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第14章 海洋国家を観光しながら生きていこう

248.事なかれ主義者は同情した

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 どうしようかと問われて困っていると、隣に座っていたレヴィさんが挙手をした。

「発言してもよろしいですわ?」
「構わないわ。話し方も非公式の場だから、楽にしてくれて構わないわよ?」
「これは癖なのですわ。だからこっちの方が楽なのですわ」
「……そう」

 癖なんだ。
 僕とランチェッタ女王陛下が何とも言えない表情でレヴィさんを見るが、彼女は気にした様子もなく話し始めた。

「転移陣の危険性は理解してなお、お求めになっているのですわ?」
「……ええ、もちろん分かっているわ。軍事的にも、経済的にも、わたくしでは思いもしないような危険性があるかもしれない事も。そのデメリットも検討したうえで、我が国にとってはメリットが上回るのよ。特に、国に点在している島を多数抱えているガレオールにとっては」
「そちらの都合は分かったのですわ。ただ、シズトは争いを嫌っているのですわ。軍事的に使われる危険性がある以上、作らない可能性が高いのですわ?」
「国内でしか使わない、という所で納得していただくしかないわね。それこそ、島同士と首都を結べればそれでいいわ。むしろ、他国との転移陣の設置を許可しているのだから今更じゃないかしら? あなたの国が絶対他国を侵略しない、と言い切れるのかしら? 軍事力で言ったら大陸最強と謳われているドラゴニア王国の方が戦争をしたがる貴族がいるのではなくて?」
「そうですわね」
「……案外あっさり認めるのね」
「シズトの前で嘘を言いたくないのですわ。ただ、ドラゴニアはダンジョンが豊富ですわ。一部のおバカさんを除いて、他国に興味がないからそういう心配はないとだけ伝えておくのですわ」

 うん、そこは特に心配してないかな。
 ただ、それでもやっぱりそこがネックになるんだよね。
 人数制限とか運べる物の条件付けできないかなぁ……思いつかん。
 転移陣の仕組みは知らないけど、空間と空間を繋げるだけの魔法な気がするし、意図的に何かを通さないとかは無理そう。
 今はファマリアが起点となって繋がっているからフェンリルとドライアドたちが一種の監視役になってるけど……。

「転移陣で何をするつもりかお聞きしてもいいですか?」
「島同士を繋ぐのよ。今は島同士や、島と大陸を行き来するためには船に乗るしかないの。でも、海には危険な魔物が大量にいるわ。襲われる事も時々あって、国民が少なからず犠牲になっているの。それに、そういう時って人の味を覚えた魔物がしばらくの間、島の周囲に居つくのよ。そうなるとなかなか船を出す事も出来なくなって、必要な物資が島に届かなくなるの。最悪の場合、人が死ぬわ」

 それは……大変そうだ。
 魔物に襲われたり、二次被害を抑えるためなら、協力するのもいい、かな?

「わたくしたちももちろん何もしていないわけではないのよ? 魚人の国に頼み込んで護衛をしてもらっているの。でも、その護衛費用が年々上がっていてね。それに加えて『守ってやっている』って考えを持った一部の魚人の素行がちょっと問題になってるし。後は物流にかかる時間が短縮できれば経済に影響があると思うわ。もちろん悪い意味で影響を与えてしまう可能性もあるけれど陸路と比べればマシだと思うわ。諸々考えたら今の所メリットの方が勝りそうなのよね。わたくしたちの国の貴族は損得で物を考えがちなの。だからメリットが勝っているのなら、ドラゴニアと繋がってしまうデメリットも目を瞑るでしょうね」

 ランチェッタ女王陛下が話し終えたタイミングでレヴィさんに視線を向けると、彼女はこくりと頷いた。
 どうやら思った事をそのまま言っているみたいだ。
 どうしたものか……。
 考え込んでいると、レヴィさんが口を開いた。

「ここで話を決めるのは難しいのですわ。話し合ってまた後日改めて回答をする、という事でいいですわ?」
「ええ、いいわ。こちらとしては転移陣を設置してもらえれれば儲けもの、程度にしか考えていないけど、今後の国の方針が大きく変わる可能性が高いのも事実。しっかり考えて答えを出してもらえたらと思うわ。それに、流石に教会とお店の件で全面協力するだけでは転移陣の価値に見合ってないでしょうし、対価として何が欲しいのかをまとめておいて欲しいわ。……それでは、わたくしは仕事に戻らせていただくのですわ」

 ランチェッタ女王陛下は立ち上がると、足早に部屋から出て行く。
 僕たちもその少し後に王城を後にした。



 ガレオールの王城を出て、馬車に乗り込むとクーを馬車の中で寝かせて、転移陣を使ってファマリアへと帰る。
 フェンリルは今日も木の根元で毛玉だった。また、点々とドライアドたちが日向ぼっこをしているのか地面で寝転がって動かない。
 いつもと同じ様子で何も問題はなさそうだし、とりあえず楽な服に着替えようと思って歩き出したら、その白い毛玉がもそっと動いて、大きな目で僕をじっと見つめてくる。どことなく疲れた様子のフェンリルが、大きな口からため息をついた。

『お主、自分の物の躾くらいしたらどうだ』
「……モノの躾?」
『町にいる小さな人間共はお前の物なのだろう? そこの娘からそう言われておる』

 視線が僕から近くに立っていたレヴィさんに移る。
 僕とフェンリルに視線を向けられたレヴィさんが「ああ」と納得した様子で手を打った。

「奴隷の子どもたちの事ですわね」
「あの子たちが何かしたの?」

 視線を何となく町の方に向けると、町の方からジーッとこちらを見ている小さな人影が見える。

『度々侵入してくるのだ。以前までは青いバラのドライアドがおったからなんとかなっておったが、最近仕事を任せているだろう? それのせいで収拾がつかず、いつまでも騒がしくて敵わん』
「え、そうなの?」
「初耳なのですわー」
「私もぉ、初めて知りましたぁ」
『主らやあの屋敷の奴らがおらん時に入ってくるのだ』
「へー」
『へー、ではないわ! ドライアドたちが喧しくてゆっくり眠ってもおれん。どうにかしろ!』

 ドスンッと前足を地面に叩きつけると、そこら辺で日向ぼっこをしていたドライアドたちがムクッと起き上がった。

「わんちゃんうるさーい」
「うるさい~」
「ねむい……」
『お前たちの方がもっと煩いだろうが……納得いかん』

 ベタッと地に伏せ、ため息をついたフェンリル。
 ……なんか、フェンリルが育児に疲れた親みたいな雰囲気が漂っているような気がする。
 ちょっと状況よく分からないけど、なんか対応した方がよさそうだ。
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