【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~

みやま たつむ

文字の大きさ
上 下
337 / 1,094
第13章 獣人の国を観光しながら生きていこう

幕間の物語110.青バラちゃんのアルバイト②

しおりを挟む
 ドワーフの国ウェルズブラの首都ウェルランドは、山の上に王城がある。
 そのすぐ近くに最近建設された真新しい三階建ての建物があり、朝早くからずんぐりむっくりとした男ドワーフたちが集まっていたのだが、今はほとんどの者が道路に倒れ込んでいた。
 その建物の二階部分には『魔道具店サイレンス』と看板が掲げられていた。
 道路に面している部分は大きなガラス張りで店内が丸見えの状態だったが、店内にいる者は気にした様子もない。
 店内で開店準備をしているのは、シズトに『青バラちゃん』と名付けられたドライアドだ。
 元々は世界樹ユグドラシルの根元で生活していた彼女だったが、現在は主に世界樹ファマリーの根元で生活していた。
 そんな彼女だったが、『精霊の道』を通る事ができる事に着目されて、レヴィアからある仕事を頼まれた。
 その場に一緒にいたシズトからは「アルバイトみたいだね」と言われたため、よく分からないが「あるばいと頑張る!」と意気込んでいる。
 壁に掛けられた時計が時刻を告げる。
 ポッポー、ポッポーと鳥の鳴き声と共に時計の上部の小さな窓から白い鳥が顔を出す。魔力によって正確な時間を刻む壁掛け時計だ。その音に反応して青バラちゃんは時計を見る。

「開店の時間だ!」

 青バラちゃんはカウンターから出ると、トテトテと出入口に駆け寄る。
 誰かに殴られたかのような見た目のドワーフが一人、張り付いていた窓から離れて嬉しそうに出入口に慌てて近づく。
 出入口が開けられると、カランカランと音を立てながら扉が開いた。

「ドワーフさん、おはよー」
「おう! 今日もいい天気だなー」
「んー……? 雲が多いよ?」
「雪が降ってねぇだろ? こんな日は夕方以降も雪が降らねぇんだ。良かったら、仕事終わりにどこかに行かねぇか? 飯でもなんでも奢るぜ?」
「お家帰らなきゃだからごめんなさーい」

 ニカッと笑うドワーフの提案をバッサリと切り捨てて、青バラちゃんは髪を巻き付けて持ち上げた立て看板を「んっしょ、んっしょ」と掛け声と共に運ぶ。
 ドワーフが言い募ろうとしたが、そのドワーフを押しのけて、着膨れした女ドワーフたちが店内に入って行く。

「お邪魔するよ!」
「あー、寒い寒い!」
「まったく、最近の若い子は人様の事を考えずに喧嘩するんだから、困ったもんだね」
「あら、あそこで寝転がってる子、アンタのとこの子じゃないかい?」
「こんな所で寝るような子は知りません」
「ドワーフさんたちいらっしゃーい! 朝からお仕事一杯だ~」

 女ドワーフに押しのけられた若いドワーフの事を気にした様子もなく、青バラちゃんは店内へと戻っていく。
 青バラちゃんが店内に戻ると、数人の女ドワーフたちは一カ所に集まっていた。
 ハンガーにかけられて壁際にずらりと並べられているのはノエルたちが作った『ぬくぬくコート』だ。適温コートの廉価版で、暑さには対応していないが、この国ではそれで十分だった。

「店主さん! ここに並んでいるのが全部『ぬくぬくコート』ってやつかい?」
「そうだよー。魔力をエイッて流すとポカポカするんだよー」
「私、魔力に自信がないんだけど、どうしようかしら?」
「ちょっと出歩くくらいなら問題ないんじゃないかい?」
「あら、魔石をポケットに入れるタイプもあるみたいよ。こっちのと比べるとちょっと高いわね」
「んー、それなら少しずつ魔力を増やすために毎日使った方がお得よね」

 小柄な女性たちが集まってあーでもないこーでもないと話をしているのをカウンターの定位置に座って見守る青バラちゃん。
 その彼女に近づくのは、先程押しのけられた若い男のドワーフだ。

「これからどんどん客が押し寄せるだろうから手伝ってやるよ」
「私のあるばいとだから取っちゃだめ!」
「いやいや、手伝うだけだって! 金も何も要らねぇから!」

 言い募る彼に、離れた場所で『ぬくぬくコート』を見ていた女ドワーフたちが冷ややかな視線を向ける。
 その集団の中から一人の女ドワーフが歩み出た。

「アンタ、仕事はどうするんだい!」
「うっせーな! 今忙しい所なんだよ」
「母ちゃんにうっせーとは何事だい!」
「母ちゃん!?」

 それまで青バラちゃんの方しか見ていなかったドワーフが驚いた様子で振り向く。
 可愛らしい顔を険しくさせて、ずんずんとカウンターに近寄ってくる女性を見る彼は、先程までのキリッとした表情がどこへやら。あからさまに慌てた様子で周囲をきょろきょろしている。

「アンタがどこの子の尻を追いかけてもいいけどね! それはしっかりと仕事をしている事が前提なんだよ! もうすぐ仕事の時間だろ! 外で寝ている者たちを起こしてさっさと仕事に行きな!」

 ずんぐりむっくりした男ドワーフの尻を、女ドワーフは細い足で何度も蹴り上げて店外へと追い出す。
 その様子を青バラちゃんはきょとんとした様子で見ていたが、やる事リストに書かれていたとおりに、店から人が出て行くタイミングで「ありがとーございましたー」とニッコリ笑顔で見送った。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

こちらの異世界で頑張ります

kotaro
ファンタジー
原 雪は、初出勤で事故にあい死亡する。神様に第二の人生を授かり幼女の姿で 魔の森に降り立つ 其処で獣魔となるフェンリルと出合い後の保護者となる冒険者と出合う。 様々の事が起こり解決していく

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

ダンジョンで有名モデルを助けたら公式配信に映っていたようでバズってしまいました。

夜兎ましろ
ファンタジー
 高校を卒業したばかりの少年――夜見ユウは今まで鍛えてきた自分がダンジョンでも通用するのかを知るために、はじめてのダンジョンへと向かう。もし、上手くいけば冒険者にもなれるかもしれないと考えたからだ。  ダンジョンに足を踏み入れたユウはとある女性が魔物に襲われそうになっているところに遭遇し、魔法などを使って女性を助けたのだが、偶然にもその瞬間がダンジョンの公式配信に映ってしまっており、ユウはバズってしまうことになる。  バズってしまったならしょうがないと思い、ユウは配信活動をはじめることにするのだが、何故か助けた女性と共に配信を始めることになるのだった。

異世界転生~目指せ!内乱を防いで、みんな幸せ♪

紅子
ファンタジー
いつの間にかこの国の王子に転生していた俺。物語の世界にいるなんて、想定外だ。このままでは、この国は近い未来に内乱の末、乗っ取られてしまう。俺、まだ4歳。誰がこんな途方もない話を信じてくれるだろうか?既に物語と差異が発生しちゃってるし。俺自身もバグり始めてる。 4歳から始まる俺の奮闘記?物語に逆らって、みんな幸せを目指してみよう♪ 毎日00:00に更新します。 完結済み R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

【完結】異世界転移で、俺だけ魔法が使えない!

林檎茶
ファンタジー
 俺だけ魔法が使えないとか、なんの冗談だ?  俺、相沢ワタルは平凡で一般的な高校二年生である。  成績は中の下。友達も少なく、誇れるような特技も趣味もこれといってない。  そんなつまらない日常は突如として幕を閉じた。  ようやく終わった担任の長話。喧騒に満ちた教室、いつもより浮き足立った放課後。  明日から待ちに待った春休みだというのに突然教室内が不気味な紅色の魔法陣で満ちたかと思えば、俺は十人のクラスメイトたちと共に異世界に転移してしまったのだ。  俺たちを召喚したのはリオーネと名乗る怪しい男。  そいつから魔法の存在を知らされたクラスメイトたちは次々に魔法の根源となる『紋章』を顕現させるが、俺の紋章だけは何故か魔法を使えない紋章、通称『死人の紋章』だった。  魔法という超常的な力に歓喜し興奮するクラスメイトたち。そいつらを見て嫉妬の感情をひた隠す俺。  そんな中クラスメイトの一人が使える魔法が『転移魔法』だと知るや否やリオーネの態度は急変した。  リオーネから危険を感じた俺たちは転移魔法を使っての逃亡を試みたが、不運にも俺はただ一人迷宮の最下層へと転移してしまう。  その先で邂逅した存在に、俺がこの異世界でやらなければならないことを突きつけられる。  挫折し、絶望し、苦悩した挙句、俺はなんとしてでも──『魔王』を倒すと決意する。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

処理中です...