328 / 1,094
第13章 獣人の国を観光しながら生きていこう
221.事なかれ主義者は持ち上げられない
しおりを挟む
兎人族の村訪問二日目。
土をたくさんプレゼントされたので、堆肥を作る箱をせっせと作って、もらった土を雑草と一緒にとりあえず突っ込んでおいた。
一仕事やり終えた達成感を味わっていると、兎人族たちの長が眉を下げて頬をかきながら苦笑した。
「これじゃあお礼にならないわね。何か私たちにできる事はないかしら?」
「それじゃあ神様の像と、できれば祠を建てる許可が欲しいです。僕に加護を与えてくれた神様たちなんですけど」
「申し訳ないけど、建物を建てる事ができるほど土地は余ってないのよ。それに、せっかく建てても盗賊たちが来たら無事じゃすまないだろうね……。像を置いてってもらうのも構わないけど、家の中の物まで取られちゃうから、どこかに行ってしまう可能性が高いわよ?」
「盗賊ってそんな頻繁に来るものなんですか?」
「そうね……普段はそこまでじゃないんだけど不作続きでどこも厳しくって盗賊になる人が多いみたいだよ。ただでさえ狩猟民族や遊牧民族が収穫時期になると力づくで奪いに来るのに、たまったもんじゃないよ……」
村長さんの耳がしょんぼりと垂れ下がって「このままだと誰かを売らなきゃいけなくなるね」とため息をついた。
盗賊はイレギュラーな事だけど、狩猟民族や遊牧民族たちは毎年の事のようだ。数年前までは村でも力自慢の者たちがたくさんいたからそこまで被害は大きくなかったけど、今は村長さんと数名しか戦える者がいないんだとか。
強さが重要だと事前に聞いていた獣人の国で、女性が村長をしていたのはびっくりしたけど、村長さんは普通に強い人だったみたい。
僕と同じぐらいの背丈の村長さんは、体の至る所に無数の傷跡が見受けられた。てっきり虐げられているもんだと思ったけど、鍛錬の時についた傷がほとんどなんだとか。
「シズト様、像や祠はいかがなさいますか?」
「んー、壊されるのが分かり切ってるならわざわざ祠を建てる必要はないよね。像だけにしようか」
「聞いてなかったのかい? その像も盗まれちまうよ」
「そうだね……村長さん、ちょっと手伝ってもらってもいい?」
「私にできる事であれば手伝うけど、何をすればいいのさ」
きょとんと首を傾げる村長さん。耳も一緒に揺れ動く。
静まれ僕の右腕! 触ったらセクハラだぞ!!
「ジュリウス、像を作るからアダマンタイトだして」
「かしこまりました」
「アダマンタイトって……あのアダマンタイトかい? そんな物だしてどうするのさ」
どうするもこうするもないっすよ。
金色に輝くインゴットに触れ、【加工】を使うと瞬時に液体のようにぐにゃりと揺らいで一塊の球体になった。
一先ず等身大の像を作ってみよう。
背丈はこのくらいで、服はワンピースのような感じで、端正な顔立ちの幼女エント様だ
「ほんとにアダマンタイトかい? そんなぐにょぐにょ自由に形を変えられるわけがないんけどねぇ」
「加工の神プロス様の加護のおかげです」
「ふーん……」
「この像を持ち上げてみてもらえますか?」
「別にいいけど、随分と幼い神様なんだね、プロス様は」
「あ、こちらはエント様です。付与の神様で、加護のおかげで便利な魔道具を作る事ができてるんです」
「そうかい……まあ、いつまでも疑っていても仕方ないし、サクッと持ち上げて終わりにしようかね」
村長さんはエント様の正面に立つと、エント様の腰の部分を持って持ち上げようとした。
だが、プルプルとうさ耳と尻尾……じゃなくて村長の体が震えるだけで持ち上がらない。
しばらく持ち上げようとしていた村長さんは、一度手を離して深呼吸をすると、再度像の腰の部分を両手で持ち、「うおりゃああああああああ!」という掛け声と共にグイッと頭上高く持ち上げた。
しばらくプルプルと持ち上げ続けていた村長さんだったが、ドスンとその場に落とすように置いてため息をついた。
「いやぁ、素材が何にしても、見た目以上の重さだね。何か仕掛けがあるとかそういうオチじゃないんだろう?」
「そうですね、そういう金属なだけです」
それにしても困ったぞ。
恐らく持ち上げたのは身体強化を使ったからだと思うんだけど、それをしたら普通に持ち上がってたし。
何か防犯機能をつけたいところだけど……。
村長さんがドスンと置いた金色の像を、村の子どもたちが興味深そうに触っている。
触ったら電気が流れるとかは止めといた方がよさそうだ。
「まあ、私たちは困らないし、像を置くだけなら好きにすればいいさ。置くならここら辺にしといてくれよ」
そう言うと村長さんは自宅兼宿屋に戻っていった。
それを見送ってから腕を組んで考える。
攻撃的な物は万が一の事故が怖いから却下。
あくまで像自身に発動する魔法の方が好ましい。
魔法を発動させるための魔力は像に触れた物から自動的に奪うタイプにしてしまえば、魔石の値段を気にする必要はないか。
「……さらに重くするか」
それだけだと不安だけど物は試しに、という事でファマ様とプロス様の像を追加で作り、三つの像の足元をアダマンタイトでくっつけて一体化する。それから【付与】で『重量化』の魔法を刻んでおいた。
あとはどういう神様なのかを像の土台に軽く刻んでおしまい。
「盗まれないといいんだけどなぁ」
「盗む事ができるとしたらドラゴンぐらいの力を持つ者や特殊な力を持つ者くらいだと思います」
「大げさすぎない?」
ジュリウスが安心させようとしてくれて冗談を言ってきた。
ジュリウスが冗談を言うなんて珍しい事もあるもんだなぁ。
…………冗談だよね?
土をたくさんプレゼントされたので、堆肥を作る箱をせっせと作って、もらった土を雑草と一緒にとりあえず突っ込んでおいた。
一仕事やり終えた達成感を味わっていると、兎人族たちの長が眉を下げて頬をかきながら苦笑した。
「これじゃあお礼にならないわね。何か私たちにできる事はないかしら?」
「それじゃあ神様の像と、できれば祠を建てる許可が欲しいです。僕に加護を与えてくれた神様たちなんですけど」
「申し訳ないけど、建物を建てる事ができるほど土地は余ってないのよ。それに、せっかく建てても盗賊たちが来たら無事じゃすまないだろうね……。像を置いてってもらうのも構わないけど、家の中の物まで取られちゃうから、どこかに行ってしまう可能性が高いわよ?」
「盗賊ってそんな頻繁に来るものなんですか?」
「そうね……普段はそこまでじゃないんだけど不作続きでどこも厳しくって盗賊になる人が多いみたいだよ。ただでさえ狩猟民族や遊牧民族が収穫時期になると力づくで奪いに来るのに、たまったもんじゃないよ……」
村長さんの耳がしょんぼりと垂れ下がって「このままだと誰かを売らなきゃいけなくなるね」とため息をついた。
盗賊はイレギュラーな事だけど、狩猟民族や遊牧民族たちは毎年の事のようだ。数年前までは村でも力自慢の者たちがたくさんいたからそこまで被害は大きくなかったけど、今は村長さんと数名しか戦える者がいないんだとか。
強さが重要だと事前に聞いていた獣人の国で、女性が村長をしていたのはびっくりしたけど、村長さんは普通に強い人だったみたい。
僕と同じぐらいの背丈の村長さんは、体の至る所に無数の傷跡が見受けられた。てっきり虐げられているもんだと思ったけど、鍛錬の時についた傷がほとんどなんだとか。
「シズト様、像や祠はいかがなさいますか?」
「んー、壊されるのが分かり切ってるならわざわざ祠を建てる必要はないよね。像だけにしようか」
「聞いてなかったのかい? その像も盗まれちまうよ」
「そうだね……村長さん、ちょっと手伝ってもらってもいい?」
「私にできる事であれば手伝うけど、何をすればいいのさ」
きょとんと首を傾げる村長さん。耳も一緒に揺れ動く。
静まれ僕の右腕! 触ったらセクハラだぞ!!
「ジュリウス、像を作るからアダマンタイトだして」
「かしこまりました」
「アダマンタイトって……あのアダマンタイトかい? そんな物だしてどうするのさ」
どうするもこうするもないっすよ。
金色に輝くインゴットに触れ、【加工】を使うと瞬時に液体のようにぐにゃりと揺らいで一塊の球体になった。
一先ず等身大の像を作ってみよう。
背丈はこのくらいで、服はワンピースのような感じで、端正な顔立ちの幼女エント様だ
「ほんとにアダマンタイトかい? そんなぐにょぐにょ自由に形を変えられるわけがないんけどねぇ」
「加工の神プロス様の加護のおかげです」
「ふーん……」
「この像を持ち上げてみてもらえますか?」
「別にいいけど、随分と幼い神様なんだね、プロス様は」
「あ、こちらはエント様です。付与の神様で、加護のおかげで便利な魔道具を作る事ができてるんです」
「そうかい……まあ、いつまでも疑っていても仕方ないし、サクッと持ち上げて終わりにしようかね」
村長さんはエント様の正面に立つと、エント様の腰の部分を持って持ち上げようとした。
だが、プルプルとうさ耳と尻尾……じゃなくて村長の体が震えるだけで持ち上がらない。
しばらく持ち上げようとしていた村長さんは、一度手を離して深呼吸をすると、再度像の腰の部分を両手で持ち、「うおりゃああああああああ!」という掛け声と共にグイッと頭上高く持ち上げた。
しばらくプルプルと持ち上げ続けていた村長さんだったが、ドスンとその場に落とすように置いてため息をついた。
「いやぁ、素材が何にしても、見た目以上の重さだね。何か仕掛けがあるとかそういうオチじゃないんだろう?」
「そうですね、そういう金属なだけです」
それにしても困ったぞ。
恐らく持ち上げたのは身体強化を使ったからだと思うんだけど、それをしたら普通に持ち上がってたし。
何か防犯機能をつけたいところだけど……。
村長さんがドスンと置いた金色の像を、村の子どもたちが興味深そうに触っている。
触ったら電気が流れるとかは止めといた方がよさそうだ。
「まあ、私たちは困らないし、像を置くだけなら好きにすればいいさ。置くならここら辺にしといてくれよ」
そう言うと村長さんは自宅兼宿屋に戻っていった。
それを見送ってから腕を組んで考える。
攻撃的な物は万が一の事故が怖いから却下。
あくまで像自身に発動する魔法の方が好ましい。
魔法を発動させるための魔力は像に触れた物から自動的に奪うタイプにしてしまえば、魔石の値段を気にする必要はないか。
「……さらに重くするか」
それだけだと不安だけど物は試しに、という事でファマ様とプロス様の像を追加で作り、三つの像の足元をアダマンタイトでくっつけて一体化する。それから【付与】で『重量化』の魔法を刻んでおいた。
あとはどういう神様なのかを像の土台に軽く刻んでおしまい。
「盗まれないといいんだけどなぁ」
「盗む事ができるとしたらドラゴンぐらいの力を持つ者や特殊な力を持つ者くらいだと思います」
「大げさすぎない?」
ジュリウスが安心させようとしてくれて冗談を言ってきた。
ジュリウスが冗談を言うなんて珍しい事もあるもんだなぁ。
…………冗談だよね?
69
お気に入りに追加
454
あなたにおすすめの小説
最初から最強ぼっちの俺は英雄になります
総長ヒューガ
ファンタジー
いつも通りに一人ぼっちでゲームをしていた、そして疲れて寝ていたら、人々の驚きの声が聞こえた、目を開けてみるとそこにはゲームの世界だった、これから待ち受ける敵にも勝たないといけない、予想外の敵にも勝たないといけないぼっちはゲーム内の英雄になれるのか!

【完結】神スキル拡大解釈で底辺パーティから成り上がります!
まにゅまにゅ
ファンタジー
平均レベルの低い底辺パーティ『龍炎光牙《りゅうえんこうが》』はオーク一匹倒すのにも命懸けで注目もされていないどこにでもでもいる冒険者たちのチームだった。
そんなある日ようやく資金も貯まり、神殿でお金を払って恩恵《ギフト》を授かるとその恩恵《ギフト》スキルは『拡大解釈』というもの。
その効果は魔法やスキルの内容を拡大解釈し、別の効果を引き起こせる、という神スキルだった。その拡大解釈により色んなものを回復《ヒール》で治したり強化《ブースト》で獲得経験値を増やしたりととんでもない効果を発揮する!
底辺パーティ『龍炎光牙』の大躍進が始まる!
第16回ファンタジー大賞奨励賞受賞作です。

爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。
秋田ノ介
ファンタジー
88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。
異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。
その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。
飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。
完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。

こちらの異世界で頑張ります
kotaro
ファンタジー
原 雪は、初出勤で事故にあい死亡する。神様に第二の人生を授かり幼女の姿で
魔の森に降り立つ 其処で獣魔となるフェンリルと出合い後の保護者となる冒険者と出合う。
様々の事が起こり解決していく

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。

やさしい異世界転移
みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公
神洞 優斗。
彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった!
元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……?
この時の優斗は気付いていなかったのだ。
己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。
この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!
あるちゃいる
ファンタジー
山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。
気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。
不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。
どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。
その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。
『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。
が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。
そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。
そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。
⚠️超絶不定期更新⚠️
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる