361 / 1,094
第14章 海洋国家を観光しながら生きていこう
幕間の物語118.用心棒は全力を出せない
しおりを挟む
獣人の国アクスファースの首都スプリングフィルドに魔道具店サイレンスができて二週間ほどが過ぎた。
サイレンスは、辺鄙な所にあるのにも関わらず、多くの獣人たちが詰めかけていた。
だが、たくさんの者たちがやってくるのに、店内には店主専用のロッキングチェアしかない。
それに揺られながらのんびりとしている体の大きな男がいる。
彼の名はライデン。
店内で怒号が飛び交おうと、気にした様子もなく暢気に揺れている。
「おい、テメェ! 水が出る魔道具はいつになったら入荷するんだ!」
「オイラは知らんよ」
「この前兎人族に売ったの知ってんだぞ!」
「アレは廉価版を作ろうとして、たまたまできた欠陥品だったからなぁ。魔道具師の助手の弟子が作った物だったけど、再現するの無理らしいから一点物だ。再入荷するか分からん。弟子の成長を願うんだなぁ」
「だったら師匠に作らせりゃいいだろ!」
「その師匠は廉価版しか作れんし、今は飛ぶように売れるコートを作るのに手いっぱいだから無理だなぁ。そもそも、弟子は取ってるけどただの魔道具師の助手だからなぁ。お前らが望むような物は作れんだろうよ」
「だったら魔道具師に作るように、テメェが言えばいいだろ!」
「オイラの口からか? そんな事、恐ろしくてできんなぁ。オイラなんかよりよっぽど強いからなぁ」
ボリボリと頭をかくライデンは、人間の中ではとても大きい。二メートル以上の背丈に、どっしりと横にも大きかった。
ただ、ライデンを取り囲む獣人たちにとっては、ライデンくらいの背丈は普通にいる。
だが、集団はライデンの手が届くところに入ろうとしない。
ライデンを中心に何もない不思議な空間が出来上がっていた。
半円状のその場所を避けるように、獣人たちはぎゅうぎゅう詰めで店に収まっていた。どの獣人たちも文句を言いつつも耳が伏せて怯えている様子だ。
それもそのはず、この二週間で下っ端の獣人たちが店に突撃してくると、丁寧に心を折ってから外に放り出していたからだ。
一人でやってきては捨てられ、集団で来ても突き飛ばされ、彼らの心は折れていた。
それでも彼らはやってくる。彼らよりも強い者たちから言われた事はしなければいけない。だからライデンが恐ろしくとも、店に来るしかないのだ。ライデンの方がまだ生きて帰ることができるからマシだ、と考えていた。
それに加え、ライデンは自分に突っかかって来ない限りは手を出さなかった。
自分を守るために力を使いなさい、とシズトに想われて作られた彼は、今の所自衛のためにしか力を振るっていなかったのだ。
だからここ数日、店が開店してお昼休みのために一度店を閉じるまで、こうして獣人の下っ端たちが店に詰めかけては占拠するのが日課になりつつあった。
だが、やってくる者を片っ端からやっつけていると、やってきた者たちよりも強い者がやってくる。
いつもやってきては何も買わずに騒ぐ輩たちを追い出し、昼休憩を取ってから営業を再開してしばらく経った頃、冒険者の様な恰好をした者たちが数人店にやって来て、ライデンを捕えようとした。
「お前も大人しく従ってたら、俺たちの様な高ランクの冒険者様に囲まれる事もなかっただろうに。馬鹿な奴だ」
「冒険者がこんな事をしてもいいのか?」
「いいんだよ。国のお偉いさんからの正式な依頼だからな。下級兵士たちに暴行を働いた店主を捕まえろってな!」
冒険者たちが獣人特有の脚力を活かし、部屋を縦横無尽に駆け抜け、ライデンに切りかかろうとした。
だが、ライデンはそれよりも早く動いて立ち上がり、正面から突っ込んできていた獣人の顔面に右の手の平をぶつける。
「ま、確かに多少は動けるみてぇだけど、誤差だぁな」
顔を守ろうと両腕を顔の前に構えたが、衝撃は受け止めきれず吹っ飛んだリーダー格の男を気にした様子もなく、残りの四人がライデンを襲う。
「頭がぶっとばされても自分の判断で動けるのも、流石なんだろうけどなぁ。全力でやってんのかお前ら?」
獣人たちはライデンの手足を剣で切り裂き、動けなくしようとしたのだろう。だが、青白い魔力のオーラを纏ったライデンの体に少しだけ爪でひっかいたかのような痕が付いただけだった。
「傷つけられたから、やり返してもいいよな?」
脅威を感じない相手だったが、自衛に入るのだろうか。
そんな疑問を感じながらも、ライデンは襲い掛かってきた獣人たちを張り手だけで痛めつけた。
冒険者が立ち上がる度にひたすら張り手を食らわせ続けていたライデンだったが、とうとう誰も立ち上がらなくなった頃、彼らの体をまさぐり、ドッグタグを見つけて嘆息する。
「なんだ、Bランクか。道理で弱い訳だ。悪かったな、弱い者いじめして。飴をやっから、さっさと家に帰ってしゃぶってな」
アイテムバッグの中に手を突っ込み、一人一人の口に魔力マシマシ飴をねじ込むと、外に放り出す。
ドスドスと足音を立てながら歩き、立ち上がった際に倒してしまったロッキングチェアを起こすと、それに腰かける。
ゆらゆらと揺れながら、大きく欠伸をしたライデンは退屈そうな様子でぼやく。
「Bがアレだと、Aも大した事なさそうだなぁ」
どうやら自分の創造主はずいぶん過保護らしい。
今更ながらに実感したライデンは、小さな獣人の子どもたちが魔力マシマシ飴を求めてやってくるまで、のんびりと椅子に揺られて過ごすのだった。
サイレンスは、辺鄙な所にあるのにも関わらず、多くの獣人たちが詰めかけていた。
だが、たくさんの者たちがやってくるのに、店内には店主専用のロッキングチェアしかない。
それに揺られながらのんびりとしている体の大きな男がいる。
彼の名はライデン。
店内で怒号が飛び交おうと、気にした様子もなく暢気に揺れている。
「おい、テメェ! 水が出る魔道具はいつになったら入荷するんだ!」
「オイラは知らんよ」
「この前兎人族に売ったの知ってんだぞ!」
「アレは廉価版を作ろうとして、たまたまできた欠陥品だったからなぁ。魔道具師の助手の弟子が作った物だったけど、再現するの無理らしいから一点物だ。再入荷するか分からん。弟子の成長を願うんだなぁ」
「だったら師匠に作らせりゃいいだろ!」
「その師匠は廉価版しか作れんし、今は飛ぶように売れるコートを作るのに手いっぱいだから無理だなぁ。そもそも、弟子は取ってるけどただの魔道具師の助手だからなぁ。お前らが望むような物は作れんだろうよ」
「だったら魔道具師に作るように、テメェが言えばいいだろ!」
「オイラの口からか? そんな事、恐ろしくてできんなぁ。オイラなんかよりよっぽど強いからなぁ」
ボリボリと頭をかくライデンは、人間の中ではとても大きい。二メートル以上の背丈に、どっしりと横にも大きかった。
ただ、ライデンを取り囲む獣人たちにとっては、ライデンくらいの背丈は普通にいる。
だが、集団はライデンの手が届くところに入ろうとしない。
ライデンを中心に何もない不思議な空間が出来上がっていた。
半円状のその場所を避けるように、獣人たちはぎゅうぎゅう詰めで店に収まっていた。どの獣人たちも文句を言いつつも耳が伏せて怯えている様子だ。
それもそのはず、この二週間で下っ端の獣人たちが店に突撃してくると、丁寧に心を折ってから外に放り出していたからだ。
一人でやってきては捨てられ、集団で来ても突き飛ばされ、彼らの心は折れていた。
それでも彼らはやってくる。彼らよりも強い者たちから言われた事はしなければいけない。だからライデンが恐ろしくとも、店に来るしかないのだ。ライデンの方がまだ生きて帰ることができるからマシだ、と考えていた。
それに加え、ライデンは自分に突っかかって来ない限りは手を出さなかった。
自分を守るために力を使いなさい、とシズトに想われて作られた彼は、今の所自衛のためにしか力を振るっていなかったのだ。
だからここ数日、店が開店してお昼休みのために一度店を閉じるまで、こうして獣人の下っ端たちが店に詰めかけては占拠するのが日課になりつつあった。
だが、やってくる者を片っ端からやっつけていると、やってきた者たちよりも強い者がやってくる。
いつもやってきては何も買わずに騒ぐ輩たちを追い出し、昼休憩を取ってから営業を再開してしばらく経った頃、冒険者の様な恰好をした者たちが数人店にやって来て、ライデンを捕えようとした。
「お前も大人しく従ってたら、俺たちの様な高ランクの冒険者様に囲まれる事もなかっただろうに。馬鹿な奴だ」
「冒険者がこんな事をしてもいいのか?」
「いいんだよ。国のお偉いさんからの正式な依頼だからな。下級兵士たちに暴行を働いた店主を捕まえろってな!」
冒険者たちが獣人特有の脚力を活かし、部屋を縦横無尽に駆け抜け、ライデンに切りかかろうとした。
だが、ライデンはそれよりも早く動いて立ち上がり、正面から突っ込んできていた獣人の顔面に右の手の平をぶつける。
「ま、確かに多少は動けるみてぇだけど、誤差だぁな」
顔を守ろうと両腕を顔の前に構えたが、衝撃は受け止めきれず吹っ飛んだリーダー格の男を気にした様子もなく、残りの四人がライデンを襲う。
「頭がぶっとばされても自分の判断で動けるのも、流石なんだろうけどなぁ。全力でやってんのかお前ら?」
獣人たちはライデンの手足を剣で切り裂き、動けなくしようとしたのだろう。だが、青白い魔力のオーラを纏ったライデンの体に少しだけ爪でひっかいたかのような痕が付いただけだった。
「傷つけられたから、やり返してもいいよな?」
脅威を感じない相手だったが、自衛に入るのだろうか。
そんな疑問を感じながらも、ライデンは襲い掛かってきた獣人たちを張り手だけで痛めつけた。
冒険者が立ち上がる度にひたすら張り手を食らわせ続けていたライデンだったが、とうとう誰も立ち上がらなくなった頃、彼らの体をまさぐり、ドッグタグを見つけて嘆息する。
「なんだ、Bランクか。道理で弱い訳だ。悪かったな、弱い者いじめして。飴をやっから、さっさと家に帰ってしゃぶってな」
アイテムバッグの中に手を突っ込み、一人一人の口に魔力マシマシ飴をねじ込むと、外に放り出す。
ドスドスと足音を立てながら歩き、立ち上がった際に倒してしまったロッキングチェアを起こすと、それに腰かける。
ゆらゆらと揺れながら、大きく欠伸をしたライデンは退屈そうな様子でぼやく。
「Bがアレだと、Aも大した事なさそうだなぁ」
どうやら自分の創造主はずいぶん過保護らしい。
今更ながらに実感したライデンは、小さな獣人の子どもたちが魔力マシマシ飴を求めてやってくるまで、のんびりと椅子に揺られて過ごすのだった。
69
お気に入りに追加
454
あなたにおすすめの小説

異世界で家をつくります~異世界転移したサラリーマン、念動力で街をつくってスローライフ~
ヘッドホン侍
ファンタジー
◆異世界転移したサラリーマンがサンドボックスゲームのような魔法を使って、家をつくったり街をつくったりしながら、マイペースなスローライフを送っていたらいつの間にか世界を救います◆
ーーブラック企業戦士のマコトは気が付くと異世界の森にいた。しかし、使える魔法といえば念動力のような魔法だけ。戦うことにはめっぽう向いてない。なんとか森でサバイバルしているうちに第一異世界人と出会う。それもちょうどモンスターに襲われているときに、女の子に助けられて。普通逆じゃないのー!と凹むマコトであったが、彼は知らない。守るにはめっぽう強い能力であったことを。
※「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています。

こちらの異世界で頑張ります
kotaro
ファンタジー
原 雪は、初出勤で事故にあい死亡する。神様に第二の人生を授かり幼女の姿で
魔の森に降り立つ 其処で獣魔となるフェンリルと出合い後の保護者となる冒険者と出合う。
様々の事が起こり解決していく

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。

【完結】異世界転移で、俺だけ魔法が使えない!
林檎茶
ファンタジー
俺だけ魔法が使えないとか、なんの冗談だ?
俺、相沢ワタルは平凡で一般的な高校二年生である。
成績は中の下。友達も少なく、誇れるような特技も趣味もこれといってない。
そんなつまらない日常は突如として幕を閉じた。
ようやく終わった担任の長話。喧騒に満ちた教室、いつもより浮き足立った放課後。
明日から待ちに待った春休みだというのに突然教室内が不気味な紅色の魔法陣で満ちたかと思えば、俺は十人のクラスメイトたちと共に異世界に転移してしまったのだ。
俺たちを召喚したのはリオーネと名乗る怪しい男。
そいつから魔法の存在を知らされたクラスメイトたちは次々に魔法の根源となる『紋章』を顕現させるが、俺の紋章だけは何故か魔法を使えない紋章、通称『死人の紋章』だった。
魔法という超常的な力に歓喜し興奮するクラスメイトたち。そいつらを見て嫉妬の感情をひた隠す俺。
そんな中クラスメイトの一人が使える魔法が『転移魔法』だと知るや否やリオーネの態度は急変した。
リオーネから危険を感じた俺たちは転移魔法を使っての逃亡を試みたが、不運にも俺はただ一人迷宮の最下層へと転移してしまう。
その先で邂逅した存在に、俺がこの異世界でやらなければならないことを突きつけられる。
挫折し、絶望し、苦悩した挙句、俺はなんとしてでも──『魔王』を倒すと決意する。
異世界で俺だけレベルが上がらない! だけど努力したら最強になれるらしいです?
澤檸檬
ファンタジー
旧題 努力=結果
異世界の神の勝手によって異世界に転移することになった倉野。
実際に異世界で確認した常識と自分に与えられた能力が全く違うことに少しずつ気付く。
異世界の住人はレベルアップによってステータスが上がっていくようだったが、倉野にだけレベルが存在せず、行動を繰り返すことによってスキルを習得するシステムが採用されていた。
そのスキル習得システムと異世界の常識の差が倉野を最強の人間へと押し上げていく。
だが、倉野はその能力を活かして英雄になろうだとか、悪用しようだとかそういった上昇志向を見せるわけでもなく、第二の人生と割り切ってファンタジーな世界を旅することにした。
最強を隠して異世界を巡る倉野。各地での出会いと別れ、冒険と楽しみ。元居た世界にはない刺激が倉野の第二の人生を彩っていく。

ダンジョンで有名モデルを助けたら公式配信に映っていたようでバズってしまいました。
夜兎ましろ
ファンタジー
高校を卒業したばかりの少年――夜見ユウは今まで鍛えてきた自分がダンジョンでも通用するのかを知るために、はじめてのダンジョンへと向かう。もし、上手くいけば冒険者にもなれるかもしれないと考えたからだ。
ダンジョンに足を踏み入れたユウはとある女性が魔物に襲われそうになっているところに遭遇し、魔法などを使って女性を助けたのだが、偶然にもその瞬間がダンジョンの公式配信に映ってしまっており、ユウはバズってしまうことになる。
バズってしまったならしょうがないと思い、ユウは配信活動をはじめることにするのだが、何故か助けた女性と共に配信を始めることになるのだった。

やさしい異世界転移
みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公
神洞 優斗。
彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった!
元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……?
この時の優斗は気付いていなかったのだ。
己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。
この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる