【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~

みやま たつむ

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第14章 海洋国家を観光しながら生きていこう

幕間の物語114.借金奴隷はもうどうでもいい

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 昼食をさっさと食べ終えたノエルは自分の作業に戻っていた。
 作業机ではなく、床に置かれた車輪に魔法陣を描いていく。
 そんな彼女に、同じく早食いで食べ終えたドワーフのエルヴィスが紙を持って近づいていた。
 紙には何かしらの魔法陣が描かれていたが、歪だった。
 ノエルが描いている物と比べると、その違いがより明らかになる。
 ノエルが描く線は一本一本太さが常に均一だった。
 一方エルヴィスの線は太さが若干異なり、一つの線を見ても、途中で太さが変わってしまっていた。
 変な行動をする事もあるノエルだが、やはりその技術は確かな物なんだとエルヴィスは感じていた。
 だからこそ彼女はノエルの事を『師匠』と呼んでいるのだろう。

「師匠っ! 今日の分のなぞり書き、全部終わったぞっ! 一番出来の良い物がこれだっ」
「ちょっと待つっすよ。今いい所で手が離せないっす」

 そうして待つ事数分。
 エルヴィスはジッとノエルのペンに籠められている魔力の流れを見ていた。
 そうして、ノエルが魔法陣を描き切ると、エルヴィスは知らず知らずのうちに息を吐いていた。
 その様子をノエルは怪訝そうに見て眉をひそめる。

「何突っ立ってるんすか。早く見せるっすよ。ボクの時間は有限なんすよ」
「アタイと比べたら長いぞっ」
「魔法陣を解析するためには、どれだけ時間があっても足らないっす。今まで純血種じゃない事を残念に思った事はないっすけど、最近は時々純血種の寿命の長さが羨ましく感じる時があるっす」

 ノエルはエルヴィスから魔法陣を描かれた紙を受け取ると、それをじっと見る。

「魔力を常に一定量放出する事の難しさは、長い事やってれば慣れるっす。それよりも、円を綺麗に描くのには早めに慣れた方が良いっすね。曲線が歪っす。魔力を魔法陣全体に満たすためにはこの曲線が重要だとボクは思うんすよ。どの魔法陣にも描かれてるっす。……ああ、一部例外もあったっすね」

 ふとシズトが作った魔道具『高圧洗浄機』の事を思いだした彼女は、そこに描かれていた魔法陣同士を繋ぐ線の事を思いだした。だが、まずは基礎を覚えない限りは教える必要がないと判断して思考の隅に追いやる。

「定規とかそういう専用の道具も綺麗に描けるから便利でいいっすけど、それらを使わずに描けるようになるために、常日頃から使わずに描くといいっすよ。そうしたら外で作業をする時に楽っす。まあ、外で作業をする事なんて、部屋に入りきらない大きな魔道具を作る時くらいっすけど」
「なるほどなっ」
「直線は綺麗に描けているから、明日からは丸を描く練習をひたすらするっす」
「分かったっ」
「魔力残量はどのくらいっすか? 借金返済のために、売れる魔道具を一つでも作っておく事をお勧めするっす。ボクと違って正規に買われたんだから、返さなくちゃいけない金額もやばいっすよね」
「まあなっ。でも頑張るぞっ!」
「死ぬ気で頑張るっすよ。常日頃から魔力ギリギリまで使い切っていれば魔力が増えて、作れる量が増えるっす」

 ノエルの言葉にこくりと頷いたエルヴィスは、早速魔道具作りに取り掛かる。
 前回コップにたまたま付与できて大金を手に入れた彼女は、もう一度コップを作ろうとしているようだ。
 ノエルはエルヴィスを見送って、もう一人の弟子であるエイロンの方に視線を向けたが、彼はまだ練習用の紙が余っていた。

「もうしばらくかかりそうっすね。じゃあボクは自分の事をするっす」



 結局、エイロンが練習用の紙を全て使い切る頃には日が暮れ始めていた。

「はみ出さないように意識しすぎて時間がかかりすぎっす。その間も魔力をペンに籠め続けなきゃいけないんすから、魔力の無駄っす。この先の事を考えたらノルマも大量にあるんすよ? これだけ時間をかけていたら徹夜してもノルマ追わんねーっすよ」
「シズト様優しいからノルマ減らしてって言えば減らしてくれるっしょ!」
「そうっすね。シズト様は優しいっすもんね。ただ、ノルマに関してはシズト様はノータッチっすよ。ホムラ様とユキ様に一任してるから二人が無理難題を言ってない限りは止めないっすよ」
「なるほど、じゃあホムラ様かユキ様に特別扱いされるようになれば……」

 にやにやと厭らしい笑みを浮かべるエイロンを半目で見て、ため息をつくノエル。

「もう、一回潰されればいいっす。シズト様は優しいからエリクサーとかかけて治してくれるかもしれないっす」

 女絡みで奴隷になったのに懲りないエイロンを、呆れた様子でノエルとエルヴィスは見ていた。
 彼の大事な物が使い物にならなくなってしまうのも時間の問題なのかもしれない。
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