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第14章 海洋国家を観光しながら生きていこう

幕間の物語121.元引きこもり王女は話しすぎた

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 海洋国家ガレオールの国土は海に沿って縦長に伸びている。
 北には砂漠が広がり、東には『魔の森』と呼ばれている森が広がっている。西は海に面していて、ぽつぽつと大小さまざまな島がある。南には世界樹トネリコを中心に作られたエルフたちが暮らす都市国家トネリコがある。
 北に広がる砂漠と、東にある広大な森、そして西側にある大海原はどれも魔物たちの領域だ。そこの生存競争に負けた弱い魔物たちがガレオールにやってくる。
 その中でも海の魔物に対する対処が問題となっていた。
 海の向こう側にある大陸や、島々の交易のために船が行き交うが、魔物の襲撃に遭うのは日常茶飯事だった。
 大陸については今後も課題となるが、島々との交易については転移陣を使う事ができれば、ある程度問題解決できそうだった。
 だからこそ、目の前に座っているランチェッタ・ディ・ガレオールは何が何でも自国に利益をもたらす魔道具を手に入れようとしているのだろう、とレヴィア・フォン・ドラゴニアは納得した。
 彼女たちは海洋国家ガレオールの首都ルズウィックにある大きな王城の一室で会談をしていた。
 今回レヴィアはドラゴニア王国第一王女としてではなく、シズトの婚約者の立場として来ている。
 レヴィアは袖なしで大きく胸元が空いたドレスを着ていた。裾に向かうに従って白色からだんだんと緑色に代わっていくグラデーションの布で作られた物だ。フリルやレースは最小限しかなく、シンプルなデザインの物だった。首元にはシズトから貰った『加護無しの指輪』があった。
 スカート部分の裾は短く、少し日焼けした肌を惜しげもなく出しているが、幸いな事にその部屋には男が一人もいない。室内には壁際に静かに控えているレヴィアの侍女であるセシリアと、宮廷侍女の数人しかいなかった。
 レヴィアの正面に腰かけ、足を組んでいる女性ランチェッタも袖がないタイプのドレスを着ていたが、首元までしっかりと布があるタイプのドレスを着ていた。ただ、首から胸元にかけては透ける素材を使っているようで、大きな膨らみとそれによって作られた谷間がよく見える。

「昨日の今日だけど、もうまとまったのかしら?」
「ある程度欲しい物のリストを作る事は出来たのですわ。そこからどこまで出すかの検討をすればいいと思うのですわ」

 机の上に置かれた目録を手に取ると静かに読み始めるランチェッタ。
 その様子を見ながら、レヴィアは目の前に置かれていた紅茶に口を付けた。
 だが、紅茶を口に含むと何かに気づいたようにカップを覗き込む。魔法によって冷たく冷やされていたそれよりも、コップの方に興味が湧いたようだ。
 ジッとそこに描かれている魔法陣を眺めている。
 ただ、それを見るのに飽きる頃になってもランチェッタは目録を見ていた。腕を組み、顔を顰め、首を傾げている。
 ランチェッタが目録を読み終わるのを待っていたレヴィアは、これが終わった後の事を考えていた。

(今日は私の当番ですし、早速あの服を使うべきですわ? でも、シズトはしっかり見てくれなかった事が気になるのですわ~。そうなるくらいだったら、いつもの格好でいつもと同じようにのんびりお喋りしながら過ごしたいのですわ)

「だいたい目を通したけれど、これらすべてを用意すればこちらが求める数を納入してくれるのかしら?」
「数によるのですわ」

 シズトとの過ごし方を妄想していたレヴィアはランチェッタが質問するとすぐさま答えた。読心の加護で相手の心の内を読めるため、妄想に耽っていたとしてもすぐに対応できるのがレヴィアだった。

「シズトの魔力も時間も有限ですわ。これから南下して都市国家トネリコに着いたら世界樹の世話も加わるのですわ。それに、シズトにはたくさんの依頼が舞い込んでいるのですわ。シズトの気分次第で作ったり作らなかったりしてるのですわ。それらを作る事も考えると、そんなに大量に作る事は出来ないのですわ」
「では、最大でどれくらい作ってもらえるのかしら?」
「そうですわね……島と首都をくっつけるだけに必要な数はいくつなのですわ?」
「そうね……三十カ所つなげようと考えているからその倍の六十ほどかしら」
「多すぎるのですわ。一先ず大きな島七組分までですわね」
「……まあ、仕方ないわね。ただ、当初こちらが考えていた量よりも少ないから、目録すべてを対価として渡すのはちょっと難しいわね」

 最低限欲しいと考えていた数は確保できた事に内心安堵しつつ、どれだけ値切るかを考えているランチェッタをレヴィアはじっと見ていた。

「ああ、そうですわ。プライベート用のビーチはしっかりと手入れされている島を求めるのですわ」

 荒れ放題の土地をシズトと一緒に開墾するのも楽しそうだと思いつつ、ランチェッタの心を読んだレヴィアは釘を刺す。
 ランチェッタは一瞬眉を顰めたが、すぐに笑みを浮かべた。

「わかったわ。しっかりと準備させていただくわ。……魔石についてなんだけれど、残念ながら我が国はそこまで魔石をため込んでいないわ。ただ、使われていない島にダンジョンがあるみたいなの。そのダンジョンを島ごとあなたたちの物とするだけでいいかしら?」
「……まあ、いいですわ。たとえその島に魔物が溢れていようと、厄介な物を押し付けられた、なんて思わないから安心するといいのですわ」

 一瞬ランチェッタの笑顔が曇ったが、レヴィアは話を続ける。

「あと、転移陣には置かれている場所にエルフを常駐させてもらうのですわ」
「……監視、という事かしら?」
「そうなるのですわ。ああ、心配は無用ですわ。他国を侵略する、なんてシズトが嫌がる事を絶対にしないエルフたちですわ。自衛と防衛のためでなければ武力は用いないと誓文を交わさせても問題ないのですわ」
「……分かったわ。それくらいは仕方ないわよね」
「エルフとそのまとめ役は常に連絡を取れる手段を持っているから、変な動きを貴族たちがしないようにしっかりと抑えておく事をお勧めするのですわ」
「………そうね。そこら辺はまあ、何とかするわ。他の対価として、こちらが考えていた物もあるけれど……私が彼と婚約したら優遇されるとかはないかしら?」

 姿勢を正して真剣な様子で尋ねるランチェッタを、レヴィアは瞳を瞬かせて見つめる。それから首を傾げて考える様子で話し始めた。

「シズトと婚約ですわ? 私は別に構わないですけれど、シズトはそういう政略結婚は嫌うと思うから言わない方が良いと思うのですわ」
「そう……分かったわ」
「ああ、でもシズトの事を単純に好きなのであれば話が別ですけれど……今の所そうでもないみたいですわね。先程の発言は聞かなかった事にするのですわ。だから、今の私の発言もなかった事にしてほしいですわ」
「分かったわ。話を戻しましょうか」

 一度紅茶を口に含んで気を取り直したレヴィアとランチェッタは、その後も他の対価についてや、教会と魔道具店について話し合い、それが終わる頃には日が暮れかけていた。
 部屋を後にしたレヴィアは、先導をしていた侍女を追い越し、廊下を駆ける。とても大きな二つの膨らみが揺れ、すれ違った男性たちの視線を集めていた。

「話し過ぎてしまったのですわ!! 早く帰らないとシズトとお喋りする時間が無くなってしまうのですわ~~~」
「だからと言って、建物の中を走らないでください! レヴィア様!!」
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