【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~

みやま たつむ

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第13章 獣人の国を観光しながら生きていこう

223.事なかれ主義者は服の匂いを嗅いだ

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 ウサミミ天国……じゃなかった。兎人族の村滞在三日目。
 この村はキャロロットという名前だったらしい。
 キャロロットの村長には、魔法のじょうろをあげただけでとても喜ばれたけど、結局その魔道具も狩猟民族か遊牧民族の者たちがやってきたら力づくで奪われてしまうだろうと言われた。

「あいつらが来るのは普段だったら秋くらいに来るんだろうけど、金持ちっぽい馬車に乗ったアンタらが来たからねぇ。どこか遠くからこっちの様子を見ているだろうし、アンタらがここを発って数日後には来るだろうね。そんな心配そうにしなくても、それまでの間にできるだけ水の貯蓄はしておくさ。向こうの奴らも、やりすぎたら私らが一丸となって仕返しをしに行く事を知ってるからね。持っていかれるとしても、魔法のじょうろくらいだろうよ。貰った食べ物はぜ~んぶ、腹に収めちまってるからねぇ」

 そう言って笑うキャロロットの村長キャロラインさんだけど、やっぱり心配だったので、村の柵の外に穴を掘った。
 村の外だからセーフなはず! ちょっとキャロラインさんの目が据わっている気がするけど、気のせいなはず! 並んでこっちを見ている子どもたちの目も据わっている気がするけど、何も言われないから大丈夫!
 作るのは井戸だ。持ち運びできない水に関係する物と考えた時に思い浮かんだから。
 井戸の作り方は良く知らないけど、魔道具を使って縦長に穴を掘って側面を鉄で覆った。あとは底から水が出るように付与すれば大丈夫だろう。
 ただ、このままだと事故で誰か落ちそうなので、側面の鉄を延長して、高さ一メートルくらいの囲いを穴の周囲に作る。縁を少し厚めにしておこう。色を緑に塗ったら某ゲームの土管みたいだなぁ。
 …………よくよく考えたらわざわざ井戸にする必要ないわ、これ。持ち運びできない水を手に入れる物って井戸が思い浮かんだけど、いちいち水汲み面倒そうだし作り直そう。
 予定を変更して【加工】を使って穴を鉄で埋め、簡単に抜けないように側面にとげとげを作った。
 地上部分の円状の囲いはそのままにして、【付与】で囲いの側面と底に魔法陣を刻む。

「できた!」
「……人様の土地の隣で何を作ったのさ。シズトだから許したけど、説明くらいはしてくれるんだろうね」

こめかみに青筋が浮かんでいるキャロラインさんが柵の向こう側で仁王立ちをして僕の方を見ている。

「もちろんさせていただきますとも。これは……名前何にしようかな……。まあ、あとでいいか。これも魔法のじょうろと同じで水を生み出す魔道具です。ほら、ここに魔法陣があるでしょう? この魔法陣に魔力を流すと、内側の魔法陣から水が出てくるんすよ」
「みえない!!」
「のっちゃえ!!」
「ちょ、危ないから下りて!」

 ぴょんっと身長よりも高い囲いの上に飛び乗ったウサミミの子を慌てて抱き上げてから地面に下ろすけど、後から後から跳び乗って、ちびっ子たちが囲いの上から中を覗き込んでいる。
 ちょっと成人組! 魔道具見てないで止めてもらえません!?
 柵を軽々と飛び越えてこちらに歩いて来る女性たちは、先程の険しい目つきが嘘のように優しい表情で笑っている。

「そのくらいの高さだったら平気よ」
「木よりも高く跳び上がるんだから、慣れてるわ」
「人間は危ないの?」
「そうらしいわ。不便ね~」

 魔道具の周囲でお喋りを始めた女性たち。……井戸にしておけば井戸端会議っぽくなったのかも。
 兎人族の成人組が代わる代わる魔力を流すと、囲いの中一杯に水がたまった。

「これなら奪われずに済みますよね?」
「………」

 キャロラインさんが何も言わずに僕を見てくる。
 ズンズンと無言で向かってくるの怖いんですけど!?
 とか思っていたらギュッと抱きしめられた。
 真っ赤になってアタフタしていると、耳元でキャロラインさんが囁く。

「アンタ、ほんとは神様なんじゃないかい?」
「いえ、ただの加護持ちですー」
「今の私たちにとっては、救いの神だよ」

 しばらくキャロラインさんが満足するまでギュッと抱きしめられていたんだけど、匂いと感触がやばかった……。



 金持ちの旅人が訪れた後は、移動しながら生活をしている民族の一部が襲撃をしてくるそうだから防衛設備を整えようかとも思ったけど、止めておいた。
 持ち運びできる物であれば盗られてしまうだけだし、反撃しすぎるとその報復で大群で襲ってくる事も考えられるんだとか。その場合、周囲の他の農耕民族たちの村にも被害が及ぶらしい。
 襲ってきたのは向こうなのに報復って変じゃね? とは思ったけど、そういう文化なんだな、とスルーする事にした。

「それにしても、残念だねぇ」
「何がです?」
「いや、魔道具のお礼に年頃の子たちにシズトの相手をさせようと思っていたんだけどね……」

 眉を顰めて言い淀むキャロラインさん。
 相手ってつまり……そっち系って事っすか? 婚約者がいるから間に合ってるんですけど。
 キャロラインさんは体を屈ませて僕の体に鼻を近づけるとスンスンと匂いを嗅いだ。

「におうねぇ。ああ、残念だ」
「くさいっすか!?」
「くさいねぇ。獣人の匂いがプンプンするよ。……いや、二人分するから、私の所から一人くらい出してもいいのか……?」
「もう間に合ってます!」

 それにしても二人分の匂いって……あの二人くらいしか思いつかないけど、そんな匂いするかな。
 んー、分からん。
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