上 下
321 / 1,023
第13章 獣人の国を観光しながら生きていこう

216.事なかれ主義者は元通りにした

しおりを挟む
「あれ? フェンリルがいない」

 朝ご飯を食べ終え、ジューンさんに手を繋がれながら屋敷から外に出ると、いつも世界樹ファマリーの根元で丸まって眠っている毛玉が見当たらなかった。
 不思議に思いながら辺りを見渡していると、レヴィさんが屋敷から出てきた。
 急遽、人と会う予定ができてしまったとの事で、スカート丈が長く露出が少ない紺色のドレスを着ていた。
 指輪を嵌めずに首飾りにしていた彼女は、僕の疑問を感じ取ったようだ。

「外でアンデッド狩りをしているはずですわ」
「いつもならサクッと終わらせて戻ってきてなかったっけ」
「ちょっと遠くまでアンデッドを狩りに行ってると思うのですわ」
「そうなんだ。何か町の外で異変とかあったの?」
「そういう訳じゃないのですわ。ただ、行商人たちがここにやってくるのが楽になるように、周囲一帯のアンデッドを狩りに行ってもらったのですわ」
「ご褒美のお肉とかお酒をしっかり用意しないと怒りそうだね」
「シズトは気にする必要ない事ですわ~」

 まあ、僕がお酒やご飯を上げているわけじゃないから確かにそうなんだけどね。
 レヴィさんは話が終わったと判断したのか、セシリアさんと一緒にドラゴニア王家の家紋が付いた馬車に乗り込むと、近衛兵に囲まれながらファマリアの方に行ってしまった。
 ……あんな馬車、ウチに置いてあったっけ?
 首を傾げながら見送っていると、右手がギュッギュッと軽く握られる。

「シズトちゃん、ユグドラシルに行かないのですかぁ?」
「ごめん、行くよ。すぐ戻ってくるからラオさんたちは転移陣の近くで待っててね」
「わーったよ」
「お姉ちゃん、シズトくんが帰ってくるまで待ってるから早く帰ってきてね?」
「言われなくても、特に向こうでやる事ないし、町の様子を見る時間減っちゃうからすぐ戻ってくるつもりだよ」

 今日はユグドラシルのお世話をサクッとする終わらせて、ファマリアの西側の区域の見学に行くつもりだ。主にエント様の教会の様子の確認と、教会の魔道具化をさらに進めようと思う。
 そのために、今日はユグドラシルのお世話をする日に変えたわけだし。魔力は温存しとかないと。
 そう思っていたんだけど、ファマリーまで続く小道を歩いていると、畑で作業をしていたドライアドが僕に気付いて集まってきた。

「人間さんやっと来たー」
「おそいー」
「はやくー。こっちだよ~」
「え、何の用?」
「レモーン!」
「レモンちゃん、レモンは要らないんだけど……って、何も持ってないね」

 わらわらと集まってくるドライアドたちの中に、レモン好きのドライアドがいた。
 僕が気づくと他のドライアドたちの間を縫って、足元にしがみ付いてきた。

「レモン、折れた~!」

 ぶわっと目が潤み、涙をぽろぽろと零すレモンちゃん。
 いや、普通にあそこにレモンの木あるんだけど。え、それじゃないの? 世界樹の近くに植えていた木?
 どうやら野菜泥棒か何かが侵入したらしい。レモン以外の作物にも被害があったらしく、その作物を育てていたドライアドたちがしょんぼりしている。
 ドライアドたちも【生育】の加護のように植物を急成長させる魔法を使えるから、それで治せばいいのにと思っていたけど、あれは精霊魔法で草の壁を作っただけでちょっと違うらしい。
 んー、よく分からんけど、確かに作物を急成長させて収穫時期を早めたりした所は見てない……かも?

「人間さん、治して~」
「治して~」
「治してと言われても……治るものなのかな。むしろ種から一気に育てた方が元通りになるんじゃないかな」
「じゃあそうしてー」
「するの~」
「元通り!」
「分かった分かった、分かったからよじ登らないで! っていうか髪の毛巻きつけないで!」

 ほんとその髪の毛どういう仕組みになってんの?
 荒らされてしまった作物や折れてしまった果物の木は全て根っこから引っこ抜いてもらって、たい肥を作る魔道具の中に突っ込んでもらう。
 それからドライアドたちは、持っていた種を地面に植えて僕の方を見る。

「魔力はできるだけ温存しときたかったんだけどなぁ。あ、はい。やります、やらせていただきますから巻きつかないで、歩き辛いから!」

 生育の加護は遠くからでも十分使えるようになったんだけど、魔力効率的にはできるだけ近い方が良い。
 植えられた部分に意識を集中する。

「……【生育】……【生育】、【生育】………【生育】」

 加護を使うたびにニョキッと芽が出てわさわさと伸びて、花を咲かせる植物たち。
 キュウリにトマトに……なんかよく分からない野菜。これは、スイカ? にしては模様が変だけど何だこれ。

「スイカ!」
「ああ、やっぱりスイカなのか。……まあ、切っちゃえば模様とかどうでもいいか」

 ドライアドたちが「そこまで!」というまで植物を成長させて回る。
 レモンちゃんは大人しく順番待ちをしていた。一番時間がかかりそうだもんね、木だし。
 一番最後に、レモンちゃんの植えた種に【生育】を使うと、つぼみができる所で満足したようだ。
 ……嬉しいのは分かったから、全員で巻きつくのやめてくれると嬉しいなぁ。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

異世界転生してしまったがさすがにこれはおかしい

増月ヒラナ
ファンタジー
不慮の事故により死んだ主人公 神田玲。 目覚めたら見知らぬ光景が広がっていた 3歳になるころ、母に催促されステータスを確認したところ いくらなんでもこれはおかしいだろ!

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

異世界のんびりワークライフ ~生産チートを貰ったので好き勝手生きることにします~

樋川カイト
ファンタジー
友人の借金を押し付けられて馬車馬のように働いていた青年、三上彰。 無理がたたって過労死してしまった彼は、神を自称する男から自分の不幸の理由を知らされる。 そのお詫びにとチートスキルとともに異世界へと転生させられた彰は、そこで出会った人々と交流しながら日々を過ごすこととなる。 そんな彼に訪れるのは平和な未来か、はたまた更なる困難か。 色々と吹っ切れてしまった彼にとってその全てはただ人生の彩りになる、のかも知れない……。 ※この作品はカクヨム様でも掲載しています。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

異世界でタロと一緒に冒険者生活を始めました

ももがぶ
ファンタジー
俺「佐々木光太」二十六歳はある日気付けばタロに導かれ異世界へ来てしまった。 会社から帰宅してタロと一緒に散歩していたハズが気が付けば異世界で魔法をぶっ放していた。 タロは喋るし、俺は十二歳になりましたと言われるし、これからどうなるんだろう。

転生チートは家族のために~ユニークスキルで、快適な異世界生活を送りたい!~

りーさん
ファンタジー
 ある日、異世界に転生したルイ。  前世では、両親が共働きの鍵っ子だったため、寂しい思いをしていたが、今世は優しい家族に囲まれた。  そんな家族と異世界でも楽しく過ごすために、ユニークスキルをいろいろと便利に使っていたら、様々なトラブルに巻き込まれていく。 「家族といたいからほっといてよ!」 ※スキルを本格的に使い出すのは二章からです。

処理中です...