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第12章 ドワーフの国を観光しながら生きていこう
幕間の物語102.獣人奴隷と酔い覚ましの首輪
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シズトの専属奴隷として働いている狼人族のシンシーラは、奴隷仲間である狐人族のエミリーと一緒に厨房にいた。
日が暮れてから数時間が経っており、窓の外は真っ暗だ。
だが、室内は魔道具化された明かりではなく、不規則に揺れるランプの火によって淡く照らされていた。
シンシーラは自分専用のブラシを使って、栗色の尻尾の手入れをしつつ準備が整うのを待っている。
仕事着であるメイド服を着たままのエミリーは、事前に用意していたつまみを皿に載せると、机の上に並べていく。
それから、数本のボトルと二つのグラスを机の上に置くと、シンシーラの正面に座った。
「それじゃ、今日も飲みまくるじゃん」
「ほどほどにしときなさいよ」
ぺろりと舌なめずりをしながら、複数並べられたボトルに目移りしているシンシーラを呆れた様子でエミリーは見ていた。
奴隷でも息抜きは必要でしょ? と、彼女たちの主が自由に飲み食いしていいと許可を出してから続いていた奴隷たちの宴は、新しい住居に引っ越してから二人だけになってしまった。
時々どこかのドワーフがどこからともなく現れてボトルをくすねていくが、それくらいだ。
別館に住んでいるダーリアやジュリーンは、向こうで酒盛りをしている事だろう。
「二人だけなのに、いつもの癖でおつまみ作りすぎちゃったわ」
「私は飲んだらあんまり食べないじゃん。パメラのおやつにすればいいじゃん?」
「まあ、あの子は好き嫌いないから助かるんだけど……お酒も無駄に多いし」
「残ったら私が部屋に持ち帰るから気にしなくていいじゃん」
「……魔道具があるとはいえ、ちょっと自重しなさすぎじゃない?」
ジト目で正面に座るシンシーラを見るエミリーだが、彼女は気にした様子もない。
シンシーラの首には、シズトからプレゼントされた魔道具化された首輪が嵌められていた。
体内のアルコール濃度が規定値を突破したら強制発動するタイプの魔道具だ。
当初、腕輪タイプの物をシズトは渡そうとしたが、アクセサリーを貰うのならば首輪が良いとシンシーラが主張し、意味も知らないままシズトは了承して作り直していた。
「シズト様は、できる事を頼まれたら特に考えもせずにやっちゃうのがダメよね。仲間だと思ったら特にそれが顕著な気がするわ」
「首輪の事じゃん? 羨ましいじゃん? それならエミリーもおねだりしたらいいじゃん」
「まあ、そうだけど……」
獣人の間では女性に首輪をプレゼントする事は、人間でいうとプロポーズに近い。
この世界の者たちには有名な事だったが、異世界からきた転移者であるシズトが知る由もない事だった。
もしも奴隷から解放されて追い出されそうになったら、その事を指摘して、何とか転がり込もうかと思案中のシンシーラは、グラスに注いだ赤ワインをグイッと呷る。
「注ぐのが面倒じゃん」
「だからってラッパ飲みしないでよ。私も飲むんだから」
「分かってるじゃん。それにしても、シズト様は今度アクスファースに行くらしいじゃん。エミリーの出身はそっちら辺だったじゃん?」
「ええ、そうね。……みんな無事に生活してるかしら?」
「村の人たちが心配じゃん? シズト様に言ったら様子を見に行ってくれるかもじゃん?」
「そうかもしれないわね」
グラスに入った白ワインをグラスの中でくるくると回しながら思案するエミリー。
その赤い瞳は遠くを見つめているようで、手元がだいぶ怪しい。
シンシーラは、お酒がこぼれたら勿体ないと考えているのか、こぼれそうになる度にそわそわしていた。
「家族がいたらそう思ったかもしれないけどいないし……特段仲が良かった人もいないから、別にいいわ。村の人たちが買い戻すと言い始めたら困るし」
「あー……。シズト様は悪気なく村の人たちの元に帰っていいよ、とか言いそうじゃん」
「嬉しそうに笑う顔がありありと浮かぶわ」
飢饉の際に口減らしとして奴隷商に売られた彼女は、高値で買い取ってもらえる人間の国にまで運ばれ、ドランにやってきた。
どんな人間に売られるか怯えていた彼女だったが、今では売られた事に感謝していた。
グイッとグラスの中に残っていた白ワインをエミリーが飲み干すと、シンシーラはほっと胸を撫で下ろした。
ボトルの一つを手に取ると、エミリーの空いたグラスの中に注ぐ。
「そうならないためにも、やっぱり何とかお手つきになりたいわね」
「でも待ってちゃいつまで経っても尻尾を触るだけじゃん」
「耳も触るじゃない。……今の身分で寝込みを襲ったら、間違いなく追い出されるでしょうし……」
「やっぱり魔石集めするじゃん?」
「空いてる時間だったらいいけど、私戦えないわよ? だから村に置き去りにされたんだし」
シンシーラと異なり、エミリーに戦闘能力は皆無だった。
身体能力が人間よりも優れているが、それだけだ。
ただ、ファマリアで稼ぐとなると、魔石集めが一番手っ取り早い。
「あと臭いも何とかしないと……アンデッドの魔石なんて臭すぎて触るのも嫌だし」
「じゃあ、アクスファースで獣人の婚約者ができてしまってもいいじゃん?」
「それは嫌よ!」
「じゃあやるしかないじゃん。シズト様は護衛されてるから遊牧民の女どもは見向きもしないかもじゃん。でも、村で過ごす女どもはシズト様の加護を放っておくとは思えないじゃん」
「確かにそうよね。……って、アクスファースに着くまでに自分を買い戻すだけのお金を稼ぐって現実問題として無理じゃないかしら? 私、この見た目で高値がついてたし。シンシーラもお酒でやらかしたから多少値打ちは下がってるけど、高ランクの冒険者だったんでしょ?」
「………」
「………」
「とりあえず飲みながら考えるじゃん」
「そうね」
その後、エミリーがダウンするまで飲み続けたのだが、名案が浮かぶ事はなかったようだ。
翌日、二日酔いで辛そうにしているエミリーを心配したシズトは、シンシーラが身に着けていた酔い覚ましの魔道具の腕輪版を渡そうとした。
だが、彼女はシズトの顔色を窺いながら恐る恐る口を開いた。
「できれば……首輪が良いです」
「シンシーラも首輪が良いって言ってたけど、なんで? 獣人系の流行?」
「……そうですね、おしゃれみたいなものです」
「そういう物なんだ」
「そういう物ですので、首輪が良いです」
そういうエミリーの頬は赤く染まっていた。
実際、アクセサリーとして身に着ける獣人もいるため、嘘は言っていないと、自分に言い聞かせるエミリーだった。
日が暮れてから数時間が経っており、窓の外は真っ暗だ。
だが、室内は魔道具化された明かりではなく、不規則に揺れるランプの火によって淡く照らされていた。
シンシーラは自分専用のブラシを使って、栗色の尻尾の手入れをしつつ準備が整うのを待っている。
仕事着であるメイド服を着たままのエミリーは、事前に用意していたつまみを皿に載せると、机の上に並べていく。
それから、数本のボトルと二つのグラスを机の上に置くと、シンシーラの正面に座った。
「それじゃ、今日も飲みまくるじゃん」
「ほどほどにしときなさいよ」
ぺろりと舌なめずりをしながら、複数並べられたボトルに目移りしているシンシーラを呆れた様子でエミリーは見ていた。
奴隷でも息抜きは必要でしょ? と、彼女たちの主が自由に飲み食いしていいと許可を出してから続いていた奴隷たちの宴は、新しい住居に引っ越してから二人だけになってしまった。
時々どこかのドワーフがどこからともなく現れてボトルをくすねていくが、それくらいだ。
別館に住んでいるダーリアやジュリーンは、向こうで酒盛りをしている事だろう。
「二人だけなのに、いつもの癖でおつまみ作りすぎちゃったわ」
「私は飲んだらあんまり食べないじゃん。パメラのおやつにすればいいじゃん?」
「まあ、あの子は好き嫌いないから助かるんだけど……お酒も無駄に多いし」
「残ったら私が部屋に持ち帰るから気にしなくていいじゃん」
「……魔道具があるとはいえ、ちょっと自重しなさすぎじゃない?」
ジト目で正面に座るシンシーラを見るエミリーだが、彼女は気にした様子もない。
シンシーラの首には、シズトからプレゼントされた魔道具化された首輪が嵌められていた。
体内のアルコール濃度が規定値を突破したら強制発動するタイプの魔道具だ。
当初、腕輪タイプの物をシズトは渡そうとしたが、アクセサリーを貰うのならば首輪が良いとシンシーラが主張し、意味も知らないままシズトは了承して作り直していた。
「シズト様は、できる事を頼まれたら特に考えもせずにやっちゃうのがダメよね。仲間だと思ったら特にそれが顕著な気がするわ」
「首輪の事じゃん? 羨ましいじゃん? それならエミリーもおねだりしたらいいじゃん」
「まあ、そうだけど……」
獣人の間では女性に首輪をプレゼントする事は、人間でいうとプロポーズに近い。
この世界の者たちには有名な事だったが、異世界からきた転移者であるシズトが知る由もない事だった。
もしも奴隷から解放されて追い出されそうになったら、その事を指摘して、何とか転がり込もうかと思案中のシンシーラは、グラスに注いだ赤ワインをグイッと呷る。
「注ぐのが面倒じゃん」
「だからってラッパ飲みしないでよ。私も飲むんだから」
「分かってるじゃん。それにしても、シズト様は今度アクスファースに行くらしいじゃん。エミリーの出身はそっちら辺だったじゃん?」
「ええ、そうね。……みんな無事に生活してるかしら?」
「村の人たちが心配じゃん? シズト様に言ったら様子を見に行ってくれるかもじゃん?」
「そうかもしれないわね」
グラスに入った白ワインをグラスの中でくるくると回しながら思案するエミリー。
その赤い瞳は遠くを見つめているようで、手元がだいぶ怪しい。
シンシーラは、お酒がこぼれたら勿体ないと考えているのか、こぼれそうになる度にそわそわしていた。
「家族がいたらそう思ったかもしれないけどいないし……特段仲が良かった人もいないから、別にいいわ。村の人たちが買い戻すと言い始めたら困るし」
「あー……。シズト様は悪気なく村の人たちの元に帰っていいよ、とか言いそうじゃん」
「嬉しそうに笑う顔がありありと浮かぶわ」
飢饉の際に口減らしとして奴隷商に売られた彼女は、高値で買い取ってもらえる人間の国にまで運ばれ、ドランにやってきた。
どんな人間に売られるか怯えていた彼女だったが、今では売られた事に感謝していた。
グイッとグラスの中に残っていた白ワインをエミリーが飲み干すと、シンシーラはほっと胸を撫で下ろした。
ボトルの一つを手に取ると、エミリーの空いたグラスの中に注ぐ。
「そうならないためにも、やっぱり何とかお手つきになりたいわね」
「でも待ってちゃいつまで経っても尻尾を触るだけじゃん」
「耳も触るじゃない。……今の身分で寝込みを襲ったら、間違いなく追い出されるでしょうし……」
「やっぱり魔石集めするじゃん?」
「空いてる時間だったらいいけど、私戦えないわよ? だから村に置き去りにされたんだし」
シンシーラと異なり、エミリーに戦闘能力は皆無だった。
身体能力が人間よりも優れているが、それだけだ。
ただ、ファマリアで稼ぐとなると、魔石集めが一番手っ取り早い。
「あと臭いも何とかしないと……アンデッドの魔石なんて臭すぎて触るのも嫌だし」
「じゃあ、アクスファースで獣人の婚約者ができてしまってもいいじゃん?」
「それは嫌よ!」
「じゃあやるしかないじゃん。シズト様は護衛されてるから遊牧民の女どもは見向きもしないかもじゃん。でも、村で過ごす女どもはシズト様の加護を放っておくとは思えないじゃん」
「確かにそうよね。……って、アクスファースに着くまでに自分を買い戻すだけのお金を稼ぐって現実問題として無理じゃないかしら? 私、この見た目で高値がついてたし。シンシーラもお酒でやらかしたから多少値打ちは下がってるけど、高ランクの冒険者だったんでしょ?」
「………」
「………」
「とりあえず飲みながら考えるじゃん」
「そうね」
その後、エミリーがダウンするまで飲み続けたのだが、名案が浮かぶ事はなかったようだ。
翌日、二日酔いで辛そうにしているエミリーを心配したシズトは、シンシーラが身に着けていた酔い覚ましの魔道具の腕輪版を渡そうとした。
だが、彼女はシズトの顔色を窺いながら恐る恐る口を開いた。
「できれば……首輪が良いです」
「シンシーラも首輪が良いって言ってたけど、なんで? 獣人系の流行?」
「……そうですね、おしゃれみたいなものです」
「そういう物なんだ」
「そういう物ですので、首輪が良いです」
そういうエミリーの頬は赤く染まっていた。
実際、アクセサリーとして身に着ける獣人もいるため、嘘は言っていないと、自分に言い聞かせるエミリーだった。
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