたちが行ったことがある場所じゃなかったらしく、「道はないよ!」と青バラちゃんに言われた。
 魔物がうようよしている海域もあるみたいだし、何とか航海は避けたかったんだけど、仕方ない。
 作った物を設置してもらうのも考えたけど、魔物の襲撃の際に無くしました、なんて言われても本当かどうか分からないからやめた。

「ラオさんたちの準備も終わったようだね」
「みたいですわー。私も準備万端なのですわ! 変な考えを持った人が近くにいたらすぐに伝えるのですわ!」
「よろしくね」
「任せるのですわ!」

 とても大きな胸を反らしたレヴィさんからそっと視線を逸らす。
 今日は胸元が開いているドレスを着ているので、破壊力がやばい。
 そんな僕を気にした様子もなく、レヴィさんは僕の手を取った。

「ほら、いくのですわ!」

 口元に笑みを浮かべたレヴィさんに手を引っ張られながら、ルズウィックに転移するのだった。



 転移先である魔道具店から外に出ると、多くの人々が行き交う大通りに出た。
 ルズウィックの魔道具店は大通りの一番いい場所に建てられた、らしい。
 店長一人でお店を回すのは大変そうだから、店員と警備員を何人か配置予定……らしい。
 そこら辺は全部ホムラたちに任せているから、細かい事は知らないけど、良い感じにやってくれるだろう。
 もしこの店に何かをするとしたら、とりあえず、防犯用の魔道具でも作って設置するくらいだろうか?
 ただ、今はそれをする余裕はない。
 店の前に停められていた豪華な馬車にレヴィさんに引っ張られるようにして乗り込んで椅子に座る。
 今日はジューンさんがいないので、レヴィさんが隣に腰かけた。
 レヴィさんは馬車に乗っても僕の左手を握ったままだ。
 彼女は自分の太ももの上に僕の左手を乗せると、両手でギュッと挟んだり、僕の指をつまんだりと遊んでいる。その手にはいつも嵌めている指輪はなく、紐を通して首飾りにしていた。

「転移陣を設置するのは結局どこになったの?」
「ルズウィックの観光名所でもあるビッグマーケットのど真ん中に設置する事になったのですわ。転移陣は馬車が入るくらいの大きさにしてほしいとお願いされてるのですわ」
「荷馬車ごと転移するためだったよね? 作るのに必要な魔力どのくらいだろう……」

 魔法陣の大きさによって変わるわけではなく、小さい物でも結構魔力を持ってかれる事がある。それこそ今日レヴィさんが使っていた『植物測定器』は虫眼鏡くらいの大きさだけど、だいぶ魔力を持っていかれた。『鑑定』の魔法が付与されていたからだろう、とノエルは言ってたな。
 そう考えると同じ『転移』の魔法を付与するだけだから、今まで作っていた転移陣と必要魔力は変わらないのかもしれない。
 それだったら、今日の設置予定の転移陣は無事に作る事はできると思う。毎日魔力総量の上昇をコツコツと頑張っててよかった。

「今でも十分すぎるほどの魔力量ですし、どうしてそんなに魔力を増やそうとするのか疑問でしたけれど、こういう時のためだったのですわね」
「いや、別にそう考えてたわけじゃないよ? ただレベル上げみたいにちょっとずつでも増えてるのが実感できるから面白くてやってただけだよ。……ただ、未だにファマリーのお世話をすると半分以上魔力持っていかれるけどね」

 どうなってんだあの世界樹。
 ファマ様が生育の加護を誰かに渡しても、うっかり加護を使ったら干からびて倒れるんじゃない?
 そう考えたらファマリーはやっぱり僕が担当して、他のもう育ち切った世界樹の管理をお願いするのが良いような気がする。

「そこら辺は追々考えればいいと思うのですわ~」
「まあ、今誰も持ってないのに考えても仕方ないもんね」

 話をしている間も馬車は一定の速度で進む。
 ビッグマーケットと呼ばれるこの街で一番商売が盛んな所に進むにつれて人の往来は増えていく。
 馬車も何台も列をなして移動している。ただ、僕たちが乗っている馬車は関係なく進み、ビッグマーケットの中に入った。

「王侯貴族の所有している馬車用の道だからスイスイ進むのですわ。列をなしているのは商人や一般用の馬車ですわ」
「なるほど」

 だから今日はいつものラフな格好じゃなくて、世界樹の使徒が着る白い服をセシリアさんが準備してたのか。
 馬車に同乗していたセシリアさんに視線を向けると、こくりと頷かれた。
 ……レヴィさんは仕方ないけど、もしかしてセシリアさんも読心の魔道具を使ってますか?

「………何か御用でしょうか?」
「別に、何でもない」
「そうですか。そろそろ到着するようです。アイテムバッグは私がお持ちします」
「あ、はい」

 ファマリーのお世話をしていた時から身に着けていたアイテムバッグを渡したところで馬車が停まった。
 扉が開かれるとまずはセシリアさんが降りて周囲を確認した後、レヴィさんに視線を向けた。
 レヴィさんは頷くと「先に降りるのですわ」とだけ言って降りていく。
 僕もその後を続くと、目の前には大きな建築物があった。
 細かな装飾が施された柱と天井しかないその建築物の中に入ると、真ん中にエント様の像がでかでかと建てられていた。
 そのエント様の周囲をぐるりと囲むように石碑の様な物が七つあり、それぞれ目的地が書かれているようだ。

「これ、プロス様やファマ様が怒るような気がする……」
「転移陣はエント様の加護のおかげなのですわ。それを知ったランチェッタ女王陛下が『他の神の像を建てたらエント神に対して失礼だろう』と言われて、どうしようもなかったのですわ……」

 ちょっと供物の量を増やしてご理解願うしかないかなぁ。
 帰り際にたくさんの料理を買い漁ろうと決めて、せっせと転移陣を作って置いていくのだった。
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